兵舎に着くと、すでに徴兵されてきた新兵たちが集められていた。
皆成人になりたてくらいの若い者ばかりで、俺と同じように替えの服と保存食をいくらか持参している。
(……結構人数が多いな)
街の周辺の村からも人が集められているのかもしれない。
それにしても、皆武器も防具もないし、ただの街人か村民のようにしか見えないな。
それに、これから戦場に行って命がけで戦うことになるかもしれないというのに、あまり緊張感もなく、どこか浮足立っているように見える。
……こんなので本当に大丈夫なんだろうか。
「傾注ー!」
と、突然大声がかけられる。
声のしたほうに目を向けると、立派な鎧を着た男が立っていた。
「私は諸君らの部隊を指揮することになる、ユルネスだ。諸君らにはこれより、オルドール城塞への物資の運搬を行ってもらう。日程は5日間の予定だ。オルドール城塞に到着したのち、そのまま砦防衛に加わってもらう。それと、諸君らには槍と盾を支給する。あまり上等なものではないが、せいぜい大事に扱うことだ。事前に警告しておくが、渡された物資を持ち去ったり、中にある食料を許可なく食べることのないように。もしそのような行為が発見された場合、その場で処断することになる」
そのような指令の後、槍と盾が支給された。
短槍と小盾だ。
(……安物だな)
整備はされているものの、あのユルネスという人の言う通り、あまり上等なものではなさそうだ。
槍の穂先は小さいし、盾も木板に薄い金板を張り付けたような作りである。
装備の目利きが出来るわけではないが、明らかに数打物の安物だった。
装備の支給が終わった後、重たい物資を背負わされた。
(こ、これを背負って5日も歩くのか……?)
流石に俺が石切り場で運んでいた石材よりは軽いが、それでもこれを台車なしに背負って運ぶのは結構きつそうだ。
他の人たちも、その重さに驚いている様子だった。
新兵たち全員に物資を背負わせたのち、すぐに街を出ることになった。
■
他のの新兵たちとともに、オルドール城塞に向かって進軍する。
集められた新兵は300人くらい。
軍を指揮する指揮官と、前線運ぶ物資を乗せた荷車を護衛する兵士、軍を相手に商売する商人たちも合わせれば、総勢で400人ぐらいの軍勢だ。
向かう先はレルガノスとアルドメナスの国境に位置留守山脈の谷間、戦場の最前線にして防衛の最重要拠点、オルドール城塞。
そこへ向けて歩いているのだが……。
「重い……」
背負わされた物資がクッソ重い。
まだ街から出てそれほど立っていないというのに、もう足が痛くなってきた。
俺は小さいころから親父の手伝いで石材を運ぶ仕事をしていたため、重いものを運ぶのには慣れているが、新兵にいきなりこんな重いものを背負って行軍させるというのは、さすがにきついだろう。
実際へばっている奴も結構いる。
それに、俺は少し余裕があったせいか、他の人より運ぶ物資を追加されてしまっていた。
(こんなので5日も歩き続けるのか……持つかな、俺の足)
幸い、行軍の速さはそこまで早くなく、途中で休憩も入った。
こんな調子で、割とのろのろと行軍していた。
■
エルヴァからオルドール城塞までは、徒歩で5日かかる。
道中、野宿することもあったが、いくつかの村に立ち寄りながら行軍することになった。
「……よし、こんなもんかな」
村に滞在中、村の人から木の板切れを一枚拝借し、服の下、腹に紐で括り付けてみた。
流石に現在の布の服では頼りなさ過ぎると思い、少しはましになるかとやってみたのだが、果たして効果あるかな、これ。
せいぜい、矢の一発でも防げれば御の字といったところだろうな。
槍の一突きは防げそうにない。
なにせ、大した厚さもないただの木の板である。
普通に割れるか貫通してしまうだろう。
こんなもの、気休めにしかならないだろうが……まぁ、ないよりはあったほうがいいだろう。
流石に、オルドール城塞に到着すれば、何かしらの防具が支給されると思いたいところだ。
(……そういえば、こんなに街から離れたのは、初めてだな)
今は早朝、まだ日は出ておらず、薄暗い時間だ。
もうエルヴァを出て4日目の朝である。
思えば、これまで街の外に出たのは、普段通っている近くの石切り場くらいだった。
そもそも、街に暮らす人間の大半は、住んでいる街から遠く離れることは滅多にない。
生まれてから、一度も街から出ることなく死んでいく人も珍しくないくらいだ。
(戦争は嫌だけど、街から離れられたのはいい経験なのかもな)
これまで、、ただひたすらに仕事ばかりの毎日だった。
親父の言うことに従うばかりの生活で、それに不満はあれど、それが普通のことだと受け入れてもいた。
そんな日常から解放されたと考えると、この行軍も存外悪い気はしなかった。
■
「敵襲ー!」
行軍中、突然、指揮官の号令が響いた。
(敵!? まだ前線にもついてないのに……いや、兵站を狙うのは戦争の基本だし、不思議でもないのか?)
周囲を見渡すと、軍の後方から何者かが接近しているのが見えた。
数は大体30~50くらい、正確な人数はわからないが、こちらよりも少ない。
アルドメナスの軍か、傭兵か、盗賊か……さすがに、こんな軍隊を襲う盗賊はいないか。
敵はみんな革鎧を着ており兜もかぶっている。
武器は剣とクロスボウを持っていた。
(俺達よりも上等な装備をしてるじゃないか)
動きを早く連携も採れているように見える。
明らかに戦いを生業としている手合いだろう。
強そうだ。
「総員戦闘態勢! 物資を死守せよ!」
(無茶言うなって!)
指揮官の指令。
だが、こちらは新兵ばかりで装備も貧弱。
それに、重い荷物を背負っている。
こんな状態でまともに戦えるわけがない。
だが、敵はこちらに向かってくることは無く、後方の荷車に襲い掛かった。
どうやら荷車の方を優先したらしい。
「荷車に近づけるな!」
号令が響く。
荷車には新兵とは別に、兵士が護衛についていたはずだ。
俺たちも一応は援護しようと動くが、敵のクロスボウによる射撃で牽制され、あまり動けていない。
装甲しているうちに、荷車の車輪が破壊されてしまった。
その後、襲い掛かって来た集団はすぐに逃走、逃げおおせてしまった。
(はぁ、こっちに来なくてよかった)
ひっそりと胸を撫でおろす。
俺たちのところに来ていれば、あっという間に蹂躙されていたに違いない。
数では勝っていても、俺たちは実戦経験もなければ装備も貧弱な新兵だ。
加えて、連日の行軍で疲れており、まともに動けるものは少ないだろう。
(それにしても、あいつらはどうやってここまで来たんだろう)
敵軍はオルドール城塞で、食い止めているはずだし、他の場所から侵入されたり、拠点を築かれないように一応兵士が巡回しているはずなのだが、うまいこと抜けてきたのだろうか。
(まぁ、とりあえずは何事もなくてよかったと思っておくかな)
ただ、人的被害こそ出なかったものの、荷車を破壊されてしまった。
すぐには修復できないので、おいていくしかないだろう。
そのため、できるだけ積み荷を持って行くことになった。
その荷物を持つのは、新兵の俺達だ。
「ぐおぁ……キツい……ヤバい……」
ただでさえここまで重い荷物を背負ってきていたのに、ここにきてさらに追加されるなんて、勘弁してほしい。
軍の行軍速度はさらに低下した。
アルドメナス帝国
レルガノス王国の北東に位置する国
レルガノス王国とは戦争状態で、巨大な山脈の渓谷で激しい争いを繰り返している。
ロズカル王国とも常に戦争状態。
ファマル人という人種が多く、人種差別が激しい。