救済を願って 作:バレンシアオレンジ
「Doroー!」
私はエデンへ雲霞の如く押し寄せるラプチャーの群れに飛び込んだ。先頭集団にロード級やタイラント級といった大型のラプチャーはいない。しかし、その数だけでエデンにとっては十分な脅威だ。
「DoroDoro!!」
ラプチャーの間を駆け抜けながら、100年の間に溜め込んできた手製の手榴弾を巾着から取り出してばら撒く。
瞬間、周囲のラプチャーを巻き込んで爆発した。
キィィィィィィ────
悲鳴にも思える金属音が響く。それを尻目に、私は手榴弾をばら撒く作業に専念する。
普段矢弾を投げた時の様に、致命傷を与えたかを確かめはしない。今の目的は拠点防衛であり、動けなくなっていればそれでいいのだから。
「Doro!」
進路に危険を感じて飛び退く。直後、煙の向こうからサーヴァント級ラプチャー、レムナントが複数飛び込み自爆した。
どうやら本格的に敵として認識されたらしい。
「DoroDoro」
爆風で僅かな時間晴れた煙の先には、多数のシーフやキューブが砲塔を向けているのが見えた。
こちらに集中してくれるなら好都合だ。
一斉に放たれたライフル弾やロケットランチャーは、私を捉えるには遅すぎる。回避しながら手榴弾を投げ返すと、面白い様に誘爆した。
勿論、これまで確かめる機会は無かったが、一発でも当たれば私は挽き肉になるだろう。だが昔赤い人が言った様に、当たらなければどうということはない……いや、あれは仲間を鼓舞するために強がって言った台詞だったような? まあ何方でもいいか。
そう考えたところで、意識が戦闘から逸れていることに気が付き身を引き締め直す。何にせよ、1つでもミスをすれば終わりなのは変わらない。油断大敵だ。
「!!」
そうして戦い続けていると、突然大きな閃光が眼前を横切った。いよいよ大型ラプチャーのお出ましらしい。見ると、射線の先にはロード級ラプチャーの群れがおり、こちらへ向かって来ている。先程の閃光は群れの中心にいる3体のビッグマウスが放ったレーザーか。群れの前衛にはビッグトルソーもおり、後衛にはドクターと、シールドで私の手榴弾を防ぎ、多少の損傷は修理しながら遠距離攻撃で磨り潰すつもりのようだ。更にその遥か後方にはゆっくりと近付くタイラント級ラプチャー、ハーベスターも確認できた。
「Doro!」
ビッグトルソーのシールドは厄介ではある。しかし、全周に張られる訳では無いし、ラプチャーのボディ表面を覆っている訳でも無い。だから、シールドの内側に入り込めば良いだけだ。私は距離を保とうとするロード級の群れへ走った。
キィィィィィィ────
その間、ビッグマウスは幾度となくレーザーを撃ってくる。私の身体能力でも光速のレーザーを見て躱すのは不可能だが、砲塔の向きを注視していれば問題ない。最悪の場合でも第六感が事前に危険を教えてくれる。
それにしても、私が意図的に他のラプチャーが射線に入る様動いているとはいえ、ビッグマウスは仲間に当たってもお構いなしだ。よほど私を仕留めたいらしい。
「DoroDoro」
ビッグマウスのレーザーを全て躱して、シールドを掻い潜り先頭のビッグトルソーに取り付くと、暴れて振り払おうとするがもう遅い。私はビッグトルソーの頭に愛用のシャベルを突き立てた。
キィィィィィィ────
シャベルはバターを切るかのように易々とラプチャーの頭を斬り裂いた。そして首から内部に手榴弾を叩き込む。
直後、爆発によりビッグトルソーは崩れ落ち、私はロード級の群れの内側に降り立った。
「Doro」
続けて、残りのビッグトルソーと主力のビッグマウスを無視して後衛のドクターに手榴弾を複数投擲する。毎回確実に止めを刺していれば無視しても良いが、そうでないなら回復役を先に処理するのがセオリーだ。
キィィィィィィ────
「Doro!」
私がドクターの撃破を確認する間にも、ビッグマウスはやけくそ気味にレーザーを連射していた。勿論、群れに入り込んだ私にそんなことをすれば同士討ちは避けられないが、道連れ上等といったところか。
私はそうした攻撃を全て余裕を持って回避し、損傷したビッグマウスを順番に切り刻む。そして、最早役目を失ったに等しい生き残りのビッグトルソーもまた破壊した。
「DoroDoro」
ロード級の群れを処理し終えてから視線を前方へ向ける。とりあえず、残る大きな障害は迫りくるハーベスターだけだ。しかし、私は急がなかった。
私の感覚は近付く味方の気配を捉えていたから。
地を這うように飛ぶ鋼の巨神が戦場を横切る。
そこから影が飛び降りたかと思うと、ハーベスターの前脚が斬り裂かれて倒れ込んだ。そして、倒れ込んだハーベスターの頭が2つに分かれて沈黙する。それを見て、私は飛び降りた彼女達のもとへ駆けた。
「ドロシーがいないみたいだけど、貴女を1人にしたの?」
辿り着くと、薔花は少し不機嫌な様子でハーベスターのコアから百日紅を抜き、私の前に立った。一方で、脚を斬った紅蓮は改めて確認する様に周囲を見回してから口を開く。
「ドロシーとてDOROを1人にするのは不本意だろうさ。見たところ別の場所で戦っている訳でもないようだし、何か事情があるのであろう」
「……それもそうね。おいでDORO」
薔花は手を広げながら私を呼ぶ。なので私はその腕に飛び込んだが、薔花はそのまま私を頭の上に乗せた。
「……Doro?」
再会の挨拶だけのつもりだったので少し驚く。
ユートピア号でドロシーにそうしたからだろうか?
まあ、薔花が剣を振る邪魔にならないなら良いけども。
「それじゃあ、行きましょうか!」
「ああ、参るとしよう!」
2人は次なるラプチャーの群れへ走り出した。
【Another Side】
「……」
ヨハンは戦況をもう一度確認する。
意思疎通の難しい神獣には、最初からこちらが合わせる想定だったが、最前線に自ら突貫したのには驚かされた。だが、そのお陰でラプチャーの多くは神獣の方へ誘引され、ハランの負担は軽くなり余力を残すことができている。また、イサベルも前線を無視して進む飛行型のラプチャーの対処に集中することができ、少しずつ押し込まれていたものの防衛線は維持されてきた。
今ではそこにパイオニアも参戦している。最前線では薔花と紅蓮が合流して、神獣と共により多くのラプチャーを処理している。一方で、ハランのもとにはスノーホワイトが合流して火力支援を担っており、イサベルもまた合流したレッドフードが援護することで余裕が生まれた。戦域全体として、ラプチャーの攻勢を押し留めるどころか押し返し始めてすらいる。
エデンの守りについても、シールド発生装置と集光パネルは修理中だが、最上層にはノアとラプンツェルがいるため時間を稼ぐことはできる筈だ。また、補給に走り回っていたパピヨンも今はそこで休憩している。
最後に、巨大化を解除したマリアンは、ラプンツェルに止められてエデンに留まっている。本人は大丈夫だと言って戦う意志を示していたが、単に疲労している訳では無いのがヨハンの目からも明らかだったため妥当な判断だろう。それに、今の状況ならば無理する必要はない。
「いや、もう一人いたな」
リリスのボディを回収する筈だったナユタも戻ってきている。共に向かったニヒリスターがクイーンのコーリングシグナルで操られて失敗したようだが。
「セシル」
『何でしょうか?』
「仙人は何をしている?」
『ナユタは……瞑想中のようです』
「たいしたご身分だな……」
人質になっているパピヨンですら、できることをしているというのに、ナユタがのんびり瞑想していると聞いてヨハンは呆れた。
「エデンの状況は?」
『エデンの槍は間もなく発射可能です。しかし、シールドと集光パネルの修理はもう少し時間が必要です』
「分かった。エデンの槍については準備を進めてくれ。目標はクイーンだ」
『了解しました……クイーンより高エネルギー反応を確認』
「全員! 砲撃に備えろ!」
ヨハンは警告を飛ばしながら歯噛みする。運が悪い……いや、このタイミングでの砲撃ということは、クイーンがこちらの状態を確認していた可能性もある。だとすれば、クイーンはエデンの槍に蓄えられたエネルギーを利用して、エデン全体を誘爆させるつもりだろう。先の砲撃を防いだ我々を今度こそ破壊するために。
雲を突き破り赤い光の柱が降る。
「で、でかい!」
「大きなモノに敗北するのは定番ですが、今回ばかりは例外です!」
「えっ? 何の話?」
ノアとラプンツェルは緊張感に欠ける会話をしながらも、それぞれシールドを展開してクイーンの砲撃を防ごうとする。
「うぐぐぐっ……!」
「大丈夫……です! 防げ……ます!」
「当ったり前……でしょ!」
強がってそう口にするが、衰える気配の見えないクイーンの砲撃を前に、2人共限界が近いのは誤魔化しようのない事実だった。
「防いでみせなさいよ、あんたたちのおかしな力で──!!」
「くううううっ!!」
「はぁぁぁぁっ!!」
パピヨンの煽る様な鼓舞に、ノアとラプンツェルも歯を食いしばり耐えようとするが、気持ちだけでは足りない。
「ラプンツェル」
「マリアン!? どうしてここに!」
医務室で休んでいる筈のマリアンに話掛けられてラプンツェルは驚きの声を上げた。
「……みなさんが命懸けで戦っているのに、私だけ何もしないなんて耐えられる訳ないじゃないですか」
マリアンは独白するかの様に呟く。
「みなさんが私を助けてくれたように、今度は私がみなさんを助けます!」
そして、マリアンの瞳に奇妙な光が宿り、空から降るクイーンの悍ましい光が頭の包帯へと吸い込まれていった。
「これは……いったい……」
『エデンの槍、射撃準備完了。ヨハン、今です!』
『よし!』
エデンの槍は巨大な青い柱となって空へ伸びる。更に、マリアンも吸収したクイーンのエネルギーを手のひらに黒い球体として集束させると、エデンの槍に併せる様に空へ投げ放った。
2つの光は混ざり合い、雲を吹き散らしながら空を青と黒で染める。
『……エデンの槍、クイーンへの命中を確認。併せてマリアン砲、クイーンに命中を確認』
『マリアン砲?』
『仮の名称です……クイーンの高度、急速で下降中。墜落するものと推測します。間もなく視認可能です』
その通信を聞いた誰もが空を見上げる。
『……あれが……クイーンか』
姿を現したそれは、まるで禍々しい悪意をそのまま形にしているかの様に思われた。
「……マリアンに関して、私が知ることは以上です」
「……ありがとうございます、ナユタ」
自身がクイーンになっていることを、マリアンはエデンへ向かう道中でパイオニアには説明していたが、マリアンの感覚的なものよりもナユタの方がより多くのことを知っていたため、ラプチャーの一時的な後退を期に改めてエデンへ集まった皆にナユタが説明していた。
「今度何も言わずに、こんな勝手なことをしたら……その時こそ大目玉を食らわせてやるから、覚悟するのだ!」
「……分かりました。ありがとうございます」
そして、その場にはマリアンを心配して追い掛けてきたクラウン王国のニケ達もいる。
「……」
ヨハンにとっても、クラウン王国のニケが合流したのは単純に戦力が増えるので歓迎するべきことだと言える。しかし、問題はマリアンがクイーンであるとナユタがお墨付きを与えたことだ。
それが正しいのなら、外にいるクイーンを殺しても終わりではない。仮にマリアンが人類の味方であると受け入れても、ラプチャーがマリアンをクイーンとして気に入らなければ、また新たなクイーンが生まれることになるのだから。そしてそれが繰り返されるなら対処はより困難だ。
そこまで考えたところでヨハンは首を振る。先のことも大切だが、今は目の前の問題から順番に対処するべきだ。
「現在の状況を整理する。クイーンは要塞化された宇宙ステーションと接続されていることが確認された。しかし、迎撃兵器により、偵察を行ったイサベルは撤退を余儀なくされている。エデンはこの迎撃兵器の射程外と考えられるが、全員分かっている通り……」
ヨハン視線を外に向ける。念のためノアも最上層に残っているが、修理の終わったエデンのシールドに対して、小型のビーム砲による光が雨の様に降り注いでいた。
「……この通り、シールドの外には迂闊に出られない。だが、クイーンはこうしている間にもラプチャーを集結させながら自己修復を進めているだろう。つまり、時間は我々にとって敵だ」
だからこそ短期決戦でなければならない。そのためには、こちらから先に仕掛ける必要がある。しかし、近付くためにはクイーンの迎撃兵器を何とかしなければならない。だがどうやって?
「……私が行きましょう」
ナユタはそう言って続けた。
「私の分身で総攻撃を仕掛け、ラプチャーと戦わせると同時に……クイーンの攻撃からの盾にします」
先の防衛戦には間に合わなかったが、多数の分身達がシールドの影に集まってはいる。確かに分身が一斉攻撃すれば、クイーンの迎撃兵器を飽和させられるだろう。
その提案には当然パイオニアのメンバーが強く反対したが、ナユタは引かなかった。
「勝つためなら手段は選ばぬ覚悟です」
その覚悟を前に話は決まり……
「Doro!」
「あっ、どこ行くの!?」
突然の行動に遮られた。それまで大人しくしていたDOROが部屋を飛び出すと、薔花もそれを追い掛けて出ていく。
「……セシル、何かあったのか?」
「……ドロシーが目覚めたようですね」
DOROが危険を察知できることは既に共有されていたため、ヨハンが確認するとセシルは端末を見てそう答えた。
「そうか──仙人、お前にはラプチャーの対処を任せる」
「恩に着ます、ヨハン」
「だが、盾にはしない」
「……それはどういうことでしょうか?」
ヨハンが提案を受け入れてくれた筈なのに、続いたのが否定の言葉だったため、ナユタは理解できず説明を求める。
「宇宙ステーションの攻略とクイーンの迎撃兵器への対処はインヘルトが行う。パイオニアとヴァイスリッターにはヘレティックの対処を任せる」
「……できるのならそれも良いでしょう。ですが、とてもできるとは思えませんねぇ」
「セシル、ドロシーの拡張武装は仕様通りか?」
ヨハンはナユタの嫌味を無視して再度確認する。
「ええ、完全に仕上げています。いえ、DOROが向かったということは、あるいはそれ以上かもしれません」
もしも、ドロシーの方から離れているDOROを呼んだのだとすれば、それはセシルにとっても予想外の能力だった。
「運が良かったな、仙人」
「何でしょう、いきなり訳の分からぬことを……」
「説明は以上だ。各自、作戦開始まで準備を怠るな」
ナユタは不満を漏らしたが、ヨハンは最後にそう言っただけだった。
「これが、貴女の見ている世界なのですね」
作戦開始と共に飛び立ったドロシーの周囲には、クイーンのレーザーが絶え間なく降り注いでおり、地獄の様な有り様だった。しかし、そんなことは今のドロシーにとって、どうでも良かった。
「Doro」
頭の上にしがみついているDOROと、拡張武装を通して繋がった様な感覚がある。そして、その繋がりからDOROの感情と共に、DOROが知覚しているのであろう周囲の情報も流れ込んでいた。
「ふふ」
思わず笑みが零れた。身体は軽く、クイーンのレーザーは簡単に躱せる。そして、拡張武装から打ち返した光は正確にクイーンの砲塔を破壊していた。
「ああ、やはり──」
貴女が側にいるだけで、何でもできそうな気がする。
ドロシーはそんなことを思っていた。
『ドロシー、聞こえているかしら? こちらは予定通り、宇宙ステーションに着いたわ』
「よく聞こえます。そちらは大丈夫ですか?」
暫くしてハランから連絡を受けた時、ドロシーはDOROから伝わる感覚で無事だと分かっていたが、そう聞かずにはいられなかった。
『心配する必要はないわ。言ったでしょう? お前が作り上げた私たちを信じなさいと』
「……そうでしたね。ハラン、あなたを信じています。ですから、必ず落としてください」
『ええ、任せなさい!』
通信が終わると、ドロシーはクイーンに向けて加速した。当然、敵の攻撃密度は上がり、避ける隙間もないほどになる。しかし、拡張武装が時にレーザーを吸収し、時に実体弾をシールドで弾き、無傷で接近した。
『ドロシー、こちらは離脱したわ』
その時、イサベルからも連絡があった。
「分かりました。疲れているでしょう? 無理せず休んでください」
『ええ、少し休ませてもらうわ』
『イサベル、ほらエネルギーパックを……』
イサベルの通信が切れる直前に、パピヨンの声も聞こえた。この様子なら大丈夫だろう。
「では──」
ハランとイサベルの援護に回していたフェザーが戻って来る。
ドロシーは改めて自身の拡張武装を見た。
周囲を飛び回る12のフェザーには貴重なD2クリスタルが惜しみなく使用されている。
それらはレーザー、シールド、光学迷彩、吸収能力など、エデンの技術全てが与えられていた。
そしてドロシーは人類の敵、クイーンを再び見る。
「……まさかとは思いましたが、本当に恐れているのですか?」
クイーンの禍々しい悪意に混じる何処か怯える様な恐怖を感じ、ドロシーは問い掛けるように呟いた。
勿論、クイーンからの答えはない。
「Doro」
しかし、頭上のDOROは同意するかの様に鳴いた。
「ふふ、そうですね」
ドロシーはDOROを優しく撫でると、気を引き締め直して拡張武装の名を口にする。
「ルビーの靴、フルコンタクト」
嘗てそうある様に願われた技術を、ある種継承して生まれたその武装は、クイーンと同じ様で異なる夜明けの様な未来を照らす赤い光で戦場を染めた。
【End】
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