深淵を覗けるか   作:たぶん超新星

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未熟

 傭兵たちとの戦闘で重傷を負ってしまったエドだが、腹を貫かれていたので、スーリャの【ライトヒール】だけでは回復が追い付かなかった。

 なので、俺はある試みを行った。

 

 

「ヴェロ、傷が深くて、全然治らない!」

 

 スーリャが涙目になりながら、必死に奇跡を使う。

 ここまで必死な表情のスーリャは初めて見たかもしれない。

 しかし、スーリャの使う【ライトヒール】の回復はささやかすぎた。

 今のエドのように深手を負っている状態で、即座に傷をふさぐのは難しい。

 

(このままだとヤバいか?)

 

 俺の奇跡で出血を止めているとはいえ、腹を貫通させられているのだ。

 もし臓器が傷ついていたら、どんな影響が出るかわからない。

 このままではそう長くは持たないだろう。

 

「スーリャはそのまま、【ライトヒール】を維持するんだ。俺が合わせる」

「あわせる?」

 

 奇跡は、複数人で力を合わせることにより効果や威力を増幅させることのできる技術が存在する。

 それは共鳴とよばれる術だ。

 俺自身やったことは無いためぶっつけ本番になってしまうが、今はこれにかけるしかない。

 スーリャの行使する奇跡を感じ取り、それに合わせるように俺の持つ奇跡の力を流し込んでいく。

 俺が普段奇跡を行使するときの感覚、それをスーリャの行使する奇跡から感じる感覚に近づけ、合わせる。

 

(たのむ、うまくいってくれ)

 

 スーリャの奇跡に俺の力が合わさり、放たれる奇跡の光が少しだけ強くなった。

 僅かだが、エドの傷が治る速さが上昇する。

 よし、ちゃんと成功しているようだ。

 ただ、一つ問題があるとすれば。

 

(クソ、これ滅茶苦茶頭が疲れるぞ!)

 

 普通の奇跡を使うよりもずっとキツイ。

 脳みその、どこか変な部分が酷使されているような気がする。

 だんたん頭も痛くなってきたし、すでに額に汗がにじんできた。

 

「……スーリャ、大丈夫か?」

「だいじょう、ぶ」

 

 少し苦しそうな声。

 俺よりは余裕がありそうな様子だが、あまり大丈夫ではなさそうだ。

 だが、今は多少の無理を通してでも、エドを助けないといけない。

 

「もう少し、頑張ってくれ、スーリャ」

「うん」

 

 そうして、俺とスーリャはエドの治療を続け、気が付いたら俺は気絶していた。

 

 

「で、今に至るってわけだ。一応傷はふさがったみたいだが、しばらくは動けそうにないみたいだな。多分血が足りてないんだろう」

 

 あれだけの重傷だったのだ。

 一命をとりとめただけでも奇跡ってもんだろう。

 貧血は奇跡じゃどうしようもないし、エドはしばらく安静にしていることになった。

 

「ごめん、迷惑かけちゃって」

「何言ってんだ。お前がいなきゃ俺は死んでた。つまりお前は俺の命の恩人だ。感謝こそすれ、迷惑に思うわけないだろ」

 

 そういってエドを励ますが、落ち込んだ様子はなかなか治らないようだ。

 

「まったく、何をそんなに気にしてるんだか」

「……僕が戦った、アレイって傭兵に、あっさり負けちゃったのが、悔しくてね」

「ああ……でも、最後はお前のおかげで勝てた。あれをやったのはお前だろ」

 

 あの時、エドがアレイの腕をつかんだ瞬間、アレイは急に力が抜けたように倒れた。

 

「多分、身体強化の反転魔術をやったんだろ? あれのおかげで勝てたんだから、実質お前の勝ちみたいなもんだ」

「そうなのかな……あの時はとにかく必死で、あまりよく覚えていないんだけど」

 

 エドの魔術、身体能力を強化する、【エンハンス・フィジカル】。

 その効果を反転させたことにより急激に力が弱くなったアレイは、立っていることもできなくなり、その結果俺に殺された。

 

「いつの間に使えるようになったんだよ」

「それはわからないけど……あの時はとにかく必死だったからね。意識も朦朧としていたし、正直よく覚えていないんだ」

「そうなのか? でも、触れただけで相手を無力化できるんだ。やっぱりお前の魔術は最強だな」

「うーん、多分そこまで器用に使えるわけではないと思うよ。特に、戦闘中に激しく動きながら反転魔術を使うのは無理だと思うし……普通の魔術ならすぐに使えるんだけどね」

 

 とにかく、エドの思わぬ新技により勝つことが出来たのだ。

 それも含めて、運がよかったな。

 

「……なぁ、俺の作戦、どうだったかな」

「え? エドの作戦?」

 

 今思い返してみれば、なかなか穴の多い作戦だったと思う。

 特に想定が甘かったのは、俺が満足に時間を稼げると判断してしまったことだ。

 アレイにはいいようにもてあそばれ、結果としてエドの到着まで十分に時間を稼ぐことが出来たものの、リリカもリケリアも傭兵に襲われてしまったし、散々な結果だった。

 ……アレイが早々に本気で俺を始末しにくれば俺も大して時間を稼げずに死んでいただろうし、その点も幸運だったな。

 それほどの実力差が、あいつと俺の間にはあった。

 

「今思い返せば、もっとうまいやり方があったんじゃないかって思ってな……」

「そうかな。少なくとも僕は、ヴェロは最善の選択をしたと思っているよ」

 

 エドは傭兵たちと戦っていた時のことを思い出しているのか、少し上を眺めながら言う。

 

「あの時、正面から戦えるのは僕とヴェロだけだったし、敵を分断しなきゃ絶対に勝てなかった。みんなを僕とヴェロの方で分けたのは結果的に敵を各個撃破することにつながったし、悪くなかったと思う」

「……でも、俺はリリカとリケリアを守れなかった」

「確かにそうかもしれないけど、下手したら全滅していたかもしれないだろう?僕もあのアレイって傭兵にあっさり負けちゃったし」

 

 確かに、エドとアレイの決着は、少し目を離したうちについていたな。

 

「そんなに強かったのか?正直、目を離す前はエドの方が押しているようにも見えたが」

「強かったよ。魔術で強化しているはずなのに、身体能力に大きな差はなかったし、何より剣が上手かった。僕は強化した身体能力に任せた力押ししかできないから……」

 

 それだけあの傭兵の力が突出していたということだろう。

 

「そのアレイの相手をヴェロはしていたんだろう? すごいことだよ」

「遊ばれてただけだ。俺なんて相手にもなってなかった」

「それでも、ヴェロが一番危険な役目だった。ヴェロの作戦がなかったら、あいつも倒せなかったと思うよ」

 

 エドはそういうが、俺は納得できなかった。

 ……これは感情の問題なんだろうな。

 

「俺がもっと強くて、あんな傭兵どもなんて一人で蹴散らすことができたらよかったのにな」

「あはは、僕もみんなを守れるくらい、強くなりたいよ」

 

 

「あ、ヴェロ。エドの方はどうだった?」

 

 リケリアと一緒にいたリリカが声をかけてくる。

 

「しばらく動けなさそうだが、まぁ問題はない。リケリアの方ははどうだ?」

「おなかをけられたときに、肋骨が何本かおれちゃったみたい。骨折はスーリャの奇跡でもすぐには治せないみたいだし、しばらく安静にした方がいいわね」

「すみません、ご迷惑おかけします……」

 

 リケリアは申し訳なさそうな顔をして謝ってくる。

 

「謝らなくていい。むしろ、謝らないといけないのは俺の方だろう。リケリアもリリカも囮に使った挙句にひどいけがまで負わせてしまった」

「まったくよ、ちょっとは反省しなさい……って、言いたいところだけど、あんたは十分できることはやったと思うわよ」

 

 リリカはそこまで俺を責めるつもりはないようだ。

 正直、もっと激怒してくるものと覚悟していたんだが……。

 

「……だが、俺がお前たちを囮に使ったのは事実だ」

「うるわいわね、私もリケリアも気にしてないわよ。全員無事に生き残ったんだし、それでいいじゃない」

「……二人は納得してるのか?俺はお前たちを守り切れなかったのに」

 

 あの時はそれしか手段がなかった。

 だが、二人がそれで納得するかどうかは別の話だと思うのだが。

 

「あのねぇ、確かに私とリケリアもちょっとひどい目にあわされたけど、あんたとエドの二人に対して敵は五人もいたんだから仕方ないじゃない。それに、私たちは仲間なんだから助け合うのは当然のことよ」

「……そうか、助かる」

「いいってことよ」

 

 リリカはにっこりと笑顔を見せた。

 こいつもなんだかんだでいい女だな。

 本人に言うと調子に乗りそうだから言わないけど。

 

「でも、リケリアは本当に納得しているのか?」

「え?」

「は? あんた何言ってんのよ」

「いや、だってリケリアはシルヴァ―ナに戻るか俺たちと来るか、決めてなかっただろう。それなのにこんなことに巻き込んでしまって……本当に悪い」

「い、いいんです。ヴェロさんたちについていくのを断らなかったのは私なんですから、ヴェロさんが気にすることなんて何もありません」

「だが……」

「ほ、本当に気にしなくて大丈夫ですから! うっ……」

 

 リケリアが胸を押さえてわずかに顔をしかめる。

 

「だ、大丈夫か?」

「ちょっとリケリア、しっかりしなさいよ。あんた今肋骨折れてんだから、大きい声出したりする胸が痛くなるわよ?」

「す、すみません、大丈夫です」

 

もしかして、気を遣わせてしまったのだろうか。

 

「そうか。しばらくは療養してくれ。……それと、今後はあんな面倒な連中に目を付けられないように気を付ける。もう二度と、リケリアを危険な目にあわせたくないからな」

「……ありがとうございます」

 

 リケリアははにかみながら答えた。

 よく見たら少し顔が赤くなっているかもしれない。

 なんだろう……風邪か?

 流石に病気は俺やスーリャの奇跡では治せないが……。

 でも、肋骨が折れているせいで激しい運動はできないだろうが、特別体調が悪そうな様子はないし、大丈夫か。

 何かあったらリリカが気付くだろうしな。

 

「……ふーん、そういう感じね」

「どうかしたか?」

「いいえ? なんでも」

 

 何か気になる反応をしたが……まぁいいか。

 

「そういえばお前、アレイって傭兵に首をつかまれたとき、闇術を使われてただろ。大丈夫なのか?」

「え? ああ、そういえばそんなこともあったわね。確かにちょっと痛かったけど、傷が残っているわけでもないんだし、大丈夫でしょ」

「ちょっと痛いですむもんなのか? あの時のお前、ギャアアアアって叫んでた気がするが」

「う、うるさいわね。……確かに、今まで生きてきた中で一番の痛みだった。もしあんなのを受け続けてたら、間違いなく自殺してたでしょうね」

「そんなにか」

 

 相当な苦痛だったようだ。

 それを平然とリリカに使いやがって……改めて考えてもむかつく野郎だったな。

 

「……あの時の傭兵にもう一度あったとしたら、怖くて動けなくなるかもしれない。でも、そいつはあんたとエドで倒したんでしょ?」

「ああ、間違いなく殺した」

 

なんあら、死体だってまだ残ってる。

 

「じゃあ大丈夫よ。私も不安な思いをせずにぐっすり眠れるわ。ありがと」

 

そういってリリカは笑顔を浮かべた。

 

 

「モロ、スーリャ、ここにいたのか」

 

 モロは倒した傭兵たちから回収した所持品を確認しており、スーリャは鳥の解体をしていた。

 

「タロはどうしたんだ」

「と、遠くにある傭兵の死体から所持品を持ってきています」

「あーそういえば、エドとタロの方に行った傭兵の装備とかはまだ回収してなかったな」

 

 どうやらそれを取りに行っているらしい。

 

「傭兵たちが持っていたものはどんなのがあったんだ?使えどうな物は持ってたか?」

「は、はい。干し肉や見たことない毒とか、いろいろ持ってたみたいです」

「うげ、毒なんて持ってたのか」

 

 使われなくてよかったぜ、マジで。

 何で使わなかったんだろうか。

 俺くらいの相手に使うまでもないと判断したからだろうか、毒だってただじゃないだろうしな。

 敵の貧乏性に助けられるなんて、何とも情けない気分になってくるな。

 

「か、革鎧も着てましたが、前にヴェロとエドに渡したやつより丈夫そうでした」

「マジか。新調しようかな」

「そ、しれなら、大きさを合わせておきます」

「頼むわ」

 

 そういって、モロは作業を続けていった。

 ……そういえば、モロも傭兵との戦いでは大活躍だったらしいな。

 リリカを追っていた傭兵もこいつが倒したらしいし、リケリアを追いかけた傭兵も一人で倒しているし、実はこいつが大金星なんじゃないだろうか。

 ……正直、モロがいろいろ器用にできることは知っていたが、あの場では具体的な指示が思いつかずに臨機応変で、みたいな適当な指示しかできなかった。

 だというのに、二人も傭兵を殺している。

 モロがこんなに戦えることがわかっていれば、作戦も少しは違ったものになっていたかもしれない。

 ……俺は、こいつをうまく使ってやれなかったんだろうか。

 もしかしたら、傭兵たちを倒す作戦も、こいつなら俺より上等なものを思うついた可能性すらあるかもしれないな。

 

「なぁモロ」

「は、はい。なんですか?」

「お前、傭兵を二人も倒したんだろ?」

「そう、ですね」

「そんなに戦えるんだったら、あの時、もっと別の作戦を取ることもできたんじゃないかと思ってな」

「……そ、それは、運がよかっただけです。ぼ、ぼくも、正面から戦ったわけではないですし」

 

 モロはすべてが偶然の結果だと主張する。

 

「そうか?……まぁそうだな。たらればを考えていても仕方ないか」

 

 俺がアレイを足止めできたのも偶然だしな。

 でも、今後はもう少しモロを頼ってもいいんじゃないだろうか。

 俺もモロに殺された傭兵と同じように、こいつのことを侮っていたところもあるしな。

 普段からもう少し、タロみたいに自身ありそうな態度でいてほしいもんだ。

 

「あ、スーリャ、その鳥の解体、俺も手伝おうか」

「うん。あと、怒鳴ヴェでお湯を作ってほしい」

「お安い御用だ」

 

 

 日が沈み、他のみんなは天幕でもう寝ている。

 今は夜の番として見張りをしているところだ。

 また盗賊か傭兵か、熊や狼が来たら大変だからな。

 

「……」

 

 こうして一人でいると、傭兵たちと戦ったときのことを考えてしまう。

 あの戦いで、俺の白兵戦能力の低さが露呈した。

 

「……」

 

 エドは魔術で自分を強化して戦える。

 傭兵も一人、首を斬り飛ばして倒したらしい。

 首を斬り飛ばすってなんだよ、普通剣で首を斬っても両断なんてできるはずがないだろ、ギロチンじゃないんだから。

 身体強化も強力だが、武器強化も侮れないものがある。

 そのおかげでアレイの剣がボロボロになり、俺の首はちょっと血が出るだけで済んだし。

 

「……」

 

 俺の場合は、多分、あのアレイって傭兵が相手じゃなくても、皮下の傭兵が相手だったとしても、一人で勝てたか怪しい。

 この前の、リケリアを襲った盗賊相手でも、正面からの真っ向勝負なら、無傷では勝てなかったはずだ。

 あの時は奇襲したうえでエドと一緒だったし、エドの魔術の支援もあり、タロの毒と援護、モロの罠もつかってようやく戦いになった。

 実力的には、あの盗賊たちと俺では大差ないはずだ。

 

「……」

 

 知恵を回して姑息に立ち回ることは、不可能じゃないだろう。

 でも、限界はある。

 あのアレイ相手に、俺は手も足も出なかった。

 ……このままじゃだめだ。

 これでは皆を、仲間を守れない。

 強くならなくちゃいけない。

 

「……どうするかな」

 

 エドと打ち合いでもしてみるか。

 それとも、リケリアが習ったという剣術について聞いてみるか。

 タロの投石のように、飛び道具を使うという手もある。

 傭兵との戦いでは投げナイフまで使ったらしいし、俺も練習してみよう。

 モロのように、地形を利用したりして、小器用に立ち回る手段も用意しておきたい。

 でも、紐で傭兵を吊り上げたり、罠を作ったり、即席で武器を作るなんて俺にはできないしな……今度何かいい案がないか聞いてみよう。

 

「……」

 

 魔術でも戦えたらいいんだが、俺の場合はどうしても発動が遅いからな。

 でも、魔術を発動待機状態にしていれば、最初の一回ぐらいは【イグニッション】が使えるかもしれない。

 待機状態を維持するのは難しいのだが、練習でどうにかなるだろうか……まぁ、やれるだけやってみるか。

 

「おい、交代の時間だ」

「タロか。なんだ、もうそんなに時間がたってたのか」

 

 考え事をしていると、タロが見張りの交代に出てきた。

 

「それじゃ、俺は寝るよ。あとは任せた」

「おう」

 

 俺はタロと見張りを皇太子、天幕へと戻っていった。




エドの強さ
身体強化と武器強化によるごり押しで大抵の相手であれば倒せるが、戦闘に慣れている相手だとうまくいなされてしまう。
これは、エド自身が自分の強化された身体能力の制御が完璧でないため攻撃が単調になってしまうため。
現状、強化された身体能力をもてあましている状態だが、逆に言えば伸びしろでもある。


ヴェロの強さ
素の実力はエドとほぼ互角か少し弱いくらい。
普通に戦っても勝てない相手にはやぶれかぶれで変な行動をしたり、捨て身の戦法を取ることがある。
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