深淵を覗けるか   作:たぶん超新星

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赤毛の女

 村に来てからもう5日がたった。

 俺とエドは村中の畑に助っ人みたいな感じで派遣されてキッツい農作業を行っていた。

 タロ、モロ、スーリャとは別行動だ。

 あいつらは力仕事以外にもいろいろ小器用にできるからか、それとも農業の経験者だからか別の仕事を任されていた。

 

「酷使されてんな、俺ら。体力使う仕事ばっかやらせやがって」

「あはは、まあ、村にいさせてもらってるだけでもありがたいと思うしかないよ」

 

 そういいながらも、隣にいたエドの顔には疲労に色がにじんでいた。

 スーリャに毎回奇跡で回復してもらっているはずだが、疲労は蓄積するものだからな……。

 

「まあ、どうせ冬が開けたらすぐにこの村を出るんだ。それまでの辛抱さ」

「うん、そうだね」

 

 そうやって自分に言い聞かせながら働いていると、赤毛の女が近づいてきた。

 村の人たちは大体黒とか茶色の髪が多いが、赤っぽい色というのは少し珍しい。

 今日、俺とエドはこの女の手伝いをしていた。

 

「お疲れー。大変そうね?」

「わかるか? 大変なんだよこれ」

「そりゃわかるわよ。私だって毎年やってんだから」

「そっちも大変そうだ。今日はやってないみたいだけどな」

「ありがたいことに、今日は代わりにやってくれる人がいるからね」

 

 そんな軽口を言いながら、楽しそうにニコニコと笑う。

 一方俺たちは苦笑いだ。

 

「……ねぇ、あんたたち、村の外から来たんでしょ?」

「まぁそうだな」

「私に村の外のこと、教えてくれない?」

 

 突然、そのようなことを言い出した。

 

「え、今?」

「今は仕事中だけど、仕事が終わったらあんたたちの住んでるところに行くわ。私もそこで寝るから、その時にお願い」

「おいおい」

「き、急な話だね……」

 

 矢継ぎ早に強引に話を進めてきた。

 そんなことを急に言われても困るんだが。

 エドも動揺してるし。

 

「うちは狭いんだ。お前が寝る場所もほとんどないぞ」

「だったら、あんたたちが私の家に来てもいいわよ?」

「ちょ、ちょっと、君は女の子だろう?僕たちは男だし、一緒に寝るのはよくないんじゃないかな?」

 

 普通に考えたら俺たちがそういった不埒な行為をする可能性は十分考えられるだろう。

 もちろんそんなことをするつもりはないが。

 

「別に、ちょっとぐらいならエッチなことしても怒らないわよ?」

「何言ってんだこいつ」

 

 こいつには貞操観念というものがないのだろうか。

 エドは口を開けて愕然としている。

 大丈夫か?

 

「だって私、前に戦争に行った子達とも一回やったもの」

「だってじゃないが」

 

 とんだアバズレじゃないか。

 

「何よ! このくらい普通よ普通!」

「……え、そうなの?ヴェロ、これが普通なの?」

「いや俺も知らないが……」

 

 でも、街では十歳くらいのやつが娼婦やってた話とかも聞いたことがある。

 親父の仕事仲間にも俺と同い年くらいの女房がいるって話もどっかで聞いたこともあったしな。

 でも、村と街で事情が同じとも限らないし……うーん。

 

「なあ、お前今何歳なんだ」

「16よ。あとリリカって呼んで」

「そうか。16歳なら結婚とかして所帯を持っても不思議じゃない年齢だな。お前がさっき言ったようなことをしてても、まぁ不思議はない……かもしれん」

「じゃ、じゃあこの人……リリカさんが僕たちにその、……そういうことを言うのも、特別変ってわけじゃないってこと?」

「いや~、それは十分変じゃないか?俺ら初対面だぞ」

 

 普通はもう少し気ごころ知れたやつとするもんだろう。

 こいつが特別あけっぴろげなだけだ。多分。

 

「そこまでして村の外の話が聞きたいのか?」

「うん。聞きたい。私に教えてくれない?」

 

 リリカは即答した。

 いったいどこからその熱意が来ているのだろうか。

 だが、「じゃあいいぞ」とはならない。俺たちになんのメリットもないからな。

 下手したらタロとかに女連れ込んでるとか思われるかもしれないし。

 

「うーん、何か俺たちの利益になるようなことがあるなら考えるけどな」

「エッチなことならいいわよ」

「……それ以外でたのむ」

「ヴェロ、今ちょっと悩んだよね?」

「うるさい」

 

 俺にだってそういう欲求はある。

 それにこいつ、リリカはそこそこ愛嬌のある顔をしてるしな。

 ほんの少しだが心を揺さぶられてしまった。ほんの少しだが。

 もちろん態度には出さない。

 がっついてると思われたらダサいからな。

 

「それ以外って言ってもねぇ。あ、冬の間薪とか食料とか融通するわよ」

「ほう、悪くない。それでいいぞ」

 

 願ってもない提案に即座にうなづいた。

 食料なんてどれだけあってもいいからな。

 

「やった! それじゃあ今日はあなたたちのところにお邪魔するわね」

「ほんとに急だな……。いや、お前の家にも行ってみたくはあるが。少なくとも今俺たちが住んでる家より広いだろ。お前以外に誰が住んでるんだ?」

「お父さんもいるわよ」

「話通ってるのか?それ」

「いいえ?私がほかの家に泊まりに行くのはたまにあることだからいいんだけど、人を招いたことは無いから」

 

 ……こいつ、さっきから勢いで話してるんじゃないだろうな。

 リリカの父親がどういう反応するかわからない以上、避けた方がいいだろう。

 何かもめごとになったり噂になったりしてもめんどくさそうだし。

 ……こいつが俺たちの家に来る時点で噂になる可能性もあるが、それは考えないことにする。

 

「……はぁ、じゃあいいや。お前の家に行くのは遠慮しとこう」

「はーい。それじゃあ今夜はよろしくね!」

 

 リリカはにっこり笑いながら仕事に戻っていった。

 嵐のような女だな。

 

「悪いエド、勝手に話進めちゃって」

「いや、うん、大丈夫だよ。ははは」

 

 エドはリリカの言動がだいぶ衝撃的だったらしい。

 まだ動揺しているようだ。

 

「戻ったら他の三人にも話通しておかないとな」

 

 そして、俺たちも再び作業に戻った。

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