救済を願って 作:バレンシアオレンジ
あけましておめでとうございます。
イベントストーリーは時代から考えてバッドエンドが濃厚ですが今年も頑張りましょう。
【Another Side】
逃げて行くエリカの背を何もせず見送る。いや、何もできないと言う方が正しい。これまでの経験から、逃げに徹するエリカを捕まえるのは不可能だと分かっていたから。
「自信あったんだけどな〜」
ぼやいてから戦場で拾った量産型ニケ用の銃を捨てて百日紅に持ち替える。
そう勝算はあった。そして実際にあと少しで手が届く場所まで近付くこともできた。けれどスノーホワイトから聞いていた、銃弾を視認して回避できる反射神経を過小評価していたみたいだ。まさかあの距離で完全に不意をついたタイミングでも躱されるなんて。
「姉さん」
既に姿の見えなくなったエリカの逃げた方向から目を逸らし、ヘレティックがいる場所へ向かって歩きながら考え込んでいると、私がお願いして派手にラプチャーと戦ってくれていたレンが合流した。
「ありがとね〜レン。それとごめんね〜我儘に付き合わせちゃって」
「なに、構わないさ。他でもない姉さんの頼みであろう」
私の感謝と謝罪に対して、レンは何でもないことの様に言ってくれる。本当に優しくて自慢の妹だ。
「しかし……駄目だったのかい?」
私の足元や辺りを見回した後でレンは尋ねた。
「うん、失敗しちゃった」
「……」
正直に話すとレンは何処か複雑そうな表情で私を見つめる。
「どうかしたの?」
「いや、失敗したと言う割には……姉さんが嬉しそうにしているのが気になったのでね」
その視線を不思議に思って、こちらから尋ねると予想外のことを言われた。
「嬉しそう?」
「自覚がないのかい? 私から見て微笑っている様に思える」
レンの指摘に唇をなぞると、確かに口角が上がっている。
「……そうね。嬉しかったんだ、私は」
エリカ、ずっとずっと貴女のことを想っていた。
私に薦めてくれた隠れ家に残されていた貴女と友達が一緒に過ごしていた痕跡を見て、また逢えたなら貴女自身の過去について沢山聞きたいと思っていた。知りたいと思っていた。
でも私が臨時監視所についた時には、もう貴女は其処にいなくなっていて、そのことが信じられなくて。だから私自身を誤魔化すために手紙を書いたんだ。あの時はそれがまさか本当になるなんて思っていなかったけれど。
それと此方から近付こうとする度、貴女に逃げられたのは結構傷付いた。勿論、後から思えばスノーホワイトの件があったのだし、先にドロシーと会ってスノーホワイトと同じ様な扱いをされていたのかもしれない。だから仕方無い面があるのも分かるけれど、その時の私には知る由もなかったから。
レンには痛ましいものを見る目で見られたし……
そして毎月の話し合いの場で情報共有してからは、みんなで協力して貴女との接触を試みた。特にスノーホワイトは責任を感じているのか色々な方法を試していた。罠の種類も本当に色々。貴女が匂いで罠を見分けると思えば、火薬を避けたりその場周辺で手に入れられる材料だけで作ったり、貴女の目が良いからだと思えば、下の水路側からマンホールの蓋に細工して地上からは全く変化が無い様にしてみたり。だけど、どれも見破られて貴女が引っ掛かることは無かったから、今ではみんな貴女が予知で罠を避けていると思っている。
私はそれが間違っているのだと知っている。あの日の夜に交わした私たちだけの秘密の会話を覚えているから。何処で私たち近接戦闘部隊のことを知ったのかと尋ねた時に、貴女は『ずっと遠い昔に此処からは行くことができない場所で』と言っていたよね。それはつまり、今の貴女が自由に未来を知れる訳では無いということ。
でもそれなら結局どうやって完全に擬装された初見の罠を回避したのかという疑問が残る。だからその理由を知るために貴女たち星屑部隊の戦歴を調べた。そしてその結果から私は推測を立てた。
星屑部隊はアナキオールとの遭遇戦で壊滅する前まで、戦死者どころか重傷者さえ出していなかった。これは、戦場では足手纏いになるからと後方で補給などの部隊運営に全力を尽くした指揮官の英断と、何よりも部隊のリーダーであるピナの手腕によるものだと判断できる。
彼女は最後に参戦した作戦を除けば、記録されている敵戦力に対して、どれ程不利な状況に置かれたとしても、必ず合格点が取れる様に堅実な作戦を立案して実行している。それだけでも私にはできなかったことだし、心から尊敬に値することだけれど、その上で彼女と彼女の部隊は毎回満点に近いレベルの成果を挙げていた。
だけどそれは可怪しい。勿論、類稀な幸運に恵まれて全てが事前の作戦通りに上手くいく可能性も無くはない。けれどその様な幸運に、ほぼ全ての作戦で恵まれるなんてことは、幾ら何でも不自然だ。偶然の一致というには出来過ぎている。
だからこそ、其処には別のファクターが存在した筈。そう例えば偵察の役割を担った人の勘が極めて鋭く、危険の程度や気配の大きさを全て事前に把握できた可能性とか。
もしも貴女がその様な能力を持っていたのだとすれば、星屑部隊の多少不自然な戦歴も、貴女がスノーホワイトの罠を全て掻い潜ったり、私たちの包囲から逃げることができたことについても腑に落ちる。でもそうだとしたら、私たちが貴女を捕まえるのは不可能ということになってしまう。私も何となく気配は感じ取れるけれど、貴女のそれは別格で私よりも遠くから、遥かに正確に此方の行動を把握しているのは明らかだから。
そんな時、気が付いた1つだけの可能性。何故、貴女はドロシーを庇って侵食されたのだろうという疑問。危険と気配を察知できるのに何故と。危険なのは目の前のラプチャーで、貴女にとってドロシーは危険じゃなかったから? 気配についてはラプチャーとの戦闘に集中していたから、ドロシーの接近に気が付かなかった? 気配を意識的に感じ取る必要があるのなら、其処をつけば貴女に近付ける?
それらを踏まえて考えたのが今回の作戦。貴女は未来の知識からスノーホワイトが戦場にいることは想定しても、レンがいることは想定していない。その状況でレンがラプチャーを斬り続けていれば、貴女はそれに気を取られる筈。一方で私は貴女の注意を引かない様に、周囲のアークに所属するニケたちの気配に紛れて量産型ニケの銃を使用しながらラプチャーとの拮抗状態を演出する。そして最後に、私の意思ではなくラプチャーに"偶然"吹き飛ばされて貴女の側まで転がることができれば、貴女の警戒を抜けられると思った。
結果から判断すると、その考えは正しかった。これまではちゃんと顔を合わせられる距離まで近付くことすらできなかったのに、今回は後少しで触れられる距離まで近付けたのだから。
そう、貴女に直接逢えて嬉しかったんだ。当初の作戦としては確かに失敗だったけれど、あの夜に別れてから再会?するまでに、こんなにも長く時間が掛かるなんて思ってもみなかったから。
勿論、今回もまた貴女を怖がらせるだけの結果になってしまったのも分かっているから、反省しないといけないけれど。
「それにしても……ふふっ」
「姉さん?」
「ごめん。ただ実際に直接目にするとね、なんだか可笑しくなっちゃって。分かってはいたんだけど、ドロシーと同じ瞳の色で、髪の色も同じ。おまけに薔薇のまとめ髪にしているところまで同じなんだもの」
「それだけドロシーを助けたいと思っていたのだろう。例え死したとしても、忘れられない程に」
本当にそうだったんだろう。私としては嫉妬しちゃうけど。
「うん、あの子は優しかったから。きっと今みたいな未来は望んでいなかったと思う」
「そうさね……だが私たちでは今のドロシーを説得するのは難しかろう」
レンの言う通りだ。それができるのなら、とっくの昔に私たちは
でも貴女が戻って来てくれたのなら、きっと……
それから更に歩くとヘレティックとの戦闘跡が見えて来た。どうやらスノーホワイトは既に去っていて、話に聞く指揮官の坊やが丁度担架に乗せられ輸送機で運ばれるところのようだ。カウンターズとヘレティック・モダニア……マリアンも一緒だ。
「ふむ、どうやらぼっちゃんは本懐を遂げたようだ。しかしあの様子では怪我も軽くなかろうに、最後まで戦い抜くとは大したものだ」
「そうね……」
肯定しながら違和感を覚えた。何か可怪しい。
「姉さん、何か気になることでも?」
「ううん、何でもない。ただ少し……坊やは、また逢えたんだと思っただけだから」
「……」
私が誤魔化すためにそう言うと、レンは何と返すべきか迷っているようだった。そんなレンに心の中で困らせたことを謝りながら考える。
何故、坊やが怪我しているのだろうと。
エリカは100年という区切りを何度か口にしていた。そして今このタイミングで動き出したということは、坊やがエリカにとって重要人物なのは間違いない。しかしヘレティックの攻撃から守らなかったのは、どういうことだろうか。成り立てで戦闘経験も少ないヘレティック相手に、それができない筈もないのに。
──坊やが怪我をすること自体に必要性がある?
でもそれならスノーホワイトの言っていたアンチェインド弾の模様が描かれたマグカップの意味は、まさか……
「ねえ、レン」
「なんだい?」
「彼処に行ってみていいかな?」
輸送機が離陸するのを眺めながら問い掛ける。
「余り長くいると問題になりかねないから時間は無いと思うが、少しくらいなら構わないのではないかい?」
「そうね、それじゃあ行ってくるわ!」
合意が得られたので駆け出す。尤もレンも一緒に行くつもりだったろうから、私だけで飛び出したことに対しては後ろから何か言っていたけど。
「すぐ戻るから待ってて〜」
そう言い残して走り続けた。
「やっぱり……」
捜し物は直ぐに見付かった。ほぼ無傷のアンチェインド弾が。つまりマリアンはアンチェインド弾が当たらなかったにも関わらず、正気に戻ったということだ。
「ふ〜ん、坊やが……エリカが重要視する訳ね」
てっきりスノーホワイトが必ず坊やに対して興味を持つ様にするために、エリカがマグカップを渡したのだと思っていたけれど、そうじゃなくて描かれた模様そのままの意味だったんだ。
「問題はこれをどうするかだけど……」
考えているとレンではない別の気配がして、無意識の内に百日紅へ手が伸びる。
「……」
なるほど、これを狙っている薄汚いネズミがいるようだ。隠れているつもりだろうけど、此方からは何時でも一刀のもとに斬り捨てられる。とはいえ……
「やっぱり駄目だよね~」
そう言ってからアンチェインド弾を捨てた。正直に言えば、悲しみと苦しみに塗れた嘗ての地獄を知りもせず、ニケを迫害している様な連中が、それに触れること自体許し難いことだけど、勝手に回収したらきっと後々何か問題になるのだろう。坊やの負傷を許容した以上、エリカはアンチェインド弾が残っていることを知った上で、意図的に回収せず放置している筈なのだから。
「ただいま〜」
「おかえり、姉さん。それはそれとして私を置いていくとは、酷いと思わなかったのかい?」
「ごめん」
レンが不満を零すので素直に謝る。
「それで何か見付けたのかい?」
「う〜ん、見付けたは見付けたけど……」
レンに教えてもいいのかな?
「姉さん?」
「……また今度にしましょ?」
エリカの想定している未来では、此処にレンはいない筈だし、スノーホワイトも気が付かなかったのだから、知らないことにも意味があるかもしれない。なので一旦そう言って誤魔化すと、レンは呆れた様子で私を見つめた。
「はぁ、ならば行くとしよう」
「……いいの?」
思ったよりも簡単に諦めてくれて、助かったけど理由が少し気になった。
「どうせ何と聞いても今は教える気がないのであろう?」
「流石、レンは私のことが良く分かってるね〜」
「伊達に何十年も姉さんの妹をやっていないとも」
そしてまたレンと2人で並んで歩き出す。
「そういえば姉さん」
「何?」
「今のエリカがドロシーと同じ髪色だったりするのは聞いたが、姉さんから見てもドロシーにそっくりなのかい?」
暫く歩くとレンが思い出したかの様に尋ねるので、少し考えて答える。
「……言った通り構成パーツは似ているけど、表情はドロシーとは全然違った。昔と変わらないエリカのままだったよ」
表情と仕草はドロシーではなくエリカだった。私と目が合った瞬間の驚いた顔は、最後に会った時の別れ際の表情と同じだったから。直ぐに怯えた表情になってしまったけれど。
「それに次は大丈夫。必ず成功させるわ」
「次? こんな規模の作戦は滅多にないと思うが……」
私がそう言うとレンは不思議そうにする。普通はそう考えるのが正しい。でもエリカの言う100年後が始まったのだとすれば、きっとチャンスはそう遠くない内にまた来る筈だ。そしてエリカの身体能力も今回のことで大体把握できた。だから失敗しない。
「そう次こそは必ず、これをエリカに返す」
私は臨時監視所を離れた日からずっと持ち続けている古びたネックレスを握り締めた。
【End】
読んで頂きありがとうございます。
ところでイベントでは推定アンダーソンがタイラント級という言葉を使用していましたが、ラプチリオンはこの時代から生きていたということですかね? もしそうなら絶滅戦争を経験して尚、融和を目指すという想像を絶する狂人になりますが……