ロズカルへ向かう街道が見える距離から離れすぎず、山中を歩いて行く。
「街の近くは結構人の痕跡があるんだな」
タロが何かの焦げた跡を確認しながらつぶやく。
ここで焚火か何かをしたのだろうか。
「猟師でも通ったのかな」
「そうかもな。盗賊の可能性もあるぞ」
「盗賊なんて今まで一回も見たことないじゃない。本当に実在するのかしら」
リリカは今まで盗賊に遭遇しなかったせいか、俺が警戒していることに懐疑的なようだ。
「今まで出くわさなかったのは盗賊も通らないような山奥を歩いていたからだ。ここは街道の近くだからいつ出てもおかしくないぞ」
「本当かしら」
あまり信じていないようだな。
でも多分、そろそろ出くわすような気がするんだよな。このロズカルへと続く街道は盗賊がよく出ると聞いているし。
街道を行商人らしき人達が時々通り過ぎるのを見送りながら俺たちも歩いて行った。
■
街道に沿って歩き始めて二日目の夜のことだった。
「ヴェロ、起きて」
「んぁ、なんだ? もう交代の時間か?」
俺たちは一応寝るときは見張りを立てている。
そろそろ交代する頃合いかと思ったがどうやら違うようだ。
「あれを見て」
「……なんだ?」
エドの示す先、街道で、何者かが争っていた。
行商人が盗賊に襲われているように見える。
「盗賊か?」
「そうみたいだね」
とうとう出てきたか。
見ると、ずいぶん若そうな女が盗賊に捕まっており、護衛らしき男も殺されている。
だが、不可解な点もあった。
「まだ生き残っている護衛が盗賊と仲良さそうにしているように見えるが、気のせいか?」
護衛らしき男は四人いるが、二人は殺されており、残りの二人は血の付いた剣を持っていた。
おそらく、同じ護衛を不意打ちで殺したのだろう。
「僕も途中からしか見てないけど、もしかしたら行商人を裏切ったのかも」
「裏切りか……。そういうこともあるのか?」
状況がよくわからないが、だからといって俺たちの行動は変わらない。
「盗賊たちがこっちに来るようなら移動しなきゃならんが、そうでないならこのままじっとしてやり過ごせばいいだろう」
「ヴェロ」
「なんだ?」
「僕はあの人を助けたい」
突然何を言い出してんだ。こいつは。
これまで盗賊を警戒して山道を歩いてきたのに、自分から危険を冒そうというのか。
「あの行商人、お前の知り合いか何かか」
「いや、知らない人だよ」
「だろうな。どうしてわざわざ、危険を冒してまで助けようとするんだ。他人だろ?」
「目の前で襲われているからだよ」
「お前そんな正義感強いやつだったか?」
いいやつだとは思っていたが、ここまでお人よしだとは思わなかったな。
それにしても度を越えていると思うが。
「危険すぎる。それとも、あの盗賊たちを蹴散らせるほどお前は強いのか?」
「さすがにそれは無理かな。でも、あの女の人を連れて逃げるくらいはできるかもしれない」
「そんな無茶な……。やっぱりだめだ。行かせるわけにはいかない」
「ヴェロ、僕は止められてもいくよ」
「……強情だな。どうしてそんなに頑ななんだ」
想像以上にエドの決意は固いらしい。
俺の言葉で止めるのは無理そうだ。
「はぁ……わかった。だが、一人では行かせない。やるならほかのやつも含めて全員でやる」
「ヴェロ、それはダメだよ。これは僕のわがままだから、みんなを巻き込むのは……」
「うるさい」
俺はエドを黙らせ、他のメンツをたたき起こす。
「お前ら起きろ」
「うぅ、なによもう、まだ暗いじゃない」
「盗賊だ」
「……え、ほんとに?」
「襲ってきてるのか?」
とりあえず手短に状況を説明する。
「今、街道で行商人らしき女が盗賊に襲われてる。それを見たエドがどうしても助けたいって言いだしてな。お前らにも協力してもらいたい」
「……あれか。あの行商人、知り合いでも何でもないんだろ? なんでわざわざ……」
タロが疑問を挟む。
俺も同意見だよ。
「エドがどうしても助けたいらしい。嫌ならやめとくか?」
「……どうしてもやるってんなら、協力する」
一応協力してくれるようだ。
反対もされないとは、これもエドの人望のおかげか?
とにかく協力してくれるならありがたい。
「そうか、助かる。他のやつもかまわないか?もちろん、あまり無茶なことはさせるつもりはないが」
「もちろん協力はするわよ」
「ぼ、ぼくもです。でも、あまり危ないことは……」
「協力してくれるだけでもありがたいよ。スーリャもいいか?」
「うん。みんなと一緒」
リリカ、モロ、スーリャも協力してくれるようだ。
よし、突然の事態だったが意思の統一が出来た。
「みんなごめん。僕のわがままに付き合わせて……」
「全くだ。でも、やめる気はないんだろう?」
「それは……、うん、そうだね」
やはりエドの意思は固いらしい。
いったい何がこいつをここまでさせるのだろうか。
……少し気になるが、問い詰めるのは後にしておこう。
「それじゃ作戦を考えようか。エド、盗賊の様子は?」
「行商人の女の子を連れてどこかに行くみたいだ。街道をそれて僕たちのいる方とは反対の山に入っていってる」
「どこに行くつもりだ? 近くに拠点でもあるのか?」
「わからない。でも、ここはシルヴァ―ナから歩いて二日のところだし、何かあってもおかしくない気はする」
確かにこの距離なら街と程よく離れているし、考えようによっては身をひそめるには最適な場所なのかもしれない。
護衛も裏切っていたようだし、何か組織だって盗賊行為でもしているのだろうか。
「……確証がないことで悩んでいても仕方がないか。とりあえず見つからない距離を保って後を追うぞ」
「全員で行くのか?」
「あー、そうだな……。よし、タロは俺と一緒に来てくれ。残りはここに残って人間用の罠でも考えていてくれ」
「二人で大丈夫?」
「心配すんな。とりあえずあいつらの目的地を確認したら戻ってくる」
俺とタロはエドたちを残して盗賊の追跡を開始した。
離れた距離から息をひそめて盗賊を尾行する。
盗賊たちは見える限りでは8人、裏切った護衛が2人いるから全員で10人か。
行商人の女を担いで、運んでいた荷物も一緒に持って歩いている。
「そこ、気を付けろ」
「ん? 何かあるのか?」
「罠がある。多分鹿か猪か、何かを捕まえる奴だ」
「うわ、そんなのあるのかよ。というかよく見つけたな。こんなに暗いのに」
「今日は星がよく見えるし、十分明るいだろ」
「マジかよ」
どうやらタロはかなり夜目が効くらしい。
しばらく……一時間ほど歩いたところで、盗賊たちのアジトと思わしき場所に到着した。
丸太を並べたような建物で、一階建てだがかなり頑丈そうだ。
「山の中にこんなでかい家が……いったい誰が作ったんだ? まあいい、タロ、一度戻るぞ。場所を忘れないように木に目印も付けとけ」
「わかった」
アジトを突き止めた俺たちは一度エドたちのもとへ帰還した。
■
「戻ったぞ」
「ヴェロ、タロ、大丈夫だった?」
元の場所に戻ると、エドが心配そうに出迎えてくれた。
「ああ、問題ない。それより、盗賊どものアジトを突き止めた。明日の夜奇襲を仕掛ける」
あまり時間をかけてもあの行商人の女が無事でいるかはわからないし、盗賊もいつまであのアジトにいるかわからない。
行動は早い方がいいだろう。
「できるだけ戦いの用意はしておきたい。特に、タロとモロには協力してもらうぞ」
「わかった」
「わ、わかりました」
俺たちは夜明けまで作戦を話し合い、日が昇ってっ直ぐに行動を始めた。