救済を願って 作:バレンシアオレンジ
初めてカウンターズを見掛けてから1週間が過ぎた。
あれからというもの、私は今までの様に週に1度アークへ行くのではなく、毎日前哨基地や地上で彼等の行動を確認する様にしていたが、これまでのところは問題無く原作通りに進んでいる。
彼等はミシリスCEOのシュエンに利用されてワードレス部隊と共に無許可で人語を解する特異なラプチャーであるトーカティブを捕獲しようとするも失敗し、窮地に陥ったところをスノーホワイトの乱入により救われていた。また記憶消去されたと偽ったラピがシュエンを蹴り飛ばす場面についても見付からない様に隠れて見ていたので間違いない。
原作でも思ったことだが、あれは良いものだ。理不尽な権力者が別の理不尽(物理)により黙らされるのは見ていて実に爽快だ。
まあ祖父からCEOの座を引き継いだ後に、実績や年齢などの理由で周囲の侮蔑と嘲笑に晒された結果歪んでしまった可能性もあるから、そのあり方について彼女だけを責めるのは間違っているのかもしれないが……
それは兎も角、次にカウンターズが赴くのは極寒の地である北部だ。原作でも指揮官が雪崩に巻き込まれたり、トーカティブとヘレティックに襲われて死にかけていたのだから、万が一の場合に備えて助けられるよう準備するに越したことはない。
「Doro……Doro……」
私は持って行くべきモノが全て入っていること、及びそれが使える状態であるかどうかを、1つ1つ巾着から取り出して確認した。
【Another Side】
『ここ…で…す。指揮…官。包帯…うれし…か…った…です』
『マリアン!』
必死に手を伸ばすが届かない。
それどころか彼女が遠く離れてゆく様に思える。
だが諦められない。
何の奇跡か君にまた逢えたのだから。
次こそは必ず君を取り戻してみせる。
そう決意を新たにした時、声が聞こえた。
「気が付きましたか」
目を開くとラピがこちらを心配そうに見ている。直前の記憶が曖昧で今の状況が正確に把握できず混乱するが、周囲を見回し当座の危険が無いことを確認してから尋ねる。
「……ここは?」
「近くにあったバンカーです」
「爆発が大きすぎて皆バラバラになっていたのを、今ようやく集めたの」
ラピの回答にアニスが言葉を補足したことで私も思い出す。そうだヘレティックとの戦闘後、割れたバイザーから覗く顔がマリアンによく似ていたため、思わず名前を呼んだらヘレティックの様子が可怪しくなって黒いエネルギーが爆発したのだった。
「でも……生きててよかったです」
ネオンはそう言うが皆の顔色は良くない。
「……」
そして黙ってはいるが、ピルグリムのスノーホワイトもここに残っている以上、そうせざるを得ない理由があるということなのだろう。
「状況を報告してくれ」
「……」
私の要望にラピが直ぐに応えてくれない時点で最悪の事態が想定された。
「ヘレティックの起こした爆発でカウンターズおよびピルグリムが大破。現在、近くのバンカーで救助を待っています。通信は依然として断絶状態にあり、外は吹雪がさらに激しさを増し、視野は1m以下です」
吹雪は人間の私にとって致命的だがニケにとってはそうでない。つまり大破の部分が問題ということか。
「……皆の負傷程度を教えてくれ」
私が続きを促すとラピは硬い表情で口を開く。
「私はあばら骨が破損し、コアを刺しています……移動不可能な状態です。アニスは骨盤が大破しました。移動不可能な状態です。ネオンは脊椎部分のスタビライザーが破損しました。移動不可能な状態です」
『……』
アニスもネオンも何も言えず黙っている。
「ピルグリムは比較的良好ですが、片足が大破した状態です……同じく、移動不可能な状態です」
ニケは皆動けないことが分かった。ならば当然外部の助けが必要だが……
「救助が来る可能性は?」
「正直に申しますと、ありません。吹雪が酷すぎて、絶えず地形が変化しています。」
私が重ねた問いにラピは淡々と事実だけを話した。
「まあ、きっとここでゆっくり死んでいくのね」
アニスが諦めを口にするが、私は指揮官として最後まで諦められない。
「私が救助要請をしに行く」
「無理です。外に出たら10分、いえ、5分も持たないでしょう。指揮官の体調もお考えください」
「それしか方法はない」
無謀なのは分かっている。
だが何もしなくても結末は同じだ。
「得策ではありません。絶対に認められません」
そう考える私の表情を見てラピは強く否定した。
「……指揮官を何度も危険な目に遭わせてしまいました。それなのに、そんな死と紙一重な状況に追いやるなど、絶対にありえません」
「……」
他に方法が思い付かず、うなだれると足を覆っている無傷の外骨格が目に入った。
「この外骨格をスノーホワイトが使え」
「……はい?」
「……は?」
私の言葉にラピもスノーホワイトも意表を突かれたようだ。
「この外骨格は元々ニケ用だ。問題なく使えるはずだ」
『……』
ラピ達が固まっていると、スノーホワイトは恐らく私以外の共通認識を口にする。
「……私を信じるのか? お前たちを見捨てるかもしれないんだぞ。逃げてしまった方が、目撃者もいないし楽だ」
確かにその通りだ。
だが本気で見捨てる気ならそんなことは言わない。
だから……
「君を信じる」
私はそう言い切った。
「……分かった。外骨格を借りよう……必ず助けに来る」
そしてスノーホワイトはバンカーを出て行った。
ザクッ──
外から何か吹雪以外の音が聞こえた。スノーホワイトが戻って来たにしては早すぎる。
「待って、銃を置いて」
「何言ってるのラピ! せめて先手を取らなきゃ……」
その音に即座に反応して銃を向けようとしたアニスは、ラピの制止に対して反論しようとするが、その言葉は尻すぼみになり消える。私にもその気持ちがよく分かった。
「えっと……野生動物でしょうか?」
ネオンの疑問は尤もだ。バンカーの入り口から中を覗き込む存在は、どう見てもラプチャーには思えないし、当然ニケや人間とも思えない。しかし、ただの野生動物というには不可解な存在だった。
「Doro」
奇妙な鳴き声をするその小さな生き物は毛糸の帽子を被りマフラーを巻いている。
「……危険は無いのよね?」
アニスがラピに確認すると頷く。
「ええ、多分……」
「多分ってラピ、あなたねぇ!」
アニスがラピに詰め寄ろうとしている間に、生き物がバンカーに入って私の前まで来た。そして自身のマフラーの首元からポーチを取り出しゴソゴソと中を探っている。
「……知り合いなのか?」
ラピに聞くと再び頷いた。
「はい、指揮官。以前、レッド……師匠と行動している際に会ったことがあります。その時は師匠が手を振ると近付いてきて、ポーチからリンゴとオレンジを出して私たちに手渡してくれました」
ラピが目の前の生き物との出会いを話したところで、生き物がポーチからマグカップと毛布を取り出した。
「DoroDoro」
そして生き物は私たちにマグカップと毛布を順番に配る。毛布は全員同じ無地だったが、マグカップにはそれぞれ模様が描かれていた。
私のマグカップは赤い弾丸、ラピは赤い狼、アニスは緑の缶ジュース、ネオンはメガネだった。
「……ねえラピ、最近また会って私たちのことを話したの?」
「会ってないわ。それに今も同じかは知らないけれど、以前会った時のDOROは言葉が分からなかったみたいよ」
「DOROですか?」
「師匠がそう呼んだの。鳴き声がDoroだから」
「なるほど! 分かりやすくて良いですね」
「今気にするのはそこじゃないでしょ……」
ラピたちが話している間に、DOROが再び私の前に来て今度は水筒を差し出す。
「Doro!」
私が受け取るとDOROはバンカーの入り口付近に戻り何かを始めた。水筒を開けて確認すると、中身は温かいお茶のようだ。
「……」
マグカップに注ぎ飲む。先程まで凍えていた身体が芯から温まる気がした。
「いやいや、おかしいでしょ!」
水筒を回し終えてから毛布を被り、皆でお茶を飲み一息吐くとアニスが叫ぶ。
「せっかく落ち着けたのに煩いですよアニス」
ネオンが窘めるがアニスは止まらない。
「いや、もっとこう……何かあるでしょ! どう見ても入り切らない量がポーチから出てくるし、どう考えても動物にしては頭が良過ぎるし、そもそも何なのよあれ!」
「何って……さっきラピが言っていましたよね?」
「DOROよ」
「それ、ラピがそう呼んでいるだけでしょ!」
「Doro?」
「返事するの!?」
タイミング良くこちらを振り向いて反応したDOROにアニスが驚く。
「騒がしいから気になっただけじゃないのか?」
私はそう言ってDOROの手元を見る。背に隠れて見えなくても音と匂いで分かっていたが、火を焚き料理をしているようだ。
「ロケットストーブですね」
ラピも同じくDOROの手元を見て、使用している焚き火台に言及した。
「ロケットストーブ?」
「はい、煙突効果を利用したもので燃焼効率が良く、少ない燃料で高火力が出せる焚き火台です」
「つまりDOROも私たちと同じ火力の道を進む同士ということですね師匠!」
「それは違うでしょ……」
ラピの説明を聞き興奮するネオンに対して、アニスが溜息を吐いてからDOROに話し掛ける。
「えっと……DOROだっけ? 助かったけど、どうしてこんな所にいるのかな?」
「Doro? Doro……DoroDoro」
DOROはアニスを見て少し考え込んでから、身振り手振りを交えて何かを伝えようとする。残念ながら私には何と答えたのか分からなかったが、こちらの言葉の意味を理解しているかはさておき、どうやら本当に話し掛けられたことは理解しているらしい。
「……ごめん、何言っているのか分からない。でも、ありがとう」
アニスも分からなかったようだが、DOROの様子を見て毒気を抜かれた様にお礼を言って頭を下げる。
「Doro」
そんなアニスに対して少し残念そうにしながらも、DOROは気にしないでとでも言うかの様なジェスチャーをしてから、火に掛けている鍋に向き直る。
そして更に暫くするとバンカー内にはいい匂いが充満した。
「楽しみですね師匠。まさかこんな場所で温かいご飯が食べられるなんて思いませんでした」
「そうだな」
ネオンの言葉に同意する。思えばピルグリムを探す作戦に従事してから、昨日に引き続き雪崩に巻き込まれたり、トーカティブに尋問されたりと、今日も散々な目に遭った。それなのに今は料理ができるのを、毛布に包まりながらお茶を片手に待っているとは不思議なものだ。
「Doro!」
調理が終わったようだ。DOROが鍋を持って最初と同じ様にこちらへ近付いてきたので、皆で鍋を覗き込むと中身は多様な具材が入った雑炊だった。
「Doro〜」
DOROは鼻歌交じりに小さな御椀に雑炊をよそい、スプーンと共に配る。皆の御椀の模様は先程のマグカップと同じだが、今度はDOROも一緒に食べる様で、持っている御椀には星空が描かれている。
そしてDOROが手を合わせてから食べ始めるのを見て、私たちも同じ様にしてから食べ始めた。
「おいしいわね!」
「本当ですね!」
アニスとネオンが喜びの声を上げる。
「指揮官、これまで無理をしましたから栄養補給の意味でもしっかり食べてください」
「ああ、分かっている。本当においしいな」
噛み締める様にゆっくり食べているとラピに心配されたので、少々勿体ない気もするが掻き込む。
「Doro?」
しかし御椀が空になるとDOROがお玉を片手に手を伸ばして首を傾げた。なので有難くおかわりを貰う。
「私も貰おうかな〜」
「アニスは先程疑っていましたよね。ならそれくらいにしておくべきではないですか? そしてその分は私が頂きます!」
「悪かったわよ! でも謝ったからいいでしょ?」
「DoroDoro」
アニスとネオンが言い争うのを見て、DOROは何処か楽しそうにしていた。
食事が終わるとDOROはバンカーの外に出て行った。帰ってしまうのかと思ったが、外からはシャベルの音が聞こえるので、雪掻きをしているようだ。
「にしてもラピは何ですぐにDOROだって分かったの? 会ったのはかなり昔のことなんでしょ?」
アニスがラピに尋ねている内容は私も気になっていた。ラピはDOROが来た瞬間に正体を認識していた様に思える。
「それは……宿所にあった食べ物のことを覚えている?」
「もちろん覚えているわよ。パーフェクトじゃない本物の食材があんなにあったんだから」
「あれもDOROからの贈り物だと思う」
「そうなのか?」
ラピの答えに私も驚かされる。
「はい、指揮官。確証はありませんでしたので黙っていたのですが、あのリンゴとオレンジは以前貰ったものと同じ味でした」
「それはつまり、あの方も私たちを監視するスパイということでしょうか?」
「違うでしょ……でもそれなら私たちを追い掛けてきたってこと? 何のために?」
「それは私にも分からないわ」
疑問は尽きないが、その時バンカーの入り口から私たちとは別の声が聞こえた。
「どうやら無事のようね」
「ウサギさん、また会えましたね!」
「ルドミラ! アリス!」
アンリミテッドの2人がいるということはスノーホワイトが約束通り助けを呼んでくれたということだ。そして気が付くとシャベルの音は聞こえなくなっていた。
──3日後
部屋に鋼鉄の落ちる音が響いた。慎重に振り返ると、そこには予想通りスノーホワイトが佇んでいる。
「借りたものを返しに来た……身体は大丈夫か?」
「私は大丈夫だ」
私は床に置かれた外骨格を見てから返事をする。
「……お前はそれしか言わないな。あのヘレティックと何か関わりがあったようだが?」
「……仲間だ。一番最初の仲間」
「そうか……受け取れ」
スノーホワイトが手渡したのは1つの弾丸だった。
「調べてみろ。必ず役に立つだろう」
そう言われてよく確認する。
「赤い弾丸……」
「どうかしたのか?」
思わず呟いた言葉を聞かれたようだ。
「いや、マグカップと御椀の絵柄と同じだったから気になっただけだ」
「マグカップ?」
あれから持ち帰り使い続けているカップを指差すと、スノーホワイトは手に取り調べてから私に尋ねる。
「どこで手に入れた?」
「スノーホワイトが知っているか分からないが、DOROと呼ばれている不思議な生き物に貰ったんだ」
スノーホワイトは私の答えに少し驚きながら再度尋ねる。
「DORO? それはもしかしてピンクの髪をした白い生き物か?」
「スノーホワイトも知っているのか?」
「会ったのは1度だけだ。だが食糧を何度も貰ったことがある。それに仲間の1人が逢いたがっていてな……だがそうか、まさかとは思っていたが未来を知っている……か」
最後の方は自分自身に言い聞かせている様で、声が小さくよく聞こえなかったが、回答に少し違和感を覚えて私は続けた。
「私の時は向こうから近付いて来たから、会うのは難しくないと思うが……?」
「……私が最初に会った時に、普通の動物と勘違いして追い回してからは、こちらに姿を見せない。何とかもう一度話しをするために、捕まえようと罠を用意してから皆で協力して囲んだんだが、その時も結局逃げられてしまった。そしてそれ以降は更に慎重になったみたいで会うことはできていない」
「それは……」
やり方が間違っているのでは……そう思ったがさすがに口には出さない。
「余計なことを言った。忘れてくれていい」
踵を返すスノーホワイトを私は呼び止める。
「スノーホワイト、仲間にならないか?」
「……人間。私がどれくらい長い間、地上にいるのか知ってるか? お前たちと私では、住む世界が違う」
「すぐに慣れるは……何か私に手伝えることはないか?」
途中まで口にした後、ルドミラが"相手の世界を壊してはダメよ"と言っていたのを思い出して、続く言葉を別のものに変えた。
「……その時になったら連絡する」
スノーホワイトは私を少しの間、黙って見つめる。
「帰る……命を助けてくれたことは、絶対に忘れない」
そして最後にそう言い残して去っていった。
【End】
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