救済を願って 作:バレンシアオレンジ
【Another Side】
作戦開始後、アブソルート、カフェ・スウィーティー、インフィニティレール、そしてスノーホワイトの協力により、私たちはほぼ無傷で機動兵器と化したモダニアと戦い、そして勝利できた。
漸くここまで来れた。
「……強いですね、みなさん。」
身に纏っていた機動兵器が崩れ、出てきたモダニアは言う。
「ふふ。正直これほどだとは思いませんでした。こんなに被害を受けるとは……でもそろそろ始末を……??」
余裕の笑みを浮かべながら話していたモダニアが固まった。
「……何?」
「あっ。ああっ……! 頭……が……!!」
ラピが訝しんで問うと、モダニアは苦しみだす。
キィィィィィィ────
そして周囲に不快な音が鳴り響いた後、
「あああああー!!」
モダニアは大きく悲鳴を上げてから、
「………………指揮官?」
「!!」
突然正気に戻った様に私を見た。
「……」
しかし思わず動こうとした私をラピは無言で制す。
「指揮官。指揮官……! 私を……助けに来たんですか?」
「その手には乗らないわよ。指揮官、下がってください」
喜び顔を綻ばせたマリアンに対して、ラピは冷たく突き放す様に警告をしながら、私を下がらせた。
「ラピ……? ど、どうしたんですか? わ、私です。覚えていませんか? い、1回しか会っていないからですか? あの……前、行方不明になった分隊を捜す作戦で……」
「分かるわ」
マリアンが同情を誘う様に、震えた声で最初の作戦のことを話すが、ラピは変わらず淡々とした言葉のみを返す。
「なら何故、私に銃口を……し、指揮官。ラピを止めてください。何故こんなことをするのか分かりませんが、誤解があるなら話し合いで解決させてください。ね、指揮官?」
「……」
マリアンはラピを説得するのが難しいと判断したのか、次は私に話し掛けてきた。その様子は私の記憶に焼き付いたマリアンを思い起こさせるが無言のまま首を振る。
「し、指揮官も私のことを覚えていないんですか? これ、これ見えますよね? 指揮官が巻いてくれたこの包帯。ケガをしたと心配して巻いてくれたじゃありませんか。本当に覚えていませんか?」
「……」
堪えろ。返事をするな。ラピの警告を無視して、私が短慮な行動をすればそれこそおしまいだ。そうだ、よく観察しろ。
「あの、私、1度もこの包帯を外したことがありません。生まれて初めて受けた好意だったし、初めて感じた温もりでしたから。包帯が解けそうになっても、巻き直しませんでした。指揮官に巻き直して欲しくて。し、指揮官。私の包帯、巻き直してくれますか?」
そう言って私に近付こうとするマリアンに対して、皆が銃を向ける。
「近付くな、ヘレティック」
「い、一体どうしたんですか? 私が何をしたと言うのですか? ねえ?」
「……自分の名前を言いなさい」
ラピの言葉にはっとする。そうか、彼女は一度も自分自身をマリアンだと言っていない。つまり彼女は最初に名乗った通り、まだクイーンの精鋭のモダニアのままということか。
「私は指揮官だけのニケ。名前なんて、意味がありません。指揮官が付けてくれますか? 私の名前を」
「名前を言え」
名前に意味は無いと誤魔化そうとするモダニアに、ラピは語気を強めて繰り返し誰何する。だがその時モダニアから触手が伸びラピを貫いた。
「この触手は……マテリアルHの……!!」
『ラピ!!』
ラピの言葉にアニスとネオンが心配して声を上げた。
「さっきから邪魔です、ラピ。私と指揮官の再会を邪魔しないでください。そんなに指揮官が好きなら一緒に愛されましょう。私と1つになって」
「……!!」
モダニアの言葉にラピは身構えるが吸収されない。
「……え? 何故吸収されないのですか?」
モダニアの驚く声を聞きながらイングリッドとマナの会話を思い出す。マテリアルHがニケを吸収する際には、完全に分解してから必要な部分のみを吸収したらしい。それがNIMPHだったのだとすれば、アンチェインドに曝露してNIMPHを失っているラピには効果が無いのも頷ける。ならば今がチャンスだ。
「指揮官! 今です!」
「放しなさい……!」
ラピもまた触手を押さえ付けながら、この機会を無駄にしない様にと私に叫ぶ。それに対してモダニアは逃れようと暴れるが、私が銃を向けると、一転して戦場には似合わない穏やかな瞳で私を見た。
「……撃つのですか? 私を? ふふ、私は指揮官を知っています。指揮官は私を撃てません。あの時も撃てなかったじゃありませんか。温かい人だから。優しい人だから。さあ、銃なんて下ろして早く私の包帯を巻き直してください」
「君を撃つ」
微笑み話すモダニアを前に、私は覚悟が変わらない様にはっきりと言葉を口にした。
「撃つのですか? 私を? その弾丸に撃たれたら私がどうなるのか分かっているのですか? 死ぬかもしれません。私を殺すのですか?」
「いや、助ける」
モダニアの言葉を否定する。そうだ、私は君を助けるためにここにいる。
「指揮官、待っ……!」
モダニアの制止を無視して、普段から信じている訳でも無い神に、ただ奇跡を願いながら引き金を引いた。
「……」
この距離で外す筈もなく、アンチェインド弾はモダニアの顔面に直撃して頭を後方へと大きく仰け反らさせた。だがゆっくりと頭を元の位置に戻したモダニアの口には、アンチェインド弾が咥えられていた。
『!!』
「ぺっ」
驚愕する私たちを尻目に、モダニアは弾丸を吐き捨てると怒気を顕にする。
「撃ちましたね……! 私を撃ちましたね……! 私にこんなことをするなんて……! 指揮官!!」
何の反応もできなかった。ただ気が付いた時にはモダニアの触手が私の腹を貫き、足元には血溜まりができていた。
「指揮官!」
「ああっ! お前ー!」
「ダメー!」
皆が私が傷付けられたことで叫びながら猛烈な集中砲火をモダニアに浴びせた。
「……指揮官も、あなたたちも。みんな、私を殺そうとするのですね。もういいです。もう何もいらない」
しかしモダニアは平然としている。
「くそ……! 何で死なないのよ。こいつ!」
「さようなら」
銃が効いていない様子にアニスが毒づくが、モダニアは感情の消えた目でただ終わりを告げようとした。
「コード解放。サブジェネレーターを一時的に稼働。シークレットボディ、アクティブ」
だがその終わりは私には理解できないラピの言葉で否定される。
──認識終了。
──コードネーム・レッドフード、アクティブ。
何らかの認証が済み、ラピの髪が真紅に燃え上がった。
「ラピ……あなた……!」
アニスが驚きとも心配とも取れる声を上げるが、ラピは止まらず自身に刺さった触手を容易く引き千切った。
「何ですか、この出力は……?」
触手が千切られたことを驚くモダニアに、ラピは千切った触手の破片を力強く投げつけた。
「くっ……!」
ラピの投げた破片は音を置き去りにして、モダニアが反応するよりも早く、直撃してプロテクターを粉砕する。
「うっ……! ああっ……!」
その直後、モダニアの身体から黒い光が漏れ出し苦しみ始めた。
「頭、がら空きだよ!!」
「ラピ! 今です!」
「集中射撃! 頭を狙って!」
アニスが、ネオンが、ラピが、直ちにモダニアの頭に火力を集中させる。
「食らえー!!」
「いりゃあああー!」
「う……ああああー!」
2人が気合を入れるために大声を出しながら射撃していると、ついにモダニアに変化が現れた。
「……崩壊している?」
「今だ! 終わらせよう!」
「アニス、待ってください!」
モダニアの武装が剥がれ風に舞う様に消えて行くのを見て、アニスが追撃しようとするのを、何かに気が付いたネオンが止めた。
「……指揮…官?」
「……っ! し、指揮官! お、お腹から……! 血が……! 大丈夫ですか? し、しっかりしてください!」
ああ、先程までとは違う。モダニアは助けに来てくれたとか包帯を巻き直してとか自分自身のことばかりだったが、今目の前にいるニケは真っ先に他者を心配して声を上げている。
「……マリ…アン?」
「は、はい! 私です! マリアンです! 私の声が聞こえますか?」
私の誰何にマリアンは名前を返してくれた。
「!!」
「……戻っ…たの?」
「ううっ……」
ラピもアニスも驚き、マリアンと会ったことは無い筈なのにネオンは涙ぐんでいた。
「おか…えり……」
そして私は何よりも先に伝えたかった言葉を口にした。
「しゃべらないでください! 血が止まりません! ラピ、アニス! お、応急手当をするから、早く手伝ってください!」
本当は"ただいま"と返して欲しかったが、流石に私の状況がそれを許してくれなかったようだ。マリアンはラピとアニスに私を治療する手助けを求める。
「……そう」
「そっちを圧迫して! すぐに止血を!」
その様子を見てラピとアニスもまたマリアンが戻って来たことを確信して、傷の手当に動き出す。
「止血剤を投入! クリア!」
「鎮静剤を投入! クリア!」
「心拍をチェック! ……安定した! 出血が酷かったから早くアークへ……!」
ただでさえ気が抜け掛けていたところに、薬剤が投与されたことで意識が朦朧としている私を見ると、アニスは一刻でも早く撤退して病院に掛かるべきだと提案する。
「そっちに行く!」
しかし私たちが何処か安堵していたその時、突然スノーホワイトの切迫した声が聞こえた。
「くあああっー!!」
「上です!」
ネオンの言葉に従って見上げると、半分だけになったトーカティブが悲鳴にも思えるゾッとする声を上げながら落ちてくるのが見えた。
「撃墜する!」
「オーケー!」
ラピとアニスが直ちに迎撃を開始した。
トーカティブは被弾を最小限にするために体を捻りながら落ちてくる。だが躱しきれず弾幕を通り抜ける間に次々と体を構成する部品が脱落していた。それでも完全に破壊されずにトーカティブの頭だけが残り。
マリアンの頭上へ……
「マリアン!」
私は痛みを忘れて叫んだ。
「……え?」
マリアンは状況把握が遅れてほんの一瞬、けれど切迫した状況下では致命的な程長い時間固まってしまった。
「お前たちには! 何一つ! 渡さない!」
トーカティブの怒声が響く。
マリアンを庇うために必死に身体を起こそうとする。
だが身体が満足に動かない。
またか。
また彼女を救えないのか。
「がはっ!」
そう思って絶望した時、小さなナニカが飛び込んでトーカティブの頭を弾き飛ばした。
【End】
「神獣だと! 何故貴様が!」
弾かれて転がったトーカティブが私を見て何か喚いている。言葉は相変わらず理解できないが何を言いたいのかは何となく分かった。
トーカティブはどういう訳か原作でも様々な情報を知っている描写がなされていた。ならば私がこれまで基本的には教会に所属する人間以外の人目に付くのを避けており、大きな戦いであっても戦場の端あるいは戦後にしか行動していないことも知っている筈だ。にも関わらず今回は突然作戦の根幹に直接干渉して、戦場のど真ん中に現れたとなれば驚くのも無理はない。
とはいえ、トーカティブのことは今はどうでも良い。黙らせるために鉄筋から作った小さな矢弾をお喋りな口に投げた。
「ぐっ!」
後はラピたちに任せて、私は振り向き倒れている主人公に近付く。
「あり……がとう。また……助けられたな……」
「DoroDoro」
明らかに苦痛に耐えながらも、私に笑顔を見せようとして手を伸ばす主人公に水晶を握らせた。
「これは……?」
「Doro」
主人公が疑問に思っているのは分かったが、今は休むべきだと手を下げさせる。怪我が重すぎて直ぐに治りはしないだろうが、きっと楽になるだろう。
私も原理はよく分からない。しかし教会で農業ができないか試すために住処の洞窟で生えている水晶を持ち込んだ時、その近くにいた怪我人の傷が突然良くなったことがあった。そしてその後に行った検証で、水晶には植物の成長を異常に速めるだけでなく、人や動物の不調を改善する効果があることが分かっていた。
残念ながら生き物限定で、壊れた機械やニケのボディを修復することはできないが、それでも驚くべき効果だった。そしてそれが明らかになった時、教会の人々の私を見る目がより一層……何と言うべきか……強くなってしまったのは、まあ余り良くないが仕方無いことだと諦めている。
「えっと……?」
「そっか、マリアンは初めましてよね。このこはDORO。前に私たちが遭難した時にも助けてくれたし、宿所にも色々持って来てくれるの」
私を見て困惑しているマリアンに、トーカティブを完全に沈黙させてから此方へ戻って来たアニスが説明してくれているようだ。
「指揮官、それは?」
「分からない。だがこれを持っていると身体が軽くなる様な感じがある」
ラピは指揮官の様子を確認している。そして指揮官も大人しくしていれば普通に話せる程度には落ち着いたようだ。
『……状況終了。組織的な行動を見せていた近くのラプチャーも統制を失ったようです。作戦は成功です!』
主人公の方からシフティーの声が聞こえた。きっと勝利宣言を行ったのだろう。
「お前たち、無事か!」
其処にスノーホワイトが飛び込んで来て目が合った。私は慌てて逃げ出す。
『待ってくれ!』
主人公とスノーホワイトが同時に何か言ったが、私は十分に離れるまで止まらなかった。
「Doro……?」
少し走ってからスノーホワイトが追ってこないことを確認して安心していると、別の方向でラプチャーが次々と始末されていることに気が付き、そちらに意識を集中させる。
これは……紅蓮?
原作ではヘレティック確保作戦に参戦したのはスノーホワイトだけで、他のパイオニアメンバーは来なかった筈だが、何故紅蓮がここにいるのだろうか。
理由は分からないが、兎に角紅蓮のいる方向から離れようとした瞬間、近くで戦闘していたニケがラプチャーに跳ね飛ばされて目の前に転がってきた。
私は反射的にそのニケと戦っていたラプチャーに矢弾を投げ付け倒す。
「Doro!?」
その直後、危険を感じて飛び退くと、助けた筈のニケが先程まで私がいた場所に飛び込んでいた。
「う〜ん、失敗しちゃったか〜」
その場で立ち上がったニケから着ていたマントのフードが落ちる。
「Doro!!」
薔花!!
その顔を見た瞬間、私は全力で離脱した。
その場からだけでなく、戦場の音そのものが遠く聞こえなくなるまで、走って走って走り続けた。
やがて日が暮れ周囲を暗闇と静寂が包み込んでから漸く止まる。紅蓮がいた時点で薔花がいる可能性を考慮するべきだった。
しかし何故2人はあの場にいたのか?
何故、薔花は自分の刀ではなく銃で戦っていたのか?
分からない。
「Doro……」
そして何よりも怖かった。薔花に攻撃される可能性が。頭ではきっと薔花はそんなことしないと分かっている筈なのに。でももしも万が一、そんなことがあればと思うと、私は耐えられなかった。
巾着の中から古びた箱を取り出し開ける。
疲れたり不安な時はこれを見ていた。
何度も眺めた手紙。
もうボロボロで触れば破れてしまいそうだけど。
何時も勇気をくれた手紙。
月明かりが辺りを照らす中、私は建物の影で座り込み心が落ち着くまで、ただ静かに眺め続けた。
遅れて申し訳ございません。