救済を願って 作:バレンシアオレンジ
ドロシー様のアニメ良かった。
【Another Side】
「さすがだな」
「はい、さすがDOROさんです」
スノーホワイトとラプンツェルがそう口にする。勿論、2人だけではない。私を含め、みんな手を出さずにDOROが危なげなくラプチャーを倒すのを見守っていた。そして、何故そんなことをしているのかといえば、その理由は少し前に遡る。
ことの始まりはDOROがソワソワしていたことだ。
ステラに改めて挨拶してからアークを離れて少しした頃、ちょうど私が愛でる番だったけど、DOROは私の腕の中でずっと落ち着かない様子に見えた。最初は何か見付けたのかもと思ったけれど、それにしては私の腕を叩くとか気を引くためのアピールをしないし、どうしたのかと暫く考えて理由に気が付く。
家に帰りたいんだ。
よく考えれば当然のことだ。あの日、DOROは教会にいたのだから、集めた物資を吐き出した後だった筈。なら、また次に教会へ行く時のために物資を集め直さないといけない。しかし、エデンへ真っ直ぐ向かっている私たちの側にずっといたのでは、それは叶わない。
「……Doro?」
「うん、行っていいよ」
だから離してあげた。
DOROは驚いて少し逡巡していたけれど、こちらを見上げて私が笑顔なのを確かめると、最後に一度だけあの子の方から私に抱きついた後、走って離れていった。
DOROが明らかな愛情表現をしてくれたのは、再会した最初だけだったから驚くと同時に嬉しかったけれど、その余韻に浸っている余裕は直ぐになくなった。幾ら私の番だったとはいえ、ドロシーもDOROがいないことを直ぐに気が付いたからだ。他のみんなは私の説明に納得してくれたけれど、ドロシーはDOROに何かあったら許さないとばかりに激怒していた。
そして、あの子は危険には非常に敏感なのだから、さすがに過剰な反応じゃないかと考えた時になって、私たちはドロシーがDOROのことを知らなかったことを思い出した。
なので私たちはドロシーを宥めながら、DOROが戻って来るまで一旦足を止めることにした。正直に言うなら、DOROも目的地を知っているのだから、少しくらい進んだところで私たちを見付けられない筈がないとは分かっていたのだけれど、心配のあまり心の平衡を欠いたドロシーを移動させるのは不味いと思ったから。
暫くして戻って来たDOROは、私たちが待っていたことに驚いたようだったけれど、ドロシーが直ぐに強く抱きしめたことで状況を理解したみたいだった。抱きしめられながら、あの子はドロシーを安心させるように優しく撫で続けていた。
兎も角、そういうこともあってDOROの能力の高さをドロシーに理解してもらうために、あの子だけでラプチャーと戦っている訳だ。当然ドロシーは反対したし、その気持ちは勿論理解できるけれど、何時までも足踏みしているのではなく、DOROのことを知ってしっかり前へ進まなければいけないのだから。
「ね、あの子は強いでしょ?」
「……そうですね」
隣にいるドロシーに私が確認すると、ドロシーは頷きつつも色々な感情が入り混じっている様で、その表情は複雑だ。
目の前のことから、理性的にはDOROが単独行動しても大きな危険はないと理解できても、感情的には納得できないのだろう。まあ、ドロシーはそもそもDOROには側にいて僅かでも危ないことは何一つして欲しくない立場なので仕方無いけれど。
勿論、どちらかといえば私もドロシーと同じ考えなのだけど、そのこととDOROの行動を制限したり閉じ込めたりするのは別問題だ。
私たちがすれ違っている間、あの子が一人ぼっちにならなかったのはステラたち教会の人々がいたお陰だし、DOROが運ぶ物資が彼女たちの生命線なのだから、それを妨害するのは許されない。何よりも、DOROが守り育んできた彼女たちの生活を壊すのだとすれば、それはあの子の生きてきた時間を否定することと同じだと言っても過言ではない。
だからこそ、一緒にいられる時間が減って少し寂しくても、私たちのリーダーであるドロシーの願いであっても、あの子の親友としてDOROの自由を奪うのは認められない。
「……」
もう一度横目でドロシーの様子を確認すると、矢張り何か考え込んでいる様に見える。ドロシーの心の内は分からないけれど、誰よりも勝利の女神であろうとした彼女のことだ。そう悪いことにはならないだろう。私はドロシーを信じることにして、DOROの方に視線を戻した。
「Doro!」
「なあ、アレって本当にただの鉄なんだよな?」
「スノーホワイトが確かめるのを共に見たであろう。まあ、気持ちは分からないでもないが……」
DOROの投げたダーツが、まるでティッシュペーパーを裂く様に易々とラプチャーのコアを貫く様を見て、思わず呟いたレッドフードにレンが言う。
実際、あの子については不思議なことばかりだ。2人の言う通り、DOROがラプチャーを狩るのに使用しているダーツとシャベルは、ごく普通の鋼鉄製で特に変わった点はない筈なのに、何故かラプチャーに対して驚くべき攻撃力を発揮するし、マシンガンの掃射どころかレーザーを視認して回避するなんてあり得ない身体能力を持っているし。まあ、その身体能力以前にDOROの存在そのものが不思議で溢れているから、気にしても仕方無いのだけれども。
「……ふふっ」
「姉さん?」
「何でもないわ。もしもDOROがいっぱいいたら、地上はどうなっていたのかな〜なんて考えちゃっただけ」
「それは……とても愉快なことになっていただろうね」
きっとそうだろう。他にDOROの同族を見たこと無いからあり得ない想像だけれど、そこら辺のガラクタから手作りした武器でも多数のラプチャーを単独で圧倒できるのだ。もしもDOROが沢山いたら、地上は直ぐにでもラプチャーのものではなくなり、DOROの楽園になっていただろう。ただその場合は、沢山のDOROたちの中からエリカを見つけ出すのが少し大変だったかもしれない。
「DoroDoro」
「お疲れ様〜怪我はない?」
周囲のラプチャーを全て片付け終わり、こちらへ戻って来たDOROを抱き上げて確かめる。見ていたから分かっていたけれど、怪我どころか汚れ1つないし、本人も元気そうだ。
「ほら、ドロシーも」
「……はい」
DOROをドロシーに渡すと、彼女もまた慈しむ様に優しく撫でながら声を掛ける。
「大丈夫ですか? 疲れていませんか?」
「DoroDoro!」
「ふふ、そうですか。無事で良かった……」
元気に返事をするDOROを見て、ドロシーも漸く安心できたようだ。
「DOROにはエデンで暮らしてもらおうと思います」
暫く歩くと考えを纏め終えたらしいドロシーがそんなことを言った。
「本気で言ってるの?」
「もちろんです。何も問題ありません」
その言葉に私たちは顔を見合わせる。
「ドロシー、気持ちは分かります。ですがエデンの生産能力では、どうやってもDOROさんと同じ供給量を維持できないのではありませんか?」
ラプンツェルの言う通りだ。幾ら探しても見付けられなかったDOROの農場について、私たちは既にレッドフードから聞いている。洞窟の中にあるなんて夢にも思っていなかったから、見付けられないのも当然だ。そして、洞窟に存在する水晶の力で植物が異常に速く成長していることと、その水晶は洞窟から持ち出すと数日で効力を失うこともまた知っている。
だから、仮にエデンが洞窟内部より広い土地を用意できたとしても、単純にDOROより沢山食料を生産できる訳では無いと分かっている。
「それも含めて問題ありません」
「なんで?」
「DOROの水晶の問題は解決済みだからです。私も詳細を把握している訳ではありませんが、セシルの研究にとある生物種の住処のみで採取可能な希少鉱物についてのものがありました」
「ほほう、つまりそれが?」
「ええ、DOROの水晶なのでしょう。鉱物の名前も原料がDクリスタルで、改良したものがD2クリスタルとなっていましたから」
なるほど、セシルなら有用な鉱物については当然研究するだろう。そして改良したのなら、数日で効力を失う問題は真っ先に解決した筈だ。とはいえ……
「う〜ん、それでも私は反対かな。リスクが大きすぎると思う」
そもそもDOROからすれば引っ越しをするメリットはない。あくまでも私とドロシーが側にいられる時間が増えて嬉しいだけだ。その一方で引っ越しするリスクは相応に存在する。
あの子が100年利用してきたDクリスタルと、改良したD2クリスタルは本当に同じことができるのか?
そもそもD2クリスタルを作るのに必要な時間は?
D2クリスタルの生産歩留りは?
他にも確かめなければいけないことが沢山ある。それらを無視してDOROを引っ越しさせた結果、食料生産に必要なDクリスタルが足りなくなったどうするのだろう。DOROの住んでいる場所でしか見付かっていないのに。
「確かに気を付ける必要があるのは事実です。ですが薔花、あなたは1つ勘違いをしています」
「えっ?」
そうした懸念事項を挙げると、ドロシーは頷きつつも意外なことを言った。
「DOROが先でDクリスタルが後なのです」
「それって……Dクリスタルのある場所にDOROが住んでいるんじゃなくて、DOROが住んでいる場所にDクリスタルができるってこと?」
「ええ、少なくともセシルの研究資料ではそうなっていました。DOROの身体からは現行の計器では測定不可能な何らかのエネルギー─資料では仮に"神秘"と呼んでいましたが─を放射しており、それが結晶化したものがDクリスタルなのだそうです」
「つまりDOROさんがエデンで暮らせば、自然にDクリスタルが生えてくるということですか?」
「はい、その通りです」
ラプンツェルの確認にもドロシーは頷く。それなら確かに問題はないのかもしれない。それにセシルが教会に紹介状を書ける訳だ。保管できなかったDOROの神秘の結晶を、保管できる様にしたのだとすれば、それはステラたち教会の人々にとっても福音だった筈なのだから。
「おいおい、それよりも本人の気持ちを確かめるのが先だろ?」
「……そうでしたね」
話が纏り掛けたタイミングでレッドフードにツッコまれる。その通りだ。私たちだけで勝手に決めていいことじゃない。そう思い直してドロシーの腕の中にいるDOROを見ると、その視線は私たちを行ったり来たりしていた。
自分の名前が何度も話に出てきているのは分かっても、話の内容が分からないから混乱しているようだ。
「……また今度、改めて話さない?」
「……そうですね。セシルにも確認しなければいけませんし、そうしましょう」
とりあえず、私たちはDOROを落ち着かせることにした。
それからの旅路は、何事もなく平穏そのものだった。ラプンツェルのジャマーも何時も以上に調子がいいらしく、ラプチャーと遭遇することも少なかった。
「特別何か普段と違うことはないはずですが……もしかするとDOROさんがいるお陰かもしれません」
とは本人の談だ。不思議なことは何でもDOROの影響とすればいい訳では無いけれど、そういうこともあるのかも知れないとは思わされる。
しかし、穏やかな時間はそこまでだった。
「なんだアレ……?」
レッドフードの言葉に思わず同じ方向を見ると、空を貫く一条の光が見えた。
「……エデンの方向からだね」
「ドロシーは何か知って……ドロシー?」
振り返って見たドロシーの表情は驚愕に染まっている。
「エデンの槍……何故……?」
「ドロシー? しっかりして!」
身体を揺さぶると、驚きで硬直していた思考が動き出したようだ。ドロシーは直ぐに拡張武装を展開して飛び立つ。
「緊急事態です!」
「待て、あれは何だ?」
急ぐドロシーの背にスノーホワイトが問い掛ける。
「あれは、エデンの槍は、対クイーンを想定した私たちエデンの切り札、超高出力の荷電粒子砲です」
「対クイーン……まさか……」
そしてクイーンは
「はい。最悪の場合、エデンは現在クイーンと戦闘中かもしれない。だから……」
『!!』
それは私たち全員が絶句するのに十分な情報だった。
「……先に行きます」
「あたしたちも直ぐに行く! だから無理するなよ!」
「分かっています。みんなも気を付けてください!」
そしてドロシーは飛び去った。
「Doro〜〜〜〜!!!」
状況についていけないDOROを抱えたまま。
【End】
読んで頂いた全ての方に感謝を。