集合場所に行くと、すでにリリカたちが待機していた。
「あ、おかえり……って、血が出てるじゃない!」
リリカが俺の腹に血の跡があることに驚いていた。
「ちょっと刺されてな。止血はしてあるけどめっちゃ痛い。スーリャ、治してくれ」
「わかった」
「ねぇ、エドの方は大丈夫なの?」
俺に背負われているエドの方を見て、リリカが心配そうな声を上げる。
「僕は大丈夫だよ。ちょっと足が動かしにくいだけで……」
「怪我したの? すぐ手当てしないと」
「大した怪我じゃないよ。そんなに心配しなくても……」
「うるさいわね。怪我人はおとなしくしときなさい。あとでスーリャに治してもらわないと」
「リリカ、エドを頼むわ」
「はいはい。あんたもすぐにその怪我治してもらいなさいよ」
「そうさせてもらう。スーリャ、頼むわ」
「うん……【ライトヒール】」
エドをリリカに任せて、スーリャに腹の傷を治療してもらう。
奇跡が発動されると、刺された傷がじんわりとした温かくなりっていく。
「行商人はどうした?」
「あっちの天幕で寝かせてるわ」
「そうか。無事に助け出せたみたいだな。問題なかったか?」
「まあね。でも、盗賊たちにひどいことされてたみたいで傷だらけだった。さっきまでひどい状態だったから、体をきれいにしてスーリャに傷を治してもらってたの」
「そうだったのか。まあ無事ならいいが……ってことは、スーリャはさっきまでずっと奇跡を使ってたのか。まだ使えるのか?」
「ちょっと疲れた……でも、まだ大丈夫」
スーリャは大丈夫だというが、よく見たら、普段よりも顔に疲労に色がにじんでいるように見えた。
奇跡は使いすぎると、精神的な疲労が蓄積してしまう。
そんな状態で奇跡を使い続けるのはかなりしんどいはずだ。
あまり無理はさせない方がいいか。
「悪いな、無理をさせてしまって。俺はもう大丈夫だから、今日のところは休んでいてくれ。昨日もろくに寝ていないだろ?」
「でも、怪我がまだ……」
スーリャが奇跡を使うのをやめさせて立ち上がる。
よいしょ、いっ……つぅ、ふぅ。やっぱまだいてーわ。
でも、表情に出すのはこらえる。
「すぐ死ぬような怪我じゃないし、問題ない。いいから休め」
「……うん……わかった」
「モロ、スーリャについてやっててくれ」
「は、はい。わかりました」
スーリャを無理やり納得させ先にやすませる。
「そういえば、盗賊たちはどうしたの? ちゃんと撒いてきた?」
「ああ、もう盗賊たちの心配はしなくていいぞ。あの場にいたやつらは全員は俺たちで殺した」
「え、ほんとに? 適当なところまでひきつけたらすぐ逃げるっていってたのに」
確かに、作戦では全員倒すのは無理だろうから適当なとこまでひきつけてから逃げるつもりだった。
予定と違ってしまったが結果オーライだし、いいだろ。
「まさか、かっこつけようとして無茶して怪我したんじゃないでしょうねぇ」
「はははそんなまさか」
「うわぁ、わざとらしい笑い……。でもまぁ、盗賊が追ってこないなら安心ね」
「まぁ、結構やばかったんだけどな。意外と何とかなるもんだ」
「もう、あんまり心配させないでよね」
「悪かったって」
明日は倒した盗賊たちの戦利品を回収しないとな。
それに行商人の女とも一度話をしておかないと。
今日のところは簡単に傷の処置だけしてすぐに寝た。
盗賊たちを襲撃する準備でほぼ一徹してるからすぐに眠れた。
■
翌日。
一応、盗賊たちの増援がいないとも限らないので、交代で見張りをしていたが、問題なく朝を迎えた。
スーリャに傷を治してもらってから、盗賊たちの遺品、もとい戦利品のの回収にむかう。
今はエドとタロとともに盗賊と戦った場所に来ていた。
「そういや、いろいろ罠を用意したのに、半分も使わなかったな」
「そんなもんだろ。普通の罠猟でも、全部にうまいことかかるなんてそうそうねぇからな」
「そうか? いやでも、わざわざ誘導したんだからもっとうまく引っかけてやりたかったな」
そうすれば、エドもあそこまで無茶な動きをして足を痛めることもなかったかもしれない。
反省点の多い一戦だったな。
「相手は人間なんだから、まともに罠にかけられるのは最初の一回ぐらいだろ。警戒されるからな。ヴェロが負傷して相手を攻勢に出させたのは、結果的には悪くなかったんじゃねぇか? あれで決着も早まったしな」
「うーん、それも結果論だしなぁ……まぁいいか、とりあえず盗賊どもから戦利品をいただこうか。目についたもの全部持っていこう」
「服も剥ぐのか」
「あー……服か……。こいつらの服、汚いし臭いしで触りたくないんだけどな……」
「でも、これだけの服があれば、天幕をもう少し広くできるかもしれないよ?」
「ああ、服を布として天幕に使うのか。……はぁ、しょうがない。剥ぐぞ」
気が進まないが、後で洗えば大丈夫だろ。
「こういうの、集落のとき以来だな」
「え? あーそういえば、タロ達の集落にも裸になった死体があったね」
「軍のやつら、殺した盗賊の死体を放置していったからな。大したものは持ってなかったが、有効活用させてもらった。今着てる服も、盗賊が着てたやつを修繕したやつだ」
「へぇ、そうだったんだ」
そうこう言いながら盗賊の遺体から服や武器などを回収していき、最終的にはかなりの大荷物になった。
■
戦利品の回収から戻った後、戦利品の選別を行っていた。
盗賊たちから奪い取った戦利品はいろいろあったが、全部は持っていけないので使えるものとそうでないものを選り分けないといけない。
「剣が13本もあるけど、ほとんど安物だし整備もされてないね。行商人の護衛だった男たちの剣以外は使い物にならなそうだ」
「お、こいつもナイフを持ってたのか。あの時使われてたらやばかったかな……貰っておこう」
「こ、この革靴、丈夫そうでいいですね。僕らは足の大きさが合わないので履けませんけど…」
「俺でも無理そうか?」
「い、いえ。大きさを調節できそうなので、調整すればなんとか……あ、合わせますか?」
「おう、頼むわ」
騒がしく戦利品を漁って、使えるものを選別していく。
盗賊だから粗末なものしか持っていないと思っていたが、10人分ともなると量はそれなりだな。
いや、もともと行商人の護衛をしていたのが4人いたから、裏切ったのは2人。裏切られた2人分のものも合わせれば全部で12人分になるのか。
元護衛だった男たちの装備は実用的なものも多いし、なかなか悪くない。
革鎧とかも着てるし、これもモロに調整してもらえないかな。
「うわクッサ! ちょっとヴェロ、こんなぼろい服までもっときてどうすんのよ!」
リリカが盗賊の着ていた服を手にすごい顔をしていた。
「ああ、そうだ。モロ、こいつらの服で天幕を広くできるか?」
「え、えーと、そうですね……。で、出来なくはないと思いますけど、これだけあるならもう一つ天幕を作ることも、できると思います」
「そうか? じゃあもう一個作って男女別にするものいいかもな。リリカ、どう思う?」
「本当!? それなら作ってほしいけど……でもその前にこの服は洗わないといけないわね。ヴェロ、お湯作ってちょうだい」
「気が早いな……わかったよ」
とりあえず桶に水を溜めないとな。
そんな感じで戦利品を前に話し合っていると、タロが天幕の方に視線を向けた。
「お、起きたか」
俺も目を向けてみると、視線の先に行商人の女がテントから顔をのぞかせているのが見えた。
■
ぼんやりと、意識が浮上していく。
「……ん」
寝起きで頭が働かず、目を閉じたまま横たわっていると、少しずつ意識がはっきりしてくる。
うっすら目を開けると、継ぎ接ぎだらけの布の隙間から光が入り込んでいるのが見えた。
どうやら、何かの天幕の中にいるようだった。
少し明かりが漏れているので、どうやら日中のようだ。
「……ここ、どこ……?」
この状況がわからず、混乱した頭で記憶をたどる。
確か、お父さんを探して、一人で行商に行こうとして……。
そこで私は、盗賊たちに……。
「う……、あ……ぁ……」
嗚咽のような、声にならない声がこぼれる。
思い出した。
街から出た後のことを。
脳裏に刻み込まれてしまった……凌辱の記憶が。
「ふ……ぅ……」
もう、何も思い出したくない。
全て記憶から消し去ってしまいたい。
……全く想像していなかったといえば、嘘になる。
盗賊がよく出るとは小さいことから聞いていたし、雇った傭兵もあまり評判のいい人たちじゃなかった。
あんな風にされるこも、考えないではなかったのだ。
だが、当たり前の話、想像するのと実際に体験するのでは、全く違う。
あんな絶望があるなんて、知らなかった。
……あれからどうなったんだろう。
横たわっていた些末な布の寝台から、ゆっくりと体を起こす。
着ていた服が変わっているが、あれほどいたぶられたはずなのに、体に傷跡はなかった。
「……どういうこと?」
誰がわざわざ着替えさせたんだろう。
そもそもここはどこ?
私が連れ込まれた場所とは違う。
……全部、夢だった?
いや、そんなはずはない。
あれが夢だったなんてありえない。
私の心が覚えている。
でも、だとすればなおさら、この状況がわからなかった。
「……動ける」
特に縛られていたり、拘束されてもいない。
もしかしたら、このまま逃げられる?
「……」
息をひそめ、光が差し込んでいる天幕の入り口に近づく。
ゆっくり、音を立てないように、布のこすれる音にさえ注意して移動する。
――ふと、外から声が聞こえてきた。
若い男女と、子供の声がする。
「……」
思わず耳を疑った。
どうして子供の声なんて聞こえる?
とうとう私の頭がおかしくなってしまったのだろうか。
恐る恐る、天幕の隙間から外の様子をうかがってみる。
周囲に服や道具が散乱しており、何か物色しているようだった。
「お、起きたか」
「っ!」
子供の一人に目が合い、気づかれてしまう。
すぐにほかの人たちにも私が起きたことがわかったようだ。
「あ、目が覚めたのね。調子はどう? もう動いても大丈夫なの?」
女性が声をかけてくる。
若い女性だ。
おそらく、私と同い年くらいの年齢だろう。
彼女は、こちらを気遣う表情で話しかけてきた。
「え……」
突然のことに思考が上手く働かない。
「お腹すいてたりする? 何かご飯用意しましょうか。あ、水もあるわよ」
「……」
「……大丈夫?」
「あ、えっと、その……み、水! 水が欲しい、です……」
「わかったわ。はい、どうぞ」
水が欲しいというと、すぐに水の入った皮の水筒を渡してきた。
「あ、ありがとうございます」
「いいのよ、気にしないで。まだいろいろ準備とかあるから、しばらくゆっくりしてて大丈夫よ」
革袋を受け取る。
中の水を飲んだ。
……普通の水だ。
皮の臭いがきつくてあまりおいしく感じないが、そんなことはどうでもいい。
水を口に含んで喉を鳴らし、しばらくして水筒から口を離す。
「どう? 落ち着いた?」
「はい。ありがとうございます」
「そう、よかった。ご飯は食べられそう? すぐに用意するけど」
「ええと……」
状況が呑み込めずに戸惑う.
彼らは一体何者なのだろう。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私はリリカよ。あなたは?」
「私は……、私はリケリアといいます」
「リケリアっていうのね」
「あの、皆さんはいったい……」
青年2人と女性1人、男の子が2人と女の子1人。
白髪交じりの青年以外は、大体がレクト人だろうか。
彼ら、彼女らはいったい何者なのだろう。
「リケリア、といったか」
青年の一人が話しかけてきた。
「あなたは……」
「俺はヴェロ。旅人みたいなもんだ。これからどうするにせよ、しばらくは行動を共にすることになるだろうから、まぁよろしく頼むぜ」
どう反応したらいいかわからず、ぎこちなくうなづく。
これが、彼らとの最初の出会いだった。