救済を願って   作:バレンシアオレンジ

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 投稿が遅れて申し訳ございません。

 周年イベント楽しみですね。


29 D(DORO)クリスタル

 

【Another Side】

 

「……あれなの?」

 

「……たぶん。クジラみたいですし」

 

 アニスとネオンが手をかざして上空を睨みながら確認している。

 

「あら、目がいいのね?」

 

「もちろんですよ。このメガネは飾りじゃありませんから」

 

 アニスの言葉にネオンが胸を張って返す。しかしメガネが飾りでないなら、本来使用者の視力が落ちていることを意味する筈だが……指摘しない方が良いのだろうか。

 

「指揮官様、本当にあれなの?」

 

「……恐らく」

 

 アニスは疑問を感じなかったのか、はたまた敢えて無視しているのか、何時もの様にツッコミを入れることなく振り返り私に改めて確認した。

 

「そっか。それで、あれをどうするって?」

 

「……引きずり下ろして撃墜する」

 

「えっと……どうやって?」

 

 私自身、まだ撃墜方法については知らされていないため、アニスの当然の問いには答えられなかった。だがアレを、マザーホエールのコアを何とかして手に入れないといけないことに変わりはない。

 

 私は先日のことを思い出す。

 

 

 

 1度追い詰めたにも関わらず、新たなヘレティックの介入によりニヒリスターを取り逃がしてしまい、結果として何の収穫も得られずただアンチェインドを消費するだけして帰還したあの日、言い様の無い徒労感に苛まれるだけの私に、セシルが光明を見出してくれた。

 

「おめでとうございます。あなたは祝福されたRhX型の血液型の持ち主であることが判明しました。いえ……呪われたと言うべきでしょうか?」

 

 RhX型……それはつまり私の血液があればアンチェインドが製造可能ということだ。その事実を知った時、嬉しかったが同時に気が抜けてしまった。何のことはない、探し物は私の中にあったということか。灯台もと暗しとはよく言ったものだ。

 

 そして当然、私はアンチェインドの作成をセシルに依頼した。セシルはアンチェインドを使えば私の身に危険が及ぶ可能性が高いと警告していたが、たったそれだけの対価でアンチェインドが手に入るのであれば十分だ。そう考えて、こちらを見透かそうとするかの様なセシルの目を見つめ返すと、考えが伝わったのか呆れた様に溜め息をつかれた。

 

「いいでしょう。あなたが茨の道を歩むというなら、止めはしません。実際、私にとってもいい機会ですから。アンチェインドの弾丸を作れるなんて」

 

 そう言って一息つくと、セシルはこちらを見て続けた。

 

「作成にあたり、用意して欲しいものがあります」

 

「私の血以外にも必要なものが?」

 

 予想外の言葉に驚く。セシルは既にヨハンが回収したアンチェインドのサンプルを用いて弾丸を作っていた筈だ。にも関わらず、足りないモノとは一体?

 

「はい。コードネーム・マザーホエールを捕獲してください」

 

 更に話を聞くと、私の血液に含まれるアンチェインドは金属と相性が悪いらしく、そのままでは弾丸へと加工することができないとのことだった。だからこそ人間の細胞と融合している十分な強度を持った物質、一次侵攻の際に人間を多数捕食してその細胞を含むであろうマザーホエールのコアと、アンチェインドの合成が弾丸を作るために不可欠らしい。

 

 

 

「……」

 

「ねぇ、指揮官様。私の話聞いてる?」

 

 考え込んでいるとアニスに問い詰められた。

 

「すまない。今回は私の指示に従って欲しい。今度必ず話すから。約束する」

 

『……』

 

 私がそう言うと、アニスとネオンは顔を見合わせた。

 

「えー! ついに指揮官様にも言えない秘密ができたってこと?」

 

「やはり。新たな出会いは新たな秘密を生むものですね」

 

 騒ぎ出した2人を尻目にラピが私に確認する。

 

「……分かりました。これ以上は尋ねません。しかし、マザーホエールを引きずり下ろす方法がないという点は変わりません。何か作戦がおありですか?」

 

「この近くでヨハンと合流することになっている。彼が方法を教えてくれるらしい」

 

 心から尊敬し目標としている、嘗て新星と呼ばれていた先輩ならば、きっと私には思い付きもしない方法で、迅速に問題を解決してくれるに違いない。

 

「分かりました。移動しましょう」

 

 ラピの言葉を最後にみんなで歩き始める。そして歩きながらアニスの思い出したかの様な問いを皮切りに、パピヨンとドロシーのことを話すみんなを見ながら、私はセシルと交わしたもう一つの会話を振り返っていた。

 

 

 

「話は変わりますがドロシーと何について話をしたのか聞いても?」

 

「突然どうしたんだ?」

 

 質問の意図が分からず問い返すと、セシルは髪を弄りながら口を開く。

 

「ただの好奇心です。先程も言った通りオペレーター通信越しに会話を聞いていたのですが、ドロシーの行動に違和感を覚えましたので。普段通りであれば、あなたがニヒリスターに連れ去られた際にも、追い掛けずに暫く様子を見るくらいはした筈です」

 

 そしてドロシーの行動に影響を与え得る出来事が私との会話以外に思い付かないとのことだったが……笑えばいいのだろうか。セシルは何とも悲しい方向にドロシーを信頼しているようだ。

 

「特に変わったことは話していないと思うが……」

 

 秘密にすることでもないので、ドロシーとの会話内容をセシルに教えた。

 

「……それでエリカというのは誰ですか?」

 

「彼女のことをドロシーは覚えていないみたいだったが?」

 

 エリカの名前を出した時のことについて、セシルが何故気になったのか分からず問い返す。するとセシルは再び溜め息をついてから続ける。

 

「前にも言いましたが純粋すぎです。どうして相手が嘘をついている可能性を考慮しないのですか」

 

「だがスノーホワイトも……」

 

 セシルの呆れた様な物言いにムッとして、スノーホワイトも思考転換して過去を覚えていなかった事実を告げようとする。

 

「何か勘違いしている様ですが、ドロシーはこれまで1度も思考転換を経験していません。なのでスノーホワイトの様に過去の記憶を失っているということもありません」

 

 しかし最後まで言い終える前に否定された。セシルの言葉が真実なら、ドロシーは何故知らないと言ったのだろうか。

 

「それで?」

 

「?」

 

 理由を考えている時に先を促されて、一瞬何のことか分からず戸惑う。

 

「ですからエリカとは誰なのですか?」

 

「すまない。DORO……いや、神獣といえば伝わるだろうか?」

 

 私がそう言うとセシルは目を見開いた。

 

「"どろ"そして神獣というと、あのDOROですか? 教会にいてドロシーにどことなく似ている不思議な生き物の……」

 

「そうだ。スノーホワイトの話によれば、彼女は元々戦場を共にした量産型ニケだったらしい。そして未来を予言することもできたとか」

 

 セシルは探る様に私をじっと見つめてから確認する。

 

「……念のため聞きますが、あなたは教会関係者ではありませんよね?」

 

「ああ、教会とは無関係だが……?」

 

「……偶然の一致。まあ、そこまでおかしなことでもありませんか。彼女自身がDoroDoroと喋っているのですから」

 

 そして私の返答を聞いた後、セシルは更に話を咀嚼する様に言葉を紡ぐ。

 

「そうですか……ドロシーが意識するスノーホワイトと共通の知人。ということは一次侵攻の……そして予言、なら今までずっと……なるほど、そういうことだったのですか……」

 

「DOROと知り合いなのか? それに何故、私が教会の関係者だと思ったんだ?」

 

 呟きながら頷いて何かを納得しているセシルに尋ねると、彼女は改めて私に向き直り口を開く。

 

「まず、先に後の方の質問に答えましょう。あなたも知っている様ですが、アークで彼女を知る殆どの人は神獣と呼びます。そしてDOROという呼称は、基本的にアウターリムにある教会の内輪だけでしか使われていませんので、あなたも関係者なのか確認しました」

 

「なるほど」

 

 確かにイングリッドもクロウも神獣と呼んでいた。

 

「この呼び方の違いは、教会が対外的な呼称である神獣とDOROを意図的に使い分けているためですが、その理由は言うまでもないことですね。教会は中央政府を全く信用していない……いいえ、ある意味では信頼しているからです」

 

「どういう意味だ?」

 

 教会が外部に向けてDOROと呼ばない意義が見えない。

 

「名前を奪われることを警戒しているのです。DOROは現状アウターリムの一角で信仰されているだけですが、将来的には信仰が更に広がるかもしれません。そして万が一アーク内部にまで信仰が広がれば、中央政府は自分たちの立場を脅かしかねない存在として排除に動くでしょう。幸い武力については、DORO自身が銃器や罠に対して非常に強いので何とかなるかもしれませんが、中央政府は情報統制による対処も可能です。ヨハンがそうであった様に、DOROの危険性や悪評をあたかも事実であるかの様に広めることも難しくないでしょう。だからこそ教会は、"記号"としての神獣と大切な"名前"であるDOROを使い分けるのです。どんなことがあっても、未来永劫失わない様に。実際、人類の存続をなした英雄である筈のゴッデスも、部隊としての"記号"は伝わっているのに、所属していたニケの"名前"は伝わっていないでしょう?」

 

「……そうか」

 

 中央政府ニケ管理部所属だった指揮官としては耳が痛い話だ。しかし私自身、マリアンの時のことを思えば、中央政府を信じられない気持ちもよく分かる。

 

「それで知り合いなのかについてですが、彼女は恩人です。私にとってはもちろん、エデンにとっても」

 

「理由を聞いてもいいか?」

 

「構いませんよ。まず私はアークを脱出する必要に迫られた時、当然正面から出て行く訳にはいきませんので、アウターリムの組織に協力を求めることにしたのです。正直に言って協力者探しは難航すると思っていたのですが、予想に反して教会の方から快く協力を申し出てくれました」

 

「情報が漏れていたということか?」

 

 アウターリムにある教会側から提案があったということならば、既にセシルの情報が広く知られてしまっている可能性が高いと思われた。

 

「最初は私もあなたと同じ様に疑いました。ですが違ったのです。話を聞くとDOROが私の似顔絵を渡してお願いしていたからでした。もちろんDOROは話せないので、似顔絵が誰で何をお願いされているのか、彼等にも直ぐには分からなかったでしょう。しかし、それから間もなく私からの依頼があったということです」

 

「それはまさか……」

 

 勿論、スノーホワイトの言葉を疑っていた訳ではない。しかし、オカルト嫌いに見えるセシルから、実体験として予言の可能性がある話が出ると流石に驚く。

 

「はい、DOROが私の行動を予言したということでしょう。当時の私には、DOROが何故そんなお願いを信徒にしたのか分かりませんでしたが、あなたの話を聞いて漸く理解できました」

 

 セシルは一旦話を区切って口を湿らせてから更に続ける。

 

「次にエデンについてですが、そもそもここで生産されている食物の多くは、元を辿ればDOROが持って来た物です。話を聞く限り、あなたも受け取ったことがあるのではないですか?」

 

「ああ、ある。というより、前哨基地に赴任してからずっと食料を持って来てくれているな」

 

 私の返答にセシルは頷く。

 

「そうでしょう、あの子は献身的ですから。なので私も何か彼女にお礼ができればと思い、ドロシーに関係性をそれとなく尋ねたことがあります。しかし、どうにも話が噛み合わず少し踏み込んで聞いてみたのですが、ドロシーはそもそもDOROを知らないようでした」

 

「知らない?」

 

「はい。神獣と呼ばれる存在がいるのは知っていたようですが、恐らくDORO本人とは1度も直接顔を合わせたことがないのでしょう。理由は分かりませんが、DOROの方から避けているようです。DOROはエデンの側までは来ますが、建物に入ろうとはしませんし、ドロシーを呼び出して会わせようとした時には、ドロシーが部屋から出て移動し始めると直ぐに気が付いて逃げてしまいました。エデン内部の音や匂いは漏れていない筈ですが、どうも五感以外の何らかの方法で、他者の存在を知覚できるみたいです。或いはそれも予言の力なのかもしれません」

 

「それは……」

 

 私はスノーホワイトから聞いたDOROが逃げる原因の話をセシルにした。恐らくドロシーから逃げるのも同じ理由なのだろう。

 

「なるほど、そんなことが……ええ、ドロシーの性格を考えれば、食べ物を運んで近付いてきたDOROに対して、よく確認もせずに攻撃した可能性は高いでしょう」

 

 セシルは三度溜め息をつく。

 

「恩人なのですから、避けている相手に無理矢理会わせるつもりはありませんでしたが、そういうことなら彼女たちが再会できる様に、こちらから何か手助けするべきですね。言葉は分からなくてもDOROは賢いので、次来た時に待つことをお願いする絵を見せれば理解してくれる可能性もあります。もちろん、ドロシーの方にも絶対に攻撃しない様、伝える必要がありますが……」

 

「私も返しきれない程の恩があるからな。そうして貰えると助かる。だが、いいのか?」

 

 確かにDOROには恩があるのかもしれないが、互いに干渉しないのがエデンのルールだった筈。

 

「ドロシーも気にしているので問題ありません。また仮にドロシーが不快になるとしても、無視できない程の恩義がDOROにはありますから」

 

「食べ物だけじゃないのか?」

 

 食料は重要だが、そこまで言う程のことではない様に思われ、セシルに尋ねた。

 

「はい、DOROがエデンに齎したのは食べ物だけではありません。彼女のお陰で私たちはニケの製造技術を手にしました」

 

「そうなのか?」

 

 アークでも最重要機密である筈の技術をDOROがどうやって知ったのだろうか。

 

「DOROが技術者と私たちを繫いでくれたのです。他にも最近こんな物が開発できました」

 

 そう言ってセシルが赤い結晶を取り出した。

 

「それは……?」

 

「私たちはD2クリスタルと呼んでいます。非常に大きなエネルギー容量を持ち、エネルギーの入出力を様々な形で制御可能かつ変換効率も非常に優れた物質です」

 

「凄いことなのか?」

 

 ようは沢山充電できる蓄電池ということだろうか。

 

「……電気でも衝撃でも熱でも光でも、好きな様にエネルギーの入力を選んで保管することができ、損失をほぼ無く色々な仕事……例えば植物の育成に使える画期的な物質です」

 

「それは凄いな」

 

 充電方法を選ばないというのは驚きだ。

 

「はい。これも共同研究の成果ですが、元になった物質もDOROから貰った物なのです。あなたも見たことがありませんか? DOROの持つ緑色の結晶を」

 

「……アレか!」

 

 マリアンに腹部を貫かれた時に貰った結晶を思い出す。

 

「見たことがある様ですね。私たちはDクリスタルと呼んでいますが、非常に興味深い特性を持つ希少鉱物です。置いておくだけで周囲の植物を成長させ、人間を含めた動物の傷を癒やすのですから。ただ残念なことに出力を止める方法が見つかっておらず、そのまま放って置くとエネルギーを完全に放出して元の特性を失ってしまい長期間の保管は絶望的でした。どうも通常の方法では観測できない何らかのエネルギーをDOROから吸収している様で、DOROから離れるとエネルギーの入力方法がないのも大きな欠点です」

 

「それらを改善したのがD2クリスタルなのか」

 

 私の言葉にセシルは頷く。

 

「はい、そうです。欠点を無くして、利点を強化したD2クリスタルは、軍事・医療・農業など分野を問わず有用な戦略物資といえます。唯一残る問題点は生産性が悪いことですね。材料をDOROから貰う以外に入手する方法がないので」

 

「なるほど……そういえば、その技術者というのはアークの人間なのか?」

 

 そう聞くとセシルは嫌そうな顔をした。

 

「利用するならまだしも、アークの力を借りるなどあり得ません。協力者も地上に残された方です。もちろん、何度もエデンに招待しているのですが、残念ながら今のところ良い返事は頂けていません」

 

「エデン以外にも地上に拠点があるということか?」

 

 その問いにセシルは首を横に振る。

 

「いいえ、彼女は単独で移動しながら生活している様です」

 

「それなら何故?」

 

 エデンに来た方が安全性も研究する上でも良いと思うが。

 

「人にはそれぞれ譲れない想いがあるものですよ……本人に聞いた訳ではありませんが、共有された技術とドロシーの話から分かることもあります」

 

「それは?」

 

「彼女は勝利の女神になれなかった第2世代フェアリーテイルモデルの作成者なのでしょう。だからこそ自身が作りだした最高傑作の名誉を、自分の手で取り戻したいのです」

 

【End】





 読んで頂きありがとうございます。

 今後も不定期になるかもしれませんが、引き続きよろしくお願いします。
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