私はお金のためにダンジョンに潜っています…。って配信?いやいや、根暗女には無理ですよ… 作:しらいうつほ
放課後、私はいつものようにダンジョン管理所へ向かい、今日の分の稼ぎのノルマを達成した。
最近は妹の容態も落ち着いてきて、医者から「まず心配はない」とお墨付きももらった。
──けれど、まだ油断はできない。
私はちゃんと自立して、家計を支え続けなければならない。そう、自分に言い聞かせながらロビーへ向かうと、ひときわ大きな声が響いた。
「いたっ! やっと見つけた! 私のライバル、ひかり!」
大声と共に現れたのは、強烈な存在感を放つ銀髪の女性。
肩までの髪は外ハネで、軽く巻かれ、片方は星型のヘアピンで留められている。目を引く派手さだ。
そして、何よりも目立つのがその服装。
胸元が大胆に開いた黒のビスチェに、ミニスカート。ニーハイソックスと厚底ブーツ、腰には装飾の施された赤黒い剣を斜めに差していた。
……明らかに、やばい人だ。
なんで私に話しかけてきてるんだ? 怖い。
「……だ、誰?」
「ひどーい! その言い方、すっごく傷つく!! 去年の模擬戦大会で、あなたにボコボコにされたカレン様よ!」
「…………?」
「本当に忘れてるのッ!?」
……うん、なんかちょっとだけ思い出してきた。
ああ、そういえばいた。勢いだけで突っ込んできて、私が三分で叩きのめした相手が。
「……ああ」
「その『ああ』がもう! 私の人生に刻まれた屈辱の記憶を、そんな適当な感じで流さないでほしい!」
「で、その方がなぜ私に?」
「いやいや、そろそろ再戦の時かなって! 運命のライバル再会ってやつ!」
「勝手に一人で到達しないでくれませんか」
頭痛がしてきた。
模擬戦大会。
それは、都市主催で全国規模で行われる年に一度の大イベント。冒険者たちが腕を競い合い、観客も配信も入り、人気と実力を同時にアピールできるチャンスの場だ。
去年、私は年齢を偽ってダンジョンに潜ったことの“罰”として、都市の管理者から出場を強要され、泣く泣く参加。身バレを避けるために仮面を被って出場し、そして、優勝した。
強要してきた理由は、なんか、優勝賞品の物品がどうしても欲しかったので取ってきて欲しいとの事だった。
この人は確か、その時の三回戦あたりで当たった相手だった気がする。
「配信で見た時、声と体格から、絶対この子だって思ったわ!」
名探偵か?
「覚えてる? 私が豪快に剣を振り回してたら、ひかりが目視できない速度で背後に立ってたやつ!」
……覚えてるも何も、全試合そんな感じだった。おかげで「つまんなくね?」と観客に言われた悲しい記憶だけが強く残っている。
「まあ、ギフトの効果もあるし、あなたも強かったような気がします」
「えへへ、まぁね! あなたに当たるまでは全部一撃で倒してたし!」
「はい、それでは──」
「ちょっとぉ!? せっかく再会したんだから、もう少し話そうよ! 私たちのライバル関係についてとか!」
……本当に勘弁してほしい。
終始圧倒的テンションの彼女は、ぐいっと距離を詰めてきた。目の前に黒のビスチェの谷間が強調される。
「ていうか、今日の私服どう? ダンジョン向けの戦闘用なんだけど、デザイン重視で選んだの! 見る目あるでしょ?」
「……それ、風邪ひかない?」
「えっ!? そこ!? ドヤ顔するほどのセンスなのに!? ちょっと! これ超高かったんだからね!? 某有名デザイナーに依頼して、動きやすさと映えを両立させた、カレン様オリジナルスタイルなんだから!」
あ、うん。お金持ちなようで、なによりです。
そんなやりとりをしていると、周囲の声が耳に入ってきた。
「おい……あれ、カレンさんじゃね?」
「配信者の!? マジ!? 隣にいるのって騎士様じゃん」
「……百合か?」
どうやら、彼女は有名配信者だったらしい。
やばい、これ以上目立ったら……。
逃げたい、逃げたい、逃げたい。
そんな思考がぐるぐるする中、背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あ、ひかりさん……こんにちは……」
あいりちゃんだ。
ダンジョン用の服に、リュック姿。だが、声の最後の方が、少し沈んでいたような──?
「……あれ? この子が噂の“ひかりの姫様”?」
カレンがニヤニヤと私とあいりちゃんを交互に見ながら言う。
「騎士と姫、でしょ? SNSで見た見た~。めっちゃ再生数伸びてたじゃん?」
「やめろ、それ以上口にするな」
思わずタメ口になった。
しかしカレンは意に介さず続ける。
「え~? でもなんか、すっごい仲良さそうじゃない? ダンジョンデートとか、しちゃったりして?」
「してない。やめてください」
「ほんと~? じゃあ今日は私とダンジョン行こ!」
「もう行ってきたので……大丈夫です」
「あの……この方……有名配信者のカレンさん、ですよね?」
「もしかして、あいりちゃんも私のファン? 嬉しい~!」
カレンは体をくねらせながら喜ぶが、あいりちゃんはどこか困ったような表情を浮かべている。
「こんな……有名な人と知り合いなんて、ひかりさんってやっぱり……すごいんですね……」
表情は笑顔。でも、その目はどこか揺れていた。
「いや、違う。むしろ全力で避けたい」
「ひど!?」
「聞こえるように言ってます」
「悪口!? ま、まあいいわ! 今日はひかりに会えただけで満足! それじゃ、またね! 私のライバル!」
カレンは投げキッスをしながら去っていった。
……なんなんだ、あのコミュ力の塊は。
私は、どっと疲労感を覚えつつ、ふと横にいるあいりちゃんの方を見た。
「あいりちゃん、どうしたの? なんだか元気ないみたいだけど」
「え!? いや、その……ひかりさんと、さっきの方……仲良しなんだなって……」
まったく仲良くない。さっきまで顔も思い出してなかったし、もう二度と会いたくないレベルだ。
「やっぱり、ひかりさんは……ああいう人と、配信……したいですか?」
少ししょんぼりとした表情で、あいりちゃんが私を見つめる。
「え? まったく? 配信するなら、あいりちゃんと一緒がいい。落ち着くし」
即答だった。
あのテンションの人となんて無理。絶対無理。
そう伝えると、あいりちゃんは頬を少し染めながら、私と目を逸らしつつ小さな声で言った。
「そ、そんなこと……さらっと言わないでください……っ」
──推しが、今日も、可愛い。
⸻
その日の夜。
あの現場を偶然見かけた誰かが、私たちの姿をこっそり撮影し、SNSにアップしていた。
結果、SNSはこうなった。
・カレン様、襲来!?
・ひかりさんのハーレム百合!?
・あいりちゃん、これ嫉妬してね?
・あいりちゃんの照れ顔が尊すぎる
「……ネット、滅びろ……」
私は盗撮アカウントを通報し、スマホを布団に投げる。
その直後、スマホに通知が届いた。
あいりちゃんからだ。
『また、一緒に配信やりませんか?』
少し悩んで、でも──
今、人気が上がっているあいりちゃんの配信を、私が支えられるなら。
あと、報酬も出るし。
「いいよ」
短く、そう返信したのだった。