深淵を覗けるか   作:たぶん超新星

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山中の旅路

 村を出て10日。

 俺たちは順調に南へ向かって進んでいた。

 

「おい、ちょっとこれを見てくれ」

 

 ふと、タロから声をかけらえrた。

 

「どうした?」

 

 タロの示すそこには、木に何か黒いものがべったりとついていた。

 

「なんだこれ」

「ジブジーの糞だ」

「なに?ジブジーってあのジブジーか」

 

 ジブジーとは猿の体にバクの頭がくっついたみたいな動物だ。

 とても賢い生き物で、森の奥地に生息しており滅多に姿を現さないらしい。

 街で聞いた民間伝承にはよく登場するので、名前と姿は聞いたことがある。

 

「ジブジーって見たことないのよね。ちょっと見てみたいかも」

「やめといたほうがいいぞ。石とか投げてきて危ねぇからな」

「どうしてそんなことを知ってるんだ?」

「前に見かけたことがあんだよ。あいつらはいくつかの縄張りを移動して暮らしてる。それでたまたま移動してるのを見たことがある。あいつら、縄張り入ってきた奴には石だけじゃなくうんこまで投げてくるからな」

「うぇー!そりゃばっちぃわね」

 

 リリカは想像したのか嫌そうな顔をした。

 

「ねぇヴェロ、タロたちに合う前に、猿みたいなのに襲われたことあったよね」

「ああ、あったな。あいつら、うんこまで投げてきて最悪だった」

「もしかしてあれ、ジブジーだったんじゃ……」

「俺もそう思ってたとこ」

 

 あの時はよく確認していなかったが、もしかしたらジブジーだったのかもしれない。

 

「二人はあったことがあるの? どんなだった?」

「よく見てなかったよ。すぐ逃げたし」

 

 あいつら滅茶苦茶やってくるからな。

 俺たちはジブジーの陰におびえながら早々にこの場を離れた。

 

 

「あ、ヴェロ。街が見えたよ」

 

 移動中、山沿いの街を見かけた。

 

「あれがシルヴァ―ナって街か?」

「いや、違うと思う。ロズカルのある西側に伸びる街道がないからな」

「すごい、遠くからでも大きい家がたくさん見えるわ!村のとは全然違う、石でできてる家もあるのね」

 

 リリカは興奮した様子で目を輝かせていた。

 

「ねぇ、ちょっと寄ってみない?」

「よらない。用もないし金もないからな」

「えー、何とかして稼げないの?」

「金を稼ぐのも簡単じゃないんだよ。仕事探すのも物を売るのも面倒な手順がいるんだ」

 

 大抵の仕事はギルドとかの仲介がいるし、物を売るにも商人ギルドを通さないといけない。

 ギルドは職人や商人のような職業の人たちの組合のようなもので、技術や流通を管理している。

 そうやってギルドが利益を独占できるようになっているのだ。

 一方でギルドに所属しているとその利益を享受できるので、街にいる人のほぼすべてが何かしらのギルドに入っていた。

 ちなみに、俺はどこのギルドにも所属していない。

 石工ギルドの見習い扱いとして働いていたが、正式なギルドに一員の証であるギルド証を発行してもらえてなかったんだよな。

 職人系のギルドは、大抵の場合小さいころから見習いとして働き、修行の期間を経て15歳くらいでギルド証を作ってもらうものだが、俺はその前に徴兵されてしまったし。

 

「なんか面倒なのね」

「ああ、面倒なんだよ。だから寄り道はしない」

「ちぇー」

 

 リリカは不満そうに唇を尖らせた。

 

 

「よし、テントが設置で来たぞ」

「ご飯の用意もできたよ」

「今日の飯はキノコのスープか」

 

 焚火の上に設置された土鍋には、山の幸たっぷりのスープが入っていた。

 鳥の肉も入っているし、なかなかうまそうだ。

 

「……なんだか、山の中で過ごしてるのに意外と不自由ないわね」

 

 ふとリリカがそのようなことをつぶやいた。

 

「そうか?村にいたときの方が快適だったと思うが」

「それはそうでしょうけど、もっと過酷な旅を想像してたのよ。天候に苦しめられたり、食料に難儀したり、水を求めてさまよったりね」

 

 その辺の問題はタロとモロの知識と技術でだいぶ賄えているからな。

 エドと二人旅の時はもう少しきつかった。

 

「タロとモロにあってなかったらヤバかったかもな」

「私、旅ってもっと大変だと思ってたのに、ちょっと拍子抜けしちゃった」

「あはは、大変なのは間違いないよ。僕なんてヴェロにあってなかったら早々に死んでただろうし」

 

 そんなことを話しながらこの日は就寝した。

 

 

「リリカ、これ食ってみろよ」

「何よこれ」

「根っこだ」

「……食べられるやつなの?」

 

 リリカがタロに何か渡されていた。

 細長くて茶色の植物の根っこだ。

 山菜の一種で、一応食べることが出来る。

 

「食えるやつだ。食ってみろ」

「そういうなら食べてみるけど……あむ、結構固い……あっ辛っ、なんか急に辛いんだけど!」

「うまいだろ?」

「本気で言ってんの!? 水、水ちょうだい!」

「落ち着けって。ほら、水だ」

 

 革の水筒を渡すとリリカはすぐにがぶ飲みした。

 

「ごく、ごく、ごく……ぷはぁ! はぁ、とんでもないわねこれ」

 

 リリカは水を飲んで落ち着いた後、水筒と一緒に根っこを俺に渡してきた。

 いやなんで俺なんだよ。いらないし。

 

「タロはこれ、時々かじってるよね」

「ああ。焼いた肉に刻んでかけるともっとうまいぞ」

 

 タロは辛い物が好きらしい。

 

「昔から好きなのか?」

「いや、毒とか時々食うようになってるうちに耐性がついてな。慣れだ」

 

 そういや毒草とか毒虫も食ってたとか、ヤバいことを前に言っていたな。

 タロに根っこを渡すと、そのままコリコリと音を立てながら食い始めた。

 よくそのまま食えるな。

 俺もそのままかじってみたことはあるが、マジで激辛だった。

 

「でも、肉の臭みを取ったり、食事の付け合わせにもなるから、結構いい食材だよね」

「まぁ確かに。使い道は多いな」

「私は苦手よ。からいものあんまり食べたことないし」

 

 タロは時々こういう刺激物をしれっと拾ってくる。

 気づいたら飯に混ぜられていることもあるから油断ならない。

 

 

 

「あ、蛇を捕まえたの?おいしそうね!」

 

 リリカがタロの捕まえた蛇を見てそのようなことを言った。

 まさか蛇を見てそんな感想が出てくるとは。

 

「リリカお前、だいぶ山暮らしに適応してきたな」

「え? なによ、蛇だって食べたら結構おいしいじゃない」

「そうかもしれんが……」

 

 どっちにしろ蛇はゲテモノの類だろうに。

 

「あはは、僕も蛇の肉は好きだよ。最初はちょっと抵抗感もあったけどね。山での生活も長くなってきたから、街にいたときの感覚を忘れそうになるよ」

「マジかよ。エド、お前野生に帰っちまうのか?」

「いや、さすがにそこまでじゃないから」

「二人はこうやって山を歩いて旅するの、どれぐらいになるの?」

「んー、そうだなぁ。去年の戦争が大体半年前くらいだろ? 村にいた期間を除けば三ヶ月くらいか」

「まだ三ヶ月か。もっと長くこの生活を続けていたような気がするよ」

「ロズカルに到着するのはいつになるんだろうな」

 

 正直、どれくらい時間がかかるのかは不透明だ。

 山の中の移動は道もよくないし、かなり時間を取られてしまっている。

 

「でも、僕はこんな生活も悪くないと思うよ。最初はヴェロと二人だったけど、今ではにぎやかになったしね」

「……そうだな」

 

 俺も最初は一人で行動する予定だったが、気づいたら六人に増えていた。

 まあ、なんだかんだで、こいつらと旅をするのも悪くないと思っているのも事実だ。

 

「それって、私が一緒になってうれしいってこと?」

「あぁ? そんな話だったか?」

「あはは、僕はリリカが一緒に来てくれてうれしいよ。なんだか賑やかで楽しいからね」

「えへへ、エド、ありがとー!」

「うわぁ!急に抱き着くのはやめて……!」

 

 エドがリリカに抱き着かれて赤面していた。

 相変わらずうぶな奴だ。

 そういえば、リリカはエドより2つ年上だったはずだし、リリカからすればエドは弟みたいな感じなのだろうか。

 そんなことを考えながら、リリカがエドにじゃれついているのを、俺は少し苦笑しながら見ていた。

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