右手腐れど、心腐らすことなかれ。   作:空想の墓場

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ソリティアしたきゃ壁とやってろ

 ――『人竜一体・アントロポス』 COST7 ATK3500/DEF2000

 

「『人竜一体・アントロポス』の効果発動! 相手のATK2000以下のモンスター全てを破壊!」

『オオオォォォーーーー!!』

 

 かの竜人が雄叫びを上げれば、弱者はただ地に堕ちるのみ。有象無象では戦いのフィールドに立つことさえできない。『錬成術・序法』によって場に出たトークンがついでのごとく吹っ飛ばされた。

 

 しかし、荒れ狂う豪風のなかにあって毅然と立つ影がひとつ。自分の倍以上の体躯を持つ暴威の化身を前にして、アレーティアはただ自然体のままそれを見つめていた。

 

『もー! ちょっとアン! せっかくセットした髪が崩れちゃうじゃん!』

『グオッ……。す、すまない……?』

 

 流石に自然体が過ぎるだろ。お前はもうちょっと緊張感を持て。あとアントロポス。お前も謝んな。図体のわりに繊細なところのある竜人は、自分より二回りも小柄な女の子に叱責されて威勢を削がれたようにしょぼくれていた。

 

 ちなみに、アレーティアのスタッツは本来"ATK0/DEF3000"だが、『真理へ至る鍵』の能力によってDEFの値をATKに置き換えることができるため事実上のスタッツは3000/3000。したがって破壊されない。だから前のターンにバフしておく必要があったんですね(n敗)。

 

 ぶすくれた様子でしきりに前髪をいじっているアレーティアを無視して、レツはさらに続けて宣言する。こんな見るからでデカくて強そうなモンスターの能力が、たかだか全体除去(AOE)程度で収まるわけがない。奴には劣勢時にこそ真価を発揮するさらなる能力がある。

 

「さらに、このモンスターを召喚した時自分の残り手札が3枚以下なら、デッキからコスト1以下の武装呪文カードを2枚まで選んで手札に加え、そのコストを支払わず唱えられる! 選ぶのは、『人竜双刃・烈火』と『人竜双刃・業火』の2枚!」

 

 アントロポスの両の手へと炎の矢が飛来する。それは次第に形を変えていき、燃え尽きたあとに残っていたのは緋色に輝く一対の双剣。何度も煮え湯を飲まされ続けてきたレツお得意のコンボ。

 

「まずは『烈火』の能力! 自分のモンスター1体を選び、そのATKを500上げて、それは『場に出たターンでも相手モンスターを攻撃できる』ようになる! 次に『業火』! 自分のモンスター1体を選び、それに『キラー』を与え、このターン終了まで破壊されなくなる!」

 

 『キラー』。このゲームはモンスター同士が交戦するとき、攻撃側のATKと守備側のDEFを比較し、その値の大きいほうが破壊されるシステム。しかし、『キラー』能力を持つモンスターはその数値の大小に関わらず交戦した相手のモンスターを破壊することができる。

 

 つまり、『烈火』と『業火』2つを重ね掛けすれば1コスの鼻クソみたいなモンスターでさえ場に出たターンから大型モンスター(ファッティ)を一方的にトレード可能な神風ミサイルに変貌する。それぞれ単品でも活躍の見込める汎用的かつ取り回しのいい2枚ではあるが、純正ビートダウンに投入するカードにしてはややテンポロスな印象。

 

 レツの真の狙いは、別にある。

 

「このとき、アントロポス第二の能力が発動! このモンスターに武装呪文が2種類以上装備されたとき、ATKを半分にする代わりに『1ターンに2回攻撃』できるようになり、さらに『マッハアタック』を得る! いけ、アントロポス! 『不偏なる真理・アレーティア』に攻撃!」

『応ッ!』

 

 竜人が双剣を掲げ大きく振りかざす。その先にいる少女の表情に恐怖は見えなかったが、代わりに失望の色がありありと浮かんでいた。

 

 まぁ、気持ちも分からんでもない。お前が盤面に立ってられたのせいぜい1分そこらだしな。カップラーメンだってできやしない。

 

『えーっ!? もうぼくの出番終わり!?』

『悪いな。戦場では手加減できんのだ!』

『アンタなんかキライー!』

 

 『業火』と『鍵』がぶつかり合う。瞬間、剣に込められた必殺の力があふれ出し、彼女の武器ごとその細い体躯を容易く切り裂いた。さらに、『業火』とは逆の手に構えられたもう一振りがさらなる獲物を狙ってうなりを上げる。

 

 あの。アントロっさん、そんなマジ顔で来られると流石に怖いっす。前世含めりゃいい年だけど、俺一応中学生だよ? ただでさえカードゲーマーは内弁慶な生き物なのだ。強面の大男に迫られたら普通にチビる。

 

「『マッハアタック』を持つモンスターは場に出たターンでも相手プレイヤーを攻撃できる! 行けェ!」

『オオオオッ!』

 

 相手のアクションを受けるカードはこのターンに至るまでの延命のためにあらかた使い切ってしまっていた。俺の残り体力は3500。この一撃を食らってもとりあえずは死なないし、もう1打点くらいはなんとか耐えられそうなのでここは甘んじて受け入れるとしよう。

 

 暴風と共に振るわれた剣が俺の体の中を通り抜け、ライフコアの光が失われる。試合開始時に比べれば、その光はだいぶ頼りなくなった。

 

 ――黒野クロ 1500/10000

 

 実はアレーティアに『ガードナー』が付いていなかったら2000ダメ2回で負けていたことを考えると、登場時間は短いながらもいぶし銀な活躍をしてくれたと言える。もっとも、目立ちたがり屋の彼女はそれでは満足できないみたいだけど。

 

『いぶし銀なんてそんな気休めはいらないの! もっとド派手に決めたいの! 欲しいのはそう――黄金の輝き!』

 

 先ほど真っ二つにされたにも関わらずまだまだ元気そうな少女の抗議の声が聞こえる。安心しろって、お前の見せ場はまだまだこれからだろ? 手札には見えるのは2枚目のアレーティア。このカードの真髄はド派手なマナ起こしではなく、1枚目のアレーティアが2枚目以降のアレーティアの起爆剤になるという点。

 

 コストをちょろまかして大量に呪文を使うので、必然的に次のアレーティアのバリューが跳ね上がるという連射力こそ彼女最大の強み。

 

「俺のターン終了! へへっ、どうだ!」

「相変わらず凄い攻撃だよ。お前と戦うときはライフがいくつあっても足りる気がしない」

 

 だが、それもここまで。強力なカードを使ったということは、逆に言えばリソースを大幅に消費したということ。

 

 ピンチはチャンスとも言うように、相手の強い動きに対してさらに強い動きでカウンターすることができれば戦況は一気に優勢へと傾く。

 

「俺のターン。ドロー」

 

 墓地の呪文カードは11枚で、呪文としても扱えるアレーティアが3枚落ちている。このターン呪文カードを使わなくてもすでにアレーティアのコストは限界まで下がりきった。

 

 仕掛けるならこれ以上ない好機だ。あとは全財産ぶちまけながら展開してやれば、軽量ビートダウンデッキに巻き返す手段は限りなく少ない状況へと持ち込めるだろう。

 

「アンコールだ。準備はいいか?」

『おっけーだよ! 第二幕はプレストでいっちゃおう!』

 

 極めて速く(プレスト)、か。言い得て妙だ。アレーティアのバリューを最大限引き出せば、1ターンに使用するカードの枚数は本人含め10枚近くにものぼる。もたもたしていたら持ち時間制限にひっかかることは必定であるがゆえに、あまり時間を掛けてはいられない。だからこそ――

 

『全国1億人(推定)のファンのみんな! ぼくの雄姿、とくと――』

「カットで」

『ふぇ?』

 

 追加ターンのデメリット。プレイが長すぎて見てる側がつまらないを解消するにはどうすればいいか? 答えは単純。その時間中、スマホを見るなり他のことで時間を潰せばいい。俺は実際動画サイトとかで配信者が長考しだしたら一旦ショート見たりしちゃうし。みんなやるよね?

 

 あとは俺が一人回ししておくので、ギャラリー諸君はトイレ休憩の時間にでも当ててくれ。

 

『じゃ、じゃあ、ぼくの活躍シーンは……』

 

 ないぞ。というかお前マナ起こすだけの一発屋じゃん。お前がなんかしてる時間より他のカード投げてる時間の方がはるかに多いんだから、もとより活躍の場なんてあってないようなもんだろ。なら別に飛ばしたってよくないか?

 

『タイパに毒された現代人の癌め。次の試合、絶対引かせてやんないから』

 

 やってみろアイドルかぶれ。ディスティニードローなんざなくたってこっちには確定サーチがあるんだよ。

 

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