救済を願って   作:バレンシアオレンジ

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13 異端者

 

 西方方面軍が全面的に支援を行い、製造された量産型ニケの半数および万全のゴッデス部隊が投入されたクイーン討伐作戦は失敗に終わり、軌道エレベーター周辺のラプチャーの兵力はそれまでと比べて400%以上上昇した。これを踏まえて、人類連合軍は現行のいかなる戦力を以てしても軌道エレベーターの攻略は不可能だとの結論を下した。また作戦失敗の原因となった第2世代フェアリーテイルモデルのシンデレラの名は記録から抹消され、襲撃した特異個体のことを異端者(ヘレティック)アナキオールと呼称する様になった。

 

 以後、人類連合軍は中央政府と名を改めて人類の種としての未来を超巨大地下シェルター都市"アーク"に賭けることを決めた。

 

 

 

 

 

【Another Side】

 

 ──2ヶ月後、アーク近郊

 

「上層部から緊急の呼び出し、ですか?」

 

「ああ」

 

「リリスと指揮官だけ?」

 

「うん。指揮権のある人だけ」

 

「タイミングが悪過ぎますね。防衛戦で忙しい時に……」

 

 既に毎日の日課とさえ言える程に幾度となく発生しているラプチャーとの戦闘を終えて、勝利の翼号に戻った際に受けた通信について説明するとドロシーは不満そうに見えた。

 ただ私自身も、秘密のはずだった避難計画やアークの場所が明らかにラプチャー側に漏洩している上に、アークの防衛線に対して日に3,4回ものラプチャーの襲撃がある現状で指揮官の突然の呼び出しともなれば、不満を覚えるのも無理のないことだと思っていた。とはいえ。

 

「今が唯一のチャンスなの。スキャンの結果からして3日程度はラプチャーの襲撃がなくなるはず。距離が結構離れているの。途中に障害物も多いし」

 

「長くはかからないはずだ」

 

「……何か状況が変わったのですか?」

 

「よく分からないが、その可能性が高い」

 

 ラプンツェルの疑問は当たり前のものだけど、私も指揮官も詳しい説明はまだ受けていなかった。

 

「すぐ戻ってくるから、あんまり心配しないで」

 

 そして私達がいない間のリーダーにドロシーを指名する。そのことに対して紅蓮が口ではあれこれ言っていたけれど、本当は思い遣りがある子だと分かっているから私は心配していなかった。指揮官は少し本気で心配しているように見えたけど。

 

「そういえばレッドフードはどうした?」

 

「レッドフードは私たちが出撃している間に散歩に行くと言って出掛けたそうです」

 

 指揮官がこの場にいないレッドフードについて尋ねると、今度はスノーホワイトが不満そうに答えた。

 

「そうか……まあレッドフードのことだ。心配しなくても大丈夫だろう」

 

「心配してません。ただ安静にしてなきゃいけないのに勝手に出掛けるのは無責任だと思うだけです」

 

「怒らないであげて。レッドフードだってもどかしいのを我慢しているんだから」

 

「……怒っていません」

 

 治療薬が存在すると分かってからは侵食の症状が悪化しない様に、レッドフードにはどうしても必要な時以外は出撃を控えてもらっていた。もちろん薬はきっと侵食が完全発現していても治療できるのだと思う。でもだからといって侵食が完全発現してしまえば会話もできないし、そんな状態のレッドフードを薬が見付かるまで縛り付けておきたくなかった。

 レッドフードはそんな私たちの気持ちを汲んでくれたけれど、やっぱり色々気にしているのだろう。シンデレラ……アナキオールを捕獲した際に発作を起こして友軍を援護できなかったことも大きいのかもしれない。でも動けなかったのは私も同じだし、仮にレッドフードが無事でもアナキオールの回収が最優先だったのだから責任に感じ過ぎないで欲しいと思った。

 

 みんなに別れを告げてから指揮官と共にブリーフィングルームを出る。

 

「どう思います?」

 

「薬の送り主のことか?」

 

「はい、何故動かないんでしょう?」

 

 何度も考えたことを改めて確認する。私も指揮官も気になったのは送り主がレシピを秘匿している点だ。こちらに届くはずだった治療薬は2回とも1つだけだったのだから薬は希少なものなのだろう。でもそれなら薬を送るだけでは侵食に対抗するのには不十分だと分かるはず。

 

 何故レシピを送らないのか?

 

 それを考えた時、最初に思い浮かんだのは送り主が自分自身でレシピを公開することに意味がある可能性だけれど、それなら今が最高のタイミングのはず。赤い靴は確かにV.T.C.のブレインと呼ばれる程に求心力があったみたいだけど、アナキオールの件があった影響で今はそれが低下している。だからこそ今、侵食の治療薬のレシピを公開すれば送り主の権威は高まるはずだし、アナキオールに執着しているブレインの片割れを味方につけることも可能なはずだ。なのに何故動かない?

 

「やはり研究者ではなかったということか? 基地の外で物資を受け取っていたというのは紅蓮の姉が流した欺瞞情報で、実際には基地内部で研究者から受け取っていたのだと思っていたが、もし外で会っていたという話が本当だったとすれば送り主は軍人か、あるいはニケの可能性もある」

 

「それは……」

 

 最悪の可能性が頭をよぎる。そんな私を見て指揮官は言葉を付け加えた。

 

「そうだな。接触がないのは軌道エレベーターでの陽動作戦中に戦死したことが原因かもしれない。だがそれは考えても意味がない。今は生きていることを前提として、何処にいるどんな人物なのかを考えるべきだ」

 

「そうですね……なら例えば未来でラプンツェルが治療薬を作ると知っていて、研究者として手柄を横取りするのが嫌だから動かないという可能性はありませんか?」

 

「なるほど。その可能性もあるか……いや違うな。少なくともV.T.C.の侵食研究情報にアクセスできない立場のはずだ。仮にアクセスできるなら原因は分からなくとも、研究の進捗状況から私たちが薬を受け取っていないと推測できるはずだ」

 

 指揮官の指摘通り、研究の状況を知っていれば手柄の横取りよりもレッドフードを心配する方が先だと分かるはず。逆に研究の状況を知ることができない立場だとすれば、戦場にレッドフードがいない理由を初の侵食治療成功例の調査研究のために入院していると考えても不思議ではない。

 

「ですが研究者ではない軍人やニケだとするなら、どうやって薬を作ったんでしょう?」

 

 V.T.C.が全力で研究しているのに見付けられない侵食の治療薬を、例え未来を知っていたとしても十分な設備も無しに製薬の素人が合成できるなんてことあるのだろうか?

 

「作るのは簡単だが材料の調達が難しいという可能性もあるが……それでも不自然か」

 

 私も指揮官の言葉に頷く。V.T.C.や3大企業の研究者が入手できなくて、個人が入手できる希少な材料というのはそもそも矛盾している様に思える。

 

「……まあそこは余り重要ではないか。問題は送り主が私たちは既に紅蓮から薬を受け取っていると認識していて、リリスが言ったようにラプンツェルが未来で薬を作るからなのかは定かではないが、現物があれば何らかの理由でレシピが無くても薬を作れると考えていること。そして送り主が研究情報を入手できない立場にあり、実情を知らず私たちにはもう手助けが必要無いと勘違いしている可能性があるということだな」

 

 確かに薬について私たちが今考えても結局は想像の域を出ない。もっと建設的に送り主と接触する方法を考える方が優先されるべきだ。

 

「うーん。広報を利用して助けを求めるメッセージを送れないでしょうか?」

 

「試してみる価値はあるな。だが中央政府の手前、ゴッデスが直接助けを求める訳にはいかない。何か送り主にだけ伝わるような符丁を考えるか……」

 

「私も何かいいフレーズがないか考えてみます」

 

 その時、突然体に力が入らなくなり倒れそうになった。

 

「リリス!」

 

「ごめんなさい指揮者。重いですよね」

 

「私は平気だ。それよりもリリスは大丈夫か?」

 

「はい、少し休めば大丈夫です」

 

 暫くするとまた元通り動けるようになったが、最近はどんどん発作の間隔が短くなり、元通り動けるようになるまでの時間は長くなってきている。

 

「あとどれくらいでしょうか? 私の体」

 

「……おそらく200年程度か?」

 

 思わず口にすると指揮官はそう返した。

 

「あら、ずいぶん長生きできますね」

 

 そんな冗談に笑みが零れる。

 

「短期決戦を目標として作られたボディだから、寿命が長いとは思っていませんでしたが……いざ、こうなってみると……」

 

 少しずつ近付いてくる死を日々感じていると、過ぎ去った色々なことが思い起こされる。あの時はああするべきではなかったとか、あの人とはしっかり話しておくべきだったとか、そんなことばかり考えてしまう。

 

「……リリス、弱音を吐かないでくれ」

 

 けれどそんな考えと同時に、

 

「そうですね。まあちょっとした愚痴だと思ってください」

 

 側で支えてくれる大切な人がいることを感謝した。

 

 

 

 

 

 ──アーク防衛司令室前

 

「それで呼び出しの理由は何でしたか?」

 

 何故か部屋の外で待たされた私は、暫くして部屋から出てきた指揮官の横を歩きながら問い掛けた。

 

「……ヘレティックだ」

 

「えっ、まさかアナキオールが脱走したんですか!」

 

 アナキオールは私たちが回収してから特殊フレームで拘束して厳重に管理されているはず。そんな状態で逃げ出せるとは思っていなかった。私との戦いでボロボロの状態でも、遭遇した陽動部隊の1隊を僅かな時間で壊滅させたあれが、今の防衛線に現れたらどれ程の被害が出るのか。

 

「アナキオールではない。別個体が現れたらしい」

 

「それは一体……」

 

「リリスも分かっているだろう。ラプチャーに情報が漏れているのは。それだけではなく、最近は行方不明になる部隊も多い。中央政府が秘密裏に調査したところ、行方不明になった部隊は全て孤立していたニケを保護したと報告した後に、少し経ってから通信途絶したらしい」

 

「どういうことでしょうか? 保護したのが侵食されたニケだったなら間違えようがないと思いますが」

 

 私は指揮官の話に感じた疑問をそのまま口にする。

 

「普通ならそうだ。だが過去に孤立したことがあるニケを調べた結果、一部の個体は侵食されていたそうだ。調査されるまでは誰も違和感を覚えない程に周囲に馴染んでいた個体がな」

 

「また侵食が進化したということですか!」

 

 また別の悪夢が始まるのかと戦慄を覚える。

 

「研究者たちは違うと考えているようだ。詳しいことは私にも分からないが、研究所で見たラプチャーと融合したニケの方が近いらしい」

 

「それはそのニケたちが全てヘレティックということですか?」

 

 融合したニケはヘレティックのはず。でもヘレティックに私たち抜きで対処できるとは思えない。

 

「ヘレティックそのものではなく、ヘレティックの端末に改造されているそうだ。つまり侵食したニケを自在に操れるヘレティックが出現したということになるな」

 

「そんな……ならレッドフードも?」

 

 もしもレッドフードがヘレティックに操作されたら私たちは止められるだろうか。せっかく侵食治療の希望が見えたのに。

 

「最悪の場合、その可能性もある。それに上層部は防衛線の主戦力になっている量産型ニケに対して軍内部で不信感が広がるのを恐れている。だからこそ一刻でも早くヘレティックを処理する必要がある。それで私たちに白羽の矢が立ったという訳だ」

 

「話は理解できました。でもどうやって探すんですか?」

 

 端末を使っているのなら隠れ潜んでいる本体を見付けるのは難しいと思われた。

 

「特殊な侵食をされたニケは外部と通信しているらしい。その方角を複数の研究所で調べて位置を特定したそうだ。そこにこれから私たちだけで向かう」

 

「他のみんなには秘密ということですか?」

 

「そうだ。色々言っていたが、要するに自分たちを危険にさらすなだそうだ。アークの守りが減るのは許せないらしい。私たちだけを派遣する決定すら不満が大きいようだ。ともかく勝利の翼号が使えない以上、今日中に戻るのは無理だな」

 

「……仕方無いですね」

 

 とっくに分かっていたことだけれど、対処を急ぐ必要がある時に自己保身を優先するとは見下げ果てた人たちだ。

 

「そういえばコードネームは決まっているんですか?」

 

「ああ、既に決まっている。何でも調査中に侵食されていたニケが名乗ったそうだ」

 

 私はレギオンだ──と。

 

 

 

 

 

 

 ──翌日の夜、想定潜伏ポイント付近

 

「誰かいますかー?」

 

 キィィィィィィ────

 

 挨拶代わりにラプチャーを蹴り飛ばしながら尋ねる。アナキオールの時に研究所がラプチャーの有力部隊に潰されていたことから予想されていたことだけど、ヘレティックにはラプチャーを操る能力があるらしい。ポイントには多数のラプチャーがひしめいていた。

 

「街の方から反応があるな」

 

 指揮官が探知装置を見ながら言う。ヘレティックを見付けるために急遽開発した装置との触れ込みだけど、ポイントを特定した方法からして中身のことは考えたくもない。小さいからそのまま全部入っている訳では無いだろうけど。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 最後のラプチャーに拳を叩き込んでから返事をすると指揮官は微妙そうな顔をしていた。

 

「どうしました?」

 

「いや、いつ見ても女神(ゴッデス)というよりメカゴリラッああああ!!」

 

「指揮官、いい加減怒りますよ?」

 

「怒ってから言わないでくれないか……」

 

 苦情を聞き流して街に向かった。

 

 

 

「うーん。特筆することの無いごく普通の放棄された街のようですが本当にあっているんですか?」

 

 ラプチャーは街の周りには沢山いたけど、街の中には少数がいるのみで静かなものだった。

 

「さあな。これも何処まで信用できるか分からんが、少なくとも何かはあるだろう」

 

 指揮官が装置を小突きながら言ったその時、別の声が聞こえた。

 

「良かった。助けが来たんですね!」

 

 私たちは直ぐに警戒して身構えた。建物の影から1部隊10人の量産型ニケたちが現れてこちらに向かって来る。

 

「止まって! それ以上近付く前にバイザーを外して」

 

「何故ですか?」

 

「侵食されていないか確かめるためだ」

 

 質問しながら尚も近付いてくるニケに指揮官が告げる。

 

「酷い! 苦労して逃げてきたのに私達を疑うんですか!」

 

 また一歩近付く。

 

「止まれ」

 

「やっと味方に会えたのに!」

 

 無視して更に一歩。

 

「……リリス処理しろ」

 

「分かりました」

 

「えっ?」

 

 最後に口にできたのはそれだけだった。素手で全員の首を切り落としてから、1つを拾い上げてバイザーを外すと見開いている目は真っ赤に染まっていた。

 

「どうやら当たりのようだな」

 

「そうみたいですね」

 

「ひっど〜い。もしかしてあなた達には人の心が無いの〜?」

 

「!!」

 

 上から聞こえた声に視線を上げると壊れた建物に腰掛けるナニカがいた。

 

「……お前がレギオンか?」

 

「そうだよ〜私の名前はレギオン。私達は大勢であるがゆえにってね」

 

 それを聞いて私が動こうとする前に指揮官が手で制した。

 

「お前の目的はなんだ?」

 

 アナキオールと違って会話可能なヘレティックから情報を引き出すつもりなのだと気が付く。

 

「目的? う〜ん、愉しむことかな?」

 

「何をだ?」

 

「それはね〜ニンゲンをコロスこと! すっご〜く愉しいんだよ! 仲間だと思っていたニケに後ろから刺された時のマヌケ顔とか笑えたし、バラバラにした死体を置いておいたら勝手に仲間内で疑いあってコロシアイをした時なんて最高だったよね!」

 

「……そうか。ならクイーンの目的はなんだ? どうやって生まれた?」

 

「クイーン? お母さんのこと? めんどくさいな〜。答えて欲しいならもっと私が答えたくなる様にお願いしてよ。お願いするまでな〜んにも言わないよ?」

 

「……頼む。教えてくれないか?」

 

「な〜んにも! あははっ本当に答えると思ったの? ばーか!」

 

「これ以上は無駄みたいですね」

 

「ラプチャー側の話を聞ければ何か役に立つかと思ったが、そうみたいだな」

 

 不快で邪悪な笑い声を聞きながら確認すると指揮官も同意した。

 

「怒ったの? カルシウム足りてないんじゃないの〜。これ食べる?」

 

 レギオンはそう言って後ろから頭蓋骨を取り出したが、それ以上喋ることはなかった。アナキオールの時と同じミスをしないように、レギオンが座っている場所まで私が全力で飛び上がって首を飛ばしコアも抉り出したから。その上でレギオンの全身を回収して飛び降りる。

 

「指揮官、アトラスケージをお願いします」

 

「ああ、今行く──ッ!」

 

 私は目の前の光景を理解できなかった。ラプチャーはいない。ヘレティックも直ぐには再生できない程に破壊したはず。なのに指揮官のお腹から刃が生えていた。

 

「あははっ本当におバカさんだね~」

 

 何故。

 

「何を……した……」

 

 指揮官が血を流し苦痛を耐えながら問う。

 

「う〜ん? もしかして話を聞いていなかったの〜? 言ったよね。私はレギオン、私達は大勢であるがゆえにって」

 

 レギオン……その言葉が指すのは確か聖書に登場する悪霊のこと。

 

「まさか!」

 

 辺りを見渡す。さっき処理した量産型ニケの死体が1人分足りない。私が運んでいた体は足元で砂の様に崩れた。

 

「やっと気が付いたの〜? そうだよ〜私は死んでも私が侵食したニケに乗り移れるの。だから残念だったね〜」

 

「ぐッ」

 

「指揮官!」

 

 私が動こうとするとレギオンは刃を捻る。

 

「おっと〜勝手に動かないでね〜。手が滑ってあなたの大事な大事な指揮官をコロシちゃうかもしれないよ?」

 

「……何が目的?」

 

「え〜っと、私はどうでもいいんだけどね〜。お母さんはあなたが欲しいみたい。だからね、あなたがさっき言っていたアトラスケージ? に大人しく入ってくれるかな?」

 

「リリス私に構うなッ!」

 

「もうっ黙っててよ。私が話しているんだから!」

 

 レギオンは指揮官を黙らせるために指を一本を折った。

 

「ぐッ」

 

 私たちは相手の話し方から勘違いしていた。

 

「はやく〜」

 

 このヘレティックは最初から私たちを罠に嵌めるために待ち構えていたのか。

 

「こわいの? 心配しなくても大丈夫。あなたはこの世界をあまねく統べるお母さんの礎になるの。だから光栄に思うといいよ〜」

 

 私はどうすればいい?

 

「リリスッ早くしろ!」

 

「しつこいな〜」

 

「ガハッ」

 

 レギオンが今度は指を指揮官に刺した。

 

「あ〜あ、かわいそうに。あなたが早くしないから肺に穴が開いちゃったよ〜?」

 

 そう言って指揮官の血を浴びながら指を舐めた。

 

「えっ?」

 

 私が動けないでいるとレギオンが何かに驚いたような声を上げた。

 

「おまえ、何をしたの?」

 

 指揮官のお腹に刺さっていた刃から手が離れた。理由は分からないけど今しか無い。

 

「指揮官! 大丈夫ですか!」

 

 レギオンを蹴飛ばして遠ざけてから指揮官の容態を確認する。

 

「ゴホッゴホッ、大…丈夫だ」

 

 明らかに大丈夫な様子ではなかった。直ぐに治療しなきゃいけない。けれどその前に。

 

「クソがっ。おまえ、私に何をした!」

 

 私が蹴った際に下半身が無くなったせいで、地面に這いつくばりながら指揮官に怒りの声を上げ続けるレギオンに近付く。レギオンは私に気が付いて怯えた目で見た。

 

「待って!」

 

「……何を?」

 

「こんなのおかしい! 私がおまえ達なんかに負けていいはずないの! 何かズルしたんだ!」

 

「そう、言いたいことはそれだけ?」

 

「待って、そうだ! 今なら何でも答えるよ! だからお願い待って。ねえいいでしょ?」

 

「……」

 

 私は無言で頭とコア順番に踏み潰した。

 

「……再生しない?」

 

 さっきみたいに崩れもしない。とりあえず周囲を見回して他の死体に変化が無いことを確認してから踵を返す。

 

「──ッ! こんな時に!」

 

 直後、体から力が抜けて倒れる。指揮官に手を伸ばしても届かなかった。私たちだけではどうしようもない。命令は無線封止だったけれど、指揮官の命には代えられない。

 

 私はドロシーを呼び出した。

 

『無事だったのですか。こちらから何度連絡しても繋がらないので心配していたのですが』

 

「ごめんねドロシー、お願いがあるの」

 

『リリス?』

 

「これから言う場所に急いで来て。指揮官を助けて」

 

『しっかりしてください! 何かあったのですか!』

 

「お願いね……」

 

『直ぐに参りますから、少しだけ頑張ってください! みなさん準備してください!』

 

 私は居場所を伝えた後にドロシーの慌てる声を聞きながら気を失った。

 

【End】





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