私はお金のためにダンジョンに潜っています…。って配信?いやいや、根暗女には無理ですよ… 作:しらいうつほ
次から次へと流れてくる情報に、私は軽く目眩を感じていた。
どれもこれも、昨日の配信に関するものばかり。切り抜き動画や、ニュース配信系のストリーマーが、私たちの話題をあれこれと語っている。
冷や汗をかきながら、私は誰とも絡んでいない、推し活専用のSNSアカウントを開いた。
──その瞬間、目が点になる。
「……は?」
トレンドの上位、1位から10位のうち、7つが昨日の配信に関連するワードで埋め尽くされていた。
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#ひかりさん神
#あいりちゃん無事で良かった
#岩を斬る女
#女主人公ってこういうのだよね
#ダンジョン配信伝説回
#百合ですか?
#最推し確定
⸻
などなど、言葉を失うラインナップがずらり。
「な、なんで百合……?」
思わず声が漏れた。というか、全部なんで!?
昨日はただ配信して、ちょっと落ちて、無事に帰ってきただけじゃないか……!
「お姉ちゃーん、ごはんできたよー。……って、なにその顔」
部屋に入ってきた妹が、私の様子を見て怪訝な顔をしたあと、スマホの画面を覗き込むなり、吹き出した。
「すごっ! バズってるじゃんお姉ちゃん! めっちゃ話題になってるよ!? “岩スパーン女”って呼ばれてる〜!」
「や、やめて!? その呼び方だけはやめてぇ……!」
まさかの全国区デビュー。
朝から私は、頭を抱える羽目になった。
―――
そんなこんなで、学校が終わり、午後。
今日一日、学校でも私の話題で持ちきりだった。
普段まったく絡みのないクラスメイトにまで冷やかされて、教室では「岩スパーン女」とあだ名が定着しそうな勢い。もう無理、耐えられない。
(な、なんでこうなったんだ……!)
そして今、私は冒険者の管理所に呼び出され、応接室に座っている。
「いや〜、昨日の配信、ほんっとうにすごかったですね!」
そう声をかけてきたのは、いつも鉱石の換金でお世話になっている、金髪で胸の大きいお姉さん──望月さん。
満面の笑みで、両手を合わせて話しかけてくる。
私が苦笑いを浮かべると、すかさず続けてきた。
「一部始終は記録済みです。報告書にも使わせてもらいますが、それとは別に……できれば今後も配信を続けてほしい、との要請が上層から来ておりまして」
「……え?」
「正式に“配信者・ひかり”として、ダンジョン管理部からお願いです。“あのレベルの冒険者が新人指導している姿は非常に貴重”とのことでして」
ありがたいのか、面倒なのか、よく分からない提案に、私は内心でため息をつく。
(……目立つの、苦手なんだけどなあ)
「もちろん、あくまでお願いですので、配信をやるかやらないかは、ひかりさんにお任せしますよ」
そう言って、望月さんはいつもの営業スマイルで話を締めくくった。
―――
管理所のロビーを歩いていると、すれ違う冒険者たちが軽い歓声を上げてきた。
「ひかりさーん! 昨日の配信、めっちゃかっこよかったです!」
「切り抜き、何回も見ました!」
「岩切れるなんてすごいっすね! 今度俺のスパーンもお願いしまーす!」
「しません」
(なんなんだコイツら。いたいけな女子高生をからかって楽しいのか……!?)
ちょっとした有名人扱いに、心がまったく休まらない。
そんな時──。
ロビーの向こうから歩いてきた、見慣れた人影に私は思わず足を止めた。
「あいりちゃん……!」
「ひかりさん……!」
彼女は手を振って、少し照れたような笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「昨日は、本当にありがとうございました……あの、動画、すごいことになってて……」
「うん、私も朝から妹とクラスメイトにからかわれたよ。ほんと、すごいことになってるね」
二人で顔を見合わせて、自然と笑ってしまう。
「その……もしよかったらなんですけど……また、一緒にダンジョンに潜ってくれませんか……?」
あいりちゃんが、少し不安そうに、けれど期待に満ちた目でそう尋ねてきた。
「あ、あの! 配信とか関係なくて……昨日、一緒に戦って……その……すごく楽しかったから……」
慌てながら言葉を繋ぐその姿に、私は思わず目を細める。
「……うん。考えとく」
「……はいっ!」
彼女の笑顔が、思った以上にまぶしかった。
ロビーのベンチに座っている間にも、SNSでは「ひかり×あいり」のファンアートや、動画サイトでは切り抜き動画が続々と投稿されているらしい。
ついには、妹からメッセージアプリに通知が届く。
「お姉ちゃん、今“あいりの騎士”って呼ばれてるよ」
「……誰が騎士だ。誰が……」
私はため息をつきながら、スマホの通知をオフにした。
──でもまあ。
あいりちゃんがまた、あんなふうに笑ってくれるなら……
もう一回くらい、付き合ってあげてもいいかな。