スーリャは水と燻製肉で多少は回復したようで、ある程度動けるようになったが、まだ体力は回復していないので、もう2、3日は廃集落に滞在して回復を待つことになった。
俺は今日、タロと一緒に山の中に探索に来ていた。
「これは食えるキノコだ」
「へぇ、派手な色だな。なんていうやつなんだ?」
「名前は知らない。赤いから赤キノコって呼んでる。あ、この草も食えるぞ。これの花は蜜も吸える」
タロの知識は正直かなり有用だった。
というか、明らかに山を歩きなれている。
「なあタロ。結構森の中を歩きなれてるみたいだけど、どれぐらい経験あるんだ?」
「経験ていってもな。小さいころからここが俺の遊び場だったんだ」
「なるほど。こういう山菜とかの知識は誰から教わったんだ?」
「詳しい爺さんから話聞いたことはあるけど、全部自分で食えるか試した。毒草食って死にかけたこともある」
「マジかよ」
どんなものかも分からないものを口に入れるなよ。
子供特有のなんでも口に入れちゃうやつなのだろうか。
「そういえば、前に鳥も食ってたって言ってたよな。どうやって仕留めてるんだ?」
「これを使って石を投げて仕留めた」
タロが取り出したのは一本の紐だった。
途中で少し幅が広がっている部分がある。
「投石紐ってやつか」
「知ってんのか?モロが作ってくれたやつなんだが」
「あいつそんなのまで作れるのかよ。使えるのか?」
「あの木の枝くらいまでの距離ならだいたい当たる」
指差したのは12mくらい先の木の枝だった。
「ちょっとやってみれくれないか?」
「おう」
紐に石をあてがって振りかぶり、勢いよく腕を振り下ろすと、ヒュンッと風切り音をたてて石が飛ばされた。
飛ばされ石は、コンッと軽い音を立てて枝に命中した。
……俺の頭にぶつけたのも、多分これだな。
「すごいな。これで狩猟してたのか」
「当たっても落ちずに逃げられることも多いけどな」
いや、俺のしょぼい呪術よりすごいと思うが。
ただ、今の話を聞いて少し疑問に思ったことがある。
「なぁ、それだけ知識があって、鳥まで取れるんだったら、どうしてあのスーリャって子はあんなに衰弱してたんだ?」
あのスーリャという子は、栄養失調のような状態だった。
今のところ、タロはそこまで食料に困っていないように見えたので、少し疑問に思ったのだ。
「……最近、あんまり肉を食わせてやれてなくてな。栄養が偏っちまったんだろう」
「そうなのか?」
「ああ、それに、最近体調を崩して食欲もなくなってたから……油断した」
栄養の偏りか。
たしかに、狩猟や採集だけでは食料が安定しなかったり栄養が偏ってしまうこともあるだろう。
「そういえば、由布は食料が厳しいって言ってたよな。やっぱりそういうものなのか?」
「ああ。もちろん冬でも育つ強い植物もあるし、寒くても活動してる動物もいる。だけど、数も少ないし、それだけで冬を越すのは難しい」
「そうか。やっぱり冬はどこかの村に滞在するしかないみたいだな」
そんなことを考えながら山の中で採集を続けた。
■
背負い篭に適当にたまるまで採集して廃集落に戻ると、エドとモロが何かを作っていた。
「お帰り、ヴェロ」
「よう、何やってんだ?」
「あ、ヴェロさん。く、靴を作ってたんです」
「お前って靴も作れたのか?」
何と靴を自作してたらしい。
そういえばタロとモロの使っている靴も、いかにもハンドメイドって感じの出来だな。
適当に削った木の板を植物の蔓を使って足に固定する、簡素なつくりだ。
「ぜ、全然出来は良くないですけどね。す、すぐ壊れちゃいますし……」
「こりゃあ……、確かに売り物にできる出来じゃないな」
確かに簡素すぎるし耐久力も低そうだ。
残念ながら売り物にできそうな出来ではなさそうだ。
「スーリャの様子はどうだ?」
「よくなってると思うよ。顔色とかよくなってた」
順調に回復しているようで何よりだ。
「よし、お前ら飯にするぞ。いろいろ採ってきた」
「待ってました」
「鳥も3羽仕留めたぞ」
「なんだか豪勢だなぁ。街にいたときは肉なんてあんまり食べられなかったのに」
確かに、街にいたころは肉はちょっと高い食材だった。
供給量も少なかったしな。
そんなこんなで飯の用意をする。
焚火を作って、魔術で着火!
「【イグニッション】」
焚火に火が付き燃え広がった。
「す、すごい。これが魔術、なんですか?」
横からモロが興味深そうに観察していた。
「そうだぞ?まあ、俺みたいなモグリの魔術だとこんなもんだけどな、本場の魔術はもっとすごいぞ。火力が段違いだった」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。ほら、俺の火傷もその魔術を食らったときにできた傷だ」
「……え、ちょっと、傷が膿んでるじゃないですか。痛くないんですか?」
「クソ痛い」
戦争の際に受けた魔術の傷跡はいまだに直っていなかった。
それどころか悪化している。いつ治るんだこれ。
「あ、後でスーリャに、【ライトヒール】をかけてもらった方がいいですよ」
「え?おいおい、スーリャって奇跡使えたのかよ。マジで?」
「は、はい。スーリャは奇跡を使えます」
これは思わぬ拾いものだったかもしれない。
まさか奇跡が、それも回復の奇跡が使えるとは。
「あとで治してもらおう。エドの傷も治してもらわないとな」
そんなことを考えながら肉やキノコを焼いていった。
■
飯の用意が出来た。
山菜とかいろいろさらに盛り付けて配膳する。
ちなみに皿はモロが作った土器である。多芸な奴だ。
「なんだか山盛りだな」
皿の上には大量の山菜がどっさり乗せられていた。
「草なんていくら食っても腹にたまらねぇよ。これだけじゃ生きてけねぇ。やっぱ肉がなきゃ」
「穀物が恋しいね。パンとは言わないけど、せめて豆とかが欲しいな」
一見大量に見えても、山菜の栄養価は低いようだ。
まあそうでなきゃスーリャもあそこまで衰弱はしないか。
「スーリャ、食べられそうか?」
「うん、ありがと」
スーリャも一緒に焚火を囲って飯を食う。
…改めて見てみると、なんというか、寄せ集めのメンツって感じだ。
実際その通りなんだけどな。
「全員揃ってるし、改めて自己紹介でもするか。俺はヴェロ。年は15。アルドメナスとの戦争に参加してたが死にそうになったんで逃げてきた逃亡兵だ」
「僕はエド。14歳。アルドメナスの兵として戦争に参加してた。多分ヴェロと同じ戦場にいたね。友軍からの扱いがひどくて使いつぶされそうだったから逃げてきたんだ。脱走兵ってよりは亡命者かな」
「二人は戦場で知り合ったのか」
「いや、逃げた先の山の中で知り合ったんだ。行き倒れてたところをヴェロに助けてもらったんだよ」
思えばエドと出会えたのはかなり幸運だったな。
「よし、次はお前らの番だ」
「おう。俺はタロ。7歳だ。この集落の農家の息子だった」
「ぼ、ぼくはモロ。7歳です。スーリャの兄です。た、タロと同じで農家の息子でした」
「…スーリャ。5歳、です。奇跡が使えます」
「え、すごいね!やっぱりレクト人だからかな。よく見たら目が深い緑色だし」
確かに今までよく確認していなかったが、スーリャの目は黒っぽいが深い緑色に見えないこともない。
ちなみにタロは黒色で、モロは黄色っぽい色だ。
レクト人でもあまり緑色じゃない瞳のやつは多いが、大体黒とか黄色っぽい感じで、レクト人ではよくある瞳の色だ。
「レクト人でも誰でも奇跡が使えるわけじゃないぞ。10人に一人ぐらいだ」
「いや、それでもかなり多いよアルドメナスではもっと少なかった」
「そうか?でもそっちは代わりに魔術を使える奴が多いんだろ?」
「確かにそうだね。そう考えると対照的かもね」
「あと、スーリャは【ライトヒール】が使えるらしいぞ。俺の火傷もかけてもらったら少し楽になった。お前も脇腹の傷にかけてもらえ」
「本当かい!?後で頼むよ、スーリャ」
「うん」
エドはかなり喜んでいるようだ。
こいつの傷もまだ完治してないんだよな。もう俺の奇跡無しでも出血はしないが傷がまだ痛むようだったし、これで回復すれば楽になるだろう。
「でも、奇跡を使えるのは隠しておいた方がいいぞ。攫われる可能性もなくはない」
「え、そうなの?」
「ああ、特に子供はな。奇跡が使えるってだけで狙われるらしい。街の中なら手厚く保護されるけどな。まあ囲われるというか、外堀固められて教育されるって感じだったが」
「ならいいんじゃないの?」
「俺はめんどくさそうだから使えるの隠してたぞ。でも別に待遇というか扱いが悪いわけじゃないし、普通なら隠すことでもないんだろうが」
何だか窮屈そうだし、魔術とか呪術を練習したかったので俺はパスしていた。
「自己紹介も済んだし、今後の方針を決めるか」
改めて全員を見て今後の行動予定の確認を行う。
「俺たちは隣国のロズカルにいくために、ロズカルへの街道があるシルヴァ―ナって街に行くために行動している。ただ、移動する距離的に到着するまでに冬になっちまう。現状、森から飢え死にしない程度には食料を確保できているが、冬になってくると本格的に寒くなって、食料の確保が難しくなるし、凍え死ぬ可能性もある。そうなる前にできるだけ保存食を確保することと、どこかの村に入って世話になることを目標に行動する。ただ、お前らはわざわざ付き合う必要はねーぞ?」
俺はタロ、モロ、スーリャを見て話を続ける。
「適当にここから一番近い村か街まで送っていくこともできるが」
「それは無理だ」
そこで、タロが割って入った。
「どうしてだ?場所がわからないのか?」
軍が来たということは近くに村とか街のような人の住む拠点がありそうなものだが。
「それはわかる。でも、その村とはあまり仲が良くないんだ」
「ほう、それはまたどうして?」
「この集落が、隠れ里みたいなものだから、かな」
「どういうこと?」
エドも気になったのか、タロに問いかける。
「俺はよくわからねぇけど、畑とかって隠してちゃいけないんだろ?その畑からとれたものを領主に献上?するから」
「確かにそうだが」
「でも、この集落は領主に知られていなかったんだ」
「え、マジか」
隠し畑ならぬ隠し集落だったとは。
「でも、この集落も結構でかいだろ。どうやってできたんだよ」
「もともと、猟師の小屋が一軒あっただけみたいなんだけど、だんだん住み着く人が増えて、原始的だけど家まで建てて、いつの間にかこの規模らしい」
「えぇ?そんなことがあるのか?」
まさか成り立ちが猟師の活動拠点を発展させたものだったとは。
だが、ここまでの規模になるものなのだろうか。
「それで、なんで近くの村と仲が悪いって?」
「それは……なんでだっけ、モロ」
「え?えっと、そ、それは……ほら、こ、この集落、家が何て言うか、で、出来が良くないですよね?そ、それに道具とかも、ほとんど自給自足でしたし……。む、村と比べて生活が悪かったんです。だ、だからみんな村の人たちを羨んでいたし、む、村の人たちはこの集落でとれたものは全部自分たちのモノにできたから、税?がかからなくてずるいって思ってたみたいで……」
「それで仲が悪いのか」
「そ、それでも、この集落では、動物とかをよく狩猟して、そ、その肉を村に渡して、道具とかと交換したりもしてましたから、こ、交流自体は、あったんですけどね」
「でも、あいつらは俺たちを売った」
「売った?誰に?」
「盗賊だ。村のやつらに聞いたって言ってた」
「盗賊……そうか、ここを襲った盗賊は村からこの集落の場所を聞いてきたのか」
こんな秘境とも呼べる場所にある集落にどうやってたどり着いたのか疑問だったが、謎が解けた。
「俺らを売った村にのこのこ出向いても、受け入れてくれねぇよ」
「確かに、そうかもしれないな」
多分、盗賊が村に来て、居座られると困るから、この集落へ誘導したとかそんな感じだろうと思う。
そしてそのあと現れた生き残りの子供を村の人たちがどう扱うのか。
……あまりいい想像はできないか。もともとこの集落をよく思ってなかったみたいだし。
「それじゃあ、お前らは俺たちが一度適当な村に入ったところかで分かれるか? それともロズカルまで一緒に来るか?」
「……村に行ってみないと何ともいねぇよ。俺は近くの村のことしか知らねぇからな」
「そうか。じゃあひとまず保留ってことでいいな」
「……そういえば、お前らはなんでロズカルまで行こうとしてるんだ?」
「戦争の影響だ。徴兵されないようにロズカルまで逃げてるんだよ」
「戦争……」
タロはしばらく難しい顔をして考え込んでいたが、しばらくして答えを出した。
「俺もロズカルまで同行したい」
「理由は?」
「よくわからねぇけど、戦争ってのはこの集落まで来た鎧を着たの連中と戦わないといけないんだろ? そんなのごめんだ。それに……旅をしてみたい。この集落から出て、遠くに行ってみたいって、実はずっと思ってたんだ」
旅がしたい、か。
若者特有の無鉄砲さって感じだ。
「なるほど、そういう考えか。ほかの二人は?」
「ぼ、ぼくは……ええと、す、スーリャはどうする?」
「わたしはお兄ちゃんとタロと一緒がいい」
「そ、そうなんだ。じ、じゃあ、ぼくもタロと同じく、つ、ついていきたいです」
どうやら全員ついてくるみたいだ。
まぁ、これからの山中の生活で気持ちが変わらなきゃいいけどな。
「それじゃあ、もうしばらくここに滞在してから、30日くらい南に移動して適当な村に滞在して冬を越す。そのあとはまた村を出てシルヴァ―ナに行って、そこからロズカルを目指す」
こうして、今後の方針は決まった。
レクト人
レルガノス王国に多い人種。
奇跡に適性が高く、奇跡の適性が高いほど瞳の色が緑に近いという特徴がある。
【ライトヒール】
外傷を回復する奇跡。
傷の回復には時間がかかり瞬時には治らない。
部位の欠損は治せず、治った後によく跡が残ってしまう。
最も習得者の多い回復の奇跡である