深淵を覗けるか   作:たぶん超新星

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滲み出る闇

「女どもは逃げたか。お前、見捨てられたんじゃねぇの?」

「……かもな。それで、お前は俺の相手をしてくれるのか?」

「バーカ。お前なんて俺の相手になるか。でも喜べ、遊んでやるよ」

 

 傭兵は剣を片手でくるくると回してもてあそびながら、軽い調子て答えてくる。

 

「ずいぶんな自信だな?」

「わかる? 俺は強いからな。そしてお前は弱い。一目見てわかったぜ。お前、戦いなれてねぇだろ」

 

 はったりかこじつけか、傭兵はそう断言する。

 その指摘も間違っていない。

 事実、俺は戦いなれていないからな。

 戦闘の訓練や実戦経験も目の前のこいつには遠く及ばないだろう。

 

「これでも、この前盗賊を10人くらいぶっ殺してるんだけどな」

「お前がか? 冗談だろ。仮に本当だったとしても、どうせ奇襲とかなんかしてせこい戦い方したんだろ?」

「確かに、正面からは戦わなかった。でも、勝ったのは俺達だ」

「俺相手にこざかしい戦法が通用するとは思わねぇことだな。さ、時間稼ぎに付き合うのもこれぐらいでいいだろ……やろうぜ?」

 

 わざと会話に乗っていたのも見抜かれていたらしい。

 戦いなれている上に頭も回るし感も鋭いとか、最悪の相手だな。

 ここからは剣での殺し合いだ。

 盾を構え、剣をいつでも突き出せるように構える。

 

「はっ、なんだよその構え。狙いがバレバレだな」

 

 ばれたってかまわない。

 エドが来るまで、何とかして決着を引き延ばす。

 受けに回ったらだめだ。

 エドの強化が効いていても、力に大きな差はないはずだ。

 攻撃を受ければすぐ、技量で劣る俺が押し込まれるだろう。

 攻めるならこっちからだ。

 腰を落とすようにして勢いよく地面を踏み込み、体重をそのまま推進力に変えるようにして一気に前に出る。

 

「シィッ!」

 

 腕を伸ばし、刀身が傭兵に迫る。

 しかし、渾身の突きは半身になることで躱されてしまった。

 そして、反撃が来る。

 

「おかえし」

 

 突き出した剣を持つ右半身に斬撃が迫る。

 だが、これは予想できていた攻撃。

 突進の勢いを殺さず直進し、同時に体を回転させて盾で急所の首と頭を守る。

 

「グッ!」

 

 傭兵の剣は、ちょうど俺の首を狙って切り込んできたが、なんと片手で防ぐことに成功した。

 防いだ盾越しの手に伝わる威力に手がしびれる。

 この盾も頑丈な奴じゃないし、あと2、3度くらい攻撃を受けたら壊れてしまいそうだ。

 

「感で防いだか。やるねぇ。じゃあ次はその盾を持つ腕を狙ってみようか。それとも、足を狙って機動力をそぐかな」

「くそったれ……」

 

 完全に遊ばれているな。

 うすうす感じていたが、こいつ、強い。

 全然付け入るスキがない。

 ずいぶん前、聖騎士と相対したときのような、圧倒的な差を感じる。

 この前相手した盗賊がかわいく思えてくるぐらいだ。

 不味いな、このままでは大した時間を稼げずに殺されてしまうぞ。

 ……よし、作戦変更だ。

 俺は剣を逆手に持ち、盾と一緒に顔の近くで腕を掲げ、ガードの構えを取った。

 

「……おいおい、なんだそのへんてこな構えは。やる気なくなったのか?」

「ほざけ。今見せてやる」

 

 首と頭を守っていれば致命傷は防げる。

 他のとこも、一発くらい貰っても即死はしないだろう。

 攻撃を防ぎながら接近し、剣も振れないような至近距離で組み付いてやる。

 間接を極めることが出来れば最高だが、最悪でもどうにかして動きを封じてやる。

 突きを警戒して左右に動き、狙いをそらしつつ接近する。

 

「そんなんで躱せると思ってんのか? そらよ!」

「ぐぅ!」

 

 傭兵の攻撃が腹に入る。

 だが、革鎧を着ているおかげでわずかに切られただけだ。

 それよりも、剣という鉄の塊を腹に叩き込まれたことによる打撲のダメージがでかいが、その痛みも来るとわかっていれば覚悟を決めて耐えることもできる。

 そして、もう至近距離だ。

 俺は突進の勢いのまま傭兵にぶつかり、地面に張り倒してその腕と首をつかんで押さえつけた。

 

「う、お?」

「捕まえたぞ!」

「……へぇ、これが狙いかよ」

 

 首を絞めつけているのに余裕そうな薄ら笑いは変わらない。

 

「で?このままどうするつもりだ?」

「仲間が来るまで、待つ」

「それまでくっついたままか?勘弁してくれよ、気持ちわりぃ」

 

 クソ、こいつ、渾身の力で押さえつけているのに、平気な顔でしゃべりやがる。

 

「どうせくっつかれるなら、綺麗なねぇちゃんの方がいいぜ。さっき逃げてったやつみたいなよぉ」

「俺で悪かったな」

「全くだ。だが、この距離は好都合だぜ」

「? 何を……」

 

 その時、目の前に押し倒している傭兵がマナを操作しているのを感じ取った。

 直接手で触れているから気づくことが出来た。

 そのマナは傭兵の、俺が抑えていない方の手に集まっていく。

 間違いない、魔法だ。

 どんな魔法なのかは知らないが、こいつが押さえつけられているにもかかわらず、大して暴れもせず舐めた態度をしてるってことは、間違いなく俺にとって厄介な魔法だということ。

 

「っ!」

 

 魔法が発動する前に、急いで飛びのく

 

「んぉ、急にどうした?まさか、気づいたのか?」

 

 少し遅れて、傭兵の右手に黒い光があふれ出した。

 

「!?」

 

 奴の右手に黒い光がともってから、嫌な予感がする。

 いや、悪寒、といった方が正しいかもしれない。

 どんな効果を持つ魔法なのかわからないが、ろくでもないものだということだけはなぜか確信が持てた。

 

「発動する前に気づくとはな。意外と感がいいのか?」

 

 傭兵が手の黒い光を消して立ち上がる。

 しまった、状況が戻ってしまった。

 いや、そんなことより。

 

「……なんなんだ、今のは」

 

 さっきの黒い光、どことなく奇跡を使う時に現れる白い光に似ていたような気がする。

 奇跡、なのか? それとも魔術?

 呪術ではないはずだ。あれは使う時に光なんて出ないはずだし……いや、俺も詳しいわけじゃないから断定はできないか。

 

「初めて見たか?だったら教えてやるよ」

 

 傭兵は得意げに語りだす。

 自分から教えてくれるらしい。

 やっぱり余裕だな、舐めやがって。

 だが、今はおとなしく話を聞いておこう。

 

「今のはな、闇術っていうんだぜ」

「な、闇術だと? まさか、本当なのか?」

 

 闇術。

 それは、教会では禁術指定されており、使えるというだけで即座に異端審問官が抹殺しに来るほどのやばい魔法だ。

 極悪人が使えることが多いとされており、強い悪意を持つほど習得する確率が高いらしい。

 話だけは聞いたことがあったが、今のがそうなのか。

 初めて見た。

 

「なんでそんなもん使えるんだよ……」

「傭兵には探せばいるもんなんだぜ? 俺みたいに闇術を使える奴は」

「くそったれ……」

「聞いた話じゃ、これも奇跡の一種らしいぜ?まぁ、どうでもいいがな」

 

 押し倒した時に剣を手放してしまったせいで、武器は胸元にしまってあった小さなナイフしかない。

 クソ、こんなんで戦えるわけない。

 

「その闇術、どんな効果だ」

「気になるか? いいぜ、教えてやろう。俺が使えるのは振れた相手に幻の痛みを与える闇術だ。食らったやつは男も女も、しょんべん垂らして泣き叫んで、あっという間に白目剥いて気絶しちまう……面白いだろ?」

「最悪だな……」

 

 返答を期待していたわけではなかったが、べらべらとその効果を語ってくれた。

 純粋に身体能力でも剣の腕でも負けていたのに、あの手に触れられてもアウトというわけだ。

 くそったれめ。

 

「お前にも味合わせてやるよ」

「お断りだ」

「ばーか、お前に拒否権はねぇから……お?」

 

 俺の右手から、白い光があふれ出す。

 奇跡の光だ。

 

「……へぇ、お前も奇跡が使えたのか」

「ああ、これでお前をぶちのめしてやる」

「へ、はったりだろ?だったら何でもッと使わなかった。それこそ、さっき俺を押し倒した時にでも使えばよかったじゃねぇか」

「使うのに時間がかかるんだよ。発動まで一分もかかるんだ」

「なんだそりゃ、ずいぶん使いづらそうだな。それで?そいつはどんな奇跡だ」

「【ディヴァイン・パニシメント】」

「……はははっ! 冗談、つくならもっとましな嘘を吐けよ」

 

 傭兵は俺の言葉を鼻で笑った。

 【ディヴァイン・パニシメント】は、相手がこれまで犯してきた罪の大きさに比例した苦痛をもたらす奇跡だ。

 高位の奇跡に属しており、使えるものは非常に少ない。

 使える奴も大体が異端審問官か罪人の咎を調べる裁判官とかだけだ。

 当然俺も使えない。

 全てはったりだ。

 

「だったら、試してみたらいい」

「……」

 

 互いににらみ合う。

 わずかに警戒しているのか、容易に踏み込んでこない。

 俺の言葉が嘘ならそれでいいが、わずかに本当かもしれないという思いがこちらに攻撃するのをためらわせているのだろう。

 だが、この膠着状態は長くは続かない。

 頼むエド、早く来てくれ……。

 

「……おい、そこにいるのは誰だ。出てこい」

 

 突然、傭兵が背後に向かって声をかけた。

 

「っ! エドか!」

 

 とうとうエドが来たのかと俺も期待のまなざしを向ける。

 ほんの少し時間を空け、隠れていた人物が姿を現し……なんと出てきたのはリリカだった。

 顔には殴られたような跡があったり、鼻血の出た痕跡もある。

 

「え……な、えぇ……」

 

 予想外な展開で、思わず変な声が出た。

 

「わ、悪かったわね、エドじゃなくて」

 

 リリカは気まずそうな顔をして言った。

 というか何で戻って来たんだ、逃げればいいのに……いや、そもそもリリカの方を追いかけて言った傭兵どうなった?

 一人でどうにかしたとは思えないし……もしかしたら、モロと協力して切り抜けたのかもしれない。

 

「おい、お前、追手はどうした。お前の方にも一人追いかけていっただろうが」

 

 傭兵の固い声が響く。

 

「ふ、ふん!そいつなら、私がぼこぼこにしてやったわ!」

「適当なこと言ってんじゃねぇぞ。……まぁいい後で確かめりゃいいか」

「そ、そんなことより、どうして私に気づいたのよ。私ちゃんと隠れてたのに、こっちに目もむけずに気づいたじゃない。それに来たばっかりだったし……」

「俺は闇術を使えるようになってから、敵意を向けてくる相手の位置がなんとなくわかるんだよ。だから奇襲も気かねぇ」

「め、滅茶苦茶ねあんた……」

 

 リリカは相手の能力を聞いて顔を引きつらせる。

 

「リリカ、早く逃げろ。お前じゃ役に立たない」

 

 なんでこっちに来たのか知らないが、こんなやつのそばにいるべきではない。

 すぐに逃げるようにリリカに指示する。

 

「そんなのわかんないでしょ」

「そんなこともわからないのか」

「だったら、あんた一人でそいつの相手が出来るの?武器だっててななしてるじゃない」

「それは……」

 

 確かに、俺一人じゃ何もできない。

 だからって、こいつ相手にリリカが何かできるとはとても思えない。

 

「よーし、先にお前を沈めてやろう」

 

 突如、傭兵がリリカの方を向く。

 

「っ!?逃げろリリカ!」

「え、ぐぁ!」

 

 動き出した傭兵は一瞬でリリカの元まで迫り、その首をつかみ上げた。

 抵抗する間もなくつかみ上げられ、リリカの足が宙に浮く。

 

「う、ぐぅ……」

「後で俺の仲間がどうなったか聞こうと思ったが、やめた。今からその体からたっぷり聞かせてもらおう」

「やめろ!」

「やめませーん。俺の闇術、たっぷり味わってくれ」

 

 俺が傭兵を止める間もなく、闇術が発動した。

 

「ギャアァアアアアアア!!!!」

「リリカ!」

「あぁ、いい悲鳴だ」

 

 リリカの絶叫が響き渡る。

 俺は手放してしまっていた剣を拾い、傭兵のもとにかける。

 

「その手を離せ!」

「いいぜ?ほらよ」

 

 傭兵は俺に向かってリリカを投げ飛ばしてきた。

 思わず、とっさに受け止める。

 

「うおっ」

「はいドーン!」

「ぐぉあ!?」

 

 リリカの体ごと蹴り飛ばされた。

 リリカを腕に抱えたまま、無様に地面を転がる。

 

「ぐ、クソ……おい、リリカ、大丈夫か?」

 

 倒れた体勢から起き上がりリリカの状態を確認するが、完全に意識を喪失していた。

 

「気絶したようだな。でも按針しろよ、もう一度俺の闇術を使ってやればすぐに飛び起きるはずだ」

「……もうやらせんぞ」

「俺を止めるか?お前にゃ無理だね」

 

 傭兵が俺とリリカに迫る。

 もう万策尽きた。

 再び奇跡を発動させようにも、時間が足りない。

 どうする?いったいどうすれば……。

 

「いい加減、お前は死ね」

 

 攻撃が来る。

 剣を掲げて防ごうとするが、多分一発しのげたとしても、二発目は防げない。

 ここまでなのか。

 傭兵の剣が振り下ろされる瞬間。

 

「させない!」

「うぉ!?」

 

 横から、何者かがその斬撃を弾いた。

 そのまま追撃を放つが、傭兵は後ろに飛んで距離を取ってかわす。

 

「……遅かったじゃねぇか、エド」

「ごめん、待たせたね」

 

 ようやく、エドがここに駆け付けた。

 やばい、マジでエドがかっこよく見える。

 俺が女だったら間違いなく惚れていたな。

 

「まさかお仲間が駆けつけるとはな。そっち身も一応、追手を出していたはずだが・」

「二人とも殺した」

「……そうか。お前はそこそこやるみてぇだな」

 

 傭兵は初めて、まともに剣を構える。

 

「お前がアレイか?」

「あぁ?なんで俺の名前を……あいつらが話したのか」

「アレイ、お前を……倒す」

「やってみろよ、色男」

 

 エドが傭兵、アレイに向かって切り込む。

 身体強化を使ったエドはすごい速さだが、相手の力量も高く、うまく防がれておりなかなか攻め切れていない。

 

「くっ、強い……」

「お前も十分やるぜ?だが、経験では俺の方が上だな」

 

 俺はリリカを抱え、戦っている二人から距離を取るように移動する。

 

「リリカ……さっきは役に立たないとか言って悪かったな」

 

 こいつの稼いだ時間はわずかだったが、その時間がエドをここに間に合わせた。

 そうでなかったら、俺は今頃殺されていたかもしれない。

 本当に助かった。

 

「俺もエドに加勢しないと」

 

 離れた場所にリリカを置き、エドのもとに向かおうとした時だった。

 

「う、が……」

「ふぃー、まったく苦労させてくれるぜ」

 

 エドの腹が、剣に貫かれていた。

 

「え、は?」

「ま、俺が少し本気を出せばこんなもんだな」

 

 信じられない。

 あのエドが、少し目を離した間に、こんな一瞬でやられてしまうなんて。

 俺と戦っていた時は、完全に遊んでいたのだろう。

 エドの腹から剣を引き抜き、アレイは自分の剣を眺める。

 

「あーあ、剣がもうボロボロだ。やっぱこいつ、何か妙な魔法でも使ってたようだな」

「お前、ぶっ殺す!」

 

 怒りに任せてアレイに斬りかかる。

 

「よっと」

「な!?」

 

 剣の刃を直接手で止められた。

 驚愕し、思わず目を見開く。

 

「フンッ」

「グェッ!」

 

 そのまま相手の剣で首を斬られた。

 俺はその衝撃で後ろに吹き飛び、首を抑えながらせき込む。

 

「ゴホッ、ゲホッ!」

「新でねぇか。まぁ剣ってのか切れ味に期待しちゃいけねぇ。どんだけ研いでも大して斬れねぇからな」

 

 アレイはエドと打ち合った剣を眺めてそういうと、持っていた剣を放りだし、エドの使っていた剣を手に取ろうとする。

 

「こいつの剣を使わせてもらうか……ん?」

 

 剣に手を伸ばしたアレイの腕を、エドの手が握っていた。

 アレイは不愉快そうに舌打ちする。

 

「は……ぁ……」

「チッ、死にぞこないめ。とどめを刺してほしいのか……あ?」

 

 突然、アレイが体をふらつかせる。

 まるで、突然体が重くなったかのように倒れこんでしまった。

 

「な、なんだこれは……急に体に、力が入らねぇ……」

 

 何が起きているかはわからない。

 分かることがあるとすれば、それは。

 

「今だ」

 

 今が好機だということ。

 俺は剣を支えにして立ち上がると、死に物狂いでアレイの頭に剣を振り下ろす。

 

「あガッ!?」

「死ね!」

 

 アレイは腕を頭上に上げて防ごうとするが、その上から容赦なく殴りつけるように剣を振り下ろす。

 

「ギッ! イデェ!」

「死ね死ね死ね死ね死ねや! オラァ!」

 

 何度も繰り返し、剣を振る。

 アレイはろくに抵抗もできず、俺の攻撃を食らい続けた。

 

「はぁ……はぁ……さすがに死んだか?」

 

 頭から血を流し、動かなくなったアレイを見て、攻撃をやめた。

 頭蓋骨が割れて脳みそまで零れ落ちている。

 これで死んでなかったらさすがにドン引きだ。

 

「……そうだ、すぐにエドの止血をしないと」

 

 アレイを倒すのに夢中で、エドの治療がまだだったことを思い出す。

 

「クソ、早くしないと」

 

 こんな時、すぐに発動しない自分の奇跡がもどかしい。

 エドの傷口を圧迫して止血しつつ、一分が経過し、奇跡の発動準備が整う。

 

「【ヘモスタシス】」

 

 奇跡の力により、エドの出血が止まる。

 だが、すでに多くの血が流れてしまっているし、傷が治ったわけでもない。

 

「すぐにスーリャに治療してもらわないと……いや、リケリアの方に向かうのが先か?」

 

 俺の方に来ていたのが三人、エドの方に向かったのが二人。

 エドの方は倒せたようだし、リリカを追いかけて言ったやつも、どうやってか倒したらしい。そうじゃなきゃリリカもここに現れていないだろうし。

 そして、ここで倒れて居るアレイとか言う傭兵も今、俺が殺した。

 残りはリケリアを追いかけていった傭兵が一人。

 まだ戻ってきていないということは、リケリアが時間を稼いでくれているのだろう。

 

「すぐ助けに行かないと……」

「ヴェロ、無事か」

「あ、タロ!それにスーリャも」

 

 リケリアのもとに行こうとかんがえていると、タロとスーリャが現れた。

 

「スーリャ、エドが深手を負った。すぐに奇跡で治してくれ」

「わかった」

「傭兵は倒したのか。……リリカも倒れてるみてぇだな」

「リリカも心配だが、今はいい。まだリケリアを追いかけていった傭兵が残ってる。タロ、行くぞ」

「いや、その前にお前、首から血が流れてるが、大丈夫なのか?」

「え?」

 

 首に手を当てると、ぬるりとした感触。

 手を見る土地でべったりと赤く染まっていた。

 アレイに首を剣で斬りつけられたときに斬られたのだろう。

 エドが剣を打ち合って、アレイの剣の刃をボロボロにしてなかったら、首の太い血管まで斬られて死んでいたな、これは。

 

「……後で奇跡で止血する。でも今はリケリアを追いかけるのが先だ」

「おう、わかった」

 

 エドをスーリャに任せ、リケリアの走って行った方向に向かった。

 

 

 道中で奇跡を使って止血しつつ、わずかに残る足跡を頼りに進んでいく。

 こういう地面に残った足跡とかの痕跡を辿っていくのに、タロは本当に役立つな。

 と、山道を進んでいくと何やら争った痕跡を発見した。

 

「リケリアがいない」

「……いや、こっちに引きずった跡がある」

 

 タロの発見した痕跡を辿ると、木に寄りかかるようにして座っているリケリアを発見した。

 

「気を失ってるみてぇだが、一応無事みたいだぞ」

「よかった……いやまて、だったら傭兵はどこにいったんだ?」

「さっきの場所に、まだ足跡が続いてるところがあった。戻って調べてみる」

 

 再び、争いのあったらしい場所まで戻り、続いている足跡を辿っていくと、人影が現れた。

 小さい子供くらいの……まさか。

 

「モロか」

「あ、ヴェロ。それにタロも、無事だったんですね……て、ヴェロ、そ、それ、大丈夫なんですか……?」

「一応奇跡で止血したから問題ない。お前こそここで何してんだよ」

「ち、ちょっと傭兵の相手をしてました」

「そうか……え? お前ひとりで?」

「は、はい。あれがその傭兵です」

 

 モロの指さす先には、男が逆さづりにされていた。

 首が切れて血が流れ出ており、すでにこと切れているようだ。

 

「……あれ、お前がやったのか?」

「は、はい。最初は剣の届かない木の上に逃げて、時間を稼ごうとしてたんですけど……そしたら、あの傭兵も木に登って追いかけてきて……木にしがみついている隙に、足を縛って宙づりにして、このナイフで首を斬りました」

 

 モロは持っていたナイフを見せた。

 木の棒の先にナイフが括り付けてあり、刃の部分が小さい薙刀のようにも見える。

 これを使って用への首を切ったらしい。

 それにしても、モロが一人で傭兵を倒してしまうとは……。

 

「ずいぶん間抜けな傭兵がいたもんだな」

「多分、モロが弱そうに見えたから油断したんだろ。やるじゃねぇか。さすがだな」

「そ、そうかな」

「ああ、よくやった。期待以上の働きだぞ」

「あ、ありがとうございます」

「とりあえず、さっき見つけたリケリアも連れていったん集まろう」

 

 こうして、俺たちは傭兵の集団を撃退することに成功したのだった。




アレイ
傭兵ギルドに所属している傭兵。
26歳。
ギルドランクは4。
ロベルカーナでの仕事で報酬がなかなか支払われずに暇していたところ、偶然ヴェロ達を発見し、同僚とともに襲い掛かる。
腕利きだが、こいつぐらいの強さのやつならそれなりにいる。

ちなみに、傭兵ギルドのギルドランクは、
1~2が駆け出し
3~4が中堅
5~6がベテラン
くらいの扱い。


闇術
奇跡の一種とされている。
使用する際に、奇跡が白い光を放つのに対して、闇術は黒い光を放つ。
悪心を持つものが多く習得しているということもあり禁術に指定されており、使えるというだけで迫害されたり犯罪者扱いされる。
人の精神や肉体に長く影響を及ぼす術が多く、犯罪組織などでは稀に目にすることもある。
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