村に滞在して一夜明けた。
「……知らない天井だ」
「起きたか」
「ああ、タロ。早いな」
すでにタロは目が覚めていたようだ。
というか、こいつはいつも起きるのが早い。
多分寝るのが早いからだろう。いつも速攻で寝てるし。
エドとモロはまだ寝ているようだ。
「集落でもいつもこれぐらいに起きてたぞ」
「そうか。早起きなのはいいことだな」
タロにそう返しながら、革の水筒を手に取り家を出る。
空は白み始めているが、外はまだ少し薄暗い。
顔を洗うために、上半身の服を脱いでから水筒の水をかぶった。
魔術を覚えて、水を自由に使えるようになってから毎日やっているルーティーンだ。
「……お前、朝はいつもそうやって顔洗ってるよな」
「しゃきっとするからな。ほら、お前もやれ」
タロに水筒を差し出す。
「別にいいって……」
「頭洗わないとシラミとかつくぞ。それに臭いもきつくなってくる。いいからやれ」
タロに無理やり水筒を押し付けると、しぶしぶ言う通りに水をかぶった。
エドやモロ、スーリャにも同じように毎日体を洗わせている。
タロは毎回めんどくさがってサボろうとするんだよな。
「ぶはぁ、ふぅ。……それで、今日はどうすんだ?」
「どうするって、そりゃ働くんだよ。村の人たちの手伝いだ。昨日見た限りだと作物の収獲で大変そうだったし、今日から忙しくなるぞ」
タロは盛大に顔をしかめて水筒を投げ渡してきた。
■
畑に出てきた俺たちの前に、日焼けしたおっさんがいた。
「お前らがゼノンさんの言ってたやつらか」
「ゼノン?」
「聞いてなかったか?村長の名前だよ」
昨日話した村長の名前らしい。
「おお。カッコいい名前ですね」
「そうか?別に普通だろ。お前らにはこの畑の収獲をやってもらう。人手が足りてねぇからしっかり働いてもらうぞ」
「うっす」
早速農作業が始まった。
畑に出て作物を収獲する。
収獲しているのは小麦だ。鎌を使って収獲していく。
それ自体は大した作業でもない。腰は痛くなるが。
問題は畑の広さだ。ものすごい広い。
こんな面積で農作業してるのか。
どこの村もこれぐらい広いのだろうか。
「いやぁ助かるよ。戦争で若いもんがみんな戦争に行っちまってなぁ。こんな忙しい時期だってのに、困ったもんだよ」
「この村の人も徴兵されたんですか」
「ああそうだ。せめて作物を収獲する時期だけは休戦してほしいもんだ」
「仕方ないですよ。アルドメナスは年がら年中、季節関係なく攻めてきますから」
アルドメナスは収穫期の忙しい季節だろうと関係なく戦争を仕掛けてくる。
これも大国だからなのだろうか。
国力で戦線を維持してるのかな。
「エド、そこんとこどうなんだ?」
「うーん、食料生産とかは魔術で補っているところもあるよ。でもそれ以上に精霊を使役して働かせてるんだよね」
「精霊?」
精霊とは伝承とか神話なんかでよく登場する不思議な存在だ。
人と契約して力を貸してくれたりするらしい。
逆に、悪さをする話も聞いたことはあるが、そういうのは妖精といって区別されていた。
何が違うのかは知らない。そもそもどういう存在なのかもよくわからないしな。
「精霊なんて見たことないんだが、アルドメナスではたくさんいるのか?」
「僕は街でたまに見かけたよ。なんでもどこかで精霊を作ってるとか聞いたことがある。精霊を働かせて、浮いた人員が戦働きをしていたみたいだ。詳しいことはわからないけどね」
「ほぉ、そっちの兄ちゃんはアルドメナスから来たのか」
一緒に作業してきたおっさんがエドに話しかける。
やべ、あまりエドにアルドメナスの話をさせるのはまずかったかな。
「は、はい。確かに以前まではいました。そこから逃げてきてここまで来たんですけどね」
「逃げてきたか。そっちはそっちで大変そうだなぁ。まぁ今はとにかくしっかり働いてくれよ」
「はい、頑張ります」
おっさんは気にした様子もなく作業に戻った。
「……あんまり気にしてなさそうだな」
「そうみたいだね。よかった……。さ、僕たちも作業を続けよう」
■
「クッソ疲れた……」
農作業は思っていたよりかなり厳しかった。
俺も石材運びや山中での生活で鍛えられていると思っていたのだが、農作業は屈んで行うことが多いので、普段使わない筋肉を酷使している。
おかげで足と腰がクソ痛い。
「もう筋肉痛がいたい……マジでやばい……」
「まさか、こんなに大変だなんて、少し予想外だったね」
「ダッセーな。年上のくせに」
俺と同様にエドもだいぶくたびれている。
対照的に、タロ、モロ、スーリャの三人はそこまで疲れてもいないようだった。
「お前らは大丈夫なのか?」
「ああ、なれたもんだ」
「僕も、そこまで疲れてない、かな」
「畑仕事、はじめてじゃないから」
「そういえば、三人とも集落では農家だったって言ってたね……」
なるほど、それでか。
少しうらやましいような、そうでもないような気分だ。
「スーリャ、頼む。【ライトヒール】かけてくれ」
「いいよ」
「僕にもお願いするよ」
「わかった」
スーリャの手から白い光があふれ、酷使した筋肉の痛みが和らいでいく。
スーリャの奇跡が身に染みるぜ……。
「明日からもこんな作業が続くと考えると気がめいりそうだ」
「そうだね……。慣れることを期待するしかないね」
村の生活は、そんな感じで過ぎていった。