システムエンジニアと迷いし少女の物語   作:書との契約者

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第20話:強行突入

「―――目標、SPトレンドシュア社! 全機、最大戦速! 」

 

 部隊長の、どこか吹っ切れたような号令が飛ぶ。

 トラックを走らせようとすると、後退していたシルヴァ・マンティスがこちらに来るようなしぐさを見せる。

 トラックの速度なら確かに無視できる……だが……。

 

「待ってください! 残りの二体も叩きます! あれを放置すれば、防衛ラインの再編の意味がない!」

 俺は、仲間が消し飛んだことに警戒し、距離を置いていた残りの二体の大型魔獣(シルヴァ・マンティス)を指さした。

 あれも鎌を振りかざしながらこちらに向かってきている。

 

「正気か!?」

 部隊長が、苦渋の表情で俺を見る。

 

「我々の切り札は、弾数制限があるんだぞ!防衛部隊も、まだやれる!」

「このままビルに突入するのは、最低限の安全マージンを確保せずに、ぶっつけ本番でシステムを稼働させるようなものです! 危険すぎます!

 あの大型が残っていたら、我々は内外から挟み撃ちにされる。ビルを攻略する作戦の、前提条件が崩れます!

 それに防衛ラインがまた崩壊するかもしれない!」

 

 俺の叫びに、リュナも静かに頷いた。彼女の額には大粒の汗が浮かんでいるが、その瞳の光は消えていない。

 

「……やれます。次を、お願いします」

 

 その覚悟に、部隊長は歯を食いしばり、頷いた。

「……分かった! 全機、リュナさんを援護! 彼女が次の魔法を撃つまで、何としてでも時間を稼げ!」

 

 俺と護衛兵が、急いで新しい杖とバッテリーをセットする。リュナは杖を握りしめ、再び長く、複雑な詠唱を始めた。

 

『ふぁいなる! みらくる! ふらーっしゅ!』

「―――インフェルノ・バースト!!」

 

 二条目の閃光が走り、二体目のシルヴァ・マンティスが蒸発する。だが、その隙を突き、最後の三体目が猛然とこちらへ突進してきた。

 

「リュナさん、もう一発!」

「はい!」

 

 溶け落ちる杖を捨て、三本目の杖を手に取る。バッテリーを交換する時間すら惜しい。

『ふぁいなる! みらくる! ふらーっしゅ!』

「―――インフェルノ・バースト!!」

 

 三条目の光が、突進してきた最後の大型魔獣を飲み込んだ。

 これで、戦場にいた大型魔獣は全て沈黙した。だが、代償はあまりにも大きい。俺たちの切り札は、残り5発。

 そして、周囲にはまだ、主を失った無数の小型魔獣たちが、一斉に俺たちのトラックへと殺到してきていた。

 

「今だ! 突っ込め!」

 部隊長の号令と共に、トラックが咆哮を上げた。

 

 トラックの荷台のハッチが開き、俺とリュナは再び戦場の風に身を晒す。

 周囲を固めるヴァンガード部隊がプラズマ砲を乱射し、魔獣の群れに風穴を開ける。

 だが、数が多すぎる。すぐに後続がその穴を埋め、鋭い爪がトラックの装甲を切り裂いた。

 甲高い金属音が響き、車体が大きく揺れる。

 

「フレイムアロー!」

『きゅぴーん☆』

 リュナが構えた杖から放たれた炎の矢が、トラックに張り付こうとしていた魔獣を焼き払う。その陽気な電子音と、魔獣の断末魔が、奇妙な不協和音となって戦場に響き渡った。

 

 俺は、暴徒鎮圧用の巨大なシールドを構え、彼女の前に立つ。時折飛んでくる魔獣の体当たりや、流れ弾の衝撃を、全身で受け止める。アシスト機能付きの装甲がなければ、一撃で腕ごと吹き飛ばされていただろう。

 

「愁也さん、どこから入りますか!?」

「このまま正面を突っ切って、地下の搬入口だ! あそこなら、シャッターさえ開ければ、トラックごと中に突入できる!」

 

 俺は社員端末で施設の構造図を開き、最短ルートを叫ぶ。

「了解! 全機、進路確保! 目標、地下搬入口!」

 

 トラックが急加速し、魔獣の群れを文字通り蹴散らしながら進む。フロントガラスに叩きつけられる黒い体液で、視界がほとんど見えない。

だが、俺は社員端末の施設構造図を頼りに、必死にルートを叫び続けた。数分が、数時間にも感じられた。

 やがて、見覚えのある地下駐車場へのスロープが見えてくる。

 

「見えた! あそこだ!」

 俺が叫ぶと同時に、リュナが最後の力を振り絞るように、杖を前方に突き出した。

「フレイムアロー!」

『しゃいにんぐ・ふぃにっしゅ!』

 

 ひときわ大きな炎の奔流が、スロープを塞いでいた魔獣の群れを焼き尽くし、一瞬の活路を開いた。

 トラックは、その炎のトンネルをくぐり抜けるようにして、地下駐車場へと突っ込む。

 俺はトラックを飛び降りると、壁の認証パネルに社員端末をかざし、シャッターのロックを下す。

 

 ゴウッ、という轟音と共に、俺たちの目の前で分厚いシャッターが閉じていく。

 その隙間から、無数の魔獣の爪が、あと一歩とばかりに伸びてくるのが見えた。

 ヴァンガード部隊も全てが中に滑り込んだ、その直後。

 

 ―――ガアアアアアンッ!

 

 今まさに閉まったシャッターの向こう側から、凄まじい衝撃音が響き渡った。シャッターを突破しようとする小型魔獣の群れだ。

分厚い金属が、無数の爪や体当たりによって、不気味に歪み、軋んでいる。

 

「……突破されるのも、時間の問題か」

 部隊長が、吐き捨てるように言った。

 

 俺は、息も絶え絶えになっているリュナの肩を支えながら、地下駐車場の暗闇の先を見つめた。

 始まりの場所は、攻略すべき要塞であり、また最後の砦になろうとしていた。

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