代打ち矢木の異世界転生録~中学生に麻雀で負けて指を切られそうになったので異世界でシャーマン目指します。今さら代打ちに戻れと言われてももう遅い!あの天才から直撃取れるのはオレくらいのもんですよ~   作:須藤 アキ

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第2話 勝負

「さて、じゃあ始めようか… 矢木さん」

 

時は1958年、東京──

雨はいつしか嵐となり、大粒の雨が寂れた雀荘の壁を叩いていた。

竜崎、叔父の南郷、あと何人かのモブが見守る中、矢木VSアカギ──

その運命の初戦が始まった。

 

 ざわ・・・

 

「くっ……!」

 

矢木は早くも憔悴していた。

 

「(なんだこのガキの圧は……!? とても中学生とは思えない…!)」

 

東一局、1巡目──

開始直後から、アカギの圧に押される矢木。

 

      ざわ・・・

 

時計は深夜3時を回っていた。互いの指とプライドを賭けた勝負──

勝負師として生きる矢木にとって、負けましたでは済まされない戦いだった。

 

ざわ・・・        ざわ・・・

 

胸の奥がざわつく。そのざわめきはまるで、己の運命を呪う呪詛のように矢木の脳内に響いていた。

後ろで見ていた竜崎が口を開く。

 

「…誰だい? さっきから、口でざわざわ言ってるのは…」  

 

セリフだった……!

ざわざわ言っていたのは下家のモブ……!

 

「ちっ…! 脅かしやがって…!」

毒づく矢木。しかしそれどころではなかった。

 

「(だがヤツの圧は本物… どうする…!?)」

 

定まらぬ思考のまま、矢木は牌を切った。

 

「…ロン」

 

対面のアカギが宣言し、手牌を倒していく。その手牌は──

 

「大三元字一色… 西、単騎待ちだと…!?」

 

4倍役満である。常識的な確率の範囲でいうなら、『この状況ではほぼ不可能』と言っていい役だった。

 

「てめえっ…! ふざけてんじゃねえぞっ…!」

 

さっきのモブ── 白地に簡素な記号が雑にプリントされたシャツを着ているその男が、勢いよく立ち上がる。大人が着ていいシャツではなかった。

 

モブがアカギの胸ぐらを掴む。イカサマだと決めつけているようだ。

 

「クク… なんでもいい…手段は選ばない… そうだろう? 矢木さん…!」

 

アカギが、矢木を見下ろし言い放つ。

 

「このガキ…! 舐めやがって…!」

 

矢木は憤る── が、この勝負は遊びではない。やられた方がアホなのだ。

その事を勝負師である矢木は理解していた。だが──

 

「指一本と300万、払ってもらおうか…!」

 

非情に宣告するアカギ。

4倍役満の直撃… 麻雀というゲームのあらゆる状況において、その役の点数はそれだけで勝負が決まってしまうほどのものだった。

 

もちろん、矢木も例外ではない。ほとんど何もしていない1巡目だったからだ。

 

「フフ… 仕切り直しだ、アカギ… 少し間をもらうぞ」

 

そう言って立ち上がる矢木。その背中は心なしか小さくなっていた。

 

「…どこへ行くんだい、矢木さん」

 

「便所だ… すぐ戻る」

 

乱暴にタバコを揉み消すと、矢木は店の奥へ消えた。

 

 

数刻後──

 

矢木は誰も居ない深夜の道路をクルマで走っていた。

 

「冗談じゃねえ… やってられるか、あんなバケモノ…!」

 

川田組の代打ち・矢木は、アカギとの勝負から逃げたのだ。

便所の窓から身をよじるように這い出て、すばやくクルマに乗り込んだ矢木だったが──

行くアテなど、ありはしなかった。

 

「くそっ…! 逃げたところで、このままじゃいずれ…!」

 

雀荘から約数キロ… 郊外を抜け、クルマは峠道に入る。

誰もいないはずの、深夜の山道。しかし矢木は焦っていた。

 

後方から、ヘッドライトが迫っていたからだ。

 

「くっ…! もう追手が…!?」

 

そのヘッドライトは真後ろまで来たかと思うと、スッと横に消えた。

速度を上げ、真横に並んできたのだ。運転席に居るのは──

 

アカギだった。

 

「ククク…! どうしたの矢木さん、顔が真っ青だよ」

 

「はぅっ…! ア、アカギ…!」

 

「まだ勝負は終わってないよ… まだまだ終わらせない…」

 

「ふざけんじゃねぇっ…! あんな勝負やってられるか…! てめえなんかと…!」

 

「麻雀じゃなくてもいい。なんでもいいんだ… オレは、勝負さえできればなんでもいい」

 

「なんだと…?」

 

いつしかクルマは峠の下り── 海を見下ろす断崖を走っていた。エンジンが唸りを上げる中、別々のクルマで普通に会話する二人。アカギは、勝負に飢えていた。

 

「例えば、そうだな… このままこのクルマでチキンラン、なんてのはどうだい?」

 

チキンラン── それは、互いの度胸を試すゲームだ。双方が1台ずつクルマに乗り、断崖めがけて一気にアクセルを踏む。恐怖に負けて先にブレーキを踏んだ者が敗者となる。

 

「ちっ…! イカレ野郎が…!」

 

「勝ったほうは今までの賭け金、その全額をもらう。 負けたほうは…」

 

「そのまま、クルマで海に飛び込む」

 

矢木は戦慄した。中学生の── いや、常人の発想ではない。

 

「(このガキ… 本当にイカレてやがる…! だが、どうせ組にも代打ちにも戻れん…!)」

 

「フ、フフ… 面白い、やってやろうじゃねえか…!」

 

もはや矢木に選択肢など残されていなかった。やるしかないのだ。

そして、勝つしかない。

 

「クク…! そうこなくっちゃ、矢木さん」

 

アカギは目を輝かせている。

 

勝負師として生きる男と、勝負でしか生きれない男の、文字通り命を懸けた第2戦が始まる。ユーロビートの軽快なリズムに乗せて。

 

「対向車なし… ハデに行こうよ… GO…!」

 

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