システムエンジニアと迷いし少女の物語   作:書との契約者

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第19話:戦場の魔法少女

「―――車両停止! 最終防衛ラインに到達した! これより我々は、指揮官の指揮下に入り防衛ラインを立て直す!」

 

 大型装甲トラックが急停止する。だが、俺たちが目にしたのは、もはや「防衛ライン」と呼べるような代物ではなかった。

 黒煙を上げるパワードスーツの残骸。散乱する薬莢。

 そして、その中央で、三体の大型魔獣(シルヴァ・マンティス)が、残存するヴァンガード部隊を蹂躙していた。

 

「間に合わなかったか……!」

 部隊長が、悔しそうに呟く。

 だが、俺の隣にいたリュナは、静かに首を横に振った。

 

「いいえ。―――まだ、間に合います」

 

 彼女は、トラックの荷台に積まれていた、予備のバッテリーパックに直結された『魔法少女の杖』を、静かに構えた。

「愁也さん。詠唱の間、援護を」

「……ああ、任せろ!」

 

 俺は暴徒鎮圧用のシールドを構え、彼女の前に立つ。

 リュナは、深く息を吸い込むと、これまでとは比較にならないほど長く、複雑な詠唱を始めた。

 杖に流れ込む膨大な電力に呼応するように、彼女の足元に描かれる魔法陣は、トラックの荷台を覆い尽くさんばかりに広がっていく。

 

 リュナが詠唱を始めた瞬間、俺は肌が粟立つのを感じた。

 これまでとは比較にならないほどのエネルギーが、一点に収束していく。

 

「まずい……!」

 俺は、近くでまだ戦っているヴァンガード部隊に向かって、インカムで叫んだ。

「全員、伏せろ! 何か、とんでもないのが来るぞ!」

 俺の唐突な叫びに、兵士たちは一瞬戸惑う。

 だが、次の瞬間、世界は白い光に飲み込まれた。

 

 杖が、けたたましい音声を鳴らし始めた。

 

『ふぁいなる! みらくる! ふらーっしゅ!』

 

「―――インフェルノ・バースト!!」

 

 リュナの叫びと同時に、杖の先端から、純白の光の奔流が放たれた。

 それは、夜を昼に変えるほどの閃光となって戦場を駆け抜け、大型魔獣の一体に直撃した。

 断末魔の叫びを上げる間もなく、魔獣の黒い外殻が融解し、内部から爆散する。凄まじい熱と光が、戦場全体を飲み込んだ。

 

 数秒後、光が収まった時、そこには何も残っていなかった。

 ただ、アスファルトがガラス化して、きらきらと輝いているだけだった。

 

 最前線の兵士たちが、何が起こったのか理解できずに、呆然と立ち尽くしている。

 だが、敵の脅威が全て去ったわけではない。

 残った二体の大型魔獣は警戒するように後ずさっているが、周囲の小型魔獣たちが、我に返ってこちらへ殺到し始めていた。

 

「……やったか」

 俺が呆然と呟くと、リュナはこくりと頷いた。

 彼女の額には玉の汗が浮かび、肩で大きく息をしている。

 インフェルノ・バーストを放った杖は、バチバチと火花を散らし、グリップの部分がどろりと溶け落ちていた。

 彼女は、躊躇なくそれを投げ捨てると、俺に向かって叫んだ。

「次を! バッテリーも交換してください!」

 

 俺と護衛兵の一人が、慌てて箱から新しい杖を取り出し、新品のバッテリーを接続する。

 それを受け取るやいなや、リュナは詠唱を始める。

 

「フレイムアロー!」

『きゅぴーん☆』

 杖から放たれた炎の矢が、殺到する小型魔獣の群れの先頭を焼き払う。

「フレイムアロー!」

『らぱん・あたっく!』

 続けざまに放たれた炎が、敵の第二陣を薙ぎ払った。

 

 その光景は、偶然その宙域を飛んでいた報道ドローンによって、完全に捉えられていた。

 

『な、なんだ今の光は!? 正体不明の攻撃により、大型個体の一体を……撃破! ……おおっと、今度は別の武器か!? 攻撃を再開しました! 音声も拾っています! なんだこの陽気な音は!?』

 

 アナウンサーの興奮した声と共に、その映像は瞬く間にネットを通じて拡散された。

『学術都市チャンネル』のスレッドは、サーバーが落ちかねないほどの勢いで加速していく。

 

【学術都市ch】第7ブロック、もうだめぽ 32スレ目

 

 225: 名無しの市民さん

 ん?

 

 226: 名無しの市民さん

 は?

 

 228: 名無しの市民さん

 なんだ今の光!? 誤射? 新兵器か!?

 

 ...

 

 241: 名無しの市民さん

 おい、中継見てみろ! トラックの上に女の子いなかったか!?

 

 245: 名無しの市民さん

 マジだ! コスプレしてるぞ!

 

 250: 名無しの市民さん

 特定班仕事しろ!

 

 258: 名無しの市民さん

 特定した。衣装は『エルダー・クロニクル』の主人公、女賢者リディアだな。間違いない。

 

 266: 名無しの市民さん

 >>258 杖が違う! 杖は『魔法少女ミラクル・ラパン』のやつだぞwww

 

 271: 名無しの市民さん

 なんだそのキメラコスプレwww 趣味悪すぎだろwww

 

 275: 名無しの市民さん

 リディアの格好でラパンの杖とか、解釈違いなんだが……。

 

 278: 名無しの市民さん

 >>275 うるせえ! 可愛いから正義だろ!

 

 ...

 

 290: 名無しの市民さん

【緊急速報】量販店店員俺、ガチで防衛部隊の連中がおもちゃコーナーでラパンの杖を必死の形相で買い占めてて草生えた。正気かよって思ったわ。

 なお金はきちんと払って言った模様

 

 292: 名無しの市民さん

 >>290 は?

 

 293: 名無しの市民さん

 >>290 マジかよwwwwwwww

 

 295: 名無しの市民さん

 >>290 繋がった…………

 

 ...

 

 310: 名無しの市民さん

 待て、よく見ろ。杖にケーブル繋がってないか? その先、トラックの荷台にあるのって……

 

 313: 名無しの市民さん

 >>310 まじだ。あれ、ヴァンガード用のバッテリーパックじゃね?

 

 318: 名無しの市民さん

【考察班】つまり、杖はただのガワで、軍用のクソでかいバッテリーから電力供給して何かを撃ってる……?

 

 325: 名無しの市民さん

 >>318 天才か。なるほど、だからあんな威力なのか!

 

 ...

 

 350: 名無しの市民さん

 音声きたああああああああああ!

 

 351: 名無しの市民さん

 きゅぴーん☆

 

 352: 名無しの市民さん

 待ってwwwwwこれミラクル・ラパンの杖のSE(サウンドエフェクト)じゃんwwwww

 

 353: 名無しの市民さん

 持ってるから分かるわwww 間違いないwww

 

 361: 名無しの市民さん

 マジのおもちゃで戦ってんのかよwwwww

 

 ...

 

 388: 名無しの市民さん

 おい! 杖捨てたぞ! 溶けてる!

 

 389: 名無しの市民さん

 新しいの出したwww 使い捨てかよwww

 

 395: 名無しの市民さん

 連射してるwwwww

 

 403: 名無しの市民さん

 らぱん・あたっく! って聞こえたぞwwwww

 

 412: 名無しの市民さん

 完全に魔砲少女の戦い方じゃん……

 

 415: 名無しの市民さん

 いや、あの真剣な表情、凛とした立ち姿は賢者リディアそのものだろ。

 

 420: 名無しの市民さん

【悲報】我々の世界の命運、玩具メーカーに握られる

 

 444: 名無しの市民さん

【速報】俺たちの税金、魔法少女になっていた(確信)

 

 ...

 

 501: 名無しの市民さん

 つまり、俺たちの「ラパンを愛する想い」が怪獣を倒したってこと?

 

 502: 名無しの市民さん

 >>501 胸熱

 

 ...

 

 555: 名無しの市民さん

 祭りだああああああ! ラパンちゃんがんばえええええええ!

 

 560: 名無しの市民さん

 リディア様と呼べ!

 

 580: 名無しの市民さん

 もうこの子を女神として崇めようぜ。

 

 588: 名無しの市民さん

 ラパン派とリディア派の宗教戦争が始まるぞw

 

 595: 名無しの市民さん

 よし、俺は『魔法賢者ラパン・リディア』と呼ぶことにする(折衷案)

 

 ...

 

 651: 名無しの市民さん

 どうせ軍のヤラセだろ。新型兵器のプロモーション。

 

 652: 名無しの市民さん

 >>651 こんな手の込んだプロモやるかよw 命かかってんだぞw

 

「……隊長!」

 俺は、我に返って、トラックを指揮していた部隊長に駆け寄った。

 

「今です! 今なら、敵の数も減らせたし防衛ラインの再編も進んでます! この隙に、本隊でSPトレンドシュア社ビルに突入できませんか!? 原因は、間違いなくあそこです!」

 

 俺の、あの始まりの日のあの場所を見たからこそ言える、確信に満ちた提案。

 部隊長は、ハッとした顔で頷くと、すぐに指示を飛ばした。

「全機、続け! 目標、SPトレンドシュア社!」

 

 俺は、初めての戦場で疲弊したリュナの肩を支えながら、トラックに乗り込んだ。

 始まりの場所で、今、本当の戦いが始まろうとしていた。

 そして、俺たちの存在が、良くも悪くも、全世界に知られてしまったことを、俺はまだ知らなかった。

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