救済を願って   作:バレンシアオレンジ

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33 おかえり

 

【Another Side】

 

「驚きね〜」

 

 そう本当に驚いた。ナユタに呼び出されて移動している最中に、戦闘音が聞こえたから念のため様子を見に来ただけだったのだけれど。

 

「レッドフード!」

 

「おっと。聖女様もずいぶん大胆に……イヤ、元々大胆だったか?」

 

 眼前では、ラプンツェルがレッドフードに駆け寄って勢い良く抱き付いている。その一方で、レンとスノーホワイトは2人を見詰めて固まっていた。

 

「故郷で待ってるって、言ったじゃありませんか。なのにどうして……いったい何があったのですか? 生きていたのなら、連絡ぐらいください!」

 

「あ〜それは……」

 

 確かに気になる。私は直接会ったことがないけど、ラプンツェルの話によれば、レッドフードは最初のヘレティックの(シンデレラ)様に、みんなの帰る場所を壊してしまうのが嫌で、誰にも迷惑を掛けない場所で薬が見付かるのを待つことにしたらしい。けれど、実際に薬……アンチェインドを見付けて約束の場所に行っても、誰もいなかったと聞いている。だからこそ、レッドフードが死んでしまったと思ったのだということも。

 

「その、怒らないでくれよ? 少し疲れたな〜って思って、適当な家を借りて寝たら、ほんのちょ〜っと寝坊してな?」

 

「……ちょっとって、どれくらいですか?」

 

「……30年くらい?」

 

「それはちょっとではありません!」

 

「悪かったって!」

 

 ラプンツェルが怒ってレッドフードを叩いた。まあ、寝坊なんて理由なら怒られて当然。それに、喧嘩になっているなら止めるけれど、ラプンツェルも本気で怒っている訳では無く、色々な感情が爆発したせいでスキンシップが少し過激になってるだけみたいだから、放っておいても大丈夫だろう。

 

 しばらくすると、満足したのか2人でこちらに戻ってくる。それから、レッドフードは先ずレンに話し掛けた。

 

「久し振りだな、センセイ」

 

「……すまないが、私は余り昔のことを覚えていなくてね」

 

 そう言いつつも、レンはレッドフードから目を離さない。

 

「ああ、分かってる。思考転換だよな。でも、全部忘れるわけじゃないんだろ? なんとなくでも、思い出せることとかないか?」

 

「いや、確かなものは何も……だが、どこか懐かしくはある。それに、君がラプンツェルから聞いた通りで変わっていないことに、私は安心しているようだ」

 

 私達姉妹の絆もそうだけど、記憶とは別のNIMPHでは奪えない深い繋がりが2人にあるのだろう。

 

「そっか……それはそれとして、センセイは変わったな。昔はもっとこう……切れたナイフ、みたいな?」

 

「ナイフを切ってどうするのかね……」

 

 せっかく再会できたのに、なんとも締まらない。まあ、2人はそれでいいのかもしれないけれど。そしてレッドフードは次に私へ向き直り話し掛けた。

 

「センセイの姉で……確か薔花、だよな? あたしはレッドフード、よろしくな!」

 

「うん、はじめまして〜。私のことはレンから聞いて……あれ? ラプンツェルとドロシーは初めて会った時、私の名前を知らなかったはずだけど、なんでレッドフードは知ってるの?」

 

 レンがゴッデスのみんなに私の話をした時、私のことを何時も通り"姉さん"と呼んでいて、名前は出していなかったと聞いているけど、レッドフードは何処で私のことを知ったのだろう。

 

「あ〜それは、みんながラピと会って話をしたからだな」

 

「そっか〜カウンターズのみんなから聞いたのね。なら納得」

 

「ちょっと違うな」

 

 そう言ってレッドフードは首を横に振った。どうやら違うらしい。

 

「その辺は説明するけど、その前に……スノー」

 

「レッドフード……」

 

 レッドフードは固まっているスノーホワイトに近付いて、少し乱暴に頭を撫でた。

 

「ずっとクイーンを倒すために戦ってるんだってな。すげぇよ、本当に頑張ったんだな」

 

「ああ、頑張った……」

 

「もう、おちびちゃんって呼べないな。スノー」

 

 そう軽口を叩くレッドフードに、スノーホワイトは震える手で抱き付き、涙を零した。

 

「おいおい、泣き虫なのは昔のままか〜」

 

「……泣いていない」

 

 少しからかう様なレッドフードの言葉に、スノーホワイトは言い返したけれど、しばらく手を離さなかった。

 

 そして、みんなが落ち着いてからレッドフードの話を聞く。彼女の語ったこれまでの出来事は、余りにも私達の常識から逸脱しており、荒唐無稽と言えるものだった。

 

「そんなことが可能なのかい?」

 

「いや、あたしだって理屈は分かんねぇよ」

 

 それはそうだろう。でも、レンの気持ちも分かる。侵食されて、寝坊して、ラピと身体を共有して、融合して、そこから更にコアだけで目覚めて、DOROにエデンへ運んでもらってボディを作ってもらったなんて、俄には信じられない話だ。

 

「それなら侵食は治ったということですか?」

 

「治ったと言うより、ボディがピカピカの新品だから、侵食はもう関係ないって感じだな」

 

 ラプンツェルはそれを聞いて安心したようだ。

 

「それで、これからどうするつもりだったの?」

 

「ああ、アークに行こうとしてたんだ」

 

 私が質問するとレッドフードはそう答えた。

 

「アークですか? レッドフード、私たちはアークには……」

 

「あたしたちがアークに入らない方がいいのは知ってる。でも、会わないといけないヤツがいるからな」

 

 ラプンツェルの言葉を遮ってレッドフードが言う。

 

「ドロシーか……」

 

「ああ、頑固なお嬢サマに会って話をしないと」

 

「ふむ、ドロシーの目的は分からないが、そうした方がよさそうだ」

 

 アークに穴が開いたのも驚きだけど、タイミング良くドロシーが行ったのなら、レンも考えている通り何か目的がある筈。ドロシーがアークに厄災をもたらすとは思えないけど、確認する方がいいのも事実だ。

 

「それにDOROにも会わないとな。だからみんなに会えて、ちょうどよかったぜ」

 

「む〜」

 

「姉さん、落ち着いて。レッドフードの協力があれば、私たちもDOROに会えるであろう?」

 

 それはそうだけど、DOROの方から助けるために接触した訳でもないのに、レッドフードが知り合っているのには納得がいかない。少なくとも私の方が前から友達なのに。勿論、身から出た錆なのは分かっているけど。

 

 兎も角、みんな同意してレッドフードとアークへ行くことになった。

 

 

 

 ──アーク近郊

 

「ブラザーは留守でしたね」

 

「まあ、ぼっちゃんも忙しいはずだ。時にはすれ違っても仕方ないさ」

 

 前哨基地のコマンドセンター前で、少し待ったけど反応がなかった。しかし、カウンターズの協力が得られないとなると、騒ぎを覚悟でアークに侵入するしかないのだが……レッドフードには何か手があるらしく地上に戻ってきた。

 

「それで、どうするの?」

 

「ああ、セシルから地図と紹介状を貰ったんだ。だから教会に……えっと、こっちか?」

 

「……」

 

「姉さん、落ち着いて」

 

 分かってる。でも、セシルも言ってくれればいいのに。教会に紹介状を書けるくらい関わりがあるのなら、最初から頼めばよかった。

 

「レッドフード、地図を見せてくれ」

 

「悪いな、スノー。それで、今いるのは多分ここだろ? で、エレベーターがこっち……」

 

 スノーホワイトが周囲を確認しながら、レッドフードの持つ地図と比較して場所を確認している。スノーホワイトは自分で地図も描けるし、任せれば大丈夫だろう。

 

「……?」

 

「姉さん、どうかしたのかい?」

 

「う〜ん、何か近付いてくるんだけど……ニケでもラプチャーでもないような……?」

 

 私がそう言うと、一応みんな構えた。

 

「薔花、ニケでもラプチャーでもないのなら、DOROさんなのではないですか?」

 

「あの子の気配を間違えたりしないわ。でも、敵意は感じないし……」

 

 その疑問は、少しして建物の影から現れた姿を見て氷解した。

 

「ほほう、なるほどロボットとは珍しいね」

 

「戦闘補助用ロボットだな。今では使われていない古いタイプのようだが」

 

 昔はよく使われていたけど、最近は殆ど見ないロボットだった。ロボットはどこか驚いた様に、ゆっくりと近付いてくる。

 

「──────レッドフード、か?」

 

「うん? あたしか?」

 

「そうだ。君は、レッドフード、なのか?」

 

「そうだけど、お前は?」

 

「私はコム。教会に所属している戦闘補助用ロボットだ」

 

 ロボットは予想外の言葉を発した。そして、驚く私達を順番にカメラで捉えて、最後に私で止まる。

 

「──薔花」

 

「私のことも知ってるの?」

 

「そうだ、知っている」

 

 そう言うとロボットは再び私達を見回した。

 

「薔花と同じ、剣を持つニケ、紅蓮。金色の長い髪、杖を持つニケ、ラプンツェル。白い髪と服、大きな武器を持つニケ、スノーホワイト」

 

「何故、私たちのことを知っている?」

 

「おおお──やっと、やっと──」

 

 コムはスノーホワイトの質問に答えない。しかし、何かに感動しているようだった。

 

「私に、着いて来て欲しい」

 

「……スノーホワイト」

 

「セシルの地図と方向は同じだ」

 

 説明せず歩き出したコムに少し不安はあった。けれど、スノーホワイトの言葉を聞いて、私達は頷き合いコムを追い掛けた。

 

 

 

 ──アウターリム 教会区画

 

「ここが……」

 

「はい、教会です」

 

 エレベーターから降りた直後、修道服の女性に声を掛けられた。

 

「あなたは……?」

 

「私はステラ、教会で司祭をしております。本日は、始まりの女神様方にお会いできて光栄です。どうぞ、お見知りおきください」

 

 そう言って、頭を深々と下げた。

 

「先に連絡していたのか」

 

「そうだ、君たちの来訪は当然伝えた。ステラ、DOROはいるのか?」

 

 コムはスノーホワイトの呟きに当然だと返し、ステラと名乗った人物に確認する。

 

「はい、丁度良いことにいらっしゃいます。まるで運命の様に。それとコム、ありがとうございます。貴方のお陰で女神様方にお会いすることができました」

 

「私は、戦闘補助用ロボットとして、与えられた役割を果しているだけだ。感謝する必要はない」

 

「いいえ、貴方がロボットでも大切な仲間であることに変わりはありません。感謝の気持ちを伝えるのは当然のことです」

 

 2人の会話は親しげで、ロボットと人間という違いを感じさせない。コムは偽りなく教会所属のようだ。それはそれとして。

 

「えっと……ステラさん? よければDOROがいる場所まで、案内してくれませんか?」

 

「失礼致しました。こちらです。それと薔花様、そして皆様も私達に敬語は不要です。私達は女神様方と違って、何も成せていないのですから」

 

 そしてステラの先導に従って歩き始めた。

 

「思ったより賑やかなところだな。ラピのイメージだともっとこう……暗い場所って感じだったけど」

 

「そうですね。みなさん幸せそうに見えます」

 

 レッドフードとラプンツェルの言う通り、話に聞くアウターリムのイメージとはかけ離れている光景だ。エターナルスカイが無いから、前哨基地みたいに空間全体が明るい訳では無いけれど、街には活気が満ちている。

 

「全てDORO様のお陰です。私達だけでは、ここまでの発展は夢のまた夢だったでしょう。いえ、そもそもDORO様がいらっしゃらなければ、私達は生きていられたかどうかも分かりません」

 

『……』

 

 どこか遠くを見る様な目で話すステラに、私達はなんて言ったらいいのか分からなかった。

 

「……少し質問してもいいかい?」

 

 少し歩いてからレンが口を開いた。

 

「はい、何でしょうか、紅蓮様」

 

「君たちからすれば、私たちは見捨てた側の存在のはずだ。それなのに何故、私たちのことを"始まりの女神様"と呼ぶのかね?」

 

「……紅蓮様は誤解されているようですね。確かに、私達は中央政府に見捨てられ、DORO様に救われました。ですが、DORO様と出逢うまで私達が生き残れたのは、女神様方のご活躍のお陰なのです。私達はアークと違い、人類存続のために戦った女神様方のことを忘れてはいません。勿論、DORO様も」

 

「……無粋なことを聞いたようだね。答えてくれてありがとう」

 

「こちらこそ、ありがとうございます」

 

 ステラの答えに空気が少し軽くなった。質問したレンだけでなく、みんなも気にしていたんだろう。私達自身もアークに捨てられた側とはいえ、地上に残っている人がいないなんて話を前提に行動していたのも事実なのだから。

 

「私もいいかな?」

 

「勿論です。薔花様」

 

「DOROとあなたたちの話を聞かせてくれない?」

 

 ずっと知りたかった。エリカが、DOROが、あれから何をしていたのか。いつの間にかできていた教会が、あの子にとってどんな場所なのか。

 

「承知致しました。では、私達の昔話から始めましょう──」

 

 ステラは語り出した。

 

 

 

 昔々、隠れて暮らしている人々がいました。

 彼等は闇に怯え、渇きに怯え、飢えに怯えていました。

 そこに助けはなく、未来もなく、絶望しかありません。

 

 そんな時、勇気ある人が救いを探しに外へ出ました。

 そこで彼は希望に出逢ったのです。

 

 希望は人よりもずっと小さく、話すことが出来ません。

 ですが人よりもずっと強く、人の心を知っていました。

 

 希望は怯える彼等を助けました。

 水が欲しい人には水を与え、

 食べ物が欲しい人には食べ物を与え、

 薬が欲しい人には薬を与えたのです。

 

 彼等は希望に感謝しました。

 そして隠れてから初めて安堵したのです。

 

 しかし彼等は欲を抱くようになりました。

 そして希望に願ったのです。

 人類最後の楽園に連れて行って欲しいと。

 

 初めの頃、希望はそれを断っていました。

 ですが彼等も諦めません。

 何度も何度も繰り返し希望に願ったのです。

 

 やがて希望は絆されて彼等を楽園へ連れて行きました。

 

 しかし楽園に着いてから、彼等は初めて知ったのです。

 人類の楽園は、彼等にとっての楽園ではないことを。

 

 地上で見捨てられた彼等は、再び見捨てられました。

 結局、彼等は闇の中で暮らすしかありませんでした。

 

 彼等はそれを希望のせいだと責めました。

 希望を激しく罵る人もいました。

 希望に石を投げる人もいました。

 

 希望はそれを深く悲しみました。

 ですがそれでも、変わらず会いに来てくれました。

 どれだけ酷い言葉を浴びせられても必ず。

 

 いつも希望は彼等のために、食べ物を運びました。

 そして希望は彼等のために、穴を掘りました。

 さらに希望は彼等のために、煉瓦を積み上げました。

 

 その姿を見てる内に、彼等も思い出したのです。

 助けてもらうばかりで、何も返せていなかったことを。

 その献身を当たり前だと思うようになっていたことを。

 

 彼等は何もせず座り込んでいるのが恥しくなりました。

 そのため、また1人、また1人と、立ち上がりました。

 彼等は再びみんなで助け合い、前に進み始めました。

 

 いつしか闇は晴れ、ここは本物の楽園に変わりました。

 

 ですが忘れてはいけません。

 彼等が、私達が、救われたことへの感謝を。

 そして、希望に、神獣様に、私達が犯した罪のことも。

 

 絶対に。

 

 

 

「──そして、DORO様は今も尚、恩を仇で返した私達のために、様々な物資を拾い集めてきてくださいます。だからこそ、私達もDORO様のためにできることを考えているのですが、余り上手くいっていません」

 

「ステラさん……」

 

 ステラは語り終えてから、最後にそう言う。その表情には、DOROに何もしてあげられない不甲斐なさと歯痒さを感じさせた。

 

 そして目的地に辿り着く。

 

「こちらが教会の聖堂です」

 

「すげぇな」

 

 外から見ても教会の他の建物とは別格だったけど、内装も荘厳なものだった……1つを除いて。

 

「あれは……DOROさん?」

 

 祭壇の中央には妙にできのいいDOROの石像が祀られている。

 

「はい、あちらは彫刻家ユニベルが制作したDORO様の石像です」

 

「それで、そのDORO本人はどこにいるんだ?」

 

 スノーホワイトがステラに尋ねる。確かに聖堂にはいないようだけど、DOROの気配は更に奥から感じられる様な……?

 

「こちらです」

 

「おお〜」

 

 ステラが慣れた手つきで祭壇を操作すると、その後ろが開く。

 

「隠し通路とは意外だね。見たところ、ここは教会の最奥で安全そうだが……さらに隠さなければいけないものでもあるのかい?」

 

「はい紅蓮様、DORO様の大切なものが保管してあります」

 

 そう返すステラに続いて通路を抜けると、そこにも石像が並んでいた。

 

「これは……」

 

「あたしたちの像か?」

 

 ゴッデスの石像と私の石像、そして他にも知らないニケの石像が置かれている。

 

「初めて先程の石像をお見せした時、DORO様はしばらく見詰めた後、私達に身振り手振りで誰が制作したのか尋ねられました。そのため、作成者であるユニベルがDORO様の前に跪いたのです。すると、DORO様はポーチから雑誌の切り抜きを取り出して何度も指を差されました」

 

「その切り抜きというのは……」

 

「はい、ゴッデスの皆様の写真です」

 

 DOROも元々ゴッデスが好きだったし、自分の石像を見て作って欲しくなったのだろう。でも、それなら私と他のニケ達の像は一体どうやって。

 

「お願いは明らかでしたのでユニベルは直ぐに彫り始めました。しかし、それとは別にDORO様が絵を描き始めたのです。最初は余り上手くありませんでしたが、ユニベルは勿論、本職の画家達が皆でDORO様にお教えした結果、御本人も満足する絵が完成しました。そしてそれを元に残りの像も制作されたのです」

 

 ステラは石像の1つに近付いて、その足元から古びた本を取り上げた。タイトルは灰かぶり姫(シンデレラ)となっている。

 

「完成後、DORO様が置かれたものです。私達は知りませんでしたが、お伽話の女神様(フェアリーテイルモデル)はゴッデスの皆様以外にもいらっしゃったのでしょう?」

 

「シンデレラは、私たちの妹になるはずでした……」

 

 その問いにラプンツェルが悲しそうに答えた。他の石像も見ると、シンデレラと同じ様に小さな人魚(リトルマーメイド)や、ヘンゼルとグレーテルが置かれている。

 

 これでコムが私とレッドフードにだけ強く反応した理由も分かった。石像は昔のみんながモデルになっているから、レンたちは見た目が少し違った訳だ。

 

 そして……

 

「……」

 

「姉さん?」

 

 石像の横にある扉の向こうに、あの子がいるのが分かった。街中にいた間なら兎も角、今はDOROも私達がここにいると気が付いているだろう。

 

 扉を開けた。

 

「Doro……Doro……」

 

 部屋の中には、聖堂のものと比べれば小さいけれど、大切にされているのが見るだけで分かる祭壇があった。そして、それを背にDOROが震えて立っている。

 

「……久し振りね」

 

「Doro〜ッ」

 

 言葉が伝わらないのはやっぱり不便だ。私が話し掛けると、耐えられなくなったかの様に、DOROは涙目で頭を抱えて蹲った。

 

 そんなDOROにゆっくりと近付く。

 

「ごめんね、怖がらせて」

 

 最初にもっと考えていれば、きっと貴女にそんな顔をさせずに済んだだろう。自分の気持ちばかり優先してしまった。

 

「手紙に書いたけど、読めなかったよね」

 

 私は貴女のお陰でレンにまた会えた。そして、みんなと一緒に生きてこられたんだよ。

 

 そんな風に、話したいことが沢山思い浮んだ。

 けれど、それを口にしても言葉が分からない貴女を怖がらせるばかりだ。

 

 それでも、気持ちを伝える方法は他にもある。

 

「ありがとう、私を助けてくれて」

 

 蹲るDOROの前で、彼女が怖くない様にと膝をつき、心を込めて優しく撫でた。

 

「Doro……?」

 

「やっと目を合わせてくれた」

 

 涙目のまま私を見るDOROの頬を撫で、ゆっくりと首に手を回して下ろした。

 

「Doro?」

 

「返すのが遅くなってごめんね」

 

 DOROは自分の首に僅かな重さが増えたことを直ぐに気が付いた。そしてネックレスを掴むと、DOROの視線は何度も私とネックレスを行き来する。

 

 やがてDOROの瞳からは、それまでと異なる涙が溢れた。

 そして、私が両手を広げると、DOROは飛び込んできた。

 

「DoroDoroDoroッ」

 

 泣きながら必死にしがみつくDOROの身体は、ほんのりと温かくて、彼女が生きていることを実感させてくれる。

 

「おかえり、エリカ」

 

 そう言えたことが嬉しくて、気が付くと私も泣いていた。

 

【End】





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