「追っては来てる?」
「ああ。何人かは分からねぇけどな」
走りながらタロに問いかけると、傭兵たちが追ってきていることを教えてくれた。
「はっ、はっ、はっ」
「……ここで待ち構えよう。スーリャも辛そうだし」
一緒に走っているスーリャは僕たちの中で一番足が遅く、こうして逃げている間も常に全力疾走していた。
一応、魔術で身体能力を強化してはいるが、僕の強化魔術は体格や筋肉量によっては強化される度合いに個人差はあるし、劇的な強化が期待できるというわけでもない。
既に呼吸音が辛そうだし、こんな山の中を全力疾走していたらいつ転んでもおかしくない。
それに、息切れて動けなくなる方が問題だろう。
「わかった。俺は隠れさせてもらうぞ」
「うん。いざという時は援護をお願いするよ。頼りにしてる」
「……あ、その前に、このナイフに付与魔術かけといてくれねぇか」
「このナイフに?わかったけど、まさかこんな刃渡りの小さいナイフで戦うの?」
疑問を覚えながらも差し出されたナイフを付与魔術で強化する。
「使い道は考えてある。……エドの方こそ、スーリャのこと死んでも守れよ」
「任されたよ」
僕とタロはいったん別れることにする。
……僕も覚悟を決めないといけないな。
ほどなくして、追ってきていた傭兵たちが姿を現した。
「ようやく追いついたぜ」
「二人だけか? 他のやつはどうした」
出てきたのは二人。
3人はヴェロ達の方に向かったのだろう。
「……他の人は、あなたたちが追いかけていったんじゃないですか?そちらも人数を分けたみたいですし」
「はっ、そうかよ」
「はぁあ、俺も女のいる方に行きたかったぜ」
「仕方ねぇだろ、アレイの旦那に追えって言われたんだしよぉ」
傭兵たちは明らかにやる気のなさそうな態度だった。
しれにしても、アレイの旦那……アレイという男がこいつらのリーダーなのだろうか。
「どうして僕たちを追ってきたんですか」
「暇つぶし」
「……は?」
あまりにも簡潔な答え。
その回答に理解が及ばない。
「報酬も払われねぇし暇だしよぉ。だったら盗賊の真似事でもしてみようかって話になったんだよ。どうせこの辺の街の兵隊は大した力持ってねぇんだ」
「お前らは俺らに狙われた憐れな羊ってとこだな」
「……ふざけてる」
こいつらの言っていること、何一つ理解できない。
暇つぶしで人を襲うなんてどうかしてる。
盗賊よりもよっぽどたちが悪いじゃないか。
「お、そこに女のガキがいんじゃねぇか」
「ほんとだ。でも俺の趣味じゃねぇしなぁ。ま、遊ぶのにはちょうどいいか」
「っ、スーリャには近づかせない!」
僕の後ろに控えていたスーリャに目を付けられる。
こんな奴らに捕まったらどうなるかなんて想像したくもない。
「お前らを倒して、ヴェロ達の援護に行かせてよ」
「ほう、俺らとやりあう気か?」
「へへ、2対1だぜ。悪く思うなよ」
傭兵たちが武器を構える。
こちらをなめているようだが、構えには隙がない。
それだけで、以前戦った盗賊よりも強いとわかる。
きっと戦いなれているんだろう。
でも、僕には魔術がある。
「【エンハンス・フィジカル】、【ウェポン・リーンフォース】。行くぞ!」
僕は魔術で身体能力と武器を強化し、傭兵の片方へ斬りかかった。
「うぉ!? 何だこいつ、結構早いぞ!」
「やるじゃねぇか。おらよっ!」
「くっ!」
初撃が阻まれ、横からりつけてきたもう一人の攻撃をかわす。
傭兵たちは左右に広がり、僕を挟み込むように位置取りをした。
手ごわい。
これでは倒すのに時間がかかってしまう。
(急がないと、ヴェロ達が危ない)
短期決戦するなら、肉体の負荷を度外視した身体強化での攻勢に出るしかない。
でも、相手は二人だ。
同時に倒せるだろうか。
(……いや、今は考えている時間はない。とにかく動かないと)
まず一人、確実に仕留めることに集中する。
「ほらほらどうした、さっきの威勢のよさはどこ行ったんだ?」
「守ってばっかじゃ勝てねぇぞ? オラァ!」
「うっ、くっ……」
ぎりぎりで攻撃をかわす。
どうにかして隙を作らないと、僕の方がやられてしまうそうだ。
「く、はぁ!」
「焦ったな? バカが!」
苦し紛れに腕の力だけで振った剣が、あっさりはじかれてしまった。
「なっ!?」
「隙だらけだぜ、死ね!」
剣を戻す前にとどめの一撃が振り下ろされる。
(ここだ!)
即座に身体強化の度合いを上げる。
一時的だが、爆発的に上昇した身体能力によって斬撃を回避し、そのまま傭兵の首を跳ね飛ばした。
「は、はぁ!? 何だ今の動き、反則だろ!」
「ぐ、……ふぅ。これで一対一だね」
反動による痛みが全身を襲うが、それをごまかしつつもう一人の傭兵に向き合う。
筋肉に負荷をかけすぎた。
おそらく今みたいな無茶が出来るのはあと一回といったところだ。
その一回を使ったら、多分動けなくなる。
……あと一人、どうやって倒そう。
「く、クソ……」
「どうした、来ないのか?」
「おい、さっきのはなんだ?」
「説明する義理はないよね」
「……は、そうかよ。だったらぁ!」
傭兵が明後日の方向に駆けだす。
「何を、っ!? しまった、スーリャ!」
「うぐ、ェド……」
「は、はははっ! どうだおい、形成逆転だなぁ?」
傭兵は腕でスーリャの首を絞めながら、顔に剣をあてがった。
ちくしょう、油断して、スーリャを人質にとられてしまった。
「その子を離せ!」
「離すわきゃねぇだろバーカ! さっさと武器を手放せ!」
「くっ……」
「早くしろ、ガキがどうなってもいいのか!?」
「ぁぐ、う……」
傭兵の剣がスーリャの顔にわずかな傷をつける。
スーリャの頬に赤い血が流れた。
「わ、わかった……言う通りに、する」
僕は傭兵の言う通り、剣を手放す。
手から離れた剣が地面に落ちた。
「よし、それでいい……そのまま武器から離れろ」
「わかった」
言う通り、武器から少しづつ距離を取る。
反対に傭兵は僕の手放した武器を手に取ろうと近づいてきた。
「よし、これでお前は丸腰。お前に勝ち目は、……あ?」
そこまで言った瞬間、突如、傭兵の首にナイフが生えた。
突然の出来事に理解が及ばないのか、驚愕の表情を浮かべる。
「な……これ………は」
そのまま、首から血を流して膝をつき、人質にしていたスーリャも腕から取りこぼした。
今だ。
「スーリャから離れろ!」
「ぶっ!」
傭兵の元まで近づくとその顔を蹴り飛ばし遠くに吹っ飛ばす。
「スーリャ、大丈夫?」
「けほっ、えほっ……うん、大丈夫」
「よかった……」
スーリャを助けられたことに安心する。一時はどうなることかと思った。
傭兵の方も、すでに意識を失っているのか動く気配はない。
「倒したみたいだな」
傭兵たちを倒したと判断したのか、タロが姿を現した。
「ありがとうタロ。助かったよ」
さっきのナイフはタロによる奇襲だろう。
ナイフ投げができるなんて知らなかったな。
「まだ終わってねぇだろ。早くヴェロ達のとこに行かねぇとまずい」
「そうだね、急いでいかないと。……ね、ねぇタロ、どっちに進んだらいいかな」
そういえば集合場所なんて決めてなかったし、すぐに見つけられないかもしれない。
不味い、早く駆け付けないといけないのに……。
「……多分、あっちじゃねぇか? 分かれた時の方角とあいつらの走る速さだとそれぐらい、だと思う」
「そ、そうか、わかった。……いや、タロがついていてくれて助かったよ」
「ふん、ヴェロのやつもそこまで考えてたのかもしれねぇな。知らねぇけど。エドは先に行っててくれ。俺はスーリャを連れていく」
「了解。行ってくるよ」
「エド、無理しないでね」
タロとスーリャを残し、ヴェロのもとへ向かう。
「頼む……無事でいてくれ」
ヴェロたちの無事を祈りながら、山道を走っていった。