次の日の夜。
俺たちは盗賊のアジトの周辺に身を潜めていた。
「リリカ、中には何人いる?」
リリカの索敵で何人くらい中にいるのかを探らせる。
「うーん、たぶん11人……だと思うわ」
「11人か。一人は商人だとして、昨日見た盗賊の数と一緒だな」
敵の数に変化がないというのはいい情報だ。
だが、俺たちでまともに正面から戦えるのは俺とエドの2人だけ。
実質10対2だ。
不利な状況には変わりない。
「ヴェロ、大丈夫?」
「敵は10人だろ? 想定通りだ、問題ない。作戦を始めるぞ。俺とエドで盗賊たちを襲撃しておびき出すから、お前らは敵がいなくなったところで商人を回収して逃げるんだ。無理するなよ」
「そっちこそ気を付けなさいよ。集合場所忘れてないわよね」
「覚えてる。いざとなったら逃げるから心配すんな。エド、行くぞ」
「うん」
俺とエドはアジトの入り口に近づく。
見張りは立っていないようだ。
不用心だな。
まあこんな山奥に俺らみたいなのがいる方がおかしいと考えるべきか。
「ヴェロ、付与魔術をかける」
「頼んだ」
俺は差し出されたエドの手に触れる。
「【エンハンス・フィジカル】」
エドの魔術で身体能力が強化され、少し体が軽くなった。
「武器も」
持っている槍を差し出す。
……この槍も長い間まともに整備していないせいでそろそろガタが来る頃だ。
今日のところは持ってくれよ。
「【ウェポン・リーンフォース】」
武器にエドのマナがまとわり、魔術が発動する。
見た目には変化はないが、これでこの槍の威力が強化されたはずだ。
次に俺はモロの用意してくれた臭い袋を取り出す。
これは火をつけると煙とともに強烈な匂いがあたりに充満するらしい。
元は獣除けだったらしいが、今回はそれを複数用意してもらった。
とりあえずこいつに火をつけてアジトの中に投げ込み、盗賊たちをアジトから出す。
「【イグニッション】」
魔術で火をつける、すると、あっという間に強烈な匂いが鼻に突き刺さる。
うわ、クッサ! ヤバいなこれ。
エドがアジトの扉を少し開く。
俺は少し涙目になりながらアジトの中に臭い袋を投げ込んだ。
サプライズだ、遠慮なく受け取ってくれ。
「うわ!、なんだ!?」
「臭っ、なんだこの匂いは!」
「畜生!せっかくお楽しみの最中だったってのに!」
「お前ら表出ろ!」
中が騒がしくなり、盗賊たちが外に出ようと出入り口に近づいてくる。
そして、盗賊が出てきた瞬間、俺は構えていた槍を突き出した。
「ご、ぁ?」
穂先が盗賊の首に突き刺さり貫通し、盗賊が首から血を流して倒れる。
エドの強化魔法のおかげかかなりの威力だ。
まずは1人。
「て、てめぇは」
「フッ!」
「が!?ごぶっ!」
続けて出てきたもう一人を、エドが奇襲をかけて喉を切り裂いた。
切り裂かれた喉から血があふれ出し、血を吐きながら倒れた。
2人目。
「誰かいやがるぞ!」
仲間をやられた盗賊たちが武器を持って切りかかってくる。
出入り口で抑え込むのは無理だと判断し、俺とエドは距離を取った。
すぐにぞろぞろと盗賊たちがアジトから出てくる。
総勢8人。全員いるな。
「テメェら、何者だ!」
盗賊の一人がまくし立ててくる。
さて、このままこいつらをアジトから引き離さなければいけないわけだが、どうしようか。
とりあえず適当に挑発してみるか。
「クセェ」
「…なにを」
「口がクセェって言ったんだよ。薄汚い盗賊風情が、口開くんじゃねぇよ」
「こ、のクソガキァ! ぶっ殺してやる!」
激高した盗賊の一人が襲い掛かってくる。
ラッキー、一人連れた。
「オラァ!」
「な、ぐあぁ!?」
俺は握っていた土を向かってきた盗賊に投げつける。
一瞬目を閉じて動きを止めた盗賊に間髪入れず槍で追撃する。
「死ね」
「ブッ…ゴホッ…」
槍が首に突き刺さり、また一人盗賊が減った。
3人目。
「クソ、こいつらッ!」
「全員で囲め!なぶり殺しにしてやる!」
盗賊たちが俺たちを包囲するように迫ってくる。
「引くぞ」
「了解」
挑発は成功したらしい。
俺とエドは襲ってくる盗賊を引き連れてアジトから距離を取るように逃げた。
■
「い、いったみたいですね」
盗賊を連れてアジトから離れていくヴェロとエドを見ながらモロがつぶやく。
「そうみたいね。私たちも早いとこ商人さんを連れ出すわよ」
「な、中に盗賊は、もういないんですよね?」
「私の感知した範囲ではいないから大丈夫よ」
私はモロとスーリャを連れてアジトに入っていく。
「うわぁ、し、死体だ…」
「あんまり見るんじゃないわよ」
ヴェロ達の倒した盗賊の横目に中に入る。
「うぅ……く、臭い……」
モロの作った臭い爆弾の影響で、アジトの中はとんでもなく臭かった。
これなら盗賊がアジトから飛び出したのも納得だ。
こんな場所にはとてもじゃないが長居したくない。
さっさと商人を連れて外に出よう。
「行商人は……こっちね」
感知した人の気配を頼りに向かうと、そこは凄惨な光景が広がっていた。
「……ひどい」
女性が倒れて居た。
びりびりに破れた服、いたるところに青あざが付けられた肌。
顔も形が変わるほど殴られている。
間違いなくあの盗賊たちに凌辱にあったのだろう。
意識はなくぐったりとしている。
「……早くこんなところから連れていきましょう。スーリャ、後でこの人の傷を治してあげて」
「わかった」
私たちは商人の女性を背負ってアジトを出て、集合場所に向かった。
「お願いヴェロ、エド。無事に帰ってきて」
■
俺たちは盗賊をひきつけながら、モロの仕掛けた罠に向かって誘導していた。
「待ちやがれ!」
盗賊の一人が背中に追いすがってくる。
「ここだ」
「何?っうお、なんだああ!?」
盗賊の一人が足元の罠に引っ掛かり、足を吊り上げられて宙づりになった。
「隙あり!」
「が!?ぁっ…」
突き出した槍が口の中に入っていき、口蓋を貫き脳症を穿った。
よし、4人目。
「気を付けろ! 罠が仕掛けられてる!」
盗賊の一人が仲間に注意を促す。
見ると、どうやら元護衛の男だった。
警戒されてしまったようでこちらにたやすく踏み込んでこなくなった。
状況が膠着してしまったな。
「……めんどくさいな。おい、いったん引くぞ。アジトはわかってるんだ、また出直せばいい」
「こいつら逃げる気だぞ!」
「させるか!」
元護衛の男か懐に手を伸ばし、何かを投げてきた。
「ぐっ!?」
「ヴェロ!?」
俺の腹からナイフが生えていた。
いてぇ、クソ、油断した……!
盾を構えていなかったばかりに、攻撃を受けてしまった。
「今だ!全員でかかれ!」
ここぞとばかりに盗賊たちが襲い掛かってくる。
「させない!」
エドが背後に隠されていた紐を斬る。
仕掛けられていた罠が起動し、地面に土をかぶせて隠されていた紐が現れ、盗賊たちの足を引っかける。
「うわ!? おい、罠があるぞ! 気を付けろ!」
盗賊たちが一瞬足を取られてバランスを崩す。
そしてエドはものすごい速さで盗賊たちを切りつけた。
「ぐぁ! なんだこいつ!? 急に動きが早く!?」
エドの攻撃は命中したが、致命傷ではないせいかまだ倒れていない。
「うぁ!?……ぐ、クソッ……」
突然、エドが何かに躓くようにしてうずくまる。
なんだか知らないが動けないようだ。
ヤバい、すぐに援護をしないと。
「ヴェロ、危ない!」
「いい加減に死ね!」
エドの警告で視線向けると、エドの攻撃を逃れた盗賊の一人が俺に迫ってきていた。
不味い。
ナイフで刺された腹が痛いが、倒れこめばギリギリ一撃はかわせるかもしれない。
でも、そのあとはどうする……!?
「づぁ!?」
迫ってきていた盗賊の側頭部に樹上から石がぶつけられた。
突然のことによろめいている。
今だ!
「くたばれ!」
「ふぐおぉ!?」
腹に槍を叩き込む。
穂先が半ばまで腹を貫通した。
「いってぇなぁ!」
「ぶっ!?」
こいつ!?
腹に槍刺したままぶん殴ってきやがった。
ふざけんな、こっちは腹にナイフが刺さって倒れこみそうなのに、なんでこいつは全然ひるまないんだ。
「クソ……」
「へ、追い詰めだぜクソガキ……あ?」
いよいよ俺にとどめを刺そうとしていた男がよろめく。
手に持った剣を取り落とし、手足をけいれんさせて倒れこんだ。
「な、なんだこりゃ……」
「……へ、効いたみたいだな?」
「ま、まさかお前、槍に毒を!?」
そのまさかだ。
事前にタロに毒を用意してもらった。
即効性のある強力な神経毒だといっていたが、期待通りの効果だ。
俺の槍だけでなく、エドの剣にも塗布されており、他の盗賊もエドに切りつけられて毒により動けなくなっていた。
「大丈夫か、エド」
「何とか。でも、ちょっと動けそうにないや」
「さっきの動きのせいか。それも聞きたいところだが……」
今は倒れている盗賊にとどめを刺すのが先だ。
タロの用意した毒は即効性はあるが効果が切れるのも早いらしいからな。
「タロ、来てくれ」
樹上に呼びかけると、隠れて居いたタロが姿を現した。
「終わったみたいだな」
「ああ。さっきの援護は助かった」
さっき俺に襲い掛かってきた盗賊に石を当てたのはタロだろう。
タロには俺とエドがやばくなった時に援護するように頼んでいたのだ。
「盗賊たちの始末を頼む。エドの剣を使え」
「わかった」
タロはエドの剣を手に取り、倒れて居る盗賊の方へ向かった。
「ヴェロ、早く止血しないと」
「わかってる……【ヘモスタシス】」
奇跡によってナイフで刺された傷を止血する。
応急処置はこれでいいだろう。
「全員始末したぞ」
俺が止血している間にタロが盗賊たちの始末をつけたようだ。
倒れていた盗賊たちは首を剣で刺し貫かれており、全員こときれていた。
「助かる。お前の用意してくれた毒も期待通りの効果を発揮してくれたし、マジで助かった」
「あはは、本当にそうだね。あれがなかったら僕たちやられてたよ」
「全くだ。しかし、こんな即効性の毒、よく用意できたな。どっから持ってきたんだ?」
こんな強力な毒を持ったものが山のどこかにいるのだろうか。
「蠍と蛇の毒を混ぜたやつだ。なんでか知らねぇが、そいつらの毒が混ざるとこうなるらしい」
「よく知ってるな」
「時々泡吹いて倒れた動物を見かけることがあったんでな。そいつらの胃袋には大体蛇と蠍がいた。それで試してみたらこうなった」
「そんなことが……。よほど食い合わせが悪かったみたいだな」
毒の組み合わせでそんな効果が出るようになるものなのか。
何にしても、俺たちはそれに助けられたわけだから、運がよかったというべきだろう。
「早く移動しよう。俺も傷をスーリャに直してもらいたいしな。エド、動けるか?」
「……ごめん、ちょっと無理そうだよ。足が動かない」
「それ、さっきのものすごい動きのせいか? あれは何だったんだ?」
俺がナイフで刺されたとき、エドの動きが急に早くなった。
おそらく付与魔術の効果だと思うのだが、あんなことが出来たのか。
「付与魔術の効果を上げたんだ。でも、あまり上げすぎると今の僕みたいに体の方がダメになっちゃうんだよ」
「諸刃の剣だな。でも、一時的に限界以上の力を出せるんだろ? 聞く限りだと結構強そうな気がするけど」
一時的とはいえさっきのエドの動きはやばかった。
使いようによっては格上にも通用する切り札にもなるだろうし、正直かなり強い気がする。
「どうだろうね。反動も大きいし、付与魔術の使い手もアルドメナスにはほとんどいなかったからね」
「そうなのか?それだけ付与魔術の習得が難しいってことか」
「いや、単純に人気がないだけだよ。もっと強力な魔術なんていくらでもあるからね」
どうやらアルドメナスでは付与魔術の人気は下火らしい。
強いと思うんだけどな。
「まぁとにかくみんなと合流しよう。エドは俺が背負っていく」
「そんな、ヴェロは怪我してるし、先にスーリャに傷を治してもらった方がいいよ」
「止血したから問題ない。いいから乗れ」
「ヴェロ……ごめん、ありがとう」
エドを背負い、立ち上がる。
腹の刺傷が痛むが、歩く分には問題ない。
「はぁ、気にするな。行くぞ」
俺たちは事前に決めてあったリリカたちとの合流場所に向かった。