共振、とかいうらしい。プレイヤーと特定のカードの波長が極めて高い精度で一致すると、場に出して実体化せずともカードの声が聞こえる現象。
俺とこのやたらテンションの高いアイドルかぶれみたいな風貌の少女の波長が一致しているとは到底思えないし思いたくもないのだが、今こうして声が聞こえているということはそういうことなんだろう。実際に起きている以上認めざるを得ない。非常に不本意ながら。
「『雷鳴を呼ぶ剛翼のドラゴン』と、『ドラゴニックスレイヤー』で相手プレイヤーを攻撃!」
『ライフで受ける!』
「勝手に決めんな。……ライフで受ける」
少し飛んで後攻6ターン目。現状、相手の場には中型モンスターが2体。相手ライフは元気いっぱい、最大値そのままの10000ポイント。
一方俺の残り体力は2000、ライフコア冷めちゃった。盤面に残ったモンスターもいない。そろそろ受けに回るのにも限界が近づいてきた。ギャラリーの中には対戦に見切りをつけて立ち去る者もでてくる始末。諦めんなよ、カードゲームは最後まで何が起こるか分かんないだろ? いややっぱ嘘。なんなら俺が一番帰りたい。
「そろそろ、仕掛けるか」
「へっ! やっと本気ってわけか。けど、ちょっと遅すぎるんじゃないか?」
やっとはこっちのセリフじゃボケ。序盤の動きが渋かったぶん手札を整える時間に当てていたのだから、遅すぎるのは承知の上だ。とはいえ、コンボデッキはむしろここからが真骨頂。
「2コストの呪文カード『欺瞞を焼く炎』を詠唱。ATKかDEFのどちらかが1500以下のモンスターを1体選び、それを破壊。対象は『ドラゴニックスレイヤー』」
『ぐあぁ!』
「ドラゴッ! ……お疲れ、ゆっくり休んでくれ」
半竜の剣士が架空の炎に焼かれ、ポリゴンとなって消え失せる。これで最低限の準備は整った。
「出番だぞ。きりきり働け」
『もう、モンスター使いが荒いんだから』
軽口を吐けば悪態が返ってくる。前世じゃもっぱら対戦メインでホビアニやらのメディア展開には興味なかったのでよく知らないんだが、相棒枠ってもっとこう友情! 努力! 勝利! って感じじゃないのか? こいつはやたらと自我が強くて扱いにくいったらありゃしない。
この前『お前の髪色ジャンボタニシの卵の色に似てるな』って言っただけなのにキレ散らかして山底4枚に埋まったまま一生出てこなかったこともあったし。
『その件に関しては、マスターが100悪いと思うけど』
アレーティアのコストは15。このゲームは1ターン経過するごとに自動的に使えるコスト上限が1上昇するシステムで、プレイヤー側からコスト上限に干渉する手段はそう多くない。つまり、本来であれば先行7ターン目に使えるコストは7コストのはずで、15コストのモンスターを召喚することはできない。
しかし、そこは腐ってもエースカード。彼女には、カードゲームの華とも呼べる踏み倒し能力が備わっている。
「『不偏なる真理・アレーティア』の能力。このモンスターを召喚するためのコストは、墓地の呪文カードの枚数分だけ少なくなる。ただし、0コストにはならない。墓地の呪文カードは8枚だが、墓地のアレーティアはモンスター兼呪文としても扱える。したがって、減少するコストは10。5コストで『不偏なる真理・アレーティア』を召喚」
『やっほー! みんなおまたせー!』
――『不偏なる真理・アレーティア』 COST15 ATK0/DEF3000
アレーティアチャンカワイイヤッター。ブン回れば7ターン目に1コスで投げることも夢じゃないんだが、今回は2ターンパスしてるしコストダウンを待つほどの余力も残されていないので仕方なく中途半端なコストで投げざるを得なかった。
手札から飛び出した彼女が盤面の上で実体化して、ショッキングピンクのツインテールを可憐に揺らす。そのあざといしぐさに魅了された
ビジュがいいのは認めるし、凡庸な男子中学生とは比べるべくもないことは分かっているんだが。俺より人気なのなんかムカつくな。
「召喚時能力が発動。召喚した時、それがこのターン中最初に出した『不偏なる真理・アレーティア』なら、手札が7枚になるまで引き、使えるコストを最大まで回復」
彼女の能力、それは実質的な追加ターン。ただし、マナを起こすだけで実際にもう一度バトルフェイズを行えるわけではないので、某超越やら初代ボルなんとかさんみたいに出した時点で即決着、とはならない。むしろあいつらのほうがバグだろ。なんで異世界のカードより異次元ムーブしてんだ。
ターン1回制限が付いたうえで召喚酔いのついた代わりに、手札補充ができるようになった二代目の方って感じだな。
この系統の能力は、1ターンのプレイに時間がかかるうえに相手からできることも少ないため対策もしにくい。
結果として、やられてる側は相手がひたすら気持ちよくなっている様を見てることしかできないという現象が起こりやすく、無力感も相まって理不尽さを感じさせやすい。どのゲームにおいても実装以来、数えきれないほどの賛否両論を巻き起こしてきた。
正直かなり好き嫌いがはっきり分かれるテキストだが、俺は結構好き寄りなデザインである。
さっきは悪い点として挙げた"対策の少なさ"も、使う側にしてみれば相手への依存が少ないと言い換えることもできる。読み合いが強いことも重要なスキルだが、読み合いという不確定要素を排除しパワーだけで押し切れるならそれに越したことはない。
本来は手札のカードを吐ききった後で十分にコストの下がったアレーティアを出し、手札を最大限回復した後で一気に展開するのが理想だった。しかし、最初に打った2コスト呪文分しかコストをちょろまかせていないうえに、2枚目のアレーティアがハンドを圧迫しているのもあって元の手札は5枚。7枚になるまで引く、なので2ドロー。
今回はコストも手札も使い切れていない状況。カードのバリューを引き出しきれているかと言われれば首を大きく横に振らざるを得ないが、それでも軽量ビートダウンに蓋をするぶんには割と何とかなる。というかしてくれないと困る。
「1コストの武装呪文カード『真理へ至る鍵』を詠唱。自分の場のATK0以下のモンスターを選ぶ。それは『ガードナー』を得て、ATKを参照するとき代わりにDEFの値を用いることができるようになる」
『どんなアクセも似合っちゃうぼくだけどー。一番のオキニはやっぱこれだよね!』
マイクスタンドにも似た形状の、身の丈ほどもある巨大な鍵型ステッキがアレーティアの手の中に形成されていく。彼女は得物の調子を確かめるようにそれをくるりと一回転させた。
カード名にしろ効果にしろ、いわゆるデザイナーズコンボというやつだろう。『ガードナー』とは相手モンスターに交戦を強要させるキーワード能力で、さらにそれを無視する能力がなければガードナーを持つモンスターを無視して相手プレイヤーを攻撃することはできない。
これにより、箸すら持てない貧弱スタッツが一変。アレーティアは事実上ATK3000/DEF3000という高水準なスタッツを持ちつつ、顔面も守ってくれる攻防一体のモンスターへと変貌を遂げた。
これだけでは終わらない。まだコストはたっぷりある。
「3コスト呪文『黒と白』を詠唱。相手のプレイヤーに1500ダメージか、自分プレイヤーを1500回復のどちらかを選んでその効果を得る。今回は、自分の体力を回復」
バーンと回復を選べる優秀な呪文だが、現状のハンドでは打点を飛ばしたところでリーサルは遠い。こうなった以上、コンシードプランに切り替えて立ち回ったほうが勝率が高いと判断して、ライフをできる限り戻しておく。
――黒野クロ 3500/10000
胸のライフコアに熱が戻ってくるのを感じる。レツのデッキはある程度の場残りを前提とした横並べ重視の構築であり、飛び道具はそう多くない。最大値の半分を切っているので少々心もとなく感じるかもしれないが、この体力ならギリ安全圏だ。
「続いて、呪文『黎明の灯火』を詠唱。自分の場のATK最大のモンスターよりATKの低い相手モンスター1体を破壊。この時、1000以上相手を上回っているなら、カードを1枚引く。アレーティアは鍵の効果でATK3000として扱う。雷鳴を呼ぶ剛翼のドラゴンのATKは2000なので、破壊し1ドロー。最後に『錬成術・序法』を詠唱。ガードナーを持つトークンモンスターを場に出してターンエンド」
初手事故った時あるあるというか。山の中身的に当然っちゃ当然なんだが、強いカードが欲しいゲーム終盤になってから山上で序盤札を引きがちなんだよな。
とりあえず、起こしたコストぶんはきれいに動くことが出来たし盤面も制圧した。体力もそこそこ残ってる。
それと、今まで手札とにらめっこしてたせいで気付くのが遅れたが、レツの手札は残り3枚でリソースも細い。これは捲ったなガハハ。
ともいかないのがカードゲームの難しいところであり面白いところでもあるんだな。特に、この世界の強者はそれが如実。
「一気に苦しくなってきたな……! でも、俺は俺のデッキを信じる! 信じればきっと答えてくれるんだ!」
前世でカードゲームのためだけに青チャートを自費購入した俺を馬鹿にしてんのか? 信じられるのは確率と統計だけだ。
トップ解決は主人公の特権ってか。見る分にはアツいけどやられる側としてはそれで何とかされたらたまったもんじゃないんだわ。
「来てくれ! 俺の相棒!」
レツがそう叫んだ瞬間、デッキの一番上のカードが目を覆いたくなるほどに強烈な光を放ち始める。なにそれこわい。どういう理屈で光ってんの?
つか当たり前みたいにトップ操作するのやめてね。誰かジャッジ呼んでくれ、普通に不正行為で反則負けだから。カードが勝手に答えた結果だから反則じゃない? なわけないだろ。公式プラットフォームのご意見コーナーに長文でお気持ち送り付けたろか。
レツはドローしたカードに確信のこもったまなざしを向けると、活力にあふれた笑みを見せた。そして、俺と盤面のアレーティアを睨み据えながら宣言する。
彼の切り札。その名前を。
「雄叫びを上げろ――『人竜一体・アントロポス』!!」
『オオオォォォーーーー!!』
決意ある使い手には勇気を、立ち塞ぐ敵に恐怖を。覇気に満ちた咆哮とともに現れたのは3メートルはあろうかという巨体の竜人。赤熱する鱗に身を包んだ異界の戦士。弱者であれば、その姿を目にしただけで戦意を失いかねないその威光を目にしてなお、俺の心を占める想いはひとつ。
――はいはい、運だけ運だけ。お前それできんならマジシャンに転向しろよ。