救済を願って 作:バレンシアオレンジ
イベントストーリーが面白くて初日に石を使って読んでしまいました。シュエンとマクスウェルの関係がとても良いです。ただ、祖父からCEOを引き継いだとか、シュエンが10代とかの初期設定と矛盾している気はしますが。
【Another Side】
「よもやこれ程とは……ヨハンが自信を覗かせる訳ですねぇ」
マントラに乗り戦場を走りながらナユタはそう呟いた。見上げる空では、まるで嵐の様な激しい敵の砲撃の中で、ドロシーが自在に舞っている。更にルビーの靴から放たれるビームは、クイーン、上空の宇宙ステーション、そして地上のラプチャーへと伸びて正確に斬り裂いていた。
「落ちなさい! 人間もどきが!」
巨大なムカデと化したインディビリアがそう叫んで電撃を放つ。しかし、ドロシーは攻撃が来ると分かっていたかの様に、優雅に最小限の動きで回避した。
「……雷電は頭が弱いのですかねぇ」
クイーンが雨の様に撃ち続けているビームですら掠りもしないのに、そんなあからさまな攻撃態勢をとっておいて、ビームよりも遅い雷が何故当たると思うのか。
「そうですわね。王国で戦った時も”持久力”が散漫でしたわ」
「”注意力”でございます、お嬢さま!」
並走するクラウンは頷きながらそう言うが、チャイムに直ぐ様訂正された。
「ああ、ええと……そうでしたわね。おほほっ」
「それよりもどうしますか? ヘレティックの相手は私たちの担当ですよね」
笑って誤魔化すクラウンに被せて、キロがインディビリアを見ながら確認する。
「私が行きます」
「いけません。マリアン、あなたはできる限り力を温存しなければなりません。”戴冠”という最も重要な役目があるのを忘れていませんか?」
「でも!」
「言ったはずです。あなたこそが、この世界の命運を握っていると。だからこそ、あなただけは何があっても生きる必要があります」
戦場にいても不要な危険を冒してはいけないと、ナユタはマリアンを窘める。
「……」
「それに、心配する必要もないでしょう」
ナユタがそう言って再度見上げると、丁度赤い雨が止まると同時に、インディビリアがドロシーのビームで膾切りにされるところだった。
「宇宙ステーションの無力化を確認。続けて、ヘレティック・インディビリアの出力低下を確認」
「ははっ、言った通りでしょう?」
「凄い……!」
タロスが即座に観測して報告した内容に、ナユタは笑いマリアンは驚きで目を見開く。
「さてと、予定とは少々異なりますが、私たちも落ちた雷電にご退場を願いに行くとしましょう」
宇宙ステーションが落ちた以上、私たちと機動力の差があり、またクイーン戦に可能な限り万全な状態で臨むため、待機していたパイオニアも動き出す筈。ならば、こちらが遅れて足を引っ張る訳にはいかない。ナユタはそう考えて先を急いだ。
「ちっ!」
「あら、避けられてしましたか。意外ですね」
「そう何度も同じ手が通用するものですか!」
クラウンが槍を手に突撃したが、流石にインディビリアも躱して怒りを露わにする。
「ここで借りを返すとしましょう!」
「させません!」
「ぐっ!」
尻尾を振るおうとしたインディビリアの動きを、マリアンの銃撃が止めた。クラウンはその隙を見逃さず切り札を使う。
ネイキッドキング:アクティブ
「それは……!」
一瞬だけ顕現した拡張武装が生み出した強烈な衝撃波により、インディビリアは抵抗する間もなく膝をついた。
「吹っ飛ばして! タロス!」
「了解。宇宙まで吹き飛ばします」
そこをキロとタロスの追撃が襲い、放り投げられると……
「こう見えても、護身術の心得がありまして……ね!」
インディビリアはナユタの一撃で頭から地面に叩きつけられた。
「うっ……くっ……!」
「……まだ意識があるとは、さすがですねぇ」
しかし、突然現れたトーカティブが立ち塞がった。
「マリアンを返してもらうぞ人間もどきども!」
「おや、誰かと思えばおしゃべりですか。未だ"あれ"に振り回されているとは哀れですねぇ」
「貴様! 私の使命を愚弄するのか!」
ナユタの煽りにトーカティブは怒鳴り返す。
「あなたの使命なんて知りません! 私は私の大切な人のために戦っています!」
「ふざけるな! クイーンの新たなボディとなるのがお前の運命だ!」
マリアンにも否定され、トーカティブは更に激昂した。そして、その腕が奇妙にうねり炎に包まれた火竜の頭へと変貌する。
「仲間の死を目に焼き付けるがいい!」
「!!」
トーカティブは私が必要だから殺せない。マリアンはそう考えて竜の炎から皆を護ろうと前に出た。
しかし突如として大きな盾が差し込まれる。
「プークスクス、なにそれ? ニヒリスターの真似でもしてるの〜?」
「貴様はエデンの!」
「私もいるわよ」
「ぐっ! がっ!」
ノアに気を取られたトーカティブをイサベルのフェザーが襲う。
「お前もそろそろ口を閉じなさい」
「ばか……な……!」
そして、ドロシーのフェザーが展開するシールドに乗って降りてきたハランが、怯んだトーカティブの首を刈り取った。
「この……役立たず……!」
何もできず排除されたトーカティブに対して、インディビリアは侮蔑の言葉を浴びせる。
「ニヒリスター! あなたも……戦いなさい!」
更に矛先をニヒリスターに向けた。すると、ニヒリスターも前へ出る。
「……チッ。よう、クソ仙人」
「ごあいさつですねぇ。何でしょう」
「俺は、お前らと戦わなきゃならねえ。勝ち目もねぇ、ちょっと時間を稼ぐだけの犬死にだろうがな。でも仕方ねえだろ? 俺たちは偉大なるオカアサマのクソみたいな命令に逆らえないよう生まれちまったんだから」
「……」
ナユタは何も言えなかった。ただ先日のコアを抜かれたニケたちの姿が脳裏によみがえる。せめて死後は安らかにと、目の前にいるニヒリスターが行ったことだ。しかし、当の彼女は今も縛られ続けている。
「何を……! しているのです……! 早く……戦いなさい! できないのなら……せめて私を逃がすための……盾になりなさい!」
「……」
ニヒリスターは喚き散らすインディビリアを睨みながら自問した。
何故、裏切ったコイツが俺に命令している?
気に入らない。
そんな考えに思考が埋め尽くすと、頭の中にあったナニカが壊れる音が聞こえた。
「……なあ。お前、俺のメシになれよ」
ニヒリスターは自由になった身体で、そのままインディビリアの首に喰らいつく。
「……皆様方、ここは私に任せていただけませんか?」
「え〜、食べてる間に殺っちゃえばいいじゃん」
「ノア、仙人サマに任せましょう」
ハランはそう言ってからナユタを見る。
「……恩に着ます」
「2度はないわ。何を企んでいるにせよ、必ず成功させなさい」
そうして、ナユタのみ残りニヒリスターの食事が終わるのを待った。
「はぁ……やっとバランスが取れたぜ」
「……それで、どうするのです?」
ナユタは武装を取り戻したニヒリスターに問う。
「分かりきったことだろ。クイーンをブッ殺す」
「……ならば、言っておかなければならないことがあります」
ナユタは赤い弾丸を取り出し説明した。
「このままでは……」
ドロシーは味方の疲労が限界になりつつあるのを感じていた。
こちらの攻撃は当たっても、驚異的な再生能力で直ぐに回復されてしまう。一方のクイーンは、未だ無限とも思える出力で攻撃を続けており、まともに当たればタダではすまない。
「Doro」
「そうですね」
そう、だから何よりも再生能力を奪わなければ。そしてそのためには、アンチェインドを使うしかない。ヨハンが一発持っていた筈だが……嘗てニヒリスターが腕を自切してアンチェインドを回収しようとしたこともある以上、使い方を考えなければならない。
「ヨハン」
『ドロシーか、どうした?』
「クイーンの再生能力が予想以上です。私はまだ大丈夫ですが、率直に言ってこのままでは勝ち目がありません。アンチェインドは使えますか?」
『アンチェインドは仙人に任せた』
「なんですって?」
ドロシーは驚愕する。ナユタは得体が知れないとよく言っていたヨハンが、そのナユタに最重要物資の扱いを任せたのが信じられなかった。
「どういうつもりですか? もしも無駄にしてしまったら……これは、ニヒリスター?」
『どうやら成功したようだな』
DOROから伝わる感覚が、飛び立ったニヒリスターを捉える。
「これでも食っとけ! クソババア──!!」
ニヒリスターは絶叫してクイーンに突っ込んだ。その後、クイーンがニヒリスターを吸収すると、外装が崩れ始める。
「これは!」
『全員、動くな──エデンの槍、発射』
青い光が再びクイーンを貫く。
『……認めたくはありませんが、本当に怪物のようです』
『……使える手段は全て使った。後は頼む。勝て』
しかし、損傷は大きくとも健在なクイーンを見て、セシルとヨハンは皆に託した。
そして、戦場の女神たちはそれに応える。
各々が持てる全てを尽くして。
クイーンを王座から引きずり下ろすために。
『フルアクティブ、貫け!』
最後の一撃はレッドフードとスノーホワイトだった。
クイーンの身体が分断されて、切断面から内容物が零れる音のみが聞こえる。
「ああ……ついに……」
そう呟いたのは誰だったろうか。その言葉は、同じ戦場にいた全ての女神たちが心の底から思ったことと同じだった。
しかし──
内容物から立ち上がる姿がある。
ラプンツェルは、それを、彼女を、見て駆け出した。
「リリスー!」
危険! 危ない! 敵! テキ!
「──ありがとうございます、DORO」
皆が固まる中、DOROと感覚を共有していたドロシーだけが間に合う。リリス──いや、クイーンがラプンツェルへ向けて振るった腕はフェザーのシールドが受け止めた。
それを見て再び戦場が動き出す。
「なんなのだ、こやつは!」
「まさかリリーバイス少佐と戦うことになるなんて、ね!」
直ぐに紅蓮と薔花が前衛として斬り掛かった。
何故──
クイーンは膠着状態となっている現状に疑問を抱く。
自分は最高の人間もどきを取り込んだ筈だ。
この人間もどきの戦闘をラプチャー越しに何度も見ていた。
この人間もどきは数の差などまるで無視して勝利する圧倒的存在だった筈だ。
ならば、そのボディを手に入れた自分もまた当然圧倒的な筈だ。
なのに、何故──
「助かる!」
「ありがと、ドロシー!」
邪魔な目の前の人間もどきの武器を壊しても、赤い結晶で作られたナニカが飛んできて、その手に収まり殺せない。そしてその赤い結晶は、先に壊した武器より遥かに丈夫で壊れない。
「わわっ、こっちに撃ってきた!」
周囲の人間もどきを攻撃して隙を作ろうにも、桃色の人間もどきが盾を飛ばして防いでいる。
「お嬢さま、今でございます!」
「ハァッ!」
距離を取ろうにも、小さな人間もどきが戦場を俯瞰して、周囲の人間もどきに指示を出し、こちらの行動を潰してくる。
状況を変えられない。
一体どうすれば──?
「私が隙を作ります!」
背後に奇妙な円盤が浮かんでいる人間もどきの姿が変わった。その瞬間、目障りな剣の人間もどきが飛び退く。
──!!
重力? いや、圧力か? 兎に角、身体をまともに動かせない。更に、人間もどきが一斉に銃撃してくる。
クイーンは問題にならない銃撃を無視して、大きなエネルギーを感じる方向を見た。
赤い結晶をドレスの様に身に纏う人間もどきがいる。
結晶が強く輝き、明らかに大技の準備をしていた。
なるほど──
アレが全身全霊の一撃でこちらを殺すつもりなのだろう。ならば、それを耐えた瞬間にこそ、隙ができる筈だ。そしてアレを殺せば、同時に剣の人間もどきも無力化できる。ならば、後は作業だ。
「いきます!!」
クイーンを赤い光が飲み込む。
両腕をクロスさせて耐えるが、身体が焼けるようだ。
やがて、長いようで短い時間が過ぎた後、光は消える。
既に圧力も消えていたため、クイーンは即座に地面を蹴り、結晶の人間もどきに距離を詰めて、確実に殺すために全力で腕を振るう。
──いない?
だが、その先には誰もいなかった。
疑問で思考に空白が生まれた瞬間、考えた訳では無く、ただ本能的に振り返った。
真後ろの空間が少し歪んで見える──!
外した。
光学迷彩を解除しながらドロシーは自らの失敗を認めた。
ルビーの靴が持つ最後の切り札を使い、確かに相手の隙をついたのに。コアを貫く筈だったドロシーのビームは、クイーンが身体を捻ったことで、首を跳ねるに留まっている。
「Doro!」
そのため、油断してはいけないと、DOROが声を上げた。
そしてその通り、クイーンのボディは頭を取り戻そうと飛び上がる。
「しつこい!」
「往生際が悪い奴だ!」
薔花と紅蓮が両足を斬り落とした。
「畳み掛けろ!」
「ブチかませ!」
スノーホワイトとレッドフードの銃撃が両腕を吹き飛ばした。
最後に、転がったクイーンのボディにマリアンが近付く。
「……あなたの王冠は、私が貰います」
そして、クイーンのコアがある部分から禍々しい光が溢れ出し、マリアンの包帯にゆっくりと吸収されていった。
【End】
読んで頂きありがとうございます。