救済を願って   作:バレンシアオレンジ

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12 勝利の女神

 

「総員傾注! 人類連合軍参謀本部の下命により、我々星屑部隊はクイーン討伐作戦への参加が決まった。君達も知っての通り、現在の戦況は如何に敗北までの時間を引き延ばせるかといった有り様だ。しかし本作戦は現状を打破する起死回生の一手となり得るものだ。先ず第1段階、西方方面軍が軌道エレベーターに集結しているラプチャーに対して正面から突撃する。この突撃は完全充足の砲兵隊が支援し、戦略予備も全て投入される予定だ。我々を含めた量産型ニケの各部隊もまたこれに参加する。目的は敵兵力の誘引、つまりは陽動だ。そしてそれが完了次第、作戦の第2段階が開始される。そうだ、ゴッデス部隊が我々とは別方向から突貫する。無論、誘引に成功していたとしても多数のラプチャーが我らが勝利の女神の前進を阻むだろう。しかし心配はいらない。殲滅戦に特化した新たな女神が作戦に加わる。その女神が軌道エレベーターまでの道を切り拓くだろう。そして最終段階、軌道エレベーターを利用して宇宙ステーションに上がったゴッデス部隊が引きこもりの女王(クイーン)を討つ! 以上が本作戦の概要だ。言うまでもなくゴッデス部隊が最も重要な役割を担っているが、かの女神たちの負担を軽減する為にも敵兵力の誘引は作戦成功に重要な要素だ。各員の奮戦を期待する。それでは具体的な内容を……」

 

 ブリーフィングが終わると皆興奮冷めやらない状態で話し合っている。

 

「ゴッデスと同じ戦場に立てるなんてな!」

 

「会えるかな?」

 

「いや、無理でしょ。確かに位置的には近い方ではあるけど、会える程近かったら陽動の意味が無いじゃない」

 

「いいだろ〜別に夢見るくらい」

 

「浮かれる気持ちも分かりますが、敵主力部隊の陽動が目的なんですから今まで以上に気を付ける必要があるのを忘れないでくださいね! それと万一逸れた場合の合流ポイントもしっかり覚えておくこと!」

 

 ピナが隊長として浮かれ過ぎない様に注意を促す。しかし、それ位では皆の高ぶった感情が落ち着くことは無かった。

 

「……水を差すのは良くないね」

 

「何か言いましたか?」

 

「いや、何でも無いよ」

 

 レッドシューズが侵食の研究を進めているということは、シンデレラが侵食されるのは避けられないだろう。そしてその場合、軌道エレベーター攻略作戦はどの様な結末を迎えるだろうか?

 原作ではシンデレラに勝てないと判断したリリスがゴッデスの皆を背負って形振り構わず退却した。作中では触れられていないが共に行動していた100人の量産型はどうなったのだろうか?

 そんなことはあり得ないと信じたい。しかしリリスが全力で逃走を選んだ状況下で戦場に散らばった量産型ニケ達を集めて勝利の翼号に収容している時間的余裕はあっただろうか?

 

 見捨てられたのではあるまいか?

 

 最近はずっとそんな考えが頭から離れない。嘗ての絶望的な終わりを迎える作戦(シナリオ)が現実となりつつある今、私はどうすれば良かったのか。

 

「……ピナ?」

 

「きっと大丈夫です。これまでの様に、これからも」

 

 私の手を掴んで励ます様にピナが話し掛けてくれる。根拠がある訳では無いのは分かっていた。

 しかしそれでも不安と恐怖で冷えた指先が少しだけ暖かくなる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──軌道エレベーター周辺エリア外縁

 

 後方の友軍陣地から轟音が響く。

 

「始まりましたね」

 

 ピナがそう口にした直後、前方で爆発音と共に黒煙が上がり始めた。着弾地点は目視できないが、砲弾が降り注ぐあの場にいるのが人間の兵士だったなら、今行われている砲撃でも十分に効力射となり得ただろう。しかし彼処にいるのはラプチャーだ。しかもラプチャー側にとって現状最重要拠点である軌道エレベーターを防衛するための精鋭ときた。果たしてどれほど効果があるのだろうか。

 

「それで隊長、いつ突撃するんだ?」

 

「……話を聞いていませんでしたね?」

 

「いや、聞いてはいたんだ。覚えていないだけで……」

 

「それは聞いていたとは言いません!」

 

 叱られて少し落ち込んだ彼女を見て、ピナは溜め息をついてから話し始めた。

 

「改めて言いますが今回の作戦で私達は臨時混成部隊の一員になりますので、これまでの様に自己判断で好き勝手には行動できません。部隊の行動方針は全て指揮通信車に置かれる本部で決められます。ですから前進のタイミングは本部の判断待ちですね」

 

 軍司令部は戦場全体を俯瞰して指揮を執ること及びラプチャーの連携を妨害するためにエブラ粒子を散布することの2つを天秤に掛けた結果、ラプチャーの妨害を優先する決定を下している。司令部はそれに伴い、単独でも戦況に合わせて柔軟に対応できる様に複数の兵科を加えた部隊を編成し、各隊の行動はそれぞれの部隊本部の判断に任せるというある種思い切った運用を選択していた。

 

「付け加えるなら、危なくなったからといっても勝手に逃げ出すのは認められていないということです。現状、私達だけの判断で後退してもいいのはゴッデスが軌道エレベーターに到達した後ということになりますので、何時もよりも慎重に行動して絶対に無理しないでください。みんなで生きて帰るためにも」

 

『了解!』

 

「それと先程の通信によれば戦闘機も出るそうです。志願者のみとのことなのでどれ位の数になるかは分かりませんが……」

 

「……それって志願した人は大丈夫なの?」

 

「勿論、大丈夫ではないと思います。生きて帰れたら奇跡ですね。だからこそ彼らの献身を無駄にしない様にしなければなりません」

 

 軌道エレベーター周辺にいるラプチャー群はどの戦場と比較しても対空兵装が最も充実したラプチャーで構成された集団だ。その上を飛ぶという行動はもはや勇敢などという表現を通り越して自殺行為と呼ぶ方が相応しい。しかし志願者達はそうだと分かっていても人類のために戦うことを選んだのだろう。

 

『本部より星屑(スターダスト)、聞こえているか?』

 

「はい、中尉。聞こえています」

 

『司令部からの命令だ。総員行動を開始せよ!』

 

「了解しました中尉。これより前進します!」

 

 今回は指揮通信車に搭乗して作戦に参加している中尉との会話を終えてピナが振り向く。

 

「みんな準備はいいですか?」

 

『はい!』

 

 それぞれのペアに別れて走り出すとすぐさま接敵した。

 

「前方にラプチャー集団。エンカウンター!」

 

『エンカウンター!』

 

 

 

 

 

『右側面より小型20中型1接近!』

 

『星屑より3名抽出して側面に……』

 

「左前方より大型3、間もなく接敵します!」

 

『命令取り消し! 星屑は戦力を集中して大型を速やかに排除せよ! 戦車部隊はこれを援護、ラプチャー本体ではなく足元を狙い敵の突撃を阻止しろ! 側面は建物を爆破し星屑が向かうまでの時間を稼げ!』

 

 迫る大型ラプチャーに向けて戦車砲弾や対戦車ミサイルが飛ぶ。通常兵器ではラプチャーの装甲に殆どダメージを与えられないが、その攻撃で齎された道路の破壊と物理的な衝撃はラプチャーの突進を止めるのに十分な力を持っていた。

 

「狙撃可能ならコアを狙ってください! それ以外は直進と右から回り込む組に分かれて大型に火力集中!」

 

 ピナの言葉に従い大型ラプチャーを撃破してから、右に分かれた仲間が部隊側面の援護に向かう。

 

 作戦開始からどれだけ時間が過ぎたのだろうか?

 今回はどうにかなった、次もまだ何とかなるだろう。

 しかしそれが続けばどうなるか?

 既に皆多かれ少なかれ負傷しており、間断なく続くラプチャーとの戦いは私達の継戦能力を徐々に削り始めていた。

 

 再び正面からラプチャーの集団が近付いてくる。

 

「いよいよですね」

 

「……勝てるのかな?」

 

「勝つわよ。この作戦にはゴッデスも参加しているんだから」

 

 仲間達が話していると通信機からも声が聞こえる。

 

『ゴッデスは確かに凄いが、あんたら星屑も十分凄いぜ。俺達だけだったら何度全滅したか分からないな』

 

『ああ、この作戦を星屑と共に戦えて光栄だ』

 

『全くだ。我らが勝利の女神バンザイだな』

 

「……私達も貴方がたと共に戦えたことを光栄に思います。行きます!」

 

 

 

 

 

 そして更に戦いが続いたその時、恐れていた事態が起きた。

 

「──ッ!! ハイド!」

 

 咄嗟に私が叫ぶと星屑の仲間達は即座に身を隠したが、通信機からは詰問する声が返ってくる。

 

『何があった! 正確に報告しろ!』

 

 それに返答する余裕は無かった。

 

 空から青い光が雨の様に降り注ぐ。

 

 たった1撃でそれまで持ち堪えていた戦線は崩壊した。

 

「……シンデレラ」

 

 太陽を背に浮かぶ"それ"は見間違うはずの無い悪夢そのものだった。

 

 私は失敗を悟った。

 

 ゴッデスは撤退したのだろう。

 

 せめてピナだけでも逃さなければ。

 

 でもどうやって?

 

 シンデレラのガラスの靴が再び煌めく。

 

 眼前を閃光が通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Another Side】

 

 ──エリシオン第3ニケ研究所付近、上空

 

「降下ポイントに到着した。全員、戦闘を前提と考えて行動しろ。対空砲がある可能性に備えてパラシュートは使うな。逆噴射装置を使え」

 

 指揮官の号令に各々が了承の返事を返す。

 

「先に行きます。みんな、あとでね」

 

「……リリスは単独で大気圏も突破できてしまうのでは?」

 

 逆噴射装置どころかパラシュートすら使わず何の気なしに飛び降りたリリスを見てドロシーが呟いた。その場に居た全員が同じ感想を抱いたが、事は一刻を争うと思われたため、軽口を叩くこと無く降下する。

 

 直後、研究所から砲撃されたことで皆が理解した。

 事態が予言の通りになってしまったことを。

 

 

 

 

 

 

 ──エリシオン第3ニケ研究所内部

 

「……現在の状況確認のため、ブリーフィングを行う。現在地、エリシオン第3ニケ研究所は数時間前に約200機のラプチャーに襲撃された。その中にコードネーム・ウルトラが4機確認されている」

 

「……アイツか」

 

 指揮官の説明にレッドフードは嫌なことを思い出したかの様に零す。

 

「つまり、大規模というだけでなく上級の個体が多数集結していたということだ。計画的な侵攻だったとも言えるだろう。まともな抵抗さえできなかったようだ。人員およびニケは全滅。施設は完全に壊滅している。……そして破壊された施設の外壁を調べたが、一部は内側から外側に向けて破壊されたようだ」

 

「指揮官、それではシンデレラは……」

 

「……恐らく侵食されたのだろう」

 

 もはや分かり切っていたことだが、指揮官の口から告げられたことで皆の心に暗雲が立ち込める。

 

「それと……うむ……」

 

「見せた方がいいと思います」

 

「そうだな。君たちも事態の深刻さを知る必要がある。こちらだ。移動しよう」

 

 移動先の実験室には、まるでラプチャーとニケをぐちゃぐちゃに固めた様に見えるモノがあった。

 

「……何だよ、これ……」

 

「……面妖極まりない」

 

 レッドフードと紅蓮は"それ"を見た瞬間に嫌悪した。

 

「……ひぃっ……」

 

 スノーホワイトは恐怖した。

 

「……ラプチャーの部品がニケに挿されているのですか?」

 

「……いいえ。よく見てください、ラプンツェル……」

 

「……!! 融合……しています……。この方は……まさか、生きているのですか……?」

 

 ラプンツェルとドロシーは表情を歪めながらも"それ"を観察して情報を得ようとした。

 

「いいえ、死んでる。外傷はなし、ショック死ね。それと決定的なのは……」

 

 リリスが"それ"に触れる。

 

 ギィーン──

 

「……生きていますね。ラプチャーだけが……ということは……」

 

「ええ、詳しくはよく分からないけど、ラプチャーがニケと融合を試みて、その過程でショック死したみたい。明らかにラプチャー主導の行動とみて問題ないはずよ」

 

「ラプチャーどもが妙なマネを始めたということだが……これでハッキリしたな」

 

「何がです?」

 

「予言で私たちが負けた理由だ。正直なところ、どれだけ第2世代フェアリーテイルモデルが高性能であっても侵食されたシンデレラを相手に負けるはずがないと思っていた。よく思い返してくれ、侵食されたニケはどのような行動を取る?」

 

「それは……侵食される直前の言動を繰り返しながら味方を攻撃します」

 

「だがそれだけなら問題なく対処できるだろう?」

 

「確かにそうだな?」

 

 侵食されたニケの味方を攻撃しようとする執念じみた行動は脅威ではあるが、代償として状況に応じた知性的な判断ができなくなっていたため、こちらが味方を撃つ覚悟さえ決めていれば戦力という意味での脅威は少なくともこれまでは小さかった。

 

「つまりはシンデレラがただ侵食されただけでは無いということか」

 

「そうだ。最低でも知性を失わずにスペックを完全に発揮できる状態の……いやカタログスペックを上回る戦闘力を持つシンデレラと戦うことになると考えるべきだ」

 

 紅蓮の言葉を指揮官は肯定する。

 

「それでどうするんだ? それにこれ、このまま放っておくのか?」

 

「ああ、生きているラプチャーは重要な手掛かりだ。これは上層部が回収するまでこのままの状態を維持する。私たちもそれまでは待機だ」

 

「じゃあ、その次は?」

 

「……人類連合軍の威信にかけて作戦は中止できないだろう。私たちは単独で軌道エレベーターを目指さなければならない。だが……」

 

「シンデレラが待ち構えているでしょうね。指揮官、予言のことを考えればシンデレラは私が単独で相手をするべきです」

 

 予言でゴッデスの敗北が示唆されている以上、最高戦力である自分が対処するべきだとリリスが宣言する。

 

「……そうだな。リリスとシンデレラが1対1の状況を作る。今のところ、それが1番確実な方法だ。だがシンデレラは空を飛べる。スノーホワイト、空を飛ぶのは無理でも空中で姿勢制御ができるような装備を作れないか?」

 

「リリスお姉ちゃんが使うんですね。分かりました何とかなると思います」

 

「ありがとうスノーホワイト」

 

「ですがシンデレラに勝利したとして軌道エレベーターはどうするのですか?」

 

「……状況によるが撤退も考えなければならないだろうな」

 

 ドロシーの疑問に指揮官はそう答えた。相手に不意をつかれることなくリリスが全力で戦えば勝つこと自体は問題ないはずだ。だがそれは軌道エレベーターを攻略する余力をリリスが残せないことも意味している。いや、そもそも敗北が予言されている相手に手を抜けるはずがない。

 

「そのことは明日考えましょう? もしかしたらシンデレラは現れないかもしれない。その時は予定通り軌道エレベーターに向かえばいいから」

 

 リリスは口ではそう言ったが、その場にいた誰もがシンデレラとの戦闘は避けられないと思っていた。

 

 

 

 

 

 ──翌日、軌道エレベーターまで残り1km地点

 

「状況終了」

 

「ふんっ。奇襲じゃなきゃ大したことないな」

 

 以前は苦戦していたウルトラの撃破を私が宣言するとレッドフードは豪語した。

 

「このままならエレベーターまで行けそうね。指揮官、宇宙服は問題ありませんよね?」

 

「ああ。宇宙服を着られると思うと昨日からワクワクして眠れなかったよ」

 

「ふふ、じゃあ行きましょう」

 

 指揮官の冗談に私は微笑んで返す。

 

「ん……? みんな、あそこ……」

 

 全員がレッドフードが指す先を見た。距離が遠くはっきりしない。けれど太陽を背に浮かぶヒトガタが、生身の人間である指揮官以外には見えた。

 

「指揮官、シンデレラです!」

 

「リリス以外は巻き込まれない様に離れるぞ!」

 

 指揮官に従ってみんなが離れるのを尻目に私はシンデレラに向けて全力で走る。先程まではぼやけていた輪郭も直ぐにはっきりした。

 

「待った? シンデレラ」

 

 こちらの動きが予想外だったのか、声を掛けた際に見た侵食されて赤くなっている彼女の瞳には、驚きの感情が見える気がした。

 

 ガラスの靴が展開される。

 

 その瞬間、私はスノーホワイトが用意してくれた装備を手に飛び上がった。

 

「セブンスドワーフゼロ、レディー!」

 

 スノーホワイトがレッドフードのための試作品だと言っていたこれは、まだ武装として本来の機能を持ってはいない。それでも後部に付けられた推進機構は今回の目的に十分な機能を持ち合わせていた。

 

 ガラスの靴から拡散するレーザーを躱して空を駆ける。

 

 シンデレラの表情に先程までとは異なりはっきりとした動揺が表れていた。

 

 私はシンデレラの上に抜けると今度は逆向きに装備を全開にして急降下する。

 

「落ちて!」

 

 ガラスの靴の防御が阻むが気にせず蹴り落とすと、轟音と共にシンデレラは地面に突き刺さった。

 

「思っていた通りね……」

 

 シンデレラが立ち上がる。

 無傷ではないが行動不能には程遠いダメージしか与えられていないようだ。

 

 研究所で見たスペック通りなら今のでバラバラになっても可笑しくなかった。しかし現実にはガラスの靴の1つを完全に破壊するにとどまっている。やはり何らかの形でラプチャーと融合して強化されているのだろう。

 

 シンデレラが再び残りのガラスの靴を展開する。

 だが私は次の瞬間には距離を詰めていた。

 

「遅くなって助けられなくてごめんなさい。シンデレラ」

 

 私はこんなことになるために生まれたはずのない彼女に、そう囁き全力で拳を振り抜いた。

 

 湿っぽい音と共にシンデレラの頭蓋が弾け飛び、中身が辺り一面に散らばった後、彼女の体は静かに崩れ落ちる。

 

「指揮官、シンデレラを処理しました。こちらに来てくれますか?」

 

 通信機に向けてそう伝えた後、私もまたオーバーヒートのためにその場に座り込む。

 

『リリス!』

 

「リリスお姉ちゃん!」

 

 みんなが心配そうに駆け寄ってくるのを見て、私は自分の状態が何でも無いかのよう誤魔化すために精一杯笑みを浮かべた。

 

「怪我はしていないから大丈夫。ただ少し張り切り過ぎただけだから」

 

 そう告げると他のみんなは誤魔化せたようだが、指揮官は変わらず私のことを心配そうに見つめていた。

 

「分かっていたが、やはりあれには勝てんな」

 

 紅蓮は私の本気を見たせいなのか何処か嬉しそうだ。

 

「それでどうする? このままエレベーターに向かうか?」

 

「リリスが動けない以上、危険すぎる。一旦退却して体制を立て直すしかないな」

 

 レッドフードの問い掛けに指揮官がそう答える。私自身、そもそもシンデレラが抜けた時点でこの作戦には無理があると思っていたから指揮官に同意して続けた。

 

「私もそう思います。こんなことは言いたく無いけど、このまま作戦を続行しても勝算がなさすぎます。なのでシンデレラを回収して……」

 

 シンデレラに視線を向けると死体が静かに立ち上がるのが見えた。

 

「みんな気を付けて!」

 

 私の警告にみんなが反応して振り向くと、その悍ましい姿に誰もが驚きを隠せなかった。

 

 立ち上がったシンデレラの首が泡立つ。

 頭を再生させようとしているようにしか見えない。

 

「何だと!?」

 

 指揮官が叫ぶとシンデレラは飛び上がり逃げ出した。

 その方向は友軍が陽動作戦に従事している方向だった。

 

 直ぐに指揮官が正気を取り戻して命令する。

 

「ドロシー、レッドフード、紅蓮はシンデレラを追え! リリスが首を撥ねても生きていた以上、確実にコアを破壊しろ! それでも生きているなら何としても捕らえて回収しろ。ラプチャーには絶対に渡すな! スノーホワイトとラプンツェルはリリスを回収して私と共に退却してくれ!」

 

 みんなが即座に指揮官の命令に従って行動を開始する。

 

 走り去る3人を見て私は無事を祈るしかなかった。

 

【End】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い閃光が突き刺さりシンデレラが墜落した。

 

 何が起きたのか分からないでいる私の前に、戦場には場違いなドレスの様な姿の美しいニケがガラスの靴を蹴り壊して飛び込んできた。

 

「体を使うのは、野蛮だと言っていなかったかい?」

 

 後から来た黒いニケが誂う。

 

「怪物を相手になんて、上品には戦えるはずないでしょう」

 

 ドレスのニケはそう答えた。

 更に最初にシンデレラを撃ち落としたであろう赤いニケが飛び込み、立ち上がろうと藻掻いていたシンデレラに銃を突き付けて告げた。

 

「ガラスの靴が割れたな。パーティーは終わりだ!」

 

 周囲に対艦ライフルの発砲音が繰り返し響き渡る。

 

 

 

 

 

 私は彼女たちの、勝利の女神の姿に目を奪われていた。

 なるほど、シンデレラが焦がれた訳だ。

 目の前で起きている事象は凄惨な戦争の一幕そのものだったが、私にはとても美しいものに思えていた。

 

 私は仲間がいた場所を見る。あんなに会いたがっていたゴッデスがいるのだから、さぞ喜んでいるに違いないと思って。

 

 しかし其処に生きている人は誰もいなかった。

 シンデレラのレーザーは遮蔽物を貫通していた。

 私とペアとして行動を共にしていたピナの2人が無事だったのは私が感じた危険の隙間に逃げ込めていたからだった。

 

 

 

 後に合流ポイントに辿り着いた際にも、暫く待ったが誰も来なかった。

 

 星屑部隊はこの日、私達2人を残して全滅した。

 

 そしてこれは私達だけに起きた悲劇では無い。

 ゴッデスの勝利を信じて戦っていた兵士達の士気は、ゴッデスの退却が知れ渡ると簡単に地の底まで落ちた。結果として潰走した西方方面軍はその戦力のほぼ全てを喪失した。





 遅れて申し訳ありません。
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