救済を願って 作:バレンシアオレンジ
冬イベントのストーリーに泣きました。
【Another Side】
「いらっしゃい! スノーホワイト」
扉を開くと薔花が出迎えてくれた。部屋の中を見ると既にみんな揃っており、中央にある囲炉裏で火にかけられている鍋からはいい匂いが漂っている。
「待たせたか?」
「いえいえ、私もついさっき着いたばかりですから」
私が呼び掛けておいて遅れてしまったのかと思ったが、ラプンツェルの言葉が建前で無ければ、そうでもないようだ。
「なに別に少し遅れたとしても構わないさ。それに鍋も丁度食べ頃だ。わざわざ呼び出した以上、何か重要なことがあるのだろうが、せっかくだし先にどうかね?」
「いただこう」
「スノーホワイト、よだれを拭いてください」
みんなそれぞれやることがあるし、時間を掛けるべきではないが、地上で食べ物を無駄にするのは最も忌むべきことだ。それに食べ頃であれば尚の事、優先して迅速に処理すれば然程問題ではない。
「……ふぅ」
満足できるまで食べて一息吐く。すると薔花が声を掛けてきた。
「相変わらず驚くほどの健啖家ね〜。食事を抜いている訳では無いんでしょ?」
「もちろん食事は取っている。地上では食べられる時に食べるのが真理だ。それで今日はムカデ団子を食べてきた」
「ごめんね、昆虫食の話はヤメて……」
「薔花、虫は栄養価が高い貴重な……」
他のみんなもそうだが地上で食材の選り好みは感心できない。そのため昆虫食が如何に素晴らしく実用的なものか説明しようとする。
「それよりもスノーホワイト、何故私たちを集めたのか理由を聞かせてくれるかい?」
しかし遮られてしまった。
とはいえ紅蓮の言う通りだ。昆虫食については後でもいいし、先に本題から話すべきだ。
「私の預かっていたアンチェインドを、とある人物に譲った」
「本当ですか、スノーホワイト!」
ラプンツェルがここまで驚くのは珍しい。だがその反応も当然だ。
「相談もせず、すまない」
アンチェインドは私たち全員にとって極めて大切なものだ。だからこそ私の身勝手な行動を謝罪する。
「何を考えているの! アンチェインドがどれだけ貴重なモノなのか分からない訳じゃないでしょ!」
「姉さん、興奮し過ぎだ。落ち着いて話を……」
怒りを露わにした薔花を、紅蓮が諌めようとするが止まらない。
「レン、私もスノーホワイトが自分のために使ったなら何も言わないわ。でも、侵食に対する唯一の治療薬を赤の他人に預けるなんて正気? 私は1度使ったから大丈夫だけど、レンもスノーホワイトもラプンツェルも侵食されたら終わりなのよ。まさかまた忘れたのスノーホワイト? アンチェインドが無かったからエリカと逢えなくなっているし、私は直接顔を合わせたことないけどレッドフードも侵食されていなくなったんでしょ。なのに何で? 少なくとも私はここにいるみんなに、いなくなって欲しくないし、斬りたくもないわ」
「……」
何も言えない。私は思考転換で嘗てのことを幾つも忘れてしまっているが、ラプンツェルと薔花は全て覚えている。それ故、喪ったことによる痛みも、何も出来なかったことによる無力感も、又聞きでしかない今の私には完全に理解することはできないだろう。
「私も思うところはあります。ですが薔花、先ずはスノーホワイトの話を聞きましょう。あなたもスノーホワイトが誰彼構わずアンチェインドを譲るとは思っていないでしょう?」
「……ごめん、冷静じゃなかった。ありがとう、ラプンツェル。それにレンとスノーホワイトもごめんね」
ラプンツェルの言葉で、薔花は上がった息を整えてから私たちに謝罪した。
「それでスノーホワイト、聞かせてくれるかい?」
「ああ分かった。最初から何があったか説明する」
私は順番に説明した。
トーカティブを追っている際に出会った人間のこと。
新たなヘレティック、モダニアのこと。
モダニアを人間がマリアンと呼んだ時に起きたこと。
全てのニケが行動不能になったこと。
人間が助けを呼ぶと言ったこと。
ニケに止められて、諦めるのではなく私に頼んだこと。
会って間もない私を人間が信じたこと。
借りた物を返すために再度会いに行ったこと。
モダニアが人間の初めてのニケだったこと。
人間はニケを、ラプチャーを殺すための道具ではなく、仲間だと思って大切にしていたこと。
「あの時、あいつが外骨格を貸してくれなければ私もどうしようもなかった。それにニケを仲間だと呼ぶあいつがモダニア……マリアンのことを苦しそうに話すのを見た。あいつならきっとアンチェインドのことを調べて上手く使えるだろう」
『……』
私がアンチェインドを譲った経緯を話し終えると、みんな静かにそれぞれ自分の中で話を咀嚼しているようだった。
「……そうでしたか。今のアークにも姉妹たちをそんな風に指揮官と同じ1人の人として扱ってくれる方もいるのですね。少し安心しました」
ラプンツェルが最初に安堵を口にした。
「そうさね、何処の世間知らずのぼっちゃんだと思うくらいには青臭い人物のようだ。だが悪くない」
紅蓮もまた同意する。
「アンチェインドを無駄にはしなさそうな人みたいだけど……何と言うかアークでは生き難そうな考え方をする坊やみたいね。大丈夫なのかな?」
一方で薔花はあいつの在り方を心配した。
「分からない。だが十分な整備がされていない前哨基地に配属されているようだったから、余り立ち回りは上手くないのかもしれないな」
そしてそれは私自身も気になっていたことだが、アーク内部での出来事に対して干渉する術は無い。
「それは……」
「ふむ、嘆かわしいが仕方無いと言うべきか。ぼっちゃんの思想がアークで異端であるのには変わるまい」
ラプンツェルは言葉に詰まるが、紅蓮はアークの世論を思えば当然だと考えているようだ。
「それでどうするの?」
「何をだ?」
「その坊やのこと。スノーホワイトが信用しているみたいだから、私も信じるけど既に左遷されている状況なら結構危ないんじゃないの? 最初の仲間だったなら、ヘレティックのことで難癖をつけられて処分されたりするかもしれないし」
確かに薔花の言う通り、あいつが中央政府に処分されてアンチェインドが行方不明になる、なんて事態は避ける必要がある。
「そうですね。しばらくは様子を見守った方がいいかもしれません」
「その点は心配するな。私が渡した以上、最後まで責任を持つ」
選択には責任が伴う。そして今回の行動を選択したのは私だ。
「君だけが責任を感じる必要など無いだろう。私たちは仲間なのだから。それに私もぼっちゃんには興味を引かれる。直接会って話してみたいものだね」
紅蓮はみんなで対応するついでに、あいつのことを試すつもりのようだ。
「私もブラザーには会ってみたいですね」
「ブラザー?」
「姉妹たちを仲間と呼ぶなら、指揮官であるその方も兄弟ですので」
「そうかな……そうかも……?」
ラプンツェルも紅蓮と同様のようだが、薔花はラプンツェルのあいつに対する呼び方について、何とも言えない表情をしている。
「それにトーカティブはモダニアが現れる直前に"助けて女王様"と言っていた。ヤツがどういう意図でそう言ったのか確かめる必要もある」
『!!』
私が付け加えるとみんなが再び驚く。
「クイーンは宇宙を漂っているはずだよね?」
「そうだ。そしてトーカティブが出現した時期と場所から考えてクイーンに会ったことがあるとは思えない。だが何か知っている可能性はある。クイーンのこと、ラプチャー誕生のこと、或いはヘレティックの作られ方とかな」
薔花の確認に同意して私は続けた。
「ならば尚の事、みんなで行動するべきではないか?」
「私だけで問題無い。トーカティブとモダニアは行動を共にしているようだが、私がトーカティブを相手すればあいつがモダニアと決着をつけるだろう」
紅蓮の問い掛けに私はそう答える。
「相変わらず強情だね。だがそこまで言うなら任せるとするよ。とはいえ、気が向いた時にぼっちゃんを訪ねるくらいはいいだろう?」
「構わない」
「なら決まりね。坊やのことはとりあえずスノーホワイトに任せるとして、万が一の時に備えてしばらくは私たちもアークから余り離れない様にしましょう」
「そうですね、私も事態が解決するまではそうします」
紅蓮が引き下がり、薔花もラプンツェルも同意した。
「それともう一つ伝えることがある」
「他にもまだあるのかい? 何ともはや、君も本当に大変だったみたいだね」
紅蓮は呆れ気味に言う。
「私に何かあった訳じゃ無い。別のことだ」
「ブラザーに何か問題があるのですか?」
私の言い方が悪かったせいでラプンツェルが勘違いするが、あいつに喫緊の問題がある訳でも無い。
「違う。私がアンチェインドを渡した時に、少し変な反応をしていたから、気になることでもあるのか聞いたら、あいつは貰ったマグカップの模様と似ていたからだと答えたんだ。そして私も確認したが確かにアンチェインドが描かれていた」
「それは奇妙な話だね。幾らヘレティックに効果があるとはいえ、ニケの枷を外すことができるアンチェインドの情報が、今のアークの世間一般に知られているとは思えないが……」
アークでのアンチェインドの情報は紅蓮の言う通り機密扱いだろう。だからこそ私もあいつに何処で手に入れたのか尋ねた。
「ねえスノーホワイトまさかそれって……」
「薔花の想像している通りだ。エリカから貰ったものらしい。まあ、あいつはDOROと呼んでいたが」
「まさか!」
「やっぱり、そうなのね! ならエリカはスノーホワイトが坊やと会うことを知っていたのかな?」
紅蓮は驚き、薔花は喜ぶ。私もまさかとは思っていたが最早疑う方が難しい。
「アンチェインド模様のマグカップをあいつに渡すことに、どんな意味が込められているのか正確には分からないが、恐らくそういうことだろう」
「ではやはりあの方は薔花の言う通り……?」
「事前に知ることができないことを知っていて、かつ百年もの間私たちに食糧を分け続ける様な存在が他に考えられるなら、間違っている可能性もあるだろうな」
ラプンツェルの確認に対して可能性の話をする。しかし少なくとも私には思い付かない。
「いる訳なかろう。だがそうなのだな……」
紅蓮も思い付かないようだ。
「ね、レン、私の言った通りでしょう?」
「ああ姉さんの言う通りだった。しかし死者があんな形で蘇るとは、何の因果なんだろうね」
「それは確かにそうね。最後に会ったのがドロシーなのは分かっているけど、別にドロシーに似なくてもいいのに」
「姉さん、私はドロシーに似ていることではなく、話せず文字も読めない動物に生まれ変わったことに対して言っているのだが……」
薔花と紅蓮の会話を尻目に、私は自身の腕をしっかり握り締めているラプンツェルに声を掛ける。
「ラプンツェル、大丈夫か?」
「はい、私は大丈夫です」
そう言うが声は震えている。
無理もない。
始まりは月に一度の集まりで、誰の仕業なのか分からない食糧の話をした時のことだ。みんな同じ様にその不思議な贈り物を受け取っており、受け取った時期を確認すると、最初は私だと判明した。そのため、直前に何か気になることは無かったのか聞かれたのだが、思い出したのは銃弾を回避してみせた動物のことだった。
それを話すとラプンツェルと薔花に至近距離射撃を躱せる生物など、この世に存在しないと教えられた。また、薔花はその時から不思議生物のことをエリカに違いないと言っていたが、あの時は流石に私もそんなことあり得ないと思っていた。その生物の姿について説明した際に、紅蓮から指摘され私自身もまたそう思った様に、量産型ニケのエリカが会話したことの無いはずのドロシーに何処となく似ていたとあれば尚の事。
しかしその考えは青褪めたラプンツェルの言葉で改められることになる。エリカとピナが入れ替わっていたのなら、死の間際にドロシーのことが強く印象に残ったはずだ。ならば理屈は分からなくとも、予言という摩訶不思議なことが可能な人物だったのだから、生まれ変わりの様な不思議なことがある可能性も頭から否定はできない。
それ故、不思議生物に再度接触しようとしたのだが、私が撃ったせいなのか、食糧は置かれても直接会うことは私たち全員できなかった。後日確認した際、臨時監視所に残した薔花の手紙が無くなっていたことから、私たちがエリカに気が付いている旨の手紙を箱に入れて設置してもみたが、受け取っているはずなのにやはり反応は無い。そこで試しに私が箱の中身を捕獲ネットの罠に変えたが、引っ掛かることなく以降は箱を開けることも回収することもなくなってしまった。
その後も更に様々な方法で接触を試みたが、いずれも上手くいっていないため、薔花は会えておらず、ラプンツェルも謝罪できていない。
そして確信が持てなかったその正体が、今回の件でエリカである蓋然性が極めて高くなったとなれば、薔花が喜ぶと同時にラプンツェルが罪悪感に苛まれるのは分かっていたことだ。
「無理するな」
「いえ、本当に大丈夫です。むしろ本来できないはずの謝罪の機会が得られるかもしれないのですから、感謝しなければいけません」
ラプンツェルは気丈に言う。
「そうか……」
私にはそれ以上、言えることは無かった。
【End】
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