システムエンジニアと迷いし少女の物語   作:書との契約者

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第14話:インターフェースの蹉跌

「電気を、魔力に……」

 

俺が提示した、その突拍子もない仮説は、司令室の科学者たちを新たな熱狂の渦に叩き込んでいた。

彼らの目は、まるで未知の鉱脈を発見した探鉱者のようにギラギラと輝き、互いの意見が火花を散らすように飛び交う。

先ほどまでの絶望的な沈黙が嘘のようだ。

 

「どうやって電気を魔力に変換する? どのような形で電気エネルギーを導入すれば、リュナ君の魔力と干渉させられる?」

「高電圧パルスを直接流し込むか? いや、それでは生体反応への影響が大きすぎる! 感電死させるだけだ!」

「電磁誘導による非接触でのエネルギー伝達はどうか? 制御は難しいが、人体への直接的なリスクは避けられる!」

「そもそも、直流か交流か、そこから議論すべきだろう! 魔力という未知のエネルギーが、どちらの性質に近いのか、データが全くないんだぞ!」

 

議論が白熱する中、牧原先輩がパン、と一度だけ手を叩き、全員を制した。

その音は、熱狂する司令室に驚くほど大きく響いた。

「落ち着け。議論は重要だが、今は机上の空論を重ねている時間はない。インターフェースはあるだろう」

 

彼の視線の先には、リュナの傍らに置かれた、あの『賢者の杖』があった。

その美しい工芸品は、科学者たちの熱っぽい視線を受け、静かに青い光を放っている。

 

「この杖が魔力を扱うインターフェースとなるなら、電気を魔力に変換する際にも、何らかの役割を果たすかもしれん。

まずは、この杖に直接、低圧の電流を流し、リュナ君に魔力の流れを感じてもらう。

そこからだ。インプットに対するアウトプットの変化を観測し、パラメータを調整していく。我々がいつもやっていることだろう」

 

その、あまりにも実践的で、そしてある意味で乱暴な提案に、杖の持ち主である若い研究員は、顔からサッと血の気が引くのを感じた。

彼の愛する『賢者の杖』に、科学的な、それも得体のしれない改造を施すなど、想像もしていなかったことだ。

数十万もした、あの美しい工芸品に、無骨な電極を取り付けるだと?

だが、都市の存亡がかかったこの状況で、彼に首を横に振る選択肢はなかった。

唇を強く噛みしめ、彼は小さく、ほとんど誰にも見えないように頷いた。

 

シールドルームには、巨大な制御装置が運び込まれ、その中心には『賢者の杖』が、まるで祭壇に捧げられた生贄のように据えられていた。

 

研究員たちは、まるで宝物を扱うかのように慎重に、その神々しい黒檀の本体に、杖全体に電気が通るように無骨な金属製の電極を取り付けていく。

そこから伸びた何本ものケーブルが、まるで生命維持装置のように制御装置へと繋がれていく。

 

その手つきは、科学者としての知的好奇心と、この都市の未来を賭けた、確かな高揚感に満ちていた。

俺もまた、その光景を固唾をのんで見守っていた。

 

リュナは、その異様な光景を不安げに見つめていた。彼女の世界では、魔法の杖は神聖なものだ。

こんな乱暴な手の加え方をしたら、きっと杖が秘めている力が失われてしまう。

 

「本当だったら、もっとしっかりとした魔道工房で、専門の職人さんが何日もかけて調整するんですよ……こんな……」

今にも泣き出しそうな顔で呟く彼女の肩を、俺はそっと叩いた。大丈夫だ、と声をかけることしかできなかった。

 

「……リュナ君、頼む」

牧原先輩の静かな声に、リュナは悲しげな目で杖を見つめながら、こくりと頷いた。彼女が震える手で杖を握り、研究員が制御装置のスイッチを入れる。

 

ジジッ、と耳障りなノイズが走り、杖に微弱な電流が流れた。

その瞬間、リュナの顔が苦痛に歪み、思わず杖を取り落とした。

 

「きゃっ……!」

杖は床に転がり、先端の青い水晶は鈍く光るばかりで、これまで感じられた魔力の温かい気配は一切感じられない。

まるで、魂が抜け落ちてしまったかのように。

 

リュナは震える手で再び杖を拾い上げ、祈るように握りしめる。

そして、先ほどと同じように、壁の一点に意識を集中し、魔法を放つイメージを固めた。

しかし、足元に魔法陣が展開されることはなく、杖から光が放たれることもない。

ただ、冷たい木の棒がそこにあるだけだった。

 

「……どうだね?」

牧原先輩の問いに、リュナは力なく首を横に振った。その瞳には、絶望の色が滲んでいた。

 

「……何も、感じません。ただの、少しピリピリする木の棒です。魔力の流れが……消えています」

 

その言葉は、シールドルームに満ちていた高揚感を、一瞬にして凍りつかせた。

だが、誰も諦めようとはしない。まだ、希望はあるはずだ。

 

「出力が足りないのかもしれない! もう少しだけ上げてみよう!」

「待て、危険だ!」

俺の制止も聞かず、研究員が焦ってダイヤルを回した、その瞬間。

 

パキン、と乾いた、嫌な音を立てて、杖の先端についていた青い水晶に、大きな亀裂が入った。黒檀の本体にも電圧が走り、火花が散る。

水晶の亀裂は瞬く間に広がり、それまで内部に宿っていたかのような淡い光が、ふっ、と消える。

まるで、命の灯が消えたかのように。

 

「あ……ああ……」

杖の持ち主である若い研究員が、膝から崩れ落ちた。その目には、うっすらと涙が浮かんでいる。

「僕の……僕の賢者の杖が……。完璧な工芸品だったのに……ただ光るだけのおもちゃとは違う、本物だったのに……」

 

その、彼の悲痛な呟きの中の「光るだけのおもちゃ」という一言が、俺の頭に、まるで雷のように突き刺さった。

 

(光る、おもちゃ……?)

 

俺は、弾かれたように、シールドルームの隅に転がっていた、あのピンク色の杖へと駆け寄った。

あの黒檀の杖以外に唯一反応があったが、誰一人見向きもしなくなっていた杖だ。

それを拾い上げ、まじまじと見る。ハートの装飾、プラスチックの質感。そして、そのグリップ部分に、小さなネジで留められた、四角い蓋があることに、俺は初めて気づいた。

 

「……電池……」

俺の口から、無意識に言葉が漏れた。

「牧原先輩! この杖……! これを持ってきた研究員の方は、『ボタンを押せば光って音が鳴る』と言っていました! つまり、この杖は、元から……!」

 

俺の言葉に、牧原先輩が、まるでパズルの最後のピースが嵌まったかのように、目を見開いた。

 

「……そうか」

牧原先輩の声が、震えていた。

「我々は何をしていたんだ……。存在しない回路を、魔力というブラックボックスに無理やり作ろうとして、最高の素材を壊してしまった……。だが、あそこには……」

 

彼の視線の先で、ピンク色のハートの杖が、静かに光を放っている。

 

「このおもちゃには、元から『電気で動く』という概念が組み込まれているじゃないか……!」

 

それは、灯台下暗し、というにはあまりにも巨大な見落としだった。

俺たちが追い求めていた「電気を魔法的な現象に変換する回路」は、最初から、俺たちの目の前にあったのだ。

ただの「おもちゃ」という、先入観に隠されて。  

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