救済を願って   作:バレンシアオレンジ

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32 再び走り出す

 

【Another Side】

 

『レッドフード!』

 

『おいおい、お嬢サマじゃね〜か? しばらく見ない間に、ずいぶん大胆になったな』

 

 まあ、あの時は本気で変わったと思ってたわけじゃない。ドロシーは上から目線で人をバカにしたような話し方をするけど、実際には仲間思いで情に厚いヤツなのは知ってたからな。

 

 でも、だからこそ驚いた。

 

『……ドロシー、お前……』

 

『……ラピは戻りませんよ。私が止めますから』

 

 本気でラピを殺しに来るなんて。

 

『ふざけたこと言わないで』

 

『私たちが許すとでも?』

 

『そうですか……では、止めてごらんなさい』

 

 もちろん、あたしの故郷に着くまでにも、変わったなと思わされることはあったさ。でもな、何があったのかは話してくれなかったけど、百年も経ったんだから誰だって少しくらいは変わって当然だろ。だから、いつもより口が悪くたって、そこまでするなんて思っていなかったんだ。

 

 あたしが状況を飲み込めないでいる間に、アニスとネオンが吹っ飛ばされて、男前は倒れていた。

 

『……私を軽蔑しますか? 別に構いません。私はレッドフードをこのまま行かせるわけにはいかないのです』

 

『ドロシイィィィ!!』

 

 銃口が注射器に向けられるのを見て、ドロシーを撃った。

 

『うぅ……! くっ……! 撃つなんて……! ウソ……でしょう……!? レッドフード……!!』

 

『……恥を知れ……恥を知れよ! ドロシー! それでもゴッデスか!? なぁ!?』

 

 思わず怒鳴った。

 

『私だって……! やりたくてやっているわけじゃ、ありません!』

 

 そんなこと分かってる。ドロシーは誰よりも希望の象徴で、勝利の女神であろうしていたんだから。でもな、あたしはドロシーみたいに頭がいいわけじゃないから、言ってくれなきゃ分からないんだ。なんであたしに、過去にこだわるんだ?

 

『また愛されたいから! 誰かから奪って、破滅させるより! 愛されていた方がずっといいのです! 諦めていました……! もう、私は愛することも、愛されることもないと……! でも、あなたが生きて帰ってきてくれたのなら……』

 

 ドロシーはそう言った。きっと、あたしがいない間に、たくさん辛いことがあったんだろう。信じていたのに裏切られて、どうすればいいのか分からなくなって、痛くて苦しくて、何よりも愛したいのに愛せなくて。だけど、頭がいいからなのか、やっぱり難しく考え過ぎだろ。

 

『許しちゃダメなのか?』

 

『……何ですって?』

 

 それから、あたしの言葉に固まったドロシーを激励して、男前に遺言を録音してもらって、最後に注射器を使った。

 

『大切な人ができたの。何もなかった私が、満たされていった』

 

 気がついていなかっただけさ。ラピ、お前だって最初から持っていたものがあった。でも、そうだな……

 

『どうだ? 生きるのもいいもんだろ?』

 

『うん』

 

『それなら、いいんだ』

 

 あの頃と違って、前を向けるようになったなら、それだけでも変われて良かった。

 

『これからは、お前はお前として生きろ。失くしたものにこだわるな』

 

『うん』

 

 ラピに別れを告げて終わると思った。だけど、ぼんやりとした状態で、あたしの意識は残り続けていた。

 

『……本当は……こんな話がしたかったのでは、ありません。楽しかった昔の話を……したかったのに。台無しにしてしまいました。彼女の最後を……』

 

『……きっと分かっているわ』

 

 ああ、分かってる。ドロシーが不器用なヤツだなんてことは。もちろん、ラピを守るためだったから、撃ったことを後悔はしていないけど、ドロシーにとっては昔のあたしたちだけが、壊れた世界でたった1つ信じられることだったんだろう。次に会えたら謝らないとな。

 

 そして、あたしの意識が残っているせいで、ラピに迷惑をかけるところだった。

 

『アナキオール……!』

 

『その名で呼ぶな!!』

 

 棺の中にいたニケを見て感じた驚きが、ラピにも影響しちまった。エイブと名乗ったニケが怒るのも当然だ。だって彼女の本当の名は。

 

『ごめんなさい……シンデレラよね? どうしてここにいるの?』

 

『!!』

 

 そうだ。シンデレラ……予言で知った未来を変えるために、急いだのに間に合わなかったんだ。

 

『シンデレラ?』

 

『指揮官、シンデレラは第2世代フェアリーテイルモデルとして作られたニケの名前です。そして……最初のヘレティック・アナキオールになってしまった存在でもあります……』

 

『何故……何故、それをお前たちが知っている……』

 

『……信じられないかもしれないけど、私の中にレッドフードがいるの。彼女が教えてくれたわ』

 

『なんだと……?』

 

 エイブは驚いた顔で、こちらを見た。まあ、信じられなくてもしかたないよな。あたしだって、なんでこうなったのかは分からないし。

 

『そうか……レッドフードか。だから、あいつはお前たちを……』

 

 だけど、エイブは何かに納得したように頷いていた。

 

『信じてくれるの?』

 

『ああ、信じる。レッドフードは……シンデレラについて何か言っているのか?』

 

 ごめん、助けられなくて。

 

『"ごめん、助けられなくて"って言っているわ』

 

『私たちのせいで失敗したのに、レッドフードは許してくれるどころか、そう言ってくれるのか……』

 

 クイーン討伐作戦が失敗したのは、お前たちのせいじゃないさ。

 

『でも、これは……』

 

『ラピ、大丈夫か?』

 

『はい、指揮官。ですが、その……レッドフードから流れ込んできた記憶に、予言についてのものがあったんです』

 

『予言……それはもしかして、スノーホワイトたちが言っていた?』

 

『はい、そうだと思います。恐らくこれがDOROの最初の予言なのでしょう』

 

 うん? DORO?

 

『待ってくれ。今、DOROと言ったか? お前たちはあいつと、どういう関係なんだ?』

 

『それは……』

 

 ラピと男前は、エイブにDOROと会ってからの話をした。そして、あたしの記憶にある、隊長から聞かされた予言の話も。

 

『そうか、そうだったのか……そんなに昔から、最初から、私を、私たちを、助けようとしてくれていたのか……』

 

 話を聞くと、エイブは泣きながらも、とても嬉しそうに微笑んでいた。気持ちは分かる。あたしも笑いたくなったからな。そうか……DOROのヤツが予言の主で、今もみんなを助けようとし続けているのか。

 

 それからラピたちはエイブと協力して、シンデレラを目覚めさせてから、ヘレティック・ベヒモスと戦い奪還地01に戻った。

 

 みんな疲れていたけど、大きな怪我をしたヤツはいなかった。本当に危ない時には、どこかから小さな金属片が飛んできて、ベヒモスの動きを邪魔したからだ。

 

『何でしょうか、これ?』

 

『開けてみればいいでしょ?』

 

 戻った奪還地01には、行きには無かった箱があった。

 

『私は嫌です。アニスが開けてください』

 

『なんでよ!』

 

『爆発したら困るじゃないですか』

 

『そんなの私もイヤよ!』

 

 ネオンとアニスが言い合っている間に、ラピが躊躇いなく開けた。

 

『……パウンドケーキですね』

 

『シフティー、誰か来たのか?』

 

『いいえ、輸送の予定も出入りした人もいないはずですが……少し待ってください』

 

 シフティーが何か調べてから、画面の前に戻ってきた。

 

『対象の部屋周辺に設置されている監視カメラの映像を確認しました。それで、その……どうやって奪還地01に侵入したのかは分かりませんが、神獣が来ていたようです』

 

『DOROか、なら気が付かなくても仕方ないな……』

 

 置くだけ置いて帰ったのか。水臭いやつだな。ベヒモスと戦っている時にも、お前が助けてくれていたんだろ?

 

『これは、2人に向けたお祝いということね』

 

 ラピは箱の中から取り出したカードをエイブに渡した。カードにはシンデレラとエイブが描かれている。

 

『まったく、本当にいつも助けられてばかりだな……』

 

『私も早く会いたいわ。きっととても美しいのでしょう?』

 

『ああ、シンデレラも気に入るだろう』

 

 涙ぐむエイブの隣に、シンデレラが笑顔で寄り添っていた。

 

 その後、準備を整えてからベヒモスそしてレヴィアタンと、ラピたちは再び戦った。

 

『……また会えるとは思わなかったわ』

 

 あたしもだ。

 

『これで本当に最後?』

 

 そうかもな。

 

『私……私は……あなたに託されたという意味を、はき違えていたわ』

 

 そうだな。お前はお前として生きろって言ったろ。

 

『今なら分かる。あなたを継承するとは、どういうことか。仲間たちに、教えられたの』

 

 あたしも、お前も、仲間に恵まれたな。

 

『……見守っていて。あなたから受け継いだものと一緒に……私は満たされて……そしていつか、完成するはず』

 

 ああ、見守ってる。だから頑張れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──エデン 医務室

 

「目覚めましたか、気分はどうです?」

 

「悪くないな。いい夢を見てたから」

 

「そうですか」

 

 起きてすぐに投げ掛けられた問いに、あたしは軽口を叩いた。

 

「自分が誰か、ここがどこか、分かりますか?」

 

「あたしはレッドフード、ここはエデン、そしてあんたはセシルだろ?」

 

 自分のことも、ラピの記憶も、ちゃんと全部覚えてる。まさかまた死に損なって、こうして目覚めるとは思わなかったけど。

 

「……脳波に異常はなく、記憶にも問題なし。全くどうなっているのでしょうか? コアはあっても、あなたの脳細胞は1つも無かったのですが……本当に得体のしれないことばかりです」

 

「いや、あたしに言われても……」

 

 ニケのボディを1から作れる技術者に分からないことが、あたしに分かるわけないだろ。

 

「いえ、答えが欲しかった訳ではありません。ただの独り言です」

 

「それならいいけど……」

 

「それで、あなたはこれからどうするのですか?」

 

 手元のタブレットから、こちらに視線を戻し、セシルが真剣な目で聞いてきた。だから、あたしも真剣に返す。

 

「セシル、あんたには助けられた借りがある。だから、あんたを手伝う……と言いたいけど、少し待ってくれないか?」

 

「……ドロシーとDOROのことですか」

 

「ああ。寂しがりのくせに意地になってるお嬢サマと、優しいけど臆病なあいつに、いい加減目を開けて現実と向き合う時間だと伝えないとな……そういえばDOROは?」

 

 周りを見渡しても、姿が見えないので聞く。

 

「あなたのコアを持ってきてから、私に身振り手振りでお願いした後、すぐに帰りました。なのでアーク、もしくは住処にいると思います。まあ、後者はどこにあるのか分かりませんが」

 

「住処……あの洞窟か?」

 

 あたしが意識を取り戻した時、コアしかなくて文字通り手も足も出なかったわけだが……あの水晶だらけの洞窟がDOROの住処なのだろう。

 

「知っているのですか?」

 

「知ってるというか……気が付いたら、あそこにいた感じだな」

 

「そこに緑色の水晶は……いえ、止めておきましょう。今回はそれなりの量を持ってきてくれたのですから……」

 

 一瞬、何かに期待したように見えたが、セシルはすぐに言葉を切って首を振ってから、こちらに向き直る。

 

「知っているかもしれませんが、ドロシーは今アークにいるので、2人に会うならアークへ向かうと良いでしょう。伝はありますか?」

 

「まあ、ラピと男前に頼めばなんとかなるだろ」

 

「なるほど、彼ですか……」

 

 少し考えた後、セシルは何かを書いてくれた。

 

「これは?」

 

「教会直通のエレベーターの場所と紹介状です。万が一、彼が留守の時には使ってください。まあ、あなたなら紹介状は必要ないかもしれませんが」

 

 教会……確かDOROが助けた人々が暮らしている場所。

 

「ありがとな。もしもの時は使わせてもらうよ」

 

 礼を言って立ち上がり、身体を確かめるように軽くストレッチをする。

 

「それと、こちらもどうぞ」

 

「これは……スノーの……?」

 

 セシルが端末を操作して、ロボットに運ばせてきた銃を受け取り呟く。どうしてここにあるのか分からないが、for the fleeting promise(束の間の約束のために)と印字されている部分を思わず撫でた。

 

「いいえ、これはセブンスドワーフゼロ・レプリカです。DOROのお願いで、エイブから頂いたセブンスドワーフゼロのオリジナルデータを元に作成しました。何故、オリジナルをそのまま渡すのでは駄目なのか分かりませんが、元々あなたのためのものなのでしょう?」

 

「ああ。あたしがスノーに、カッコイイ武器を作ってくれって頼んだんだ。必ず取りに行くって約束したのに、結局守れなくて……」

 

 オリジナルはラピが受け取ったはずだ。きっとDOROもそうなることを知ってたんだ。その上で、あたしがもう一度起きられた時のために、セシルに頼んでいたんだろう。

 

 最後に、服を着替えてから装備を確認し、移動する準備をしてからセシルに改めて向き直る。

 

「ありがとな、セシル。この恩は絶対に忘れない」

 

「構いません。私にも得られるものがありましたから……それよりも、2人のことをお願いします」

 

「分かってる。次は必ずみんなで会いに来るよ」

 

 そして、あたしはエデンを出て、アークへ向かった。

 

【End】





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