傷が痛い。
やけどしている右腕と右足、そして破片か何かで負傷した左足がひどく痛む。
「痛すぎる……泣きそう……長男じゃなかったら泣いてたかもしれん」
「長男なんですか?」
「ああ。長男というか、一人っ子だったけどな。エドの方は、傷は大丈夫なのか?」
「すごい痛いですけど、すぐに死ぬほどじゃないですよ。激しい運動は無理そうですけど」
エドは右わき腹に派手な切り傷がある。
結構深い傷に見えるが致命傷ではないようだ。
それでも、こんな重要を負いながらここまで逃げてきたなんて信じられない。
「よくそれで逃げられたな」
「必死でしたから、魔術も使って全力で。でも、もう走るのは厳しいですよ」
「移動はできそうか?」
「……難しいかもしれません」
「そうか。しばらくは傷の調子を見て、安静にしてるしかないな」
移動を再開するのは、エドの傷が歩けるくらいまで回復してからになりそうだ。
「その間は俺が面倒を見てやるよ」
「すみません、ご迷惑をおかけします」
「なに、気にするなよ」
その負傷で、命があるだけましだと思うしかない。
「あの、ヴェロはこれから、どうするつもりなんですか?」
「これからって?」
「僕が動けるようになったら、移動を再開するんですよね。やみくもに山の中を移動するわけにはいかないでしょう?」
確かに、ここからどうするにしても、いずれはこの山を下りることになる。
「俺は、ロズカルの方に行こうと思ってるんだ」
「ロズカルですか……」
ロズカル王国。
レルガノスの西に位置する国で、友好国というわけではないが、それなりに仲はいい国だ。
レルガノスより大きい国で、レルガノスと同様にアルドメナスとも争っている国でもある。
「どうしてロズカルに?」
「レルガノスから出るためだな。この国にいると徴兵されるし、俺も脱走兵になったからな」
「なるほど」
「エドも、一緒に来てくれるか?」
人数が多いに越したことは無い。
俺一人でできることなんて、たかが知れている。
仲間が一人でもいるなら、それだけで心強い。
「一人で生きていける気はしないからな。一緒に来てくれ」
「もちろんですよ。ヴェロには助けられていますし、その恩も返さなきゃいけませんからね」
嬉しいことを言ってくれる。
「ロズカルは確か、西の方にある国でしたよね。今後はロズカルに向けて西に移動するんですか?」
「いや、それは無理だろ。そんな山一つ二つ越えればすぐ着くほど近くないはずだしな」
レルガノスとロズカルとの国境にはでかい山脈が連なっている。
そこを突っ切っていくのは現実的じゃないだろう。
どれぐらい距離があるかわからないしな。
「レルガノスの南の方に、シルヴァ―ナって街がある。そこにロズカルへ向かうための道が開かれてるらしいから、そこから向かおうと思う」
「どれくらいかかりますかね」
「シルヴァ―ナまでは徒歩だと三カ月くらいかなぁ。そこからロズカルまで行くのに、さらに15日くらいだ。シルヴァ―ナまでは今いる山脈に沿うように移動するつもりだから、山の中を移動することを考えるともっとかかりそうだ」
「ずっと山の中を移動するんですか?」
「ああ、俺は脱走兵だから街中には入りづらいしな。それに、俺たち二人だけで歩いていたら、盗賊とかに襲われそうだし、道中の食料とかも山の中なら確保しやすいだろ」
「確かにそうかもしれませんが……三カ月も、山の中で生活しないといけないんですか……」
エドはうんざりしたような表情でため息を吐いた。
気持ちはわかる。
「でも、さすがにずっと山の中にいるのは厳しいだろう。あと二か月もすれば冬に入って寒くなってくるだろうし、そうなる前に一度適当な村に立ち寄ろうと思う」
冬の山で生きていくなんてできる気がしない。
ロクな装備もないし、この辺は雪も降るからな。
それに、街より小さい村とかなら、俺が脱走兵であることはばれないはずだ。
「寒くなると植物とかも枯れるし、動物も減る。その間食料確保ができるかわからないからな。村の中でなら食料とかも多少は融通してもらえるだろう。働く必要はあるだろうけどな」
「わかりました。村にはどれくらい滞在しますか?」
「あったかくなるより少し早く出るつもりだからな。まあ三カ月くらいか」
「長い旅になりそうですね」
「全くだな」
不安は尽きないが、旅の道連れが出来た。
それだけでずいぶんと心強く感じる。
今後の方針も決まり、今日のところはエドと交代で寝ることにした。
……俺は火傷の傷が痛んで、一睡もできなかったけどな。
ロズカル
レルガノスの西に位置する国。
アルドメナスと常に戦争状態。
レルガノスとは山脈を挟んでいるせいで交易は活発ではないが友好的。
国内で魔術を研究する派閥と信仰されている宗教の派閥で権力的な問題で対立が起きている。
ノルハト人という人種が比較的多いが、様々な人種のいる多民族国家である。