救済を願って 作:バレンシアオレンジ
「ふむ、大きさの割には見掛け倒しだね。せっかくゴッデス再結集の初戦だというのに残念だ」
「なら久し振りに、どっちが沢山斬れるか勝負しようか?」
「ほほう、余興としては悪くないね。だが、いいのかい? 今日の私はこれまでにないほど血が滾っているのだ。姉さん相手とはいえ負けないよ?」
「ふふ。私だって、あの子が観ている前で負けるつもりはないわ!」
ホログラムクラーケンの振るう触手は、一切船体に触れることなく、笑顔で会話している紅蓮と薔花に斬り払われている。
「2人とも、油断しないでくださいね」
「油断などしていないとも」
「そうね、無様は晒せないもの」
ラプンツェルがレーザーを黄金色のシールドで曲げながら、2人に注意を促しているようだが、様子は変わらない。
「あたしたちも負けていられないな! いくぞ、スノー!」
「ああ。セブンスドワーフ、レディ!」
そして、レッドフードとスノーホワイトの銃撃がホログラムクラーケンの装甲を容赦なく破壊する。
圧倒的だった。
心が震えた。初めてゴッデスの戦いを見た時の様に。いや、あの時には多くを失ったが、今はその心配もないことを思えば、受けている感銘はそれ以上だろう。
そんな様を私は……
「……Doro」
「どうかしたのですか、ピナ……いえ、DORO?」
ドロシーの腕の中で観ていた。
戦闘が始まる前、邪魔にならない様に離れていようと思って、ドロシーの腕を軽く叩いて離して欲しいと伝えようとしたのだが……
「大丈夫です。私が守りますから」
笑顔を向けるだけで離してくれなかった。最初は伝わらなかったのかもと思ったが、繰り返しても変わらないのでそうではないらしい。そのため、何故分かっている筈なのに、断られたのか理解できなかったが、よくよく考えてみれば明白なことだった。
ドロシーは恐れているのだ。
原作でピナがそうであった様に、今世で私が同じ過ちをしてしまった様に、また目を離した隙に何かとても悪いことが起きてしまうんじゃないか、ということを。
しかし、戦闘中に片腕が不必要に塞がっているのは良くない。片手で銃の反動を抑えたり、リロードするのは不便だろう。そう思ったのだが……
「近くにいてくれるので、心強いです」
全く苦にする様子もなく、それどころか少し楽しそうな表情で滑らかにリロードした上、大口径のショットガンを片手撃ちして小揺るぎもしないとは、驚きの体幹だ。流石、リリーバイスに次ぐ身体能力だといわれるだけはある。
とはいえ、僅かであっても邪魔であることには違いない。私は暫く考えた結果、どう行動すれば良いかを決めてドロシーの腕から抜け出した。
「待って!! ……そちらがいいのですか?」
「DoroDoro」
私はドロシーの頭に登ってへばりつく。これなら両手を自由に使えるし、側にいるからドロシーを不安にさせることもない。
「ふふ、分かりました。貴女がそれでいいのなら構いません」
そのまま、私はゴッデスが危なげなくホログラムクラーケンを倒す様を目に焼き付けていた。
その後、ユートピア号は無事に進路を変え、安全な海域まで移動をした。しかし、原作の通り船体の老朽化はどうしようも無く、私達が帰った後は機能を停止するのだろう。
「……去る者の思い出は胸に、留まる者の生に祝福を!」
そして最後の船上パーティが始まる。
「……ここは天国か」
「相変わらず、スゴイ量食べるな〜」
スノーホワイトが目を輝かせて食べる傍らでレッドフードは笑顔で酒を呷る。
「かぁ〜……サイコーの気分だ。昔を思い出すぜ」
「レッドフード、余り飲み過ぎないようにしてくださいね」
ラプンツェルはレッドフードを心配して窘めているようだ。無理もない。ある種、病み上がり?の身体なのだから。
「そんな堅いこと言うなよ〜何年ぶりかも分からない酒なんだからさ〜」
「そうとも。今日くらいは良いではないか。こんなに気分良く呑める日はそうそうないであろう?」
酔っ払いが増えている。私もラプンツェルと同じく、レッドフードも紅蓮も限界まで呑んだくれるのは止めた方がいいと思うが、聞く気はないようだ。ただ、ゴッデスの皆が再び集まれたことを思えば、羽目を外しても仕方ないだろう。
「もう1ついかがですか?」
「Doro」
かく言う私も、ドロシーの膝に横向きで乗せられながら、手渡しでお茶菓子を貰って食べている。ティータイムの習慣はないが、偶には良いものだ。まあ、お茶のマナーが分からず、自分のマグカップに注いで貰おうとして、やんわり断られてティーカップを渡されたりもしたが。
しかし、何時までも親に餌を貰う雛鳥の様にしていると駄目人間?になりそうだ。そう思って自分で取ろうとティースタンドに手を伸ばすが空振る。
「……」
「そちらが欲しいのですか? はい、どうぞ」
手が届く場所にあった筈のティースタンドが、いつの間にか移動している。抗議の気持ちを込めて見詰めるが、ドロシーは何処吹く風だ。
「ドロシー、そろそろ返してくれない?」
「何のことでしょう?」
更に抗議を行動で示す前に、薔花が側に来てドロシーに話し掛けた。するとドロシーは私を隠す様に胸に強く抱きしめる。
「〜〜〜ッ」
いけません、いけませんよ、ドロシー様〜! 貴女は今水着なのを忘れていませんか〜! いい匂いがするし苦しいしで、犬だか猫だか分からない不思議生物なのに、何かに目覚めそうです〜!
動揺して知能レベルが百数十年くらい低下しかけたが、理性を総動員して短い手で必死に叩く。しかし、ドロシーの抱きしめる力が強くなるだけだ。
「分かっていて聞き返しているでしょ? DOROのことだよ」
「……ええ、まあそうでしょう。ですがそれなら、なぜ"返して"と言われるのか分かりませんね」
それに、第六感が別の警鐘も鳴らしている気がする。
「そんなの決まっているじゃない。ドロシーが落ち着くまで譲ってあげるつもりだったけど、もう元気みたいだから親友の私にDOROを返して欲しいって言っているの」
「……薔花、DOROを連れてきてくれたことには感謝しています。ですが、この子の姿を見てください。私もDOROも互いに強く思い合って心が繋がっているのです。ですから"自称"親友と過ごすよりも、私と共に過ごす方が良いのは明らかでしょう?」
「へぇ~そういうこと言っちゃうんだ。なら聞くけど、その思い合って心が繋がっているはずの誰かさんは、DOROがこうして生きていることに気が付いていたのかな? まさか知らなかったはずないよね? だって、親友の私は最初から気付いていたんだから、ね?」
気の所為だろうか。身体が冷えてきた様な……
「ふふふ……そうですね」
「あはは……でしょう?」
笑い声が聞こえるのに全く安心できないのは何故だろう。そして、今の状況とは関係ないが、笑うという行為は本来攻撃的なものであり云々とは、何処で聞いたものだったか。
「ドロシー、離してあげて」
「あなたも邪魔をするのですか?」
ラピの声が聞こえる。でも、今のラピは余り頼りに……
「違うわ。DOROが窒息してるから、離してあげて欲しいだけよ」
「!!」
「Doro……Doro……」
ドロシーが腕の力を緩めて息ができる様になった。ラピ、ありがとう。それと頼りにならなさそうだと思ってごめん。そう心の中で考えた時、身体を持ち上げられた。
「隙あり」
「Doro!?」
薔花は私を抱え上げたまま走り出した。
「逃げろ〜〜!」
「薔花、待ちなさい!」
逃げ続ける薔花をドロシーが必死の表情で追い掛けてくる。助けを求めて再びラピを見ると、レッドフードたちの方に移動していた。
「あたしたちも水着持ってくれば良かったな〜」
「なんや水着が欲しいんか! ちょうどええもんがあるで〜! 今なら負けといたる!」
「あ〜、あたしはアークのお金持ってないんだよ」
「それなら1つ貸しでもええで! ちょうど頼みたいことがあったんや〜」
「ヤン、レッドフードにぼったくるのは止めて」
「人聞き悪いこと言わんといて。ただちょ〜っと地上での資源回収に協力してもらうだけやのに。普段から地上にいるピルグリムなら簡単なことやろ?」
「そりゃ簡単だけどな……ラピも言ってるし止めとくよ。それに男前しかいないんだし、いざって時は脱げば……」
「ダメよ。どうしてもと言うなら私の水着を貸すわ。指揮官、それでいいですよね?」
「私は何も言っていないが……」
「はい。ですが、レッドフードに鼻の下を伸ばしているような気がしましたので」
「や、やはりブラザーは露出プレイが! はあ、はあ……!」
駄目だ。ラプンツェルがはあはあしている。今度こそラピの助けは期待できないだろう。ならば紅蓮は?
「せっかくのパーティなのだ、ヒック。寝てばかりいてはもったいなかろう? ヒック。君も共に楽しもうではないか……ヒック」
「うるさい……」
「はい、お水です。まったく、呑み過ぎは身体に毒ですよ!」
紅蓮も駄目だ。悪酔いしてプリムに絡んでいる。ペッパーが水を飲ませようとしているが、暫くはまともに動けないだろう。
最後の希望を胸にスノーホワイトを探す。
「すごいっす。まだ食べられるっすか?」
「ああ、残すのはもったいない」
センチがスノーホワイトの健啖家ぶりに驚いているようだ。
「前からピルグリムの方に聞いてみたかったんですけど、サバイバルの心得とかあるんですか?」
「サバイバルの基本は、食べられる時に食べろ。食べられるものは何でも食べろ、だ」
「お〜実感のこもった言葉ですな。例えば地上では普段どんなものを食べているのですかな?」
「今持っているものは……これだ。食べてみるか?」
「……遠慮しておきますぞ」
「それなら、私がいただきます!」
エレグが断ったものを、トーブはスノーホワイトから受け取っている。あれはもしや。
「一応、何なのか聞いてもいいですかな……?」
「それか? それはムカデ団子だ」
「おええええっー!!」
「ああ! 大丈夫っすか!?」
あちらも忙しそうだ。助けに来るのは難しいかもしれない。
本当に、どうしてこうなった。
「Doro〜〜〜!!」
私の叫び声はパーティの騒がしい夜空に消えた。
【Another Side】
──前哨基地 コマンドセンター
「私はアークを奪うつもりでした」
「ブフッー!」
下品な音を不快に思いながら見ると、ラピの指揮官が吹き出した音のようだった。しかしラピも含めて、他にはそこまで驚いている人はいない。まったく、特殊別働隊なんて大層な肩書を持っているなら、相応にしっかりして欲しい。
「どうやって奪うつもりだった?」
「第三次地上奪還作戦を実行させるつもりでした」
『!!』
スノーホワイトの疑問にそう答えると、今度は膝の上にいるDORO以外の全員が驚く。それが普通の反応だ。両手でティーカップを持ち慎重にお茶を飲むDOROを撫でながら私は考える。DOROが驚かないのは何故だろう、と。言葉が分からないにしても、周囲の様子に無反応なのは、やはり私がどんな話をするか知っていたからなのかもしれない。
「なんつーか、お嬢サマって妙に思い切りがいいことあるよな」
「でも、そんなに上手くいくの?」
薔花がティースタンドからマカロンを取り、DOROに差し出して食べさせながら、私の考えに疑問を呈した。ユートピア号ではDOROが最終的にぐったりしていたため、薔花とは一旦休戦して交代でDOROを可愛がることにしたのだけれど、私の番に薔花がDOROの気を引こうとするのはルール違反ではないのか……波風を立てるつもりはないけど、少し気に入らない。
「……まさか、そのための技術提供だったのか?」
「ええ。中央政府が現実ではなく、ありもしない理想を見て意思決定しているのは、第一次地上奪還作戦の時から分かっていましたから。きっと、新しい力を手に入れれば直ぐに調子に乗ってくれる、そう思っていました」
ゴッデスを追い出してから、ヘレティックとまともに戦える戦力もない状態で地上を奪還できるのなら、そもそも人類は地上を失っているはずがないのに、実際にそれを信じてる人が多数いたなんて本当にお笑い草だ。まあ、その割に今のところ中央政府の動きは遅いけれど。
「ですが、それはもうどうでもいいことです。こうして帰って来てくれたのですから」
「……ドロシー」
DOROを撫でる私を見るラプンツェルの表情には安堵が感じられた。昔、ラプンツェルが私の手を取ってくれた時、私も同じ様な顔をしていたのだろうか。ふと、そんなことが頭を過った。
「それで、あなたはこれからどうするの?」
「ひとまず、エデンに帰ろうと思います。ヨハンとセシルには直接説明して謝らなければいけませんから」
「もうアークには来ないの?」
「いえ、建前でしたがエデンとアークの架け橋という立場は、今後も何かと役に立つでしょう。ですから、話が済みしだいこちらに戻ります」
「そう、良かったわ。せっかく友だちになれたのに、これでお別れなんて悲しいでしょう?」
「まだ言いますか……」
とはいえ、今回誘ってもらった旅路は、想像し得ない幸せに満ち溢れていた。その恩を思えば、ラピと友人になるというのも悪くないのかもしれない。もちろん本人には絶対に言わないけれど。
「あたしもエデンに行く。セシルにボディを作ってもらった恩を返さないといけないからな」
「私たちも元々ナユタに呼ばれて、エデンに向かうところだったからな。一緒に行こう」
レッドフードとスノーホワイトたちも一緒に……本当に昔のことが思い出される。
「なら、善は急げね。すぐに……どうかしたの?」
薔花が立ち上がると、DOROが何かを思い出したかの様に慌て始めた。ポーチから紙を取り出して何か描いている。
「DoroDoro!」
「う〜ん、誰かな?」
DOROの絵を見て薔花は首を捻っている。急いで描いたせいか、特徴だけを抜き出して単純化した様な絵だ。見たところ髭を生やした男性軍人のようだけれど……?
「そうだ……そうだよ隊長だ!」
少ししてレッドフードが叫んだ。
「隊長……レッドフード、まさか……」
「男前! アンダーソンに連絡できるか?」
忘れるはずのないその名前に、
静寂の中、発信音だけが響く。とても長い様で、実際には短い時間が過ぎた後、相手が電話に出た。
「副司令官、少しよろしいでしょうか?」
『君か。報告書は既に受け取っているが、何か新しいことでも見付けたのかね?』
「いえ、私ではなく……」
「生きて……いたのですね……」
『……ドロシー』
「あたしもいる」
『!! レッドフードか?』
「ああ、そうだぜ隊長」
「指揮官……」
『ラプンツェルもか……ということはスノーホワイトに紅蓮もいるのか?』
「ああ」
「もちろんだとも」
『……久し振りだな。みんな元気にしていたか?』
「それはこちらの台詞です! アークに運ばれてから何をしていたのですか! 無事だったなら連絡くらいしてください!」
『落ち着いてくれ。全部聞かせてやるから。しかし……昔の話をするなんて久し振りだな。ワクワクしてくる』
「軽口は結構です!」
『とりあえず、私のことだが……』
そう前置きして、指揮官は語った。長い間昏睡状態だったこと。目が覚めた時には全て終わっていたこと。問題の大元がV.T.C.だったこと。そしてそのV.T.C.を壊滅させたことを。
『本当にすまなかった……』
指揮官は語り終えると最後に謝罪した。
『それにラプンツェルはこんなこと聞きたくはなかっただろう』
V.T.C.の教皇候補だったラプンツェルのことを思えば、これは確かに酷な話に聞こえる。
「指揮官、気になさらないでください。V.T.C.が善性の組織でないことは分かっていましたから」
『ラプンツェル……』
「私はこれまでクイーンの情報を得るために色々な場所を見て回りました。そしてその中には当然V.T.C.の施設もあります。ごく一般的な場所もそうでない場所も。それにお忘れですか? 赤い靴は、レッドシューズは、V.T.C.の上級司祭兼主席研究員だったのですから」
『そうだったな……だが、大丈夫なのか?』
指揮官はそれでもラプンツェルを心配する。あれだけ信心深かったのだから当然だろう。でも今のラプンツェルなら……
「はい、大丈夫です。あの日、臨時監視所でドロシーの手を取ってからは、誰かに祈っている訳でもありませんし、何も望んでいませんでしたから。ただみなさんに、最も穏やかだった場所で残りの時間を過ごしてもらうために、祈っているだけです」
『……強くなったな』
「はい、それはもちろん」
ラプンツェルは笑顔で返事をする。そして、みんなそれぞれ思い思いのことを指揮官と話して、長いすれ違いの過去を清算した。
『名残惜しいが時間だな……また今度、話の続きをしよう』
その言葉に私たちはみんな頷く。
「指揮官、色々なことはありましたが……元気そうで良かった。次は直接お会いしましょう」
『……年を取ると涙もろくなって困るな』
それを最後に、私たちは指揮官に別れを告げる。少しだけ寂しさは感じるけれど、そこに悲しみは存在しない。かつてとは違い、確かな再会の約束が私たちの中に温かく残っているから。
【End】
読んで頂きありがとうございます。
遅れて申し訳ございません。
また、次回も少し間が空くかもしれません。
連載当初は本話で完結の予定でしたが、もう少し続きますので良ければお付き合いください。