深淵を覗けるか   作:たぶん超新星

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エドの過去

 自己紹介も終わり飯も食った後、戦利品の選別を再開した。

 

「この剣はよさそうだな。今後はこれ使うか」

「あんたが使うのは槍じゃなかったの?」

「いや、この槍短いし、重さも足りないんだ。それにもうぼろくなってきたし。接近戦するなら剣のほうが使いやすいしな」

 

俺とエドは武器と防具、靴をもらうことにした。

防具も靴も革製の頑丈な奴だ。そこまで重くもないし、着てれば邪魔にもならないだろう。

ちょっと大きさが合わないのでモロに調節してもらうことにしよう。

 

「モロ、頼めるか?」

「は、はい。大丈夫です。ちょっと時間がかかりそうですけど……。あ、あと、布が大量に手に入ったので、天幕を新しく作ったり、服も修繕したりするので。し、しばらく時間をもらえますか?」

「もちろんいいぞ。どれくらいかかる?」

「そ、そうですね……多分、3日くらいは……時間が欲しいです」

「3日で何とかなるのか? 早いな」

 

 モロは服や道具を作ったり治したりするのに時間が必要そうだったので、出発は3日後になりそうだ。

 他にも戦利品を見ていると、もともとリケリアの持ち物だったものもあった。

 

「リケリアさんが運んでいた食料も結構残ってるみたいだね。さっきちょっと食べちゃったけど」

「でも、全部は持っていけないぞ。荷車も壊されていたしな」

「じゃあ、これは置いて行っちゃうの?なんだかもったいないわね」

 

 リケリアが運んでいた荷物をすべて回収できず、リリカは残念がっていた。

 

「こんなに無駄になっちゃうなんて……。これ、仕入れるのにもお金かかったんでしょ?」

「確かにお金はかかってますけど、思ってるほどではなかったですよ。輸送依頼を受けていたので、仕入れの値段を安くしてもらえましたから」

「輸送依頼? なにそれ」

 

 聴きなれない言葉にリリカが聞き返す。

 

「えーと、ロズカルまで続く道をバストール街道というんですが、道中にある宿場街に食料などを輸送する依頼がありまして、商人ギルドで受けられるんですよ。依頼を受けていると、仕入れる食料や傭兵ギルドで雇う護衛の値段が安くなるんです」

 

 さらっとシルヴァ―ナからロズカルへ続く街道の名前が判明したが、その途中にある街へ食料を輸送をする依頼を受けていたおかげでこれだけの食料を仕入れることが出来たらしい。

 

「リケリアもその街に向かうところだったのか」

「はい。バストール街道には三つの宿場街があるのですが、私はシルヴァ―ナから一番近いフレーベルという宿場街に向かっていました。それに、最近は盗賊が増えていて依頼が滞っていたせいか、輸送依頼の報酬も大きかったですし。危険だからやめた方がいいとは言われたんですけどね。結局失敗しちゃいましたし」

「危険だったのに受けたのかよ」

 

 こいつ、実はかなりおてんば娘なんじゃないだろうか。

 

「今になって思えば、自棄になっていたのかもしれません。最近は気分も落ち込むことが多くて……」

「大丈夫? 私でよければ協力するから、何でも言ってね」

「リリカさん……ありがとうございます」

 

 リリカはリケリアを気遣うように励ました。

 気遣うのはいいが、あまり安請け合いはしてほしくないな。

 なんだかんだで俺も付き合わされることになりそうだし。

 リケリアは荷車に積んであった荷物から、1枚の紙を取り出した。

 

「それは?」

「輸送依頼の依頼書です。これをフレーベルまで持って行って、依頼が失敗したことを報告しないといけません」

「そんなことしないといけないのか。……黙っててもばれないんじゃないか?」

「しばらくは大丈夫かもしれませんが、長期間報告しないとギルド証が失効してしまうこともありますから。報告が遅れるほど支払う違約金も増えてしまいますし」

「なんだかめんどくさそうね」

 

 リリカは想像したのか嫌そうな顔をしていた。

 確かに行商人も色々大変そうだ。

 

「あと、私が護衛として雇った傭兵のギルド証も回収しておきましょう」

「ああ、あれか。それならほら、一応回収してあるぞ」

 

 俺は服のポケットから4枚の蒼鉄製のタグを取り出す。

 蒼鉄はギルド証によく使われている。

 鋳造する際になんかを混ぜて作る、鉄を光にかざすと青っぽく光が反射するちょっと変わった鉄だ。

 表側に製造されたギルド名と製造された年、所有者の名前が記載されている。

 裏側には所有者の実力を示すランクが記載されているのだが、大体1とか2とかだ。

 基本的にランクの数字が高いほど実力も高いので、1とか2はまぁ、初心者ってやつだな。

 

「ありがとうございます。これを商人ギルドに提出すれば、多少は違約金の金額が少なくなるかもしれませんから」

「そうなのか?」

「はい。これは私が実際に襲われたという証拠になります。ただ失敗したと報告するよりはいいでしょうね」

 

 確かに、失敗したことにして悪さするやつもいるかもしれないし、そういう証拠も必要なのかもしれない。

 

「傭兵ギルドには報告しないのか?」

「特に報告する必要はありませんね。所有者が生きていたのなら提出すればギルド証を失効させることもできるんですが、ヴェロさんたちが殺したのでその必要もなくなりましたし」

「まぁな。でも、ギルド証のランクが低かったから何とかなったんだろう。ベテランの傭兵相手だったら俺は生きてなかっただろうな」

 

 今思い返せば、俺がわかりやすく挑発したら簡単に乗って来たし、ナイフとかの投擲もナイフを複数本持っていたのに俺が食らった一回しか投げてきていなかった。

 もっと状況判断のうまいやつが相手だったら手こずっていただろう。

 

「私の輸送していた残りの食料は、ここでできるだけ消費していきましょう」

「まぁそのつもりだったが……いいのか?」

「ええ、荷車も壊されてしまいましたし、置いていくのは惜しいが仕方ありません。せめて、食料はここで食べれるだけ食べていってください」

「そうか……助かるよ」

 

 最終的にはそういうことになった。

 

 

 盗賊たちから得られた物はいろいろあった。

 最終的に持っていくのは、ナイフ5本、ロングソード4本、ショートソード1本、革鎧が3着、革のポーチが3つ、ランタン1つ、丈夫な革靴4足、銀貨6枚、大銅貨10枚と銅貨31枚。

 かなりいろいろなものが手に入った。

 ぶっちゃけ盗賊たちが持っていたものはぼろいやつばかりだったので、ほとんどリケリアが護衛として雇った傭兵の装備をそのまま流用させてもらった形だ。

 防具や靴はモロに大きさを調整してもらい、俺とエドはロングソードを二本ずつ装備した。一本は予備だ。

 意外だったのは、リケリアもショートソードと革鎧を欲しがったことだ。

 

「一応、護身術程度に剣を教わっていたんですよ」

「へぇ、強いのか?」

「まさか。全然ですよ。せいぜい武器を持っていない一般人よりは強い程度ですね」

 

 そういっているが、剣を持ったリケリアの姿はかなり洗練されているような印象を受けた。

 謙遜しているが、本人としては真剣に習っていたのだろう。

 

「今度盗賊に襲われたら、これで刺し違えて見せますよ」

 

 ショートソードを構えながら笑顔でそう言ってのけるリケリアにはなかなか迫力があった。

 ……もしかしたら、怒らせたら怖いタイプかもしれない。

 

「……まぁ、俺たちは盗賊に狙われないために街道じゃなく山の中を歩くからな」

「そうですか?それなら安心ですかね」

 

 そういってリケリアは安心したように笑っていた

 

 

 リケリアが旅に加わった日の夜。

 

「何かな。話って」

 

 俺はエドを呼びだして二人で向き合っていた。

 

「少し気になることがあってな」

「なんだい?」

「どうして盗賊とやりあってまで、リケリアを助けようとしたんだ?」

 

 あの時は押し切られたが、改めて考えてみてもやはりおかしい。

 普通はそこまでして見ず知らずの人間を助けようとは思わないだろう。

 だが、エドはためらうことなく助けようとした。

 勝算もなしに1人で行こうとしていたくらいだ。

 

「なんであんなこと言いだしたんだ」

「……そうだね」

 

 エドはい言いよどみながらも口を開く。

 

「昔、仲の良かった女の子がいたんだ」

 

 エドは、普段あまり話さない過去の出来事を話し始めた。

 ファマル人のハーフであったエドは、アルドメナスでも疎まれていた。

 そんな中、分け隔てなく接してくれた女の子が一人だけいたらしい。

 

「その子は、アルドメナスでは珍しく奇跡が使えてね。治癒の奇跡で、街の小さな治療院で働いていたんだ」

 

 今のエドを見ていると信じられないが、当時は相当あれており、喧嘩に明け暮れて生傷が絶えなかったらしい。

 それで、その治療院にいた女の子にもよく世話になっていたようだ。

 だが、ある時貴族の目にその女の子が止まり、連れていかれてしまったらしい。

 

『離してよ!エド!助けてエドぉ!』

 

 助けを求められたが、エドはその女の子を助けることが出来なかった。

 

「大勢の騎士が治療院に押しかけてきて、あっという間に連れて行ってしまったんだ。助けてって伸ばされた手を、僕はつかめなかった。情けないことに、足がすくんで動かなかったんだ」

 

 どうやら、その時の騎士たちは、エドが邪魔をするようなら本気で殺すつもりでいたらしい。

 エドは初めて向けられた本物の殺気で体がすくんでしまったそうだ。

 

「貴族が人攫いとはな。アルドメナスではそんなことがまかり通るのか?」

「あの国では貴族や権力者は絶対なんだ。それに、別に誘拐じゃないよ。貴族の屋敷で働くために出家しただけだ」

「そんなの方便だろ。無理やり連れていかれたんだから」

「うん。でも、本人が嫌と言わなければ、同じことだ」

「どういうことだ?」

 

 女の子が連れていかれた後、エドは何とかしてもう一度会うための機会をうかがっていたらしい。

 そして、しばらくたった後に合うことが出来たらしいのだが……。

 

『近づかないで』

 

そう本人に拒絶されたらしい。

 

「もう、以前のように接してくれることは無くなってたよ。……僕なんかの顔も見たくないって感じだった」

「はぁ? なんで急に、そんなに態度が変わったんだ?」

「さぁね。あの子は何も教えてくれなかったし」

「……それがお前のトラウマか」

 

 助けを求めてきた女の子を見捨てるのが、どうやらトラウマになっているらしい。

 

「そんなんじゃないよ。ただ、その時のことを思い出すと死にたくなるから、思わず体が動いてしまうんだ」

 

 リケリアが盗賊たちに連れていかれるところをみて、その時のことを思い出してしまったのだろう。

 

「……そうか。聞き出して悪かったな」

「いいよ、ヴェロも付き合せちゃったしね。怪我もさせちゃったし」

「それこそ気にすんなよ。かすり傷だったしな」

「そう? でも、結構痛がってたよね」

「気のせいだ」

 

 そうやって強がってみせると、エドも笑顔を見せた。

 なんとなく、エドとの仲が深まった気がした。

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