救済を願って   作:バレンシアオレンジ

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 3周年楽しみですね。



14 微睡みから覚めて

 

『……人類連合軍は甚大な犠牲を出して失敗に終わったクイーン討伐作戦の永久凍結を決定しました。また人類連合軍は作戦計画凍結の理由を、軌道エレベーターの守備兵力増加およびラプチャーの上位種と考えられる異端者(ヘレティック)の出現により、不確定要素が多く残存戦力による軌道エレベーターの突破は困難と判断したためだと発表しています。これについて世間では最初から無謀な作戦だったのではないかと非難の声が多数あがっており……』

 

 

 

『──、もう行きましょう』

 

『……もう少し待てないかな? 皆迷って時間が掛かっているのかもしれない』

 

『あの日、──も見たでしょう? みんなが隠れていた遮蔽物ごと穴だらけにされたのは』

 

『いやでも、あの時はラプチャーに襲われて全員の状態を確かめられなかった。だから誰かはまだ生きていたかもしれ……』

 

『いい加減に現実を見てください! 例えあの時生きていたとしても、少なくとも動けない程の怪我をしていたはずです。なのにどうやってラプチャーを避けて合流ポイントまで来るんですか?』

 

『……』

 

 シンデレラを取り返すためか知らないが、あの時集まってきたラプチャーから──と一緒に形振り構わず逃げ出すしかなかった私が言えた事ではないのも分かっていた。

 

『お願いです。私は、私達はまだ生きています。だから一緒に逃げてください』

 

 せめて皆の認識票だけでも持ち帰りたいという思いは止められない。だが……

 

『……そうだね。もう行かないと』

 

『──!』

 

『無理を言ってごめん』

 

『すみません私こそ言い過ぎました。でも分かってくれて良かったです。一緒に行きましょう』

 

 ──は私の返答に微笑んでくれた。その表情の奥にはきっと私と同じ痛みがあるのだろう。しかしそれでも前を見ている。ああ、やっぱりこの人はゲームで見た──と同じなんだと思わされた。とても強くて眩しい。そして何より温かかった。

 

 ──────────

 

『……人類連合軍が派遣軍を撤収することに対して各国から批判の声があがっています。人類連合軍広報によれば戦線が世界中に広がり過ぎたために行った通常の戦線整理とのことですが、有識者の間では先のクイーン討伐作戦における敗北により生じた戦力の穴埋めを目的としたものだとの意見も多く、"人類連合"の名を掲げながらもその実態は地球主義ではなく自国第一主義的だとして各国首脳からの批判が……』

 

 

 

『ごめん──。弾が尽きそうだ』

 

『私もです。陽動作戦の後補給できませんでしたから仕方無いですが……これ以上ラプチャーと戦えば戦闘中に弾切れになりかねませんね……。──、ラプチャーを避けられませんか?』

 

『多分、迂回すれば何とかなると思う』

 

『すみませんがお願いします』

 

 私の第六感を頼るしかない状況に申し訳無さそうに──が言う。だけど私からすれば頼られた方が救われる気がした。

 

 ─────────

 

『……我々中央政府は現在ほぼ完成しつつある超巨大地下シェルター都市"アーク"の防衛および移住避難民の保護に全てのリソースを集中する事を決定しました。この様な発表をせざるを得なくなった事については我々としても誠に遺憾の念に堪えません。しかしながら我々は認めなければなりません。人類はラプチャーに勝利出来ないという事実を。その上で例え地上を捨てることで今後どれ程の困難が待ち構えていようとも、耐え難きを耐え忍び難きを忍び、文明を、人類を未来へと存続させなければなりません……』

 

 

 

『どうですか?』

 

『駄目だね。そろそろ日が暮れるし今日は諦めて何処か休む場所を探そうか』

 

『仕方無いですね。近くに見付かればいいですが……』

 

 時には1つの大きな道路を横切る為だけに数日待ったこともあった。迂回出来ず開けた場所を移動せざるを得ない上に銃器を存分に使えない以上、安全を最優先にして周囲を徘徊するラプチャーが減るの待つのは仕方の無いことだった。

 

 ────────

 

『……先日設立が宣言され人類連合軍が統合された中央政府について、組織としての名称を変えてもその実態は人類連合軍による軍事政権であり事実上のクーデターだとの意見が有識者の間で広がっており、国民主権の原則に反した民主主義の危機だとの批判が相次いでいます。またアークに避難する権利は厳選な抽選の結果とされていますが、中央政府が都合の良い様に結果を操作しているとの憶測が広まった事で、全国各地で抗議デモが行われています。一部ではデモが暴動にまで発展しており治安の悪化が懸念されて……』

 

 

 

『そんな……』

 

『……何か使えるものがないか探そう。せめて弾薬だけでもあれば少しは楽出来る』

 

『……そうですね。探しましょう』

 

 辿り着いた私達の基地は既に放棄された後だった。建物が破壊されていることや、内部の血痕を見ると駐屯していた軍は抵抗虚しく殺されたのだろう。

 

 ───────

 

『……中央政府は各地で行われている抗議デモについて、参加者の主張は全くの事実無根であり、その行動は無意味かつ人類の未来を危険に曝す極めて悪質なものだと非難しています。また現在の情勢を鑑みてデモ参加者の安全は保障しかねるとも発言しており、これに対してデモ参加者は言論の自由を制限し国民の生活を保証出来ない中央政府は政府と名乗っているだけの暴力組織に過ぎないとして反発を強めています。私個人もジャーナリストの一員として中央政府のこの様な対応は認められません。今こそ報道の力を……』

 

 

 

『アークに向かいましょう』

 

『そうだね。アークに行けば友軍と合流出来る』

 

『ごめんなさい。──ばかりに負担をかけてしまいますが、先導をお願いします』

 

『謝らないで──。君の役に立てるなら私は平気だよ』

 

『……ありがとうございます』

 

 廃墟になった基地で私達は使えるものを掻き集めて準備を整えてからアークへ向かうことを決めた。基地には探せば食糧も弾薬も僅かではあるが残っていた。特に星屑部隊の集合写真を見付けられたことが他の何よりも嬉しかった。

 

 ──────

 

『……は体調不良のため本日から私が代行を務めます。アークの防衛および移住避難民の保護を目的として開始されたアークガーディアン作戦について、中央政府は現在までに当初の想定目標の大凡半分を達成したと発表しました。現状のまま推移すれば本作戦は成功裏に終了する見込みとのことです。また中央政府は地上に残る国民に向けて生存ガイドを作成し無料配布しています。各地で暴徒化していた人々が集中的に狙われたことから既に知られている通りラプチャーは音と熱に敏感に反応するため……』

 

 

 

『止まれ! 何者だ!』

 

『私達は星屑部隊の生き残りで──と──です』

 

『そうか。先ずはバイザーを外せ!』

 

『何故でしょうか?』

 

『いいから早くしろ! 外さないなら撃つ!』

 

『……分かりました』

 

『侵食はされていないようだな? まあいい、適当に向こうで大人しくしていろ。それでラプチャーどもが来たら殺せ』

 

『……それだけなのかな?』

 

『反抗する気か? なら今直ぐ俺が処分してやるぞ』

 

『いえ、了解しました。配置に就きます』

 

 軍人は何処かピリピリしていた。私達にはその原因は分からなかったけれど、少なくとも歓迎されていないことは理解出来た。

 

 ─────

 

『……アークガーディアン作戦はゴッデス部隊の尽力により間もなく完了します。しかしながら残念な事に、昨日リリーバイス少佐が亡くなられたことが分かりました。少佐は最初のニケとしてゴッデス部隊に所属して以降様々な作戦に従事し、人類の存続のために計り知れないほど貢献してきました。私達としても彼女の献身には感謝の念に堪えません。この場を借りて彼女の犠牲に哀悼の意を表し黙祷を捧げたいと思います……ジジッ、ジジッ……私達も地上での放送は今回を最後にアークへと移動しますが、地上に残る方々の無事と幸運を心から願っております』

 

 

 

『なんでこうなったんだろう……』

 

『──何か言いましたか?』

 

『ごめん。何でも無いよ』

 

『……そうですか。何かあったら必ず相談してくださいね?』

 

 私には分からなかった。紅蓮とレッドフードが一緒にいるのは確かにあの日に見た。にもかかわらず臨時監視所にレッドフードがいない。シンデレラもいない。いや、オールドテイルズはクイーンを討伐しに行ったのか? 

 

 紅蓮と薔花が笑いあって、アンチェインドによりレッドフードが侵食を克服して生きたままラピを助けて、シンデレラとセイレーンが稼いだ時間の間に主人公が生まれて、マリアンを救って、ゴッデスがアークテロ事件を防いで、ヘレティックにも皆で戦って、そして最後には主人公の元に集まった全てのニケ達が力を合わせてクイーンを倒して大団円となるのを夢見たのは間違いだったのだろうか?

 

 ────

 

『リリス様が亡くなられたなんて本当なんでしょうか?』

 

『そんな嘘ついてどうするのよ。無意味だし不謹慎でしょ。それにリリス様のことは私も残念だけど、今は自分達の心配をしなきゃ』

 

 これまでゴッデスの皆を支え続けてきたリリスは臨時監視所の外壁にもたれ掛かって眠る様に亡くなった。しかし私達は他人を心配するよりも自分達が生き残ることを第一に考えなければならない。

 

 ───

 

『ふーん、アンタは驚かないんだな』

 

 確かに最初から分かっていたことだから驚いてはいない。だが彼女に対して私ができることなど何も無かった。この世界は前世よりも遥かに技術が進歩している。軌道エレベーター然り、エニックやインクなどのAIも然りだ。更にニケに至ってはそのコア技術が前世で理論的にも不可能とされていた永久機関ですらある。歴史上一握りの天才にしか行えないレベルの技術革新に、前世の技術レベルでさえも完全には理解出来なかった凡人でしかない私に携われるはずがないのだから。

 

 ──カ

 

『そう。あなたはそうやって誰かを見捨てることを正当化するのね』

 

 そんなつもりはない。

 

『でも私達が死ぬことも分かっていて見捨てたんですよね?』

 

 知らなかった。

 

『あたしはアンタを仲間だと思っていたけど、アンタからすればあたしは仲間じゃなかったんだな』

 

 違う。

 

 ─リカ

 

 ……何かが可怪しい。私は口に出していただろうか?

 

 私は周囲を見回した。何時もと同じ星屑部隊が拠点としている基地の一室だ。何も変なことはない。

 

 そう思い皆の顔を見る。顔があるべき場所はまるで子供のラクガキの様にぐちゃぐちゃに黒く塗り潰されていた。

 

 

 

「エリカ」

 

 

 

 思考に霞がかかった様な感覚があり混乱する。

 

 私は何処で何をしていたのだろうか?

 

 意識をはっきりさせるために首を振ると私の手を握って心配そうにこちらを見つめる人がいることに気が付く。

 

「……ピナ?」

 

「はい、そうです。魘されている様に見えたので起こしましたが……エリカ、大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫だよ。心配かけてごめん」

 

 そうだった。私が最近寝ていないと気が付いて思考転換のリスクを心配したピナにお願いされて仮眠を取ろうとしたんだった。

 

「……ごめんなさい」

 

「ピナが謝る必要なんて無いよ。それに少し疲れもとれたからね」

 

 そう言って周りを見る。ピナは私が寝ている間も塹壕を掘ってくれていた様だ。

 

「続きをしようか」

 

「……はい」

 

 臨時監視所は古城跡か何かがあった場所に作られたのか、周囲を水堀と大きな防壁で囲われた一見すると堅牢な要塞だ。しかしそれは火砲が登場する前の騎兵突撃が行われていた頃のドクトリンに限った話でしかない。ここの防壁は曲射された砲弾に対して何の意味も無く、また飛行型ラプチャーに襲撃されればそれこそ終わりだ。対抗する対空砲も無い。まともに反撃出来るのはスノーホワイトのセブンスドワーフ位だろうか。

 

 そもそも原作でスノーホワイトが監視塔に登っているのにも拘らずラプチャーに4000──4kmまで近付かれている時点で問題があると分かる。4kmは大人が地面に立って見える地平線や水平線よりも近い距離だ。またほんの10m上に移動するだけでその距離は倍以上遠くなる。つまりニケであるスノーホワイトが近接されるまで気が付けなかったことから推測されるのは、臨時監視所自体が見通しの悪い不適切な場所に建設されているということだ。

 

 勿論、仕方無い面があるのは分かっている。軍人から見て安全を担保するのは開けた射界と多数の銃器だが、臨時監視所の場所延いては秘密作戦であるアークの建設場所を決めたであろう情報部のエージェントにとっては安全を保証してくれるものとは、秘密性つまりは人里離れて見え難い場所あることになるのだから。

 

 とはいえ私達の命が掛かっている以上、仕方無いでは済ませられないので、手が空けば塹壕を掘り進めている。そしてそれは今までのところ多少は犠牲を減らすのに役立っていた。

 

「食事にするそうです。戻りましょうエリカ」

 

「わざわざ戻るのかい?」

 

 こちらに来た量産型ニケと会話したピナから伝えられた内容に対して抱いた疑問をそのまま口にする。

 

「ドロシー様が料理をされているそうです」

 

「! そうか……分かったよ。行こうか」

 

 ピナの言葉を聞いて、私はついにこの時が来たのかと悟った。この後多数の砲撃型ラプチャーに襲撃され、ラプンツェルに従って行動する量産型ニケはピナを残して全滅する。そしてピナは心の折れたゴッデスを救うが侵食されてしまいドロシーに撃たれる。しかしその心配は既に必要無い。だからこそ私自身が生き残ることさえ最早どうでも良くなった。

 

 私達は臨時監視所に向かって歩みを進める。ドロシーの作っていた料理の献立は何だっただろうか。ドロシーが料理をしたことも、スノーホワイトが側にいなくても匂いや音だけで何を作っているのか当てていたことも思い出せるが、具体的にどんな料理だったのかは思い出せない。いや、遠い昔のことだし思い出せないことがあって当然か。とはいえ直ぐにでも分かるだろう。臨時監視所の方からいい匂いがしている。そういえば料理が完成する前にラプチャーに襲撃されて食べ損ねるんだったか。残念だ。最後くらい保存食では無く、美味しいものを食べたかった。

 

 まあ良いか。

 

 ただただ疲れていた。

 

 漸くだ、漸く楽になれる。

 

 後1時間もしない内に終わる。

 

 量産型ニケの体は疲労しない筈なのに。

 

 何よりも夢を見ないで静かに眠りたかった。





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