救済を願って   作:バレンシアオレンジ

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25 襲撃と情報

 

【Another Side】

 

 ──地上

 

 マリアンの検査と私の治療が終わってから暫くして、シミュレーションルームである程度連携の確認を済ませてから、私たちは実戦データ取得のために、地上の比較的危険の少ないエリアでラプチャーを探していた。

 

「よし。それじゃ、リハビリも兼ねて早速始めるわよ! 準備はいい、マリアン?」

 

「はい、準備はできています。改めてよろしくお願いしますね、アニス」

 

 アニスの確認に対してマリアンが応える。その光景は私が士官学校を卒業後、初めて地上に来た時のことを思い起こさせた。

 

「油断してはいけませんよ。マリアンのシミュレーションの結果がどれ程優秀であっても、実戦はシミュレーションとは違います! 何よりも火力が全てということを忘れてはいけません!」

 

「ネオン、マリアンも地上での実戦は経験しているわ。心構えは別に必要ない」

 

 ネオンは何時も通り火力の心得をマリアンに説くが、ラピに止められている。

 

「そういえばそうでした。それにしてもラピとアニスはマリアンと協同したことがあるんですよね。例えばどんな作戦だったんですか?」

 

『……』

 

 ネオンからすれば気になって当然の疑問だ。しかし咄嗟に答えられず皆が沈黙する。

 

「えっと……聞いてはいけないことでしたか?」

 

「いいえ、大丈夫ですよ。ただ協同したのは行方不明のニケを捜索する時の1度だけで、その作戦中に私が侵食されてしまいましたから、余り話せることがないだけです」

 

 マリアンが代表して答える。そうだ、私がマリアンと行動を共にしたのは1日にも満たない僅かな時間だ。だがたったそれだけの間に経験したものが、士官学校で学んだものよりも遥かに現実を理解するに役立った。教範は戦訓を元に作られているが、戦場の理不尽さや残酷さを教えてはくれない。正に百聞は一見にしかずだった。

 

「すみません……」

 

「いえ、気にしないでください。みなさんのお陰で戻ることができたのですから」

 

 少し落ち込むネオンに対してマリアンは感謝を告げる。

 

「まあ、話はまた後でいいでしょ? 丁度ラプチャーも彼処にいることだし、始めよう。合図は折角だから、マリアンお願いね」

 

「分かりました。では、目標前方のラプチャー部隊。エンカウンター!」

 

 アニスの言葉に従い、マリアンが皆に号令を掛けてラプチャーとの戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

「状況終了!」

 

 ラピが宣言する。

 

「うん、よ〜し。これなら素晴らしいレベルじゃない?」

 

「連携も問題なさそうですね!」

 

 アニスとネオンも今回の戦果に満足している様で、その口は滑らかだ。

 

「マリアン、整備してから……マリアン?」

 

 ラピの言葉にマリアンを見ると、コアが点滅しているラプチャーの前に立ち、じっと見つめている。

 

「マリアン、どうかしたのか?」

 

「指揮官っ! いえ、大丈夫です。何でもありません……」

 

 私が声を掛けるとマリアンは驚き、何でもないと言う割には明らかに挙動不審だった。

 

「……マリアン、今回の目的は実戦での問題点の洗い出しだ。何か気になることがあるなら、どんな些細なことでも教えて欲しい。大事になってからでは遅い」

 

 そう頼み込むと、マリアンは何度か躊躇ってから漸く話してくれた。

 

「指揮官、その、可怪しいんです。前はこんなこと思わなかったのに、シミュレーションでも何も思わなかったのに、実際にラプチャーを目にすると"何故"戦う必要があるのか考えてしまって、今も"あの子"を見ていると可哀そうだなんて、思ってしまうんです……」

 

「それは……」

 

 侵食された影響が残っているのか? いや、その後の精密検査では侵食反応は確認されなかった筈だ。だとすれば、ヘレティックになった後遺症なのか? 

 

「……頭では分かっているんです、ラプチャーを殺すのは正しいことだと。なのに心が反対のことを言っている感じがして変なんです」

 

 イングリッドと共に聞いた検査結果を思い出す。マリアンの今の体組織は、ニケとラプチャーが融合して、互いの欠点を補完したかの様な状態だと言っていた。それはまるで元々それこそが正しい状態だと思える程に。そのことが思考にも影響しているのだろうか?

 

「……話してくれてありがとう。とりあえず、実戦テストはここまでだ。戻ってイングリッドとアンダーソン副司司令官に相談してみよう」

 

「分かりました……」

 

 マリアンはそれからの帰り道、ずっと落ち込んだ表情で何かを考え続けているようだった。

 

 

 

 

 

 ──アーク副司令官室

 

「マリアンがラプチャーに同情した?」

 

「こんなケースは予想できなかったな」

 

 私が地上であったことを報告すると、アンダーソンもイングリッドも驚きを隠せないようだ。

 

「ラプチャーと融合していた影響ではないのか」

 

「それは分からない」

 

 アンダーソンは私と同じ意見だったが、イングリッドが言うには確かなことは何もないらしい。

 

「こういう時は、NIMPHが無いのが不便だな……まあ無いものは仕方無い。兎に角、君はよく気にかけてくれたまえ。まさかとは思うが万が一、私たちよりもラプチャーを思うなんてことになれば、例え望まない方法でも何か手を打たねばならない」

 

「……分かりました」

 

 望まない方法……人類よりもラプチャーを思うニケともなれば、最も甘く見積もっても最低がコールドスリープで、普通なら廃棄処分だろう。そんなことにならない様に私が見守らなければ。

 

「そしてアーク内の動きが怪しい。気のせいだといいが……気を付けるように」

 

「動きが怪しいとは?」

 

 イングリッドの曖昧な言葉に、もう少し具体的なことを知りたくて問い返す。

 

「兵が動いている。目標は多分、マリアンの可能性が高い」

 

「マリアンは私の仲間だ」

 

 思わず口を出すが、この場で言っても意味は無い。

 

「そして私とイングリッドが公に支援する特殊別働隊の構成員でもある。手軽に手を出せる存在ではないという意味だが、それでも欲を出す者はいるだろう。今のマリアンはそんな存在だからな」

 

 検査結果の説明を受けた時に言われたことを思い出す。今のマリアンは開いて中身を調べれば100年はアークの技術が進歩する可能性がある存在だと言っていた。

 

「あくまで可能性の話だ。だが気を付けて悪いことはないだろう」

 

「分かった。ありがとう」

 

 イングリッドとアンダーソンに感謝を告げて気を引き締め直す。

 

「ああ、では帰りたまえ」

 

 

 

 

 

 ──前哨基地

 

「ただいま」

 

「指揮官、お疲れ様です。その……どうでしたか?」

 

 宿所に入ると直ぐにマリアンが尋ねてくる。ずっと気になっていたのだろう。

 

「とりあえずは様子見ということになった。イングリッドも詳しくは分からないらしい」

 

「そうですか……」

 

 何も分からないということでマリアンが落ち込む。励まさなければと思い、口を開いた瞬間ラピが先に私へ問い掛けた。

 

「指揮官、もしかしてお客さんがいますか?」

 

「いや、そんな予定はないが……?」

 

 質問の意図が分からず困惑するが、ラピの表情からして何か深刻な事態のようだ。

 

「……みんな伏せて!」

 

「うん?」

 

 その警告にアニスが疑問の表情でラピを見ると、直後外から多数の銃声が響く。慌てて全員その場に伏せたが、銃声が聞こえるだけで窓ガラス1枚すら割れない。

 

「何これ?」

 

「……トライアングルが兵力を連れて攻めて来たみたいだけど、これは一体?」

 

 音だけで被害が無いことにアニスもラピも困惑する。そして、状況を把握するために慎重に外の様子を確認すると、其処には予想外の光景が広がっていた。

 

「何なんですかコイツ! さっきからちょこまかと!」

 

「DoroDoro」

 

 プリバティとその部下たちがDOROに向けて一斉射撃をしている。しかしDOROにはたった一発すら掠りもしない様で、それどころかDOROは弾雨を躱しながら建物に当たりそうな銃弾があればシャベルで弾いてさえいた。

 

「ナニこれ?」

 

 アニスが先程と同じ言葉を今度は呆れ顔で呟く。

 

「うわ〜師匠! 凄いですね!」

 

 此方に気が付いて手を振りながら、まるで踊る様にコミカルな躱し方をしているDOROを見て、ネオンはとても嬉しそうだ。

 

「あっ、やっと出て来ましたね!」

 

 DOROが手を振ったことで、プリバティも此方に気が付き部下の射撃を止めさせると、何処かほっとした様子でそう言った。

 

「……何のつもりなのか説明して」

 

「ニケマリアンを確保せよとの上層部の命令があったんです。どんな手を使ってでもね」

 

 問いに対するプリバティの返答を聞いて、ラピも真剣な表情になる。

 

「上層部?」

 

「はい、副司令官様の命令です」

 

「アンダーソン副司令官の?」

 

「あの、おじさんだけが副司令官じゃないわ。他の誰かかもしれない」

 

 プリバティの言う命令元に驚き問い返すが、アニスが先に教えてくれた。

 

「それは越権行為よ。私たちは特殊別働……」

 

「ニケマリアンがラプチャーと内通しているとの疑惑があります」

 

 ラピの発言に被せる様にプリバティは命令の理由を告げる。

 

「適当なことを」

 

「この前地上へ行ったとき、マリアンがラプチャーに同情したとの報告がありました。ニケにはあり得ないことです。内通疑惑の調査は最優先事項です! これに対する調査を進めよとの命令がありましたし、必要な場合は武力行使も許可されています。だから、大人しくマリアンを渡してください!」

 

 プリバティは私が先程副司令官室で報告した内容を根拠として挙げる。副司令官室での会話が盗聴されていたのか? いや、それよりも最初から私たちの粗を探すために尾行していたと見るべきか。

 

「あなた、こじつけるのも大概にしなさいよ! マリアンを調査したいなら調査したいって言えばいいでしょ? くだらないことばかり言ってないで!」

 

「く、くだらない? 私が言ったんじゃありませんよ! 上層部の命令ですって!」

 

 アニスに噛み付かれて動揺したプリバティは命令なのだと強調した。

 

「わん! わんわんわん! ガルルル……! わんわんわんわん!!」

 

「……いきなり何をしているんですか?」

 

 突然アニスが犬の真似を始めたことに困惑した様子でプリバティは言う。

 

「中央政府のイヌとしゃべってますけど、何か?」

 

「全員!! 突撃!!」

 

 それに対するアニスのあからさまな挑発に、プリバティは直ぐに噴火した。

 

「真正面からの勝負は勝算が……」

 

 ラピが彼我の戦力差を加味して一時撤退を提案しようとしたが……

 

「この、本当に何なんですか!」

 

「DoroDoro」

 

 しかし突撃を始めた兵員は次々とDOROに無力化されていった。

 

「……えっと、本当に強いのね」

 

「そうですね。私も社長のお話を信じていなかった訳では無いですが……本当にとっても強いです」

 

 先程までとは異なり、DOROがただ躱すだけでなく接近して兵員を気絶させている目の前の光景が、アニスとネオンも信じられないようだ。

 

「……指揮官、どうされますか?」

 

 最後の兵員が崩れ落ちるのを見ながらラピが今後の方針を尋ねてくる。既に残っている敵はトライアングルの3人だけで、私たちは何もしていないのに勝算どころか勝利したも同然の状況になった。

 

「そうだな……」

 

 正直、どうすればいいのか分からないが、とりあえずイングリッドとアンダーソンに相談するしかないだろう。そう思いながら改めて見ると、プリバティは涙目で撃ち続けているが、DOROは普段の憎めない表情とは異なる黒い笑顔でプリバティを小馬鹿にしているかの様な動きで追い詰めていた。

 

「指揮官、見ていないで何とかしてください!」

 

「プリバティ……」

 

 完全に泣きが入ったプリバティが此方に助けを求めてくる。その行動に同僚のアドミは残念なものを見る目を向けていた。

 

 

 

 

 

「驚きだな」

 

 暫くしてアンダーソンが命令元のバーニンガム副司令官とお話(物理)をしたことによりトライアングルは撤退した。そしてその後、コマンドセンターに現れたイングリッドは外を見ながら言う。

 

「先の作戦でもそうだったが、神獣が教会の関係者以外のためにここまで表立って動くとは。余程お前たちを気に入っているらしい」

 

「やはり珍しいのですか?」

 

 ラピの問いにイングリッドは首を横に振った。

 

「珍しいなんてものじゃない。記録されている限り過去には1度もない。私も神獣を実際に目にするのは今日が初めてだ」

 

 釣られて私も外を見るが、其処には日向で丸まっているDOROがいる。

 

「エンターヘブンがここの襲撃を計画しているという情報もあったが、あれが居座っているなら心配する必要はないな」

 

「エンターヘブン?」

 

「アウターリムで活動している集団です。アウターリムの自治権とアークへの自由な出入りを主に要求しています」

 

 イングリッドの話の中に聞き覚えのない言葉あり、問い返すとラピが教えてくれた。

 

「まあ、テロ集団と言ってもいいよね」

 

 アニスが簡潔に補足する。

 

「……私が目的ですか」

 

「そうだ。間違いない」

 

 マリアンの呟きをイングリッドは肯定する。

 

「……」

 

「既にマリアンの存在はアーク内で知れ渡っている。中央政府は勿論、あらゆる奴らがその存在を認識し、狙っている」

 

 そしてイングリッドは続けた。

 

「……機密じゃなかったの?」

 

「誰かが意図的に情報を流したとしか考えられない。誰であれマリアンを確保さえすれば力ずくで再び奪うことのできる人物が」

 

 アニスの疑問にイングリッドはそう答える。

 

「……そんな過激な方法を選ぶ人物は、バーニンガム副司令官以外には思い付きませんが」

 

「ノーコメントだ」

 

 ラピの言葉にイングリッドはそう返すが、肯定したも同然だ。

 

「これからは時間や場所を問わず大勢の者がお前たちを襲うだろう。アークがマリアンを欲している。私とアンダーソンが力を貸すが、アーク全体を相手にすることはできない。事態がこうなった以上、無理かもしれないと思ったが……」

 

 イングリッドは改めて外を見る。

 

「……あれが本気でお前たちに協力するなら或いは、といったところか」

 

「そこまでなのか?」

 

 私は驚き尋ねる。

 

「前にも言っただろう。神獣の戦力評価はヘレティック級だ。そしてマリアンもまた元ヘレティック。お前たちも知っての通り、マテリアルHの元となったヘレティックは3大企業の内、2つの企業が最大戦力を出して尚、幸運に恵まれて漸く勝利できる様な相手だ」

 

「つまりアーク全体の戦力を私たちが上回る可能性があるということですか。ですが教官、それは……」

 

「そうだアークと前哨基地での全面戦争になりかねない。そうなれば犠牲者がどれ程のものになるだろうな」

 

 ただ戦力差を覆しても全面戦争になればアークが再起不能に陥る可能性もあるとイングリッドは言外にほのめかす。それは勿論、私たちの望むところではないし、DOROもまた其処までは協力しないだろう。

 

「方法を探せ」

 

「無責任すぎるんじゃない?」

 

 イングリッドにアニスは文句を言う。

 

「信じているからだ。お前は今まであらゆる問題を解決してきた。今回も出来ると信じている」

 

「……」

 

 その信頼に私は何と返せばいいのか分からない。

 

「では、行くとしよう」

 

 しかしイングリッドは気にすることなく出て行った。

 

【End】





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