救済を願って   作:バレンシアオレンジ

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 プリンセスも是非ニケとして再登場して欲しい。


28 楽園の天使

 

【Another Side】

 

「ようこそ…ここは楽園。公の名称は、地上基地"エデン"。そして私は、この基地のガイドです。気軽にドロシーと呼んでくださいね。アークの指揮官様」

 

 まるで天使のようだ。私はドロシーと名乗った目の前にいる美しい羽根を纏ったピルグリムに見惚れてそう思った。

 

「私のことを知っているのか?」

 

 そんな考えを振り払うために口から出した言葉が、何とも間抜けな質問になってしまい自分自身に呆れる。何当たり前のことを聞いているのだろう。既にエデンの指揮官であるヨハンとアンチェインドを巡って争いになっているし、またハランの言う楽園の試練をエデンの側で受けていたのだから、基地のガイドが知らない筈もないのに。そして私の質問に対するドロシーの返答は当然知っているというものだった。

 

 それからドロシーは私に手を差し伸べエデンを案内する。最初に訪れた庭園には多数の動植物が生育されており、彼女の話によればラプチャー侵攻前の自然を再現したものだという。

 

「……どうですか?」

 

 私が手渡されたリンゴを齧ると、ドロシーが味の感想を尋ねた。

 

「ああ、とても美味しい」

 

 パーフェクトでは味わえない本物の食感と香り、そして甘い蜜の味が口いっぱいに広がる。前哨基地でDOROに贈られ初めて食べた時と変わらない感動的な美味しさだ。

 

「そうでしょう? アークには存在しない味でしょうから」

 

 そう言って案内を続けるドロシーの後ろ姿を見ながら、私はラプンツェルに連れられて参加したパイオニアとの話し合いを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「多分、ドロシーに会うと思うからよろしく伝えてね〜」

 

 最初は拒絶されたが、私の願いを誠心誠意話してアンチェインドの予想外の原料と、嘗てそれが研究されていた場所についてスノーホワイトに教えて貰った後、別れ際に薔花が唐突に言った。その言葉に私たちだけでなくパイオニアの面々も驚いていたため、私は薔花に問い返した。

 

「さっきラプンツェルも名前を出していたが、ドロシーとは誰なんだ? 君たちの仲間なのか?」

 

「うん。私が一緒にいた時間は短いけど、レンやみんなにとっては大切な……そう本当に大切なリーダーだよ。今は色々あって会えていないけど」

 

「……姉さん、何故ぼっちゃんがドロシーに会うと思うんだい? ドロシーがいるのはエデンだろう」

 

「う〜ん、何となく……かな? 特に根拠とかはないわ。だけどあの子のコトを考えていると、そうなるんじゃないかな〜ってね」

 

 薔花と紅蓮の話を聞く限り、ドロシーという名前の人物がアンチェインド研究所にいる訳では無いらしい。

 

「あの子……エリカさんのことですか?」

 

「もちろん、そうよ」

 

 ラプンツェルの確認に薔花は直ぐに頷く。

 

「薔花、確かな根拠がなくとも何かそう判断するだけの理由があるのだろう。それは何だ?」

 

「……やっぱり誤魔化しきれないか〜。でも今は坊やたちがいるから、後でね?」

 

 スノーホワイトの追及に薔花はそう答えた。

 

「ちょっと、私たちがいるからって何!? 関係あることなら教えてよ!」

 

「アニス、物事には知らなくていい事とか、知るべきタイミングとかがあるの。だから今は駄目、また今度ね。まあ、もしかしたら次会う時にはもう知っているかもしれないけどね?」

 

「何よそれ!」

 

「アニス、落ち着いて」

 

 薔花の煙に巻く様な物言いに、頭に血が上りかけたアニスをラピが止める。

 

「えっと、どうしても教えて貰えないのでしょうか?」

 

「姉さんがあの様な言い方をするならば、何をしても無駄であろう。今は諦めなさい」

 

「……仕方ないですね」

 

 ネオンが改めて聞いても、紅蓮にそう言われた。納得はできないが、私も一旦理由を聞くのは諦めることにする。しかしそれよりも彼女たち、特に薔花は、DOROの行動を今後についての判断基準として重視している様に思えて気になった。

 

「何故そこまで信じられるんだ?」

 

「ぼっちゃん……?」

 

 私の発言に困惑してみんなこちらに注目した。

 

「DORO……いや、エリカが信じられる理由を教えて欲しい」

 

「DOROでいいよ。私もそう呼ぶ様にしようと思っていたから。名前は大事なものだけど、本人に伝わらなきゃ意味ないしね?」

 

 そうでしょ?と薔花が私たちに確認するので頷く。DOROは確かにDOROと呼ぶ時だけは即座に反応する。それ以外の言葉では、こちらが何を言っているのか少し考える素振りを見せるので、恐らくDOROだけが彼女にとって自然に理解できる言葉なのだろう。

 

「それで、坊やは何でそんなことを教えて欲しいのかな? あの子には何かと助けて貰っているって聞いているけど?」

 

「それは……」

 

 私は正直に全て話した。特に面識もなかった筈なのに私を助けてくれること。にも関わらず、アウターリムでは教会だけを守っていること。そしてクロウとの会話の内容も全て。

 

「ふむ、なるほど。つまりはエリカ……DOROの行動に一貫性がなく思えて、何を信じていいか分からなくなったということかね?」

 

「ああ、そうだな。そういうことになる」

 

 紅蓮が私の感じていた違和感を端的に纏めてくれたので同意する。

 

「教会か〜」

 

「駄目ですからね、薔花」

 

「言われなくても分かってるって……」

 

 その一方で、薔花の呟いた言葉をラプンツェルが否定していた。

 

「いや、今のは分かっていない言い方だったであろう。姉さん、ラプンツェルの言う通り、私たちが教会に行くのは駄目だ」

 

「……少しくらいはいいんじゃないのか?」

 

 ラプンツェルも紅蓮も薔花を強く否定しているが、そもそもみんな前哨基地に時々来ている以上、今更アウターリムに行くくらい別に……勿論問題ではあるが、特別視する必要もない気がしてそう言った。

 

「ぼっちゃん、君も知っているであろう。私たちの間に因縁と言うべきかは分からないが、色々あったことは。そして教会はDOROにとってある種の安心できる家ともいえる場所であるし、また教会の人々にとってDOROは生命線そのものなのだ。もしも私たちが訪ねたせいで、彼女が教会に寄り付かなくなったら、その後どうなるかは言うまでもなかろう? だからこそ教会に行くのであれば、その1度で確実に仲直りしなければならないが、私たちは教会の正確な場所さえ知らないのだよ。そして内部構造やDOROが何時何処にいるのかを把握するためには教会側の協力者が必要なのだが、当然その様な知り合いなどいない。それともぼっちゃんは教会に詳しいのかい? 違うであろう?」

 

「……すまない、考えなしだった」

 

 確かに可能性は低いだろうが、万が一DOROが怯えて来なくなってしまえば致命的な事態になりかねないし、私が教会の勢力圏について知っていることは皆無だ。アンダーワールドクイーンの3人に協力してもらえれば或いはといったところだが、今は何も分からないことに変わりないので、無責任なことはできない。薔花を見ると不満そうに膨れてはいたが、紅蓮に何も言い返せないようだった。

 

「話がズレているな。とにかく、お前は私たちがDOROを信じる理由が聞きたいんだな?」

 

「……ああ」

 

 その軌道修正に私が頷くと、スノーホワイトは周りに視線を向けて確認を促した。

 

「私は教えて構わないと思う。だが……」

 

「私もいいと思うけど……あ〜」

 

 それに対して紅蓮と薔花は何とも煮え切らない様子だった。

 

「何なのよ。何か言い難いの?」

 

「言い難いという訳では無いのですが……えっと、これから話すことも……その、真面目に言っていますからね?」

 

 アニスの問いに答えるラプンツェルもまた、2人と同じ様な態度だ。

 

「そんなに信じられないことなの?」

 

 ラピが再度確認する。

 

「あいつが未来を予言したからだ」

 

『……は?』

 

 スノーホワイトの予想外の言葉に私たちは固まった。

 

 

 

 

 

 

 つまりDOROが不可解な行動をするのは、未来を知っているからこそ、彼女自身の感情や考えと違っても、変えた方がいい事や変えない方がいい事などが分かってしまうからということらしい。

 

「……最後にご覧いただくのはロビーです。基地全体を見渡す、エデンの中枢になります」

 

 そう言って案内を続けてくれているドロシーに相槌を打ちながら改めて観察する。薔花によればDOROの何らかの行動から、私たちがドロシーに会うと推測したらしい。しかしそれよりも遥かに気になることがある。

 

「ドロシー」

 

「はい、どうかしましたか?」

 

「DORO……エリカという名前の人を知っているか?」

 

 いや、パイオニアの……ゴッデスの元リーダーなら知っていて当然だろう。またしても間抜けな質問をしてしまっことに恥ずかしくなったが、思わず聞いてしまうくらいには冷静ではいられなかった。ドロシーとDORO、偶然にしては幾ら何でも明らかに似ている要素が多すぎる。

 

「エリカ……ですか? いいえ、知りませんが、あなたの仲間でしょうか?」

 

「知らない?」

 

 予想外の返答に驚く。しかしよくよく考えてみれば、スノーホワイトも思考転換で昔のことを覚えていないと言っていた。2人の関係性は気になるが、それならば仕方無い。

 

「ああ、ならいいんだ。話を遮ってすまない」

 

「……参考までに、どちらでその名前を聞いたのか教えていただけませんか?」

 

「偶々知り合いから聞いただけだ。気にしないでくれ」

 

「……そうですか。では、説明を続けますね」

 

 

 

 

 それから更に説明を受け、エデンの理念と直面している問題……ヘレティック・ニヒリスターについて聞いた後、みんなと合流することになった。

 

「……指揮官様! 無事だったのね! 私たち、今度こそ指揮官様はもうダメだと……」

 

 そう言って駆け寄って来るアニスを押し退ける様に、パピヨンが抱き着いてきた。

 

「ハニー! グスン……本当に心配したんだから。ケガはない? 私が、ふーってしてあげる」

 

「私は大丈夫だ」

 

 それよりもみんなの視線が痛い。

 

「……ふーっ」

 

「きゃっ! あなた今……私の耳に息を吹きかけたの?」

 

「はい。どこかから女狐の鳴き声が聞こえたので、私の息で倒してあげようかなって思ったんです」

 

「……ホント呆れた」

 

 ネオンのお陰でパピヨンが離れ、空気が少し軽くなる。その瞬間を逃さず、みんなに確認すると私と同じ様に楽園の試練を受けたようだった。

 

「……そこまでしておいて、結局言うことが『助けてくださ〜い』だなんて、良心がないにもほどがあるでしょ」

 

 パピヨンの気持ちも分かるが、敵はヘレティックだ。エデンとしても協力を持ち掛ける相手に一定の実力がなければ、そもそも意味がないということなのだろう。

 

「……指揮官様、どうするつもり?」

 

「私は協力するべきだと思う。みんなの意見はどうだ?」

 

 アニスの問いに私の考えを述べた後、みんなを見回す。

 

「正直、断りたいよ。でも……断ったらアンチェインドを手に入れられないし、エデンと戦って奪い取る訳にもいかないでしょ?」

 

「そうだな」

 

 ラプチャーが跋扈する地上で、人間同士の争いは不毛だ。

 

「なら仕方無いわ」

 

「はい。どっちにしてもヘレティックはいつか戦わなきゃならない敵ですよね?」

 

 みんな同意してくれるようだが、パピヨンはその様子を見て口を開く。

 

「フ〜ン。でも、分かってて言ってるのよね? もし私たちが提案をのんだら、あの性格の悪い指揮官と同じチームになるのよ?」

 

『!!』

 

 とりあえず、今度は投げ捨てられない様に立ち位置には気を付けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリカですか……」

 

 忘れる筈もない。その名前は、私たちの指揮官に予言の手紙を送った人物の名であり、ピナと同じ部隊に所属して臨時監視所で戦死した量産型ニケの名前なのだから。

 

「ですが、何故アークの指揮官が今その名を……」

 

 予言のことが伝わっている? いや、そんなことはあり得ない。仮に記録が残っていても、ただの指揮官でしかない人物が知り得る情報ではない筈。

 

「知り合い……スノーホワイト?」

 

 それとも薔花? 何れにしても理由もなく死者の名前を教えるだろうか? 特に薔花はエリカの死に強いショックを受けていたのに。

 

「まさか……生きているのですか?」

 

 あり得ない。死者が戻って来るなんて、そんな都合のいいことあり得る筈がない。私の理性はそう言っていた。でも、そもそも予言自体が現在の科学技術で説明のできない"あり得ない"ことだという考えも頭から離れない。

 

「もし、もしもそうなら?」

 

 特別なのはエリカだけ?

 蘇る方法の再現性は?

 他のニケでの可能性は?

 

「ピナにも……」

 

 また逢える?

 

「……調べないと」

 

 誰に聞く? 

 あの指揮官?

 それともスノーホワイトたち?

 

 あの指揮官は……そもそもよく知りもしない相手に弱みを見せるなんてあり得ない。そしてスノーホワイトは、もうずっと会っていないのに、今更私が聞きに行って教えてくれるなんて考えるのは都合が良過ぎる。

 

「……ですが諦める理由にはなりませんね」

 

 勿論、希望的観測なのは分かっている。それこそ明日突然太陽が上らなくなるよりも、ほんの少し可能性が高い程度の話でしかないことも。けれど僅かでも可能性があるなら、無視できない。できる筈もない。彼等がエデンにいる間に、何か情報を引き出す方法を考えないと。

 

「もしも……機会が与えられるのなら、赦されるのなら……」

 

 次は絶対にあなたを喪わない。誰であっても傷付けさせない。

 

 そう考えた後、ドロシーは立ち上がりエデンの協力要請に対する彼等の返事を聞きに行くことにした。

 

【End】





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