深淵を覗けるか   作:たぶん超新星

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行商人の娘

 行商人の女、リケリアが起きたあと、彼女をリリカに任せて戦利品をあさりを続け、しばらくして飯の用意をした。

 ちなみに飯にはリケリアが運んでいたと思われる積み荷にあった、乾パンや塩漬け肉も含まれている。

 戦利品のとともに回収しておいたのだ。

乾パンも塩漬け肉も久々に食ったな。

 勝手に彼女の荷物を漁ったのは申し訳ないが、量的にどうせ全部は持っていけないし、多少はいいだろう。

 全員揃って飯を食いながら、俺は頃合いだと思い話を切り出す。

 

「リケリアも起きたし、いったん全員自己紹介しよう」

 

 とりあえず言い出しっぺの俺から始めるか。

 

「ヴェロだ。16歳、旅人。よろしく」

「ちょっと、あんた自己紹介下手過ぎない?もっと他に言うことないの?」

 

 うるさい。

 あとどうでもいいが冬が開けて全員年が1歳上がっている。

 この世界では正確な暦など無いので、大体季節が一巡したらみんな自動的に1歳年齢が上がるのだ。

 

「僕はエド。15歳です。出身はアルドメナスで、見ての通りファマル人のハーフです。一応魔術が使えます」

「私はリリカよ。この中では一番年上の17歳。ちょっと前に村を出てこいつらの旅に同行させてもらってるの。よろしくね」

 

 続いてエドとリリカの紹介。

 二人ともずいぶんまともに自己紹介するものなので、なんだか俺がガキっぽい感じになってしまった。

 

「俺はタロだ。8歳だ」

「ぼ、ぼくはモロです。タロと同じく8歳です。あ、あと、この子は妹です」

「スーリャ。6歳」

 

 これで一通り俺たちの自己紹介が終わった。

 

「……皆さん、ずいぶんお若いですね」

 

 リケリアも動揺しているようだ。

 無理もない。全員まだガキだもんな。

 

「それで、あんたはどこの誰さんなんだ?」

「あ、はい。私はリケリアといいます。年は18です。行商人の娘です」

「18って、あなたも十分若いじゃない」

「そうだね。街で見た行商人はいい年したおじさんばかりだったよ。見習いの若い人は時々見かけたけどね」

 

 リリカとエドが行商人の娘だというリケリアの話に相槌を打つ。

 だが、俺はリケリアの話にはどこか含みがあるように感じられた。

 見習いとか徒弟でもなく、行商人の娘と紹介されたからだ。

 

「どうして若い女のお前が、1人で行商人をやってたんだ? どう考えても危険だし、何か事情があるんじゃないか?」

 

 俺が追及すると、リケリアは少し言いよどんだ後、事情を話し始めた。

 

「……私は一応、商人ギルドのギルド証を持ってはいるんですが、ほとんど身分証替わりみたいなもので、私自身は商人と名乗れるほどのものじゃないんです」

 

 リケリアはこれまで、行商人の父親に育てられてきたらしい。

 父親からは、有力な貴族や商人などとリケリアを結婚させ、継続的な取引相手になってもらうことを考えていたようだ。

 リケリアが商人ギルドのギルド証を持たされていたのも、賢くまともな出自の人間であるとアピールする意味合いが大きいようだった。

 確かに商人ギルドのギルド証は馬鹿や悪意のある人間の手に渡らないように、他のギルドのギルド証に比べて入手の難易度が高い。

 持っているだけでもアピールになるのはわかる話だ。

 だからリケリアは、これまで商売のことにはあまり携わって来なかったらしい。

 

「一応、はったりだけは聞くように、父から一通りのことは教わっているんですけどね」

「なるほどな。で、それがどうして一人で町を出てるんだ?」

 

 聞いた限りではそのようなことをする理由はないように思うが…。

 まさか花嫁修業の一環というわけでもないだろうに。

 

「……実は、もう30日ほど、お父さんが姿を見せないんです」

 

 リケリアの父は、行商人としてたびたび、シルヴァ―ナから離れて遠くに出かけていたらしい。

 そのため、長いこと姿を見せないのは珍しいことではないようだが、どうやら帰ってくるのが遅れているようだ。

 

「帰ってくるのが、予定よりも30日も遅れていて、こんなに遅れるのは初めてのことで、心配になってしまって」

「心配になって、探しに行こうと街を出た、と」

「……そんなところです」

 

 リケリアは肯定したが、本当にそれだけなんだろうか。

 これまで商売の経験もなく若い女のリケリアが、1人で街を飛び出すなんて相当に危険な行為だったはずだ。

 父親を捜しに行くという理由も、動機としては弱い気もする。

 リケリアからはかなり理知的な雰囲気を感じるし、そうそう短慮な行動をとるようには思えない。

 誰かに頼ることもなく、1人で行動しているのも気になるところだ。

 

「それだけじゃないんじゃないか?ほかの理由はなんだ?」

「それは……」

「別に詮索したいわけじゃないし、話したくないならそれで構わないけどな」

 

 リケリアは少し悩んだ後、意を決して話してくれた。

 

「街を、出てみたかったんです」

「ふーん? どっかの誰かみたいなことを言うんだな」

「……何よ。文句あるわけ?」

 

 リリカがジロリとにらんできた。

 おっと、藪蛇だったか。

 

「私は小さいころから、お父さんから街の外の話をよく聞いていたんです。私はずっとシルヴァ―ナの街から出たことがなくて、お父さんの話す街の外の世界に、ずっとあこがれを持っていたんです。それに、最近街に居づらいのもあって」

「街に居づらい?」

「はい。……実は私、お父さんの知り合いの、大きい商会の息子さんと仲良くさせていただいていたんです」

「付き合ってたってことか?」

「いえ、まだそこまでじゃありませんでした。でも、相手からは付き合ってもいいって言われていました」

「なーんか、上から目線のやつね。たいした奴じゃなさそう」

 

 リリカは口をへの字に曲げて嫌な顔をした。

 

「でも、でかい商会の跡取りなんだろう?玉の輿じゃないか」

「そうですね。まあ、声をかけている女性は私だけじゃなかったみたいですけど」

「ほら!やっぱりロクな奴じゃないわ!」

 

 リリカがそれ見たことか!といわんばかりに騒いだ。

 まぁ確かに、複数の女性と関係を持つのは不純といえるかもしれない。

 でも、それなりの地位とか財力を持っているならよくある話ではある。

 

「とても理知的な方なんですけど、なんだか、私はどうにも苦手で……。それに、その方を慕っている女性にも嫌われていたみたいなんです」

「そうか。それで居心地が悪かったと」

 

 なるほど、大体読めてきた。

 

「父親を捜しに行くというのは、ただの口実だったんだな?聞きかじりの知識で行商として街を出たところであっさり躓いたと」

「……はい、その通りです」

 

 大体、リケリアの話は分かったと思う。

 次に話すのは今後の話だ。

 

「リケリアはこれからどうしたい?」

「これから、ですか?」

「ああ、シルヴァ―ナに戻るのか、それとも俺たちと一緒にこのまま先に進むのか。俺たちの目的地はロズカルだが、シルヴァ―ナに戻るのでも街までは送り届けてやるぞ」

 

 リケリアは少し考え込むそぶりを見せたが、すぐに返答した。

 

「ご迷惑でなければ、道中をご一緒させてください」

「……そうか。親父さんもロズカルまで行ったのか?」

「いえ、途中にある宿場街まで、依頼で食料などを輸送していたはずなんです」

「へぇ、途中に宿場街なんてあるのか」

「……え? ご存じなかったんですか?」

「ああ、この辺の地理には疎いからな。あんまり詳しくないんだ」

 

 あっけにとられたリケリアに、肩をすくめて答える。

 

「リケリアはシルヴァ―ナに住んでたんだよな。だったらここら辺のことはいろいろ知ってそうだ。よかったら教えてくれよ」

「あ、ありがとうございます。お役に立てるように、頑張りますね」

「まぁ、親父さんが見つかるまでは、しばらくの間だがよろしく頼むよ」

 

 こうして、リケリアが旅に同行することになった。




貨幣の種類と価値
大金貨:金貨10枚分
 金貨:大銀貨10枚分
大銀貨:銀貨10枚分
 銀貨:大銀貨10枚分
大銅貨:銅貨10枚分
 銅貨


大金貨、大銀貨、大銅貨は金貨、銀貨、銅貨の1.3倍の大きさ。
割れや歪み、欠けなどがあり状態の悪い貨幣は半貨とよばれ、通常の2分の1や3分の1の価値で取引されることもある。
ちなみに、最初にヴェロが所持していた銅貨はすべて半貨である。
一部の地域では紙幣も取り扱っているが、まだあまり流通していない。
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