救済を願って 作:バレンシアオレンジ
もうすぐ届くDOROのアクションフィギュアが楽しみです。
雪道を進むカウンターズの気配を追い掛ける。やっていることは何時もと変わらない、ある種ストーカーじみた行動だ。いや、客観的に見ると私の行動はストーカーそのものだろうか?
「……」
私は立ち止まって指折り数える。以前から作戦中に付き纏って、前哨基地に押し掛けて、今もこうして監視している……どう考えても紛れもないストーカーだ。今後はもっとプライバシーを考慮した行動を心掛けた方が良いかもしれない。
「……Doro」
とはいえ、このことを考えるのは後にしようと首を振って、彼等の気配に集中する。勿論、大規模作戦中でもなければ、元々地上における人間やニケの密度は低いから、見失うことなどあり得ないが、油断しても良いことは無い。特に今回は追加要員が曲者揃いなのだから。
先日のことを思い出す。
『あ、あ。記者のみなさん。そしてアーク市民のみなさん、元気?』
あの時、聞き覚えのある声にそちらを向くと、自信満々のシュエンが画面に映っていた。そしてその後はメティスのメンバーが次々と登場し、会見場がざわめくのも聞こえた。それにより私はシュエンがアンチェインドを使ったのだと理解した。そして原作におけるその後の展開は、主人公が嘘の独占を防ぐために、アンチェインドの情報を求めてスノーホワイトを探しに行くというものだ。これだけなら問題無かったのだが……
「DoroDoro」
改めて追加要員の気配を覚える様に確認する。支援部隊として今回カウンターズに同行しているのはエキゾチック……全員アウターリム出身の元犯罪者だ。そしてその中でもリーダーのクロウは前世でも好きになれなかったキャラクター1人であり、後日発生するアークテロ事件の主犯でもある。
「Doro……」
原作で最初に登場した時は、主人公との対比として、暴力によるニケの解放を目指すテロリストなのかと思った。しかし、主人公に語ったクロウの最初の目的は、アークを内乱で自滅させることだったし、それが失敗した後の新しい目標は、アークの選択を見ることと主人公の破滅だった。
それを知った時、何だそれはと思った。
私はキャラクターとしてのダークヒーローが好きだ。彼等は言うまでもなく犯罪者だが、その生き方に一本の筋が通っており、魅力的な悪役として物語に深みを齎してくれるから。そしてテロリストも広義ではダークヒーローに含まれる存在だ。テロリストとは、何らかの思想・信念に基づく目的を達成するための手段として犯罪を行う、謂わば確信犯を指す言葉なのだから。
しかし当のクロウからは、こうした信念というものが感じられない。彼女は明確な意味も無く、ただ気に入らないからアークを破壊すると言い、それを邪魔するから主人公を破滅させると言う。つまり、クロウはただの破滅主義者だということになる。その時点で私はクロウという人物を理解するのを諦めた。彼女は言ってしまえば無敵の人であり、その行動は一見すると周到な準備をしている様に見えても、元は単なる思い付きなのだとすれば考えるだけ無駄だからだ。
そして本来であれば、そんな危険で不確定要素になる人物は、迅速に排除するべきだし、主人公に近付けるべきでは無い。しかしその一方で、ニケを盲目的に信頼することの危険性を主人公に教えるという点では有意であり、またアークテロ事件そのものを起きない様にしてしまえば、将来的に主人公が得る筈だった、シュエンからのほぼ無条件での強力な支援が受けられなくなる恐れがある。
それ故に今はまだ手出しをせず、離れて監視するだけに留めていた。
「Doro?」
カウンターズが少し立ち止まった後で進路を変更した。どうやら急勾配を避けて迂回するようだ。彼等からすれば雪崩はもう懲り懲りだろうし、当然の判断だろう。だが危険を察知できる私からすれば、雪崩の恐れがある斜面でも問題ない。このまま進んで先回りして、この先にある灯台で待とう。
そう考えて私は走り出した。
【Another Side】
目の前でみんなが怪我をして倒れている。ラプチャーとの戦闘だけが原因ではない。ジャッカルに噛み付かれてたことで行動不能になった。横を見ると私のこめかみに銃口を向けたバイパーが微笑んでいる。
「最初は偽善かと思ったが、そうでもなかった」
クロウは私の前にゆっくりしゃがんで、絵に描いた様な満面の笑みを浮かべた。
「指揮官、お前は特別だ。それこそ輝かしい……100年に1人いるかいないかくらいの、素晴らしいリーダーだ」
クロウは狂気を感じさせる様な笑顔のまま話を続ける。
「ところで、お前みたいな奴がいると計画が狂うんだ。あたしはニケと人間、アウトローとフォーマル、弱者と強者、水と油の様に絶対に相容れない両極端が、死ぬ気で戦ってアークごと自滅して欲しいんだよ。なのにお前みたいなのがいると、奴らが第3の道なんかを夢見るじゃないか」
そして私に銃を突き付ける。
「それはダメだ。だからお前には、その崇高な正義と共に死んでもらう」
「バカな……ことを。ニケは……絶対に、人間を殺せ……ないわ」
ラピは苦しそうにしながらも、クロウの言葉を否定する。しかしクロウは、ラピの言葉をまるで意に介さないかの様に、淡々と問い返した。
「そうか? あたしはそう思わないんだが。あたしの頭にもお前たちと同じく、NIMPHというのが入っているようだが、残念ながらこの世界に対するあたしの憎悪は洗脳よりも強くて、こんなことも出来てしまう訳だ」
直後、放たれた弾丸はジャッカルが雪の上に立てていた鉄板に当たり向きを変える。
しかし私の身体を貫く前に、差し込まれたシャベルに弾かれた。
「……神獣か」
突然目の前に現れたDOROを見てクロウが呟く。
「バイパー、ジャッカル、下がれ」
「はぁ〜い」
「え〜隊長、今度こそ私が噛み付いてみせるよ!」
バイパーはクロウの指示に従って私から離れたが、ジャッカルは従わずDOROに飛び掛かろうとする。
「Doro」
「カハッ!」
しかし次の瞬間には、まるで跳ね飛ばされるかの様に、ジャッカルは雪の上を転がった。私には何も見えなかったが、先程までジャッカルが立っていた場所で、いつかの様にシャベルを振り抜いた態勢で立っているDOROを見れば、何が起きたのかは明らかだ。
「相変わらず凄いね」
「立てジャッカル、手間を掛けさせるな」
「う〜隊長〜」
バイパーとクロウの表情に驚きはない。彼女達からすると当然の結果ということなのだろう。そしてクロウに引っ張られて立ち上がったジャッカルも、少し目を回しているみたいだが大きな怪我は無いようだ。
「ヘレティックの件で話には聞いていたが、神獣が縄張りを出てここまで付いて来るとは、どうやら余程お前にご執心らしい。殺せないのは残念だが、ここまでだな」
「何、今さら逃げる気!」
アニスが食って掛かるがクロウは表情を変えずに見つめ返す。
「逃げる? ああ、そうか。お前たちからすれば、生還の見込みのない任務でも達成するのが当たり前なのか。いいか、そこのヒーローと一緒にいる内に忘れたようだが、勝てない相手に意味も無く突っ掛かるのを勇敢とは言わない。そういうのは蛮勇と言うんだ」
そう言ってクロウはDOROを一瞥する。しかし視線を向けられたDOROは、クロウのことが眼中にないのか、特に反応を示さず誰もいない明後日の方向を見ている。
「……まあいい。だがそうだな、折角だから教えてやろう。お優しい神獣サマと教会についてな。指揮官、お前は何処まで知っている?」
「……教会で信仰の対象になっているのは知っている」
というより、それしか知らない。私の答えを聞いてクロウは鼻で笑った。
「つまり詳しいことは何も知らないんだな。聞いた話では、かなり助けられたんじゃないのか? どうやらヒーロー様はニケの仲間以外には興味がないらしい」
「違う」
「そうか。なら聞くが、何故神獣が信仰されているのか知っているか?」
クロウは私の否定を無視して問い掛けた。
「……食べ物を分けてくれるからか?」
「それは一面でしかない。正確には、神獣が人々に食料を与え、秩序を与え、生き甲斐を与えたからだ。だからこそ、教会はアウターリムにありながら、アークに勝るとも劣らない……いやアーク以上に安全と自由が保障された場所になっている。そしてその起源はアウターリムではない。始まりはあいつらが地上にいた頃、つまりその信仰の歴史は、今に至るまで遥か100年にも及ぶものだ。そもそも教会とは、地上の生き残りによる互助組織だからな」
『!!』
答えに対して補足された情報に、私たちは驚かされた。
「何を驚いている。まさか地上に生存者がいないと本当に信じていたのか? 中央政府が嘘八百を並べ立てているのは、分かり切っていたことじゃないか。第一、アークに閉じ籠もった人間が、どうやって地上にいる人間の死を確認するんだ?」
「……」
確かにクロウの言う通り、生き残りの有無を判断する方法などある筈がない。
「兎に角、第一次ラプチャー侵攻終戦後から、地上に取り残された人間の生活を支えていたのが神獣という訳だ。嘗て中央政府に見捨てられアークに入れず、備蓄した物資を擦り減らしながらラプチャーに怯える日々を送るしかなかった人々のな。そしてアークの完全封鎖が解除されてからは、そうした人々の頼みを聞いてアークに移動する手助けまでした。勿論、アークに辿り着いても中央政府に受け入れられる筈もないから、あいつらもまたアウターリムで生活しているが」
「それで信仰されているのか……」
DOROが信仰対象なのは、外見からすると想像し難かったが、クロウの話が事実なら納得だ。
「そうだ。あたしも昔は教会に世話になったことがある。今でも気に食わないがな」
「気に食わない? 何故?」
指揮官である私がニケを仲間として扱っているのが気に食わないのは、世間一般におけるニケの認識を思えば理解できる。しかし、施すだけの教会も気に食わないのは理解できなかった。
「全てがさ。あいつらは食べ物をアークには高値で売る一方で、アウターリムの住人には安く売り、時には飢えた連中のために炊き出しをする。それで施しを与えた気になっている偽善者だ」
「……また八つ当たりですか」
ネオンが口を挟むと、クロウは同意する様に頷いてから話を続ける。
「ああ、そうかもな。普通なら本物の食べ物を手に入れるのは大変だからな。だが、あいつらは苦労したのか? していないだろう? 神獣が持って来るものを、さも自分たちの手柄の様に扱っているだけだ」
「……」
つまり善意の横流しだと言いたいのか。だが本当にそうなのか? 何も知らない私が言っても、クロウを納得させられるとは思えないが、ただ分け合おうとしているだけではないのか?
「そして神獣もそうだ。何故、あいつらだけを助けるんだ? あたしたちとあいつらの何が違う? 神獣からすれば、あいつらは人間で、あたしたちは人間じゃないのか? アークの連中がアウターリムの住人を人として見ないのと同じ様に」
「……手が回らないだけじゃないのか?」
思わず反論するが、クロウは首を横に振り一笑に付す。
「指揮官、お前は根本的に神獣のことが分かっていないな。能力を低く見積もり過ぎている。例えば昔、物資を狙ってマフィアが教会を襲撃したことがある。しかしそのことを知った神獣は、たった1日でマフィアを全員叩きのめした。勿論、実行犯だけじゃない。何処にいるか分からない筈の、襲撃を指示したボスも見付け出して例外なく全てだ」
「それは……」
イングリッドの警告が脳裏を過った。
「そうだ、神獣が本気になれば何をしても逃げ隠れできないと、その一件を知った誰もが理解した。だからこそ、仮に神獣がアウターリム全域を縄張りにしても大した労力は必要ない。縄張りだと誇示するために時々歩き回るだけでいい。そうすれば、例え普段の見回りが教会の構成員だけであっても、誰も悪さなどできやしない。もしも何か悪さをすれば、後に待つのは縁者全ての破滅だからだ」
「……」
実際には、そう簡単ではないかもしれない。しかしクロウの言う可能性が、あり得ない未来だとは思えなかった。
「そうなっていれば、エンターヘブンは勿論、アンダーワールドクイーンですら大きな顔をできなかっただろう。神獣により齎される規律ある自由によって、アウターリムは平穏が約束された場所になっていた筈だからな」
「しかし、そうなっていない」
「そうだな。神獣が縄張りを広げず、また縄張りの外で何があろうと気にもしなかったから、教会以外は今も昔のままだ。だから、あたしなりに納得しようとした。教会の奴らはアークに入れなかった人間だ。神獣がそれを大事にしているなら、あたしたちが助けられなくても仕方が無い。同じアウターリムにいてもアーク出身には変わりないのだからと」
クロウは言葉を切り、殺意の込められた目で私を見つめる。
「なのにお前は何だ? 何故、アークで生まれアークで暮らしていたお前たちを、神獣は助けるんだ?」
「……分からない」
私自身、何故DOROがここまで私たちに良くしてくれるのか、理由が分からなかった。
「そうか……結局、神獣も偽善者に過ぎないということだな。気に入った人間に感謝されるために行動し、それ以外はどうでもいいと思っている」
「アウトローらしい言いがかりね」
アニスがムッとした表情で言うと、クロウは再びDOROを一瞥してから続ける。
「そうかな? さっきも言ったが、あたしたちでは神獣に勝てない。なのに何故あたしたちが這いつくばるお前たちを見下ろしているんだろうな? 案外、あたしたちを野放しにした方が、またお前たちを助けて感謝される機会を増やせるとでも思っているのかもしれないぞ?」
クロウの捨て台詞を最後に、エキゾチックは私たちを置いて去った。
「……指揮官、怪我はありませんか?」
「私は大丈夫だ。それよりもみんなの負傷は……」
少ししてからラピが私に聞いてくる。その声で私は一旦クロウの話について考えるのを止め、みんなの具合を確認する。
「……申し訳ありません。全員、移動不可能な状態です」
「なら、私が助けを……」
呼んで来ると言おうとした瞬間、突然DOROが大声を出し始めた。
「Doroー! Doroー!」
「何、突然何なのよ!?」
口に出したアニスは勿論、私たち全員驚いたが、DOROは気にすることなく誰もいない方向に叫び続ける。
「Doroー! Doroー!」
「ちょっと、静かにしてよ! そんなに騒いだらラプチャーが寄ってくるでしょ!」
アニスが言ってもDOROは止めない。
「Doroー! Doroー! Doroッ」
そのまま暫く叫び続けた後、またしても突然叫ぶのを止めて、DOROは何処かに走り去った。
「本当に何なの、もう!」
アニスが怒った様に零した直後、私たち以外の声が聞こえた。
「ブラザー?」
「ラプンツェル……?」
現れたのはラプンツェルだった。
「こんな所で何を……いえ、先に治療しますね」
そしてラピたちを治療してもらいながら、何があったのか話をした。
「なるほど、アンチェインドですか……だからみなさん雪の中に倒れていたのですね」
「ええ、それでラプンツェルは、スノーホワイトと連絡を取れる?」
ラピが確認すると、ラプンツェルは顎に指を当てて、少し考えてから言う。
「今すぐは難しいです」
その言葉に私たちが落胆すると、ラプンツェルは苦笑いして続けた。
「なので、一緒に行きませんか? 毎月1日にのみ開かれる、約束の地へ」
【End】
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