「まだ傷は痛みますが、杖があれば何とか歩けそうです」
エドがそう言ったのは、出会ってから三日目のことだ。
もちろん完治しているわけではないため、あまり無茶なことはさせられないが、ロズカルへの続く道のある街、シルヴァ―ナを目指して移動を再開。
傷の様子を見ながらの移動なので、進むのはゆっくりだったが、少しづつ、山脈伝いにレルガノスの南へと進んでいった。
■
エドとともに山道を歩いて行く。
山での生活も、移動を再開してすでに30日、戦場から逃げた日から数えれば、33日が経過していた。
移動は、かなり大変だった。
当たり前だが、道が整備されているわけではないし、街と比べれば、人が過ごしやすい環境ではない。
寝る時も野ざらしだし、雨が降ったときなんて、水で濡れて体温が奪われ、風邪をひいてしまいそうだった。
山にいる動物も脅威だ。
熊に追いかけられたり、猿みたいなやつらの集団に、うんこ投げられたりもした。
すぐに逃げて事なきを得たが、しつこく襲ってこなかったのは幸いだった。
他にも、毒を持った虫に刺されたり、毒蛇に咬まれたりもした。
すぐに体調が悪化して熱も出始めたが、 俺の覚えている二つ目の奇跡、【アンチドーテ】によって、何とか死なずに済んだ。
「解毒の奇跡覚えてなかったら、どうなってたことか」
俺の覚えている二つ目の奇跡、【アンチドーテ】。
効果は解毒だ。
覚えてから一度も使う機会がなかったくせに、ここにきて大活躍だった。
……俺の覚えてる魔法ってこんなのばっかりだな。
「その奇跡がなかったら、数日寝込んでいたかもしれませんね。体力が減っているときだったら、下手したらそのまま死んでたかもしれません」
エドはそのように言っていた。
やっぱり、山での生活は苛酷だな。
いろいろ災難にも見舞われたが、無駄に山暮らし向けの魔法を頼りに、何とかやっていた。
■
「ヴェロ、あれを見てください」
エドが遠くを指さした。
「……どれだ?」
指さした方向に目を向けるが、何かあるようには見えない。
「あれですよ。あの木の向こう側。家の屋根みたいなのが見えませんか?」
「屋根? ……あ、ひょっとしてあれか?よく見つけたなあんなの」
確かにエドの示す方に小さく屋根っぽいものが見えた。
だが、街で見かけたような石造りの屋根ではなく、茶色っぽい藁を乗せたみたいな屋根だった。
「なんだありゃ。ずいぶん原始的な家に見えるが」
「そうなんですか? 僕は詳しくないのでそこまではよくわかりませんけど」
「前に行軍してるときに立ち寄った村でも家の屋根は木製だったぜ?ちょっと近づいてみるか」
山の中での暮らしは快適とはいいがたいものだったので、少し離れたくなっていた。
ちょうどいい機会だし、一度降りてみたくなったのだ。
こうして偶然見かけた辺境の村?に立ち寄ることになった。
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移動に時間がかかり、山から下りて村に着くころには日もずいぶん傾いてしまった。
「ようやく山を抜けましたね」
「ああ、こうして平地に下りてくるのも久々な気がするな」
「ずっと移動しっぱなしでしたからね」
たどり着いたのは、畑と木造の家が広がる村だった。
いや、村というよりは、規模的に集落といった方が正しいかもしれない。
規模はだいたい30世帯もないくらいか。
とても小さい集落だ。
「……この家、竪穴住居じゃないか?」
なんと、集落には竪穴式住居だった。
初めて見た。
「この家って、竪穴住居っていうんですか? よく知ってますね」
「いや、俺も話に聞いたことがあるだけで、見るのは初めてだ」
集落にある住居が、全てがこの竪穴式住居というわけではないようで、村にあるような普通の家もあるというのに、なんでこんなものがあるんだ。
こんなの、開拓村でもめったに見ないらしいが。
「ずいぶん原始的な家に見えますね」
「辺境の村とか開拓村だと、こういうのも普通にあるもんなのかな」
「どうでしょう。僕も詳しくないので何とも。それより、何か様子がおかしくないですか?」
「ああ、焼けてるな。家が」
民家と思われる建物がほぼすべて焼失している。
火事の後かとも思ったが、集落全体の家が燃えているとなれば明らかに人為的なものだ。
「盗賊にでも襲われたのかな」
「かもしれません。もしかしたら、まだいるかもしれませんよ」
「人の気配はなさそうだけどな」
今のところ、人影は見られない。
家も燃えてから、時間がたっているように見える。
慎重に焼け残った家の中を捜索していく。
「……焼けた後しかないな」
「ヴェロ、ちょっとこれを見てください」
「なんだ? うぇ」
エドの声に従って目を向けると、人間の死体が転がっていた。
服などはすべて剥かれており、全裸だ。
死体は腐敗しており、死んでから結構時間がたっているようだ。
「裸に剥かれてるな」
「これ、矢で撃たれてますよ」
あたりを見回すと、そんな感じの死体がところどころに見られた。
「集落の住人が盗賊に襲われたってことかな」
「どうですかね、それにしても不自然な状況ですし」
「不自然って?」
「家が全部燃えてるところですよ。わざわざここまで徹底的にやりますか? 集落を滅ぼしたならすぐにどこかに行くか、自分たちの拠点にでもすればいいのに。わざわざ燃やす意味が分かりません」
「……確かにな。死体は腐ってきてるし、ここが襲われてしばらくたってると思うが、まだ近くにいるのかな。盗賊とか」
「可能性はあると思います。ずいぶん辺境の集落みたいですけど、人の住んでいた場所に違いありませんから」
「怖いな。適当に漁って、さっさと移動しよう」
俺たちは焼けた集落の探索を続けた。
ヴェロの使える魔法
魔術、奇跡、呪術は、全て魔法の一種という扱い。
魔術
【エクストラクション・ウォーター】
周囲の水分を抽出して水を作ることが出来る。
1回で大体100mlくらい。乾燥した場所だと少なくなる。
【イグニッション】
有効射程距離は4mくらい。
一定の範囲内の温度を上昇させる。
範囲は非常に狭く指の先程度の空間しかない。
発動中は発動している空間を動かすことはできない。
発動中は範囲外に温度が漏れず見た目にもほとんど変化がないため、魔術が発動していることに気づきにくい。
奇跡
【ヘモスタシス】
出血を止める。
【アンチドーテ】
解毒する。
呪術
【スリープ】
対象を眠らせる。
有効射程距離は10mくらい。
身体が大きく知能の高い相手には効果が薄い。