代打ち矢木の異世界転生録~中学生に麻雀で負けて指を切られそうになったので異世界でシャーマン目指します。今さら代打ちに戻れと言われてももう遅い!あの天才から直撃取れるのはオレくらいのもんですよ~ 作:須藤 アキ
シャーマン……!
それは現世と異世界を繋ぐことのできる、唯一の存在…!
その圧倒的パワーを持つ存在は今、少子化問題により絶滅の危機に瀕していた…!
「なんか苦戦してるんだって?竜崎さん…」
時は1958年、深夜2時──
東京の片隅にある寂れた雀荘、みどりの店内には重く湿った空気が漂っていた。
白熱灯の頼りない明りに照らされ、ぼんやりと映る人影が6つ。
その中のひとり、タラコのような厚くぽってりとした唇にベジー〇のような髪型の男── 竜崎と呼ばれたその男は、安堵の笑みを満面に浮かべ立ち上がる。
「おお… 矢木…! 来てくれたか…!」
矢木と呼ばれたこの男── 矢木圭次は、賭け麻雀の勝負を代わりに請け負うことで生計を立てる、代打ちという職業にその身を置く勝負師である。
今回の仕事は、この竜崎が受けた勝負の雲行きが怪しくなってきたという事で、急遽呼び出された格好だった。
聞けば、相手は”ど素人の中学生”。
やれやれ、仮にもヤクザという稼業をやっていながら何をやってるんだと心の中で毒づきながら、呼び出された雀荘に顔を出した。
「今、小僧の手牌が見えちまったんでこの局は入れませんが… どうします?次からいきますか」
店のドアを開けると、すでに勝負が始まっていた。
店の奥側に竜崎、その対面に例の”中学生”── アカギと名乗るその男が座っている。麻雀というゲームの性質上、対戦する相手の手牌を見てしまった後では、そのゲームに参加することはできない。
矢木はつかつかと店内に入り、ソファに腰掛けタバコに火をつける。
アカギの手牌が見える位置だ。参加できないゲームの間、アカギの実力や動向を探るつもりだった。
代打ち── 勝負の世界で生きる矢木。
麻雀というゲームは実力が全てであることを理解していた。相手の実力を推し量れる、この『見』という行動はもはや習慣として身についていたものだ。正直なところこの時の矢木は、アカギを舐めきっていた。
なにせ、まだ齢13くらいのガキである。麻雀の経験もほとんど無いと聞いていた。まさにど素人、それ以前のものだったからだ。
タバコをふかしながら矢木は余裕の笑みを浮かべる。
「クク… 南場がまるまる残ってるんだ… この半荘も、拾ってやりますよ」
しかし、この矢木のみくびりはすぐに改められる事になる…!
大雨が降り続く、深夜の雀荘。
仄暗い店内で、時折り瞬く稲光に照らされ浮かび上がるは、卓を囲んで座る4人。
竜崎とアカギ、あとモブ2人との麻雀を、アカギの後ろから『見』をする矢木。
この勝負はもともと、アカギではなく叔父の南郷と竜崎の勝負だった。
叔父の南郷は、ギャンブルの負けと推し活で竜崎に約300万──
現在の価値に換算するとおよそ3000万の借金をしていたのだ。
その借金の棒引きを賭けての麻雀勝負だった。
──夜の12時を過ぎても連絡が無かったら、様子を見にこい…!
叔父の南郷にそう言われていたアカギが店に来て、叔父の南郷と代わって竜崎と勝負をしていたのだ。
勝負は佳境に入っていたが、竜崎は劣勢だった。
アカギの、素人とはとても思えない危機察知能力によりじわじわと追い詰められていたのだ。その様子を見ていた矢木は、一目でアカギの才能を見抜いていた。
それは代打ちとして生きてきた矢木の確かな実力と、自身に眠る潜在能力の一端が成せる技だった。
一区切りつき、竜崎と作戦会議をする矢木。
「あのガキ、相当手強い… 舐めてかからない方がいい」
矢木は竜崎にアカギの持つ才気の危険性を説く。
「聞けば奴は初心者って話ですが、それもかえって不気味… 得体が知れない…」
慎重に分析する矢木。勝負の世界のプロは、妥協を許さない。
「くっ…!」
タラコ唇のベ〇ータが歯噛みする。
「でもまあ、任せて下さいよ」
「オレがあいつの麻雀をガタガタにしてやります。一度バランスを崩せば、才気あふれる者ほど脆い…!」
矢木は冷静にアカギを分析した上で、勝てると確信していた。
「ただ… アカギ。お前にひとつ要求があるんだが」
矢木は、つかつかとアカギの前に立ち、告げる。
「不公平だとは思わないか…?この勝負が」
「…不公平?」
アカギは顔色一つ変えずに、返す。
「そうさ、考えてもみろ… お前と勝負していた竜崎さんは、もし負ければ大金を失う… 代打ちのオレも、ガキに負けたとあっちゃあこの世界で生きていけねえ」
「だがお前はどうだ? 仮に負けても、痛い目を見るのはこの南郷の旦那だけ… お前は、何も失わない」
勝負に対するリスクを説く矢木に、アカギは無表情で答える。
「…何が言いたい?」
「フフ… 簡単だ… オレとサシ馬を握れ」
サシ馬とは、両者の間でだけ発生する”賭け”のことだ。
賭けるものや賭ける額は、双方の合意があれば基本的には自由である。
矢木は話を続ける。
「半荘ひと勝負10万だ」
10万は、現在の価値に換算するとおよそ100万である。
叔父の南郷が目を丸くするが、推し活に使った額は1000万だった。
「もちろん、ガキのお前にこんな大金を用意できるワケがねえ… だからお前が負けた場合は、金の代償を差し出すことで良しとする」
「代償…?」
アカギが問うと、矢木は不敵な笑みを浮かべ言い放つ。
「指1本、10万円で請け負おう…!」
「な…!?」
驚愕する叔父の南郷。ドヤ顔でふんぞり返る矢木にアカギが囁くように呟く。
「同じならいい。 …アンタだって怪しいもんさ、そんな金持ってるようには見えないぜ」
「なん…だと…?」
「アンタも同じ代償を差し出すっていうんなら、受けてもいい」
予想外の返事に矢木は困惑していた。とても中学生とは思えない胆力である。
戸惑いながらも矢木は答える。
「…もちろんだ。 だがその言葉、忘れるなよ…!」
こうして、互いの指を賭けた勝負が始まった。
この時アカギは弱冠13歳──
後に闇の帝王と呼ばれる男の、その始まりであった。