深淵を覗けるか   作:たぶん超新星

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実は初期のプロットでは世界観がゲーム内の世界という設定だったんですよね。
Wizardryみたいなゲーム内容でした。
話の展開的にその設定は消滅しましたが、一部の設定はそのまま残っています。


アサシネイト

「ヴェロ!?」

 

 ヴェロが傭兵に殴り飛ばされるのを見て、思わず叫ぶ。

 奇襲は失敗に終わってしまった。

 

「リリカさん、逃げますよ!」

 

 思わず足を止めてしまった私にリケリアが声をかける。

 

「でもヴェロが」

「事前にどう動くか決めていたはずです。ここはヴェロさんの指示通りに動きましょう」

 

 確かに、奇襲の成否に限らずばらばらに逃げると決めていた。

 

「お、お嬢ちゃんたち逃げる気か?ずいぶん薄情何だなぁ」

 

 分かりやすく挑発してくる。

 

「リリカさん、耳を貸してはいけませんよ」

「わ、わかってるけど……ああもう、あんたら覚えてなさいよ!?」

「は、逃げ切れると思ってんのか?」

 

 私とリケリアは別々の方向に駆けだす。

 狙いは、敵の分断だ。

 こちらに敵をひきつければヴェロの生存率も上がる。

 

「お前ら、あの女どもを追ってこい」

「え、いいんですかい?」

「ああ、捕まえたらここまで連れてこい。なかなか面白いもんが見れるかもしれんぜ?」

「へへ、そりゃ楽しみだ」

「俺はこのガキの相手でもしてやるかな」

 

 傭兵もこちらを追ってくるようだ。

 一人はこのままヴェロの相手をするようだが、大丈夫、狙い通り。

 

「誰が捕まるかバーカ!」

「よーし、俺はあの女を追うことに決めたぜ」

「じゃあ俺はあっちの美人だ。おーい、俺と追いかけっこしようぜ~」

「そう簡単につかまってなんてあげませんから!」

 

 こうして、敵の分断作戦が始まった。

 

 

 追いかけてくる傭兵から必死に逃げる。

 こちらに向かってきているのは一人だけ。傭兵も一人ずつ追ってきたようだ。

 必死に走って逃げているが、相手の足は速くみるみるうちに距離が縮まってしまう。

 

「く、早い……!」

「後ろから眺めるケツもいいもんだな」

「ど、どこ見てんのよ変態!」

「悠長にしゃべってていいのか? ほうら、捕まえたぜ」

「うわ、い、痛い!」

 

 必死に走っていたが、傭兵の伸ばされた手にとうとう腕がかかってしまう。

 そのまま地面に引き倒されて馬乗りにされてしまった。

 

「ちょっと、離しなさいよ!」

「胸はどんなもんだ? ……オホッ、意外とあるじゃねぇか」

「ぎゃあ!?キモい!胸をまさぐらないで!」

「いい加減うるせぇぞ。ちっと黙っとけ」

「なにを、ぶへっ!?」

 

 顔を思いっきり殴られる。

 こんな経験は初めてのことで、思わず目に涙がにじむ。

 

「や、やめて、殴らないで……」

「はぁ?おいおい……一発殴られたくれぇでおとなしくなってんじゃねぇぞ!ふざけんな!」

「な、何よそれ、や、やめ、ガッ!?べぅっ!」

 

 繰り返し顔面を殴られる。

 頬に拳がめり込む。

 鼻が折られ、鋭い痛みが走る。

 歯が折れ、口内が傷つき口の中に血の味が広がる。

 大人の男に一方的に殴られ、手で防ごうとしてもまったく意味をなさない。

 あっという間に私の顔は涙と鼻血でくちゃくちゃにされた。

 

「はぁ、はぁ……へへ、ずいぶんいい顔になったじゃねぇか。そっちの方が俺好みだぜ」

「ぅぁ……」

 

 涙にぬれた視界のせいで、前がよく見えない。

 

「さ、俺と一緒に来てもらおうか。さっきのお仲間の前で犯してやるよ。嬉しいだろ?」

「……し、………ろ……」

「ん? なんて?」

 

 私の言葉が聞き取れなかったのか、私の口元に耳を近づけてきた。

 私は一度、息を吸い込み、覚悟を決めて言葉を吐き捨てた。

 

「死ね、クソ野郎」

「……お前、最高だなぁ」

 

 血管の浮き出た手が私の首にかかり、すごい力で締め上げてくる。

 ああ、……これはダメだ。とても意識を保てない。

 もはやなすすべもなく、「ああ、これで死んじゃうんだな」と薄れゆく意識の中でぼんやり考えていると、突然、首にかかる力が消えた。

 一体何が起こったのか、薄目を開けて確認する。

 

「な、なんだこりゃあ」

 

 傭兵の首から大量の血が噴き出していた。

 

「ち、血が、止まらねぇ……!」

 

 傭兵は私の上から立ち上がると、首を手で押さえながら周囲を確認する。

 おそらく、自分の首を斬りつけた犯人を捜しているんだろう。

 

「クソ、いねぇ……どこだ!隠れてねぇで出てこい!」

 

 周囲に向かって叫ぶが、当然のように反応はない。

 その間も、見る見るうちに傭兵の顔は青くなっていき、死に近づいていく。

 

「クソ、ちくしょう、こんなところで……」

 

 やがて、立ち上がる力も尽きたのか、膝をついてうずくまってしまった。

 

「り、リリカさん、あの、大丈夫ですか?」

 

 傭兵を切りつけた正体が姿を現す。

 声をかけてきたのは、木々の向こうに隠れていたらしいモロだった。

 

「た、助かったわ……」

 

 私の首を絞めるのに夢中になっていた傭兵の首を斬りつけたらしい。

 よく気づかれずに接近できたものだ。

 

「あの傭兵は、死んだの?」

「い、いえ、まだです。でも、首の太い血管を切ったので、頭に血が回らなくなって倒れましたから、死ぬのも時間の問題ですよ。首を斬れたのは、リリカさんが傭兵の気を引いてくれていたおかげです。……助けられてよかったです」

 

モロは安心したように笑顔を見せた。

心なしかモロが普段よりかっこよく見える気がする。

 

「モロ、あんた……後でキスしてあげる……」

「い、いえ、それはいいです……」

「そう……」

 

振られてしまった。悲しい。

 

「リリカさん、動けますか?」

「うぅ、ちょっとふらつくけど、歩くくらいなら何とか……」

「それなら、あの傭兵の剣を持って一緒に来てください」

「剣を持ってって、どうするつもりなのよ」

「次は、リケリアさんを助けに行きます」

 

モロは、こともなげにそう宣言した。

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