side榊スミレ
ピピピピ
聞き慣れたアラームの音で目を覚ます。
昨日のあの出来事は全部、夢だったんだろうか。と思いながら体を起こす。
「うー、ベタベタする」
そうだ、昨日は風呂にも入らず寝たんだった。
喉も乾いたし、とりあえずリビングの扉を開ける。そこにはありえない光景が広がっていた。
「少々、お待ちを。朝食の最中でして」
昨日、私が契約をした悪魔が部屋の中にあるはずのない森林の中で優雅に朝食を食べている。
バタン、という音とともに扉を閉める。
いやいやいやいや、なんだアレは部屋の中に森があったぞ。昨日のは夢じゃなかったのか。
というか、食べてたの鹿じゃなかったか?
もう一度、部屋の扉を開けて中を確認する。
「御機嫌よう、スミレ!」
「うわぁ!!」
扉を開けてすぐそこにいた悪魔に驚き、尻餅をついてしまう。
「おや、大丈夫ですか?」
目の前の悪魔は表面上、安否を心配する言葉をかけてくるが顔には愉悦の笑みが浮かんでいる。
私の無様な姿を見て面白がっているのだろう。
「貴方、不法侵入よ」
「ハッハ、あなたの立場をお忘れですか? そんな権利があるとでも?」
笑われたことにイラついた私は少し悪態をつくが、その言葉も一笑で終わらせられる。
そうだった。昨日、私は目の前の悪魔に復讐のため魂を売り渡したのだ。
「そうよ! 私に復讐させてくれるんでしょ!!」
「えぇ、ですが。話をする前に朝食を取っては? 朝食は一日の基盤ですよ」
「わかった・・・・・」
こんな、理外の存在から正論を言われるなんて。
朝食を準備して、さっさと食べ終わる。
「ごちそうさまでした。で、一体どうやって復讐を手伝ってくれるの」
「私は貴方が決めたことを手伝うだけですので、復讐内容は貴方が決めてください」
目の前の悪魔は、爪を弄りながら答える。
復讐方法か。どうやって復讐しようか。普段は、耐えることばかりに意識がいっていて、復讐なんて考えもしなかった。
目の前の悪魔はどんなことができるんだろうか。聞いてみよう。
「あなたは、どんなことができるの?」
「あなた程度が、思い付く方法でしたら一通り実行できますよ」
こいつ、いちいち一言多いな。いや、落ち着けイラついても良いことはない。
「じゃあ! イジメの主犯に生まれてきたことを後悔させる様なことでも?」
「それならもちろん、できるとも」
「ひっ!!」
悪魔の口調が急に荒々しくなり、頭の角が大きくなる。顔に浮かぶ笑みも凶悪さが増している。
「それより、良いのですか? そろそろ、学校に行く時間では?」
そう言われて壁にかけらえている時計で時刻を確認すれば、時刻は八時を示している。
「やばい!! もうこんな時間!?」
早く準備しないと、学校に間に合わない。慌ただしく準備を始める。
寝癖を直して、制服に着替える。カバンを持って、玄関の扉を開けて学校に向かう。
なぜか、悪魔と一緒に。
「ねえ! 何で貴方がついてくるの!?」
「それは勿論、貴方がイジメられている様を見るためです!」
「帰って!」
なんなのコイツ!!
「ハッハ! ジョークですよ!! 本当は貴方の復讐相手を見ておくためですよ」
「トリニティは関係者以外入れないのよ。貴方が捕まるのがオチだわ」
「そんなヘマしませんよ。私は今、貴方以外には見えないようにしてるんです。だから貴方は今、周りから独り言が大きい変人だと思われているでしょうね〜」
「ばっ、何で教えてくれないの!」
私は小声で怒鳴る。
「聞かれてませーん!!」
もういい、コイツは無視しよう。一言も喋らず、歩き教室に到着する。
教室の扉を開き、机まで歩く。
机の上には、落書きがびっちりとされている。気にすることはない、いつものことだ。
遠くの方でクスクスとイジメの主犯たちが笑っている。
「なるほど、あそこで笑っている連中が復讐相手ですね! 面白くなってきました」
何がおかしいのかわからないが、悪魔が笑みを深める。
そうだ。私は今からアイツらに復讐する方法を考えないといけないのだ。
三日後
私の目の前には、手足を縛られ麻袋を被らされているイジメグループのリーダーがいる。
あの悪魔に頼んで、誘拐してきてもらったのだ。交通事故などで、怪我を負わせるなどの間接的な手段も思いついたが、最終的に私は直接暴力をを振るうことを選んだ。
私の学園生活を無茶苦茶にしたこの女だけは許せなかった。
「誰か分からないけど、私にこんなことをしてタダで済むと思ってるの?」
リーダーの女は必死の虚勢を張っているが、震えている体を見れば怖がっているのが一目瞭然だ。
「私は、外で暇を潰しているので後は勝手にやってください」
誘拐の実行犯の悪魔は、興味を無くしたように言い残して倉庫から出て行った。
「い、今なら許してあげる。私を解放しなさい」
喋れば、私が誰か分かってしまうから一言も喋らない。
「何か言いなさいよ! 何が目的なの!! こんな事される覚えはないわよ!」
こんな事をされる覚えがない? 私にあんな酷いことをしたのに?
クソ!! ふざけやがって!!!
ドスッ
「あがっ..........!」
怒りのあまりリーダーの女の腹を蹴ってしまう。女は痛みのあまり転げ回っている。
少しすれば、女も落ち着いてきて話始める。
「ね、ねえ、お金が目的なんでしょ。いくらでもパパが払ってくれるわ。だから、もう痛いことは・・・・・・」
は? 私がやめてと言ってもやめてくれなかったくせに、この程度で根を上げるのか?
まあいい、私の復讐は始まったばかりだ。これから、もっと痛い目に合わせよう。
数時間後
「もういやぁ………ごめんなさい………許してぇ」
主犯格の女はみっともなく泣きながら謝っている。
これぐらいで良いだろう。コイツに振るわれた暴力ぐらいは仕返しできただろう。
「おや、もう終わりですか?」
いつの間にか帰ってきていた悪魔がそう私に問いかける。リーダーの女に聞こえないように小声で話す。
「ええ、もう良いわ。用済みのコイツはどうするの?」
「まあ、適当な場所に捨てておきますよ」
そう言った悪魔がステッキを振れば、イジメの主犯は影に包まれその場から消えてなくなる。
一週間後
私は今クラスの奴らから死神と呼ばれている。
理由はお察しの通り、私をイジメていた奴らが急に学校に来なくなったからだ。全員、怪我で入院している。
治った奴もいるらしいが、ソイツは外が怖くなって部屋から出てこれなくなったらしい。温室育ちのお嬢様にあの経験は耐えられなかったんだろう。
もちろん、私が犯人の第一候補に上がるだろうが、アリバイが証明できるように悪魔が工夫してくれている。
正義実現委員会の尋問には、知らぬ存ぜぬで通した。
その悪魔本人は、今日は不在だ。何か用事があるとか言って何処かに行った。
今は、学校も終わった後ということで日用品を買いに行っている最中だ。
いじめっ子たちがいなくなったことで足取りが軽くなる。復讐は何も生まないって言葉は嘘だな。少なくとも私はスッキリとして楽しかった。
ゴスッ
そんな音と共に私の意識は暗転した。
◇
「うぅん」
一体、何が起こった?
自分自身の現状を確かめるために目を開けて周りを見る。
そこには、複数の機械の大人が銃を持って渡しを囲むように立っている。立ちあがろうとしたが手足が縛られている。
「起きたか。俺たちは、今からお嬢ちゃんをボコボコにしないといけない。とある人からの依頼でな。恨まないでくれよ」
おそらく、いじめっ子の誰かが依頼したんだろう。
「や、やめて」
イジメの記憶が蘇り体が震えてくる。せっかく解放されたと思ったのに!!
もう痛いのは嫌だ!
「兄貴、確かどうやってするかも指定されてるんでしたよね」
「ああ、まずは銃で撃たないといけないらしい」
そう言って、男たちは私に銃を向けてくる。
嫌だ。歯が上手く噛み合わずガチガチと音が鳴る。こわい、こわい、こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい!!!!
私はこれからくるであろう、痛みに少しでも耐えようと目をギュッと瞑る。
バンっという音と共に銃口から弾が発射された。
しかし、いつまで経っても痛みはこない。
「ごきげんよう!! 紳士淑女の皆様!!」
薄暗い地下室にノイズ混じりの声が響き渡る。
目を開けて確認すると、私の前に赤いスーツを着た悪魔が私に背を向けて庇うように立っている。
「お前、何処から!?」
その言葉を最後にソイツの首が吹き飛ぶ。ハッキリとは見えなかったが黒い触手のような何かが通り過ぎたような気がした。
「ふふふふふふ。ハーハハハハハハハハハ!!」
ノイズ混じりの笑い声が地下室に響き渡る。彼は心底、楽しんでいるように見えた。
「あ、兄貴!! てめぇ!!!」
ソイツの頭も吹き飛んだ。地下室にいた大人たちの頭も次々に吹き飛んでいき、全ての大人が動かなくなった。
「ア、アラスター?」
思えば、初めて会った時以来にこの悪魔の名前を読んだ気がする。
「ふむ、少々過激すぎたようですね」
そんな私の様子も気にせず、スーツの襟を直している。
「おや、どうしたんです? そんな格好をして?」
今、気づいたかように私の姿を見つめる。絶対、何が起こっていたか把握しているだろう。
「助けて」
「まあ、良いでしょう。不出来な下僕を助けるのも主人の役目ですね」
私の影から何かが出てきて私を縛っているロープを切ってくれる。
「あ、ありがとう」
「いえ、お気になさらずに」
立ち上がり、服についた汚れを払う。その間に目の前の悪魔に質問を投げかける。
「そういえばさ、貴方のことなんて呼べば良いの? いつまでも貴方じゃ、格好が付かないでしょ」
「ふむ、何でも良いですよ。ただし! 貴方の立場をお忘れなく」
「じゃあ、これからはボスって呼ぶよ」
この日から私は悪魔、改めボスの正式な部下になった。
確かに、私はこの悪魔に救われたんだろう。