「―――車両停止! 最終防衛ラインに到達した! これより我々は、指揮官の指揮下に入り防衛ラインを立て直す!」
大型装甲トラックが急停止する。だが、俺たちが目にしたのは、もはや「防衛ライン」と呼べるような代物ではなかった。
黒煙を上げるパワードスーツの残骸。散乱する薬莢。
そして、その中央で、三体の大型魔獣(シルヴァ・マンティス)が、残存するヴァンガード部隊を蹂躙していた。
「間に合わなかったか……!」
部隊長が、悔しそうに呟く。
だが、俺の隣にいたリュナは、静かに首を横に振った。
「いいえ。―――まだ、間に合います」
彼女は、トラックの荷台に積まれていた、予備のバッテリーパックに直結された『魔法少女の杖』を、静かに構えた。
「愁也さん。詠唱の間、援護を」
「……ああ、任せろ!」
俺は暴徒鎮圧用のシールドを構え、彼女の前に立つ。
リュナは、深く息を吸い込むと、これまでとは比較にならないほど長く、複雑な詠唱を始めた。
杖に流れ込む膨大な電力に呼応するように、彼女の足元に描かれる魔法陣は、トラックの荷台を覆い尽くさんばかりに広がっていく。
リュナが詠唱を始めた瞬間、俺は肌が粟立つのを感じた。
これまでとは比較にならないほどのエネルギーが、一点に収束していく。
「まずい……!」
俺は、近くでまだ戦っているヴァンガード部隊に向かって、インカムで叫んだ。
「全員、伏せろ! 何か、とんでもないのが来るぞ!」
俺の唐突な叫びに、兵士たちは一瞬戸惑う。
だが、次の瞬間、世界は白い光に飲み込まれた。
杖が、けたたましい音声を鳴らし始めた。
『ふぁいなる! みらくる! ふらーっしゅ!』
「―――インフェルノ・バースト!!」
リュナの叫びと同時に、杖の先端から、純白の光の奔流が放たれた。
それは、夜を昼に変えるほどの閃光となって戦場を駆け抜け、大型魔獣の一体に直撃した。
断末魔の叫びを上げる間もなく、魔獣の黒い外殻が融解し、内部から爆散する。凄まじい熱と光が、戦場全体を飲み込んだ。
数秒後、光が収まった時、そこには何も残っていなかった。
ただ、アスファルトがガラス化して、きらきらと輝いているだけだった。
最前線の兵士たちが、何が起こったのか理解できずに、呆然と立ち尽くしている。
だが、敵の脅威が全て去ったわけではない。
残った二体の大型魔獣は警戒するように後ずさっているが、周囲の小型魔獣たちが、我に返ってこちらへ殺到し始めていた。
「……やったか」
俺が呆然と呟くと、リュナはこくりと頷いた。
彼女の額には玉の汗が浮かび、肩で大きく息をしている。
インフェルノ・バーストを放った杖は、バチバチと火花を散らし、グリップの部分がどろりと溶け落ちていた。
彼女は、躊躇なくそれを投げ捨てると、俺に向かって叫んだ。
「次を! バッテリーも交換してください!」
俺と護衛兵の一人が、慌てて箱から新しい杖を取り出し、新品のバッテリーを接続する。
それを受け取るやいなや、リュナは詠唱を始める。
「フレイムアロー!」
『きゅぴーん☆』
杖から放たれた炎の矢が、殺到する小型魔獣の群れの先頭を焼き払う。
「フレイムアロー!」
『らぱん・あたっく!』
続けざまに放たれた炎が、敵の第二陣を薙ぎ払った。
その光景は、偶然その宙域を飛んでいた報道ドローンによって、完全に捉えられていた。
『な、なんだ今の光は!? 正体不明の攻撃により、大型個体の一体を……撃破! ……おおっと、今度は別の武器か!? 攻撃を再開しました! 音声も拾っています! なんだこの陽気な音は!?』
アナウンサーの興奮した声と共に、その映像は瞬く間にネットを通じて拡散された。
『学術都市チャンネル』のスレッドは、サーバーが落ちかねないほどの勢いで加速していく。
【学術都市ch】第7ブロック、もうだめぽ 32スレ目
225: 名無しの市民さん
ん?
226: 名無しの市民さん
は?
228: 名無しの市民さん
なんだ今の光!? 誤射? 新兵器か!?
...
241: 名無しの市民さん
おい、中継見てみろ! トラックの上に女の子いなかったか!?
245: 名無しの市民さん
マジだ! コスプレしてるぞ!
250: 名無しの市民さん
特定班仕事しろ!
258: 名無しの市民さん
特定した。衣装は『エルダー・クロニクル』の主人公、女賢者リディアだな。間違いない。
266: 名無しの市民さん
>>258 杖が違う! 杖は『魔法少女ミラクル・ラパン』のやつだぞwww
271: 名無しの市民さん
なんだそのキメラコスプレwww 趣味悪すぎだろwww
275: 名無しの市民さん
リディアの格好でラパンの杖とか、解釈違いなんだが……。
278: 名無しの市民さん
>>275 うるせえ! 可愛いから正義だろ!
...
290: 名無しの市民さん
【緊急速報】量販店店員俺、ガチで防衛部隊の連中がおもちゃコーナーでラパンの杖を必死の形相で買い占めてて草生えた。正気かよって思ったわ。
なお金はきちんと払って言った模様
292: 名無しの市民さん
>>290 は?
293: 名無しの市民さん
>>290 マジかよwwwwwwww
295: 名無しの市民さん
>>290 繋がった…………
...
310: 名無しの市民さん
待て、よく見ろ。杖にケーブル繋がってないか? その先、トラックの荷台にあるのって……
313: 名無しの市民さん
>>310 まじだ。あれ、ヴァンガード用のバッテリーパックじゃね?
318: 名無しの市民さん
【考察班】つまり、杖はただのガワで、軍用のクソでかいバッテリーから電力供給して何かを撃ってる……?
325: 名無しの市民さん
>>318 天才か。なるほど、だからあんな威力なのか!
...
350: 名無しの市民さん
音声きたああああああああああ!
351: 名無しの市民さん
きゅぴーん☆
352: 名無しの市民さん
待ってwwwwwこれミラクル・ラパンの杖のSE(サウンドエフェクト)じゃんwwwww
353: 名無しの市民さん
持ってるから分かるわwww 間違いないwww
361: 名無しの市民さん
マジのおもちゃで戦ってんのかよwwwww
...
388: 名無しの市民さん
おい! 杖捨てたぞ! 溶けてる!
389: 名無しの市民さん
新しいの出したwww 使い捨てかよwww
395: 名無しの市民さん
連射してるwwwww
403: 名無しの市民さん
らぱん・あたっく! って聞こえたぞwwwww
412: 名無しの市民さん
完全に魔砲少女の戦い方じゃん……
415: 名無しの市民さん
いや、あの真剣な表情、凛とした立ち姿は賢者リディアそのものだろ。
420: 名無しの市民さん
【悲報】我々の世界の命運、玩具メーカーに握られる
444: 名無しの市民さん
【速報】俺たちの税金、魔法少女になっていた(確信)
...
501: 名無しの市民さん
つまり、俺たちの「ラパンを愛する想い」が怪獣を倒したってこと?
502: 名無しの市民さん
>>501 胸熱
...
555: 名無しの市民さん
祭りだああああああ! ラパンちゃんがんばえええええええ!
560: 名無しの市民さん
リディア様と呼べ!
580: 名無しの市民さん
もうこの子を女神として崇めようぜ。
588: 名無しの市民さん
ラパン派とリディア派の宗教戦争が始まるぞw
595: 名無しの市民さん
よし、俺は『魔法賢者ラパン・リディア』と呼ぶことにする(折衷案)
...
651: 名無しの市民さん
どうせ軍のヤラセだろ。新型兵器のプロモーション。
652: 名無しの市民さん
>>651 こんな手の込んだプロモやるかよw 命かかってんだぞw
「……隊長!」
俺は、我に返って、トラックを指揮していた部隊長に駆け寄った。
「今です! 今なら、敵の数も減らせたし防衛ラインの再編も進んでます! この隙に、本隊でSPトレンドシュア社ビルに突入できませんか!? 原因は、間違いなくあそこです!」
俺の、あの始まりの日のあの場所を見たからこそ言える、確信に満ちた提案。
部隊長は、ハッとした顔で頷くと、すぐに指示を飛ばした。
「全機、続け! 目標、SPトレンドシュア社!」
俺は、初めての戦場で疲弊したリュナの肩を支えながら、トラックに乗り込んだ。
始まりの場所で、今、本当の戦いが始まろうとしていた。
そして、俺たちの存在が、良くも悪くも、全世界に知られてしまったことを、俺はまだ知らなかった。