救済を願って   作:バレンシアオレンジ

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 イベントストーリーは最後まで絶望的でしたね。
 ドロシー様……


17 巡る季節と巡礼者

 

【Another Side】

 

 ──色付く山の麓町

 

 ラプンツェルは震えていた。

 

 日中の気温も徐々に下がり始め、木々は鮮やかに葉を色付けさせており、動物たちもこれから訪れる厳しい寒さに備えて食糧を蓄えている。

 

 しかしラプンツェルが震えていたのは季節の移り変わりによるものではなかった。

 

「……」

 

 いつもの様にNIMPHから伝わってくる姉妹たちの生まれ故郷を訪ねて永遠の安息を祈るはずだった。

 

 それだけのはずだった。

 

 明確な理由があった訳では無い。ただ辿り着いた姉妹の生家に対して、喉に小骨が刺さったような違和感を覚えて勝手に入ってしまった。

 

 入らなければ良かった。

 

 家の中にはいくつも写真が飾られており、暮らしていた家族の仲が良かったことが伝わってくる。

 

「ピナさん……」

 

 家には手紙が残されていた。

 大学進学を契機に一人暮らしを始めた家族からの手紙。

 親が娘の、祖父が孫の、選択を尊重し激励する手紙。

 安全なシェルターに避難することを伝える手紙。

 そこには"ピナ"と書かれている。

 

 だがそれは可怪しい。

 

 ラプンツェルは"エリカ"を埋葬したお墓から吸収したNIMPHの記憶を辿ってここに来たのだから。

 

 なのに何故? 

 

 いや合理的に考えれば、2人が何らかの理由で入れ替わっていたというのが、状況から推測される蓋然性の高い結論なのは分かる。

 

「そんなこと……」

 

 あり得ないと言えたらどれだけいいだろう。でも、もしも本当に2人が入れ替わっていたとするなら、それは一体いつからだろうか。最初から? いやそれはきっと。

 

「……私がそう呼んだ時からでしょうか」

 

 ラプンツェルは自分の手を押さえようとするが震えは止められない。

 

 2人のことが思い出される。互いに大切に想っているのが見るだけで分かった。いつも側にいて離れようとせずにいたから。それも仕方の無いことだと思っていた。壊滅した部隊で生き残った2人だと知ったから。

 

 そしてそれだけではない。あの後合流した紅蓮の姉、薔花の話から"エリカ"こそが探していた薬の送り主であり、助けを求めて予言を指揮官へ送った人物なのだと知った。だとすれば、未来を知っていたなら、大切な友人を助けようとしたはずだ。それなのに助けられず苦しんだのではないか?

 

 もし、もしもそうだとしたなら、目の前で助けたかった大切な人を喪ったばかりの人を、その大切な人の名前で呼び間違えたことになる。それはなんて、なんて残酷なことだろうか。

 

 ラプンツェルは想像する。

 

 目の前でレッドフードを、リリスを、喪った時に突然その名で呼ばれたら自分は何を思うだろう。

 

「エリカさん、ピナさん……ごめんなさい」

 

 ラプンツェルの心からの謝罪は、他に誰もいない家の中で虚しく消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──雪の積もる何処かの街

 

「状況終了」

 

 最後のラプチャーが沈黙したのを確認してスノーホワイトは一息つく。しかしそれと同時に戦い始める前に感じていた空腹を思い出して気分が落ち込んだ。

 

 近くの店舗に残されていた僅かな食糧はとっくの昔に食べ尽くしており、昨日から何も食べていない。寒さが一際厳しくなっている今日この頃は、虫も隠れてしまって見付け難い。ましてやコンクリートで覆われた街中だ。少ない街路樹ですら先程の戦闘の余波で今も燃え続けていて、樹皮を剥いだりして探すこともできない。

 

「移動するか……」

 

 もう少し郊外に移動すれば自然の恵み?にも期待できるだろうと考えて、ラプチャーの死骸から使えそうな部品を回収して荷物を整理し準備をする。だがその時、突然後ろから何かの声が聞こえた。

 

「Doro!」

 

 スノーホワイトはすぐさま反応して銃を構えて振り返るが、視線の先にいたのがラプチャーではないことを確認して力を抜く。

 

 初めて見る生き物だ。最初に抱いた印象は白い犬というものだったが、ピンク色の髪を持っている犬なんて見たことも聞いたことも無い。いや髪の毛ではなく鬣なのかもしれない。だとすればライオンの1種なのだろうか?

 

 そして気になることはそれだけじゃない。ここはついさっきまでラプチャーと戦って大きな音が響いていた場所だ。普通の野生動物なら戦闘が始まった段階で逃げ出して戻って来ないはず。なのに何故この生き物はこんなに近くにいるのか?

 

 さらに観察すると目の前の生き物が背中にシャベルを背負っていることに気が付く。人間以外にも、頭が良い一部の動物が道具を使うこともあるというのは、スノーホワイトも知識として持っていたが、ライオンはシャベルを扱えるほど賢い個体が存在するのだろうか?

 

 目の前にいる不思議生物の正体について、様々な疑問がスノーホワイトの頭を過るが答えは出そうに無い。

 

 しかしそんなことよりも遥かに重要なことがあった。それを思わず小さな声で呟く。

 

「……今夜はお肉だな」

 

 こちらの動きに驚いたのか、振り向いた瞬間はあの生き物も固まっていたが、銃を下ろすと様子を窺いながらゆっくりと近付いてくる。

 

 好都合だ。

 

 スノーホワイトは過去の経験から学んでいた。鹿などの動物はラプチャーに比べて遥かに脆く、対艦ライフルはもちろん、自身の使っているライフルもまた可食部位を大きく損なうということを。それ故に狩猟用の銃を別に用意していた。

 

 驚かさない様にゆっくりと手を動かす。相手は変わらず様子を窺いながら近付いてきていた。そして猟銃に手が届いた瞬間、勢いよく引き抜いて素早く頭に向けて発砲した。

 

「なっ!」

 

 こちらが外したなら理解できた。しかし頭に直撃するコースの銃弾を目の前の生き物が躱したことで驚きの声を上げる。

 

「DoroDoro!」

 

 最初の銃弾を躱した後、その生き物は何か必死に訴えかけるかの様に見える仕草をしていたが、スノーホワイトは気にせず2発3発と続けて射撃する。しかしその全てを微妙に腹が立つコミカルな動きで躱された。

 

 ムキになって更に撃とうとするが、流石に相手も逃げ出した。もちろん後を追いかけたが、逃げ足が速くすぐに見失ってしまう。そして見失った場所の周囲をしばらく探しても再び見付けることはできなかった。

 

「……」

 

 スノーホワイトはまた1つ学んだ。野生動物の中には銃弾を見てから避けることができる種類もいるということを。そして獲物を取り逃がした原因は相手に気付かれていたからだ。今回は仕方無いにしても、やはり最初に鹿を捕まえたあの時の様に、気付かれないよう隠れているべきだった。

 

 しかし新しいことを学んでも元の問題は解決しない。

 

「今夜もご飯抜きか……」

 

 お肉を食べられると期待しただけに余計にお腹が空く。

 

 スノーホワイトが肩を落として元の場所へと戻ると、そこには予想外のモノがあった。

 

「これは!」

 

 荷物の側にリンゴが7つも置かれている。誰が置いたのかと周囲を見渡して探すが誰もいない。そしてもう一度リンゴを見る。真っ赤に色付いていて美味しそうだ。

 

 躊躇わなかった。

 

「……!」

 

 甘い。美味しい。

 

 あっという間に食べ尽くして満足げに息を吐く。お肉を食べられなかったのは残念だ。しかし誰からの贈り物かは分からないが、こんなにリンゴを貰えるなんて今日はいい日だ。

 

 その後、荷物をまとめ終わったスノーホワイトは、軽い足取りでラプチャーと戦闘した場所を離れて郊外へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──暖かな日差しが降り注ぐある日の木陰

 

「ようやく……ですね」

 

 ドロシーは地上を探索して危機に陥っていた量産型ニケを助け、アークの話を聞いてから別れた後で呟いた。

 

 やっと始められる。あの日、悪意の塊に思える看板を見てから今までずっと望み考えていた復讐の第一歩を。

 

 いつまでも閉じ籠もり続けることはできないと分かっていたが、アークの封鎖が解除されて、資源を探し求めて地上に上がったニケと接触できるまで思ったよりも長く待たされた。

 

「どの様にしましょうか?」

 

 助けた量産型ニケからアークと地上を繋ぐエレベーターの場所は聞いている。だからアークに直接乗り込んで破壊することも可能だ。

 

 そしてドロシーは考える。ゴッデスを使い捨てておきながら、今も安逸をむさぼっているはずのオスワルドを殺せば少しは気が晴れるだろうと。

 

「……いえ、それだけでは芸がありませんね」

 

 そうだ。それでは足りない。もっと無様で惨めな状況で、捨てたはずのモノに情けなく助けを懇願するよう仕向けて、あの時とは逆にこちらが嗤いながらその手を振り払う。

 

 そこまですればアークの人間もきっと少しは理解できるだろう。捨てられたモノがどれ程の憎しみを抱いたかということを。

 

「──ッ」

 

 頭痛がした。

 

『ゴッデスの皆様と仲良く生きてください』

 

 1ヶ月に1回みんなで集まると約束したのに、ドロシーは今まで一度も会いに行っていなかった。

 

『憎しみに囚われないでください』

 

 みんなに誇りを忘れないでと言ったのに、ドロシーはずっと復讐する方法ばかりを考えていた。

 

「……無理なんです」

 

 ドロシーは思う。あなたが側にいてくれていたなら、そんな生き方を選べたのかもしれないと。ドロシーは彼女を愛していたし、彼女もまたドロシーを愛してくれたはずだから。

 

 しかし彼女は死んだ。死んでしまった。

 

 ドロシーは彼女を喪った痛みを忘れられなかった。何年過ぎようとも癒えない心の傷から血が流れ続けており、そしてそれがより一層アークへの憎しみを強めていた。

 

「覗き見とは感心できませんね」

 

 頭痛が落ち着くと先程から感じていた視線に向けて発砲する。すると、その先にある茂みから何かが慌てて逃げ出すのが分かった。

 

「Doroー!」

 

 奇妙な鳴き声がした。ずっと隠れて観察している様に思われたので、こちらを追跡して監視するニケがいるのかと考えて攻撃したが野生動物だったようだ。

 

 少し見えたのはニケでもラプチャーでもない丸っこい白いナニカが別の茂みの奥へと飛び込むところだが、一体何だったのだろうか。

 

 ドロシーが茂みを覗き込むと、何かの動物がいた場所には2つのオレンジが落ちている。

 

「……小熊でしょうか?」

 

 銃弾に驚いて両手に持っていたオレンジを落としたのだろうか?

 白熊がこんな場所にいるとは思えないが動物園から逃げ出して生き延びた個体がいたのだろうか?

 

 そんな考えが頭を過るがどうでもいいことだと首を振る。

 

「確か熊は執着心が強いのでしたね」

 

 ドロシーは先程まで感じていた葛藤と苛立ちから、落ちていたオレンジを踏み潰してその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──鮮やかな緑に囲まれた小屋

 

 紅蓮は早朝から畑仕事をしていた。これからの季節は雑草も伸びるのが早いため丁寧に草むしりをする。その後、野菜の整枝を行い水をまいた。

 

 そして日が昇りきる頃には全ての作業が終わり、水滴が輝くような青々とした葉を茂らせる畑の野菜を見て紅蓮は満足する。

 

「ふむ、もうすぐ収穫できそうだ」

 

 最初の頃は上手くいかなかった畑仕事も繰り返す内に慣れ、今では鼻歌交じりに作業できる。ただどれ程繰り返し慣れたとしても、やはり収穫が近付くと心躍るのは変わらなかった。

 

「レンー!」

 

 薔花の呼ぶ声が聞こえる。いつもは共に畑仕事をしているが、今日はラプチャーが近くに現れたため、薔花はそちらの対処を行っていた。

 

「姉さん、何かあったのか?」

 

 紅蓮が小屋まで戻り尋ねると薔花は嬉しそうに収穫のために用意していた籠を指さす。

 

 籠の中には多様な果物が沢山入っていた。

 

「こんなに何処で見付けたのかね?」

 

「レンも知らないの?」

 

 薔花は更に嬉しそうになったが、紅蓮は状況が分からず困惑する。

 

「私が戻った時にはこうなっていたわ。レンが今日はまだ収穫しないって言っていたし、そもそもここには無いモノが入っていたからレンじゃないとは思っていたけど……ふふ、やっぱりそうなのね」

 

 紅蓮はようやく理解した。薔花が嬉しそうにしていたのは、確認したかったのは、ここに誰か分からない第三者がいたのかどうかということなのだと。

 

「エリカ〜ありがとね~」

 

 薔花は口に手を当てて大きな声で誰もいない周囲にお礼を言った。

 

「……」

 

 そんな薔花を見て紅蓮はどうするべきか考える。薔花はドロシーとはまた違った形で死者に囚われている。ドロシーは側で死者が生きている幻覚を見ていたが、薔花は死者がどこかで生きていると思い込む様になってしまった。

 

「ねぇ、せっかくだし食べましょう?」

 

「そうさね。食べるとするか」

 

 紅蓮は籠からリンゴを1つ手に取り齧る。とても瑞々しく甘い。

 

 薔花を見ると、ここ最近では1番嬉しそうにオレンジを剥いて食べていた。

 

「まあいいかね……」

 

 ドロシーの時もそうだったが、夢から覚めることが必ずしも良いことだとは限らない。薔花も時々何か気になるのか周囲を探し回ることがあるくらいで、日常生活に大きな実害が無い以上、無理する必要はないと紅蓮は思った。

 

 それはそれとして果物は誰からの贈り物だろうか?

 

「よもや姉さんの言う通り死者からということはあるまい」

 

 ならば誰なのか。

 スノーホワイト? いや彼女が食べ物を自発的に分けるとは思えない。

 ラプンツェル? いや彼女は隠れて渡す必要などない。

 ドロシー? いや毎月の集まりにすら来ないのに何故。

 

 考えても答えは出ず、オレンジを食べ終えた薔花と共に紅蓮は籠いっぱいの果物を小屋の中へ運んだ。

 

【End】





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