私はお金のためにダンジョンに潜っています…。って配信?いやいや、根暗女には無理ですよ…   作:しらいうつほ

4 / 7
3話

 私たちはダンジョン内部に入り、あたりを探索していく。

 

 おしゃべりを交えながら、2階層、3階層と順調に進んでいった。

 

 ――とはいえ、「おしゃべり」といっても内容はだいぶ講義めいていた。

 

「これはこういうモンスターの足跡で、そうすると天敵であるあのモンスターが近くにいるかもしれないから警戒しよう」

 

 なんて、モンスターの生態学と戦術講座を織り交ぜた“おしゃべり”だ。

 

 ともあれ、無事にあいりちゃんは私の手助けを借りつつモンスターを倒し、ついに初心者向けエリアである5階層最奥手前まで到達していた。

 

「今日はありがとうございました! いろいろ勉強になって、楽しかったです!」

 

「うん、たぶん今のあいりちゃんなら、ソロで5階層は余裕で攻略できると思うよ」

 

 ・こっちまで参考になっちゃったよ……

 ・へ〜トップってこうやって進んでいくんだ

 ・最初はただの変態かと思ったけど、やっぱトップなんだな……

 ・俺もダンジョン潜ろうかな……

 

 コメント欄も好評でなによりだ。

 

 最初に私が危惧していたような心ないコメントもなくて、本当に良かった。

 

 これで配信は終わり――楽しくやっていたからこそ、ちょっと寂しさすら感じていた。

 

 そして、あいりちゃんが今日の締めとしてエンディングトークを始めた、そのときだった。

 

 ――私たちの足元が、大きく揺れた。

 

「!?」

 

「これは……地震じゃない……!」

 

 ・なんだなんだ!?

 ・ダンジョンが揺れてる…………

 ・こんな事ある?

 ・見たことないな……

 

「ひ、ひかりさん……床が……!」

 

「あいりちゃん!」

 

 バリバリッと音を立てて床が割れ、そのまま私たちは下層へ落下した。

 

 

 気がつくと、あたりは真っ暗だった。

 

 あいりちゃんを追ってきたであろうドローンのライトが、かろうじて空間を照らしている。

 

「だ、大丈夫……? 怪我は……」

 

「わ、私は平気です……ひかりさんこそ……!」

 

 どうやら、軽い落下で済んだようだ。お互いにかすり傷ひとつない。

 

 私は周囲を見渡し、空間に人の手が入っていないことを確認する。

 

 私たちが普段冒険しているのは、すでに開拓された安全なルート。だから、中層階までは電気も通っていて、通信も可能だ。

 

 しかし、上層〜中層であっても、人の手が入っていない“未開拓領域”に迷い込むことがある。

 

 その原因は主に二つ。

 

 一つ目は、入り口が狭すぎて人が入れない構造であること。

 

 二つ目は、初心者でも上級者でも太刀打ちできないような、強力なモンスターが生息していること。

 

 おそらく私たちは、落下によって6階層の未開拓領域に迷い込んでしまったのだろう。

 

「おかしいな……5階層には、こんな初心者殺しの罠なんてなかったはずなのに……」

 

 頭を捻りながら状況を整理していると、あいりちゃんがドローンを見て声を上げた。

 

「えっ…………まだ配信、繋がってます……!」

 

 画面には、視聴者からのコメントが次々に流れている。

 

 ・おい大丈夫か!?

 ・落ちたぞ!? 放送事故!?

 ・やばくない? 

 

「……これは……大変なことになったね……」

 

 

「配信……続けますか?」

 

 あいりちゃんの声は震えていた。

 

 当然だ。初心者が未知の階層に落ちてしまったのだから、恐怖は計り知れない。

 

「……未開拓領域ではマップは役に立たない。自力で階段を見つけて、上層へ戻るしかないね」

 

「……戻れるんですか?」

 

「目の前にいるのが誰か、忘れた? ここのダンジョンのトップ冒険者だよ。大丈夫、あいりちゃんは私が絶対に無事に帰すから」

 

 あいりちゃんは驚いたように目を見開き、小さな声で「はい……」と頷いた。

 

 コメント欄には、応援の声が飛び交っている。

 

 ・ひかりさん……かっこいい……

 ・イケメンかよ……

 ・お姉様って呼ばせてもらっても?

 ・あいりちゃん! 無理しないでね!

 ・今、管理所に報告した! 人が出入りする場所なら助けが来るかも!

 

「とにかく、ここを早く脱出しよう。人のいる場所へ行こうか」

 

「分かりました……! 一応、配信はこのまま続けます。管理所の人が見てくれるかもしれないので!」

 

「うん、じゃあ行こう」

 

 私は腰の鞄から懐中電灯を取り出し、二人で暗闇に一歩を踏み出した。

 

 

 探索を始めてから、およそ一時間。

 

 腕時計で時間を確認しつつ、私はモンスターの構成が6階層のそれと同じであることを確認した。

 

 ただ、何より暗い。壁伝いに進むしかない。

 

 ――そのときだった。

 

 あいりちゃんの背後に、何かの気配を感じた。

 

 懐中電灯を向けると、そこには巨大なスライムのようなモンスター――ビックスライムが音もなく忍び寄っていた。

 

「あいりちゃん! 後ろ!」

 

「へ!? きゃあっ!」

 

 私はすかさず、鞄から小瓶を取り出し、中の浸透毒をビックスライムへ投げつけた。

 

 ――直撃。

 

 スライムの表面が、ジュッと音を立てて泡立つ。

 

「ビックスライムは浸透毒に弱い。これで核が露出する……あいりちゃん、そこにナイフを突き立てて!」

 

「は、はいっ!」

 

 あいりちゃんは、中心に浮かび上がった核にナイフを突き刺す。

 

 スライムは崩れ、霧散すると、鉱石をひとつ落とした。

 

「よし! やりました!」

 

「うん、よくできました」

 

 ……ただの6階層じゃない。今の、10階層のモンスター……?

 さっきの揺れといい、これはただのイレギュラーじゃない……。

 

 私は神経を研ぎ澄ませつつも、脱出の意識を途切れさせないよう前を向いた。

 

 

 それから30分後。

 

 ようやく、人工物がある通路――つまり、人の手が入っているエリアに到達した。

 

 未開拓領域の出入口は大きな岩で塞がれていたので、私が斬って開けた。

 

 ……豆腐のように、スパッと。

 

 あいりちゃんは口をあんぐりと開け、コメント欄は若干引き気味だった。

 

 ・ええ……

 ・強

 ・怖すぎ

 ・な、なんで双剣みたいな小さな刀身で岩を斬れるんですかね……?

 

 ……まあ、これは修行の賜物としか言いようがない。

 

 その後、管理所が私たちの異常事態を把握し、救助隊と無事に合流。

 

 配信を改めて締めくくり、事情聴取を経て解放されたころには、時計の針はすでに22時を回っていた。

 

 

「やば、早く帰らないと……」

 

「今日は本当にありがとうございました! 助けてくれて……!」

 

 あいりちゃんは深く頭を下げて、感謝の言葉を伝えてくる。

 

「はは、大丈夫だって」

 

「わ、私一人だったらって思うと……体が震えて……」

 

 無理もない。私だって、あんなイレギュラーは初めてだったのだから。

 

「でも、本当に……無事でよかったね」

 

「はい……! ひかりさん、すっごくカッコよかったです!」

 

 あいりちゃんは目尻に涙を浮かべながら、満面の笑顔を見せてくれた。

 

 うおっ……推しの笑顔、まぶしい……!

 

 私は出演報酬(イレギュラーに巻き込まれたので少し多め)を受け取り、それぞれ帰路についた。

 

 

 そういえば、配信……あんまり気にしてなかったけど、大丈夫だったかな……?

 

 家に帰ると、妹に遅くなったことを怒られ、ご飯と風呂を済ませて就寝。

 

 

 ──そして翌日。

 

 スマホからすごい勢いで通知が鳴り響く。

 

 その音で目が覚め、早朝にもかかわらず私は起き上がった。

 

「……なんだ、朝っぱらから……」

 

 メッセージアプリには、あいりちゃんからのメッセージが大量に届いていた。

 

『昨日の配信が、すごいことになってます……!』

 

 胸騒ぎを覚えながら、動画サイトのアプリを開く。

 

 そして――

 

「な、なにこれ……」

 

 そこには、私たちがイレギュラーに巻き込まれたときの冒険動画が、動画サイトのトレンドを独占している光景があったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。