救済を願って   作:バレンシアオレンジ

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07 星屑として

 

 NIMPH注入……完了

 ローカルデータ複製……完了

 シナプス接続遮断……完了

 適合検査結果……陰性

 ローカルデータ削除……完了

 ネットワーク接続……完了

 基本データパックダウンロード……完了

 戦術データパックダウンロード……完了

 ラプチャーデータパックダウンロード……完了

 データ損耗率チェック……異常無し

 ニューロン損傷率チェック……異常無し

 ニューロン処理速度チェック……異常無し

 シナプス再接続……完了

 戦闘ボディチェック……異常無し

 NIMPHシステムチェック……異常無し

 データ自動保存準備……完了

 覚醒シグナル活性化……完了

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 目を覚ました際に自分自身の記憶を確認して安心した。

 原作では量産型ニケになると殆ど記憶を失うと明記されながらも、エイブは勿論ラピやラピの回想に登場するニケ達は生前の記憶がはっきりしているなどと個々人により記憶喪失の程度はまちまちだった。私も忘れてしまう可能性に備えてやることリストは別に残していたが杞憂だったようだ。

 元々前世の記憶が何処に記録されているのかは不明だが、その記憶が単純に脳に刻まれているはずがないと思っていた。恐らく私の記憶はその原理不明の記録領域を参照しているから、量産型ニケになっても何一つ忘れないで済んだのだろう。

 

「……覚悟はしていたけど容姿が完全に別人になるのは何度経験しても違和感が大きいね」

 

 ミシリスインダストリー製の量産型ニケの最新ロット、プロダクト23になった体と手足を確認する。サイドデスクにある鏡に映る姿はゲームをそのまま現実にしたかの様に思われた。

 流石に特化型は夢を見すぎだったようだ。まあ、この時代に原作で登場する特化型ニケはフェアリーテイルモデルのみなのだから当然か。確か自我と理想の姿の有無が量産型と特化型の分水嶺だったか? 実際に戦争していてゴッデスの活躍を目の当たりにしている今の方が未来よりも自我と理想像は皆はっきりしていたと思うが……技術上の何かの制約がこの時代では解決できなかったのだろうか?

 

 あまり意味の無いことを考えていると扉が開かれ、白衣の職員が近付いてくる。

 

「おはようございます。私の言葉が分かりますか?」

 

「はい、分かります」

 

「なるほど意識は完全に覚醒しているようですね。では一応もう一度ボディの状態を確認しますので少しお待ち下さい」

 

「分かりました」

 

 健康診断の様なものを受けて状態に問題無いと確認されてから、シミュレーションでテストを受ける。比較対象が無いから何とも言えないが、余り良くない結果だった様に思われる。第六感に頼ってきた弊害かプログラム上の敵には上手く反応できなかった。

 その後、他のニケがいる部屋に連れて行かれた。私以外のプロダクト23だけでなく、他のプロダクトナンバーのニケ達もいた。それぞれで纏まっているので同じプロダクト23のニケに近付く。

 

「ピナだよね?」

 

「はい、そうですけど……何処かで会いましたか?」

 

「……そっか、覚えていないんだね」

 

「えっと?」

 

「いや、ごめん何でもないよ。私の名前はエリカ。これから宜しく」

 

「エリカ……」

 

 ピナが考え込む様な仕草をした時に、軍服を着た男が部屋に入ってきた。

 

「総員傾注! 説明を始める……と言いたいところだが先ずは自己紹介からだな。私はこれから君達の指揮を執るカマロフ中尉だ」

 

 そう言った後、中尉は私達を見ながら点呼を取る。

 

「……よし全員揃っているな。とりあえず先に何か聞きたいことがある者はいるか?」

 

「はい、えっと何と呼べば?」

 

 ニケの1人が手を上げて尋ねた。

 

「好きに呼べ。指揮官でも中尉でも良い。殿は付ける必要は無い。ただし仮の分隊長を君達の中から選出する。その呼び方と被らない様にしろ」

 

「指揮官がいるのに、なんで分隊長?」

 

 他のニケ達も続けて質問する。

 

「私はこの分隊の指揮を任されている。故に何が最善かを考えてこう結論付けた。私は君達と行動を共にするべきでないとな。そしてその場合、現場で状況判断を行う人間が……いや、ニケが必要だ。其処で分隊長という訳だ」

 

「一緒に行動しないのか?」

 

「ゴッデス部隊の指揮官が目立っているから誤解しているのだろうが、基本的にニケの身体能力は高く人間とは隔絶している。つまりは共に行動すると戦場で私が足手まといになるという事だ。ゴッデス部隊程であれば足手まといの1人や2人いたところで問題無いのかもしれないが、我々は本日編成されたばかりの新兵集団だ。意味の無い危険を冒す必要はない。また最近はラプチャーの通信を妨害するためにエブラ粒子なるものが使用されている。これは残念ながら我々の通信も妨害するため、距離が離れると無線による指揮は困難だ」

 

「新兵って指揮官もですか?」

 

「そうだ。偉そうに話しているが士官学校の速成教育課程を完了してから2度目の配属にすぎない。中尉も今回の配属による昇進だ。しかし私は前の配属先で、現実は教本の様にいかないことを先任軍曹から学んだ。繰り返しになるが、だからこそ現場で状況判断する分隊長が必要だと考える」

 

「要はビビって出られないってことだろ」

 

「好きに捉えて構わない。これが最善だと私が判断しただけだ」

 

 不満を口にしたニケは、その返答に意外そうな顔をしていた。

 

「あの! 私達は期待されていないということですか?」

 

「新兵に新米士官だとそう思うのも無理ないが実態は異なる。君達も理解している通り、現在の戦況は良くない。いやはっきり言おう戦況は悪い。その様な状況下で優秀な将官は余りにも貴重だ。もしも彼らが前線を離れる様なことがあれば、かろうじて秩序を保っている我々人類連合軍の戦線は直ぐにでも崩壊するだろう。故に私の様な新米が指揮官として配属される。そして君達には戦術データがインストールされているはずだ。上の連中はそれがあれば何とかなると思っているということだな」

 

「そうですか……」

 

「なら、アンタは何をするんだ?」

 

「分隊の全体的な管理業務だな。君達にとって分かりやすいもので言えば輜重の管理だ」

 

「シチョウって何だ?」

 

「……メシの管理だ」

 

「そりゃいいな。メシがちゃんと食えるのはさすが軍隊だな」

 

「……他に何かある者はいるか?」

 

「誰が分隊長になるんですか?」

 

「既に決めている。君達が受けたシミュレーションはその適性を判断するためのものだ。故に最も成績が良かったピナが分隊長だ」

 

「私ですか?」

 

「そうだ……移動すると誰が誰だか分からんな。すまないが、何かアクセサリーでも着けて見分けられる様にしてくれ。それと責任は私が持つが、現場では君の判断が優先される」

 

「分かりました中尉」

 

「よし他にはないか? ……無いようだな。では初任務の説明に移る」

 

 中尉が説明してくれた私達の初任務は未来でもありふれたラプチャーの討伐任務だった。ただし人の居なくなった未来とは異なり、今はラプチャーの侵攻を許すと民間人が多数殺される。

 

「……説明は以上だ。残念ながら任務予定日まで時間が無く十分な訓練を行う余裕は無いが全員装備を確認して備えろ。訓練は明日から始める。解散!」

 

 ケースに入った装備一式を全員に配り終えると、そう言って中尉は部屋を出て行った。

 

「エリカ!」

 

 ピナが急いで此方に来る。

 

「何かあった?」

 

 尋ねるとピナは私の手を握り真剣な表情で話した。

 

「ごめんなさい。確かなことは何も思い出せません。でもエリカの名前を聞くと、忘れてはいけない大切なことがあった気がするんです。だから、その、聞かせてくれませんか?」

 

「……勿論良いよ。ありがとう」

 

「お礼を言うのは私の方です。ありがとうございます」

 

 嬉しかった。思わず泣きそうになるくらいに。

 

「あーお二人さん? あたし達のこと忘れてないか?」

 

『!!』

 

「いや、別にいいんだけどよ。なんていうかこれから一緒に戦うし、ピナ?は隊長だろ。だから挨拶だけはさせてくれな?」

 

 私達は皆に謝罪して、改めて初任務に向けた会話をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、私達は装甲兵員輸送車の中で最後の確認を行っていた。

 

「……なのでラプチャーの侵攻ルートの中で、予め此方の有利な場所に防衛線を複数用意して迎え撃つのが良いと思います」

 

「ゴッデスみたいに突撃しないの?」

 

「しません。私達は知識はありますが実戦経験がありませんし訓練期間も短いです。ゴッデスみたいに圧倒的な力がある訳でもありません。それに私達はラプチャーに対して寡兵です。経験も数も足りていないのに、正面衝突するのは自殺行為だと思います」

 

「あたしは了解だぜ。隊長」

 

「ありがとうございます。分隊支援火器は私達の最大火力なので各防衛線に分散させますから、戦闘に参加しながら必要に応じて後退する味方を支援してください」

 

「隊長、誰がラプチャーの侵攻ルートを監視するんですか?」

 

「それはエリカにお願いします。大丈夫ですよね?」

 

「了解、勿論大丈夫だよ」

 

「助かります」

 

『まもなく輸送車は作戦エリアに到着する。降車の準備をしろ。そして各員の奮戦を期待している。以上だ』

 

「了解しました中尉。みんな頑張りましょう!」

 

『はい!』

 

 

 

 

 防衛線に近付くラプチャーの動向を確認して連絡する。

 

「ピナ、もうすぐそちらまで辿り着く」

 

「分かりました。皆さん準備できましたか?」

 

「射撃1班、いつでもいいぜ」

 

「射撃2班、配置に就きました」

 

「狙撃班、準備完了よ」

 

「3、2、1……エンカウンター!」

 

 ピナの合図で一斉射撃を行う。

 集団の前方にいたラプチャーの十数体が即座に破壊された。

 

 キィィィィィィ────

 

「ハイド!」

 

 ラプチャーの猛烈な反撃に対して即席の遮蔽物や蛸壺に身を隠してやり過ごす。そのまま前進してくるラプチャーの攻撃の合間に、此方も応射して後続のラプチャーにも損害を与えた。そして防衛線に近付いたタイミングでピナが更に合図を出す。

 

「後退!」

 

 合わせる様に私が特別製の指向性破片地雷を炸裂させると更にラプチャーが吹き飛んだ。爆発により発生した粉塵で視界が遮られた隙に、第一防衛線にいた射撃1班が命令に従って後退する。第二防衛線の射撃2班と狙撃班はそれを支援するために制圧射撃を続けた。

 

「下がったぞ!」

 

 合図を受けて私もラプチャーの残存兵力を確認する。最初の防衛線で1/3が沈黙し、全体の凡そ半数に大なり小なり損害を与えたようだ。これならば問題は無いと考えていると、次の防衛線まで後退した射撃1班が統制射撃を再開した。訓練した訳では無いため少し粗はあるが、それでも皆互いに決められた範囲内に向けて撃ち続け、次々とラプチャーを仕留めていくのが頼もしく見える。

 

「私も負けていられないね」

 

 そう呟き狙撃班と連携して大型ラプチャーを攻撃しながら私も後退した。

 

 

 

 

「これで最後だ!」

 

 遮蔽物からの射撃と後退を繰り返すと、最後のラプチャーが沈黙した。

 

「状況終了。皆さん損害を報告してください!」

 

「射撃1班、全員元気だ!」

 

「射撃2班、此方も問題ありません!」

 

「狙撃班、無事よ!」

 

「全員無事みたいだね。ピナ」

 

「そうみたいですね。私達の勝利です」

 

 ピナの勝利宣言を聞き、皆から疲労と生き残った安堵への溜め息が漏れた。

 

 

 

 

 

 

「良くやった! 負傷者ゼロでこの戦果は文句の付けようがないぞ」

 

 基地に戻ると中尉は嬉しそうに告げる。

 

「ありがとうございます。それでこの後はどうなりますか?」

 

「先の事は今は気にせず休め。とりあえずは初戦を無事終えたことの祝賀会だな」

 

 その言葉に皆が嬉しそうにしていると1人が声を上げた。

 

「それなら腹が減ったぜ。何か食いものはないか?」

 

「心配するな。あの部屋には君達のためにギンバイしてきた食糧を山程用意してている。各々好きなだけ食え」

 

 中尉が笑いながら返すと釣られて皆も笑顔になる。

 

「おっと、伝え忘れていたな。今回の勝利で我々は、正式に編成が完了した1部隊として扱われることになる。其処で部隊名を決めるために何か案を考えておけ。以上だ」

 

 

 

 

 

 

「良いんでしょうか……」

 

 ピナはそう言いながらも料理を口にする。確かに保存食ではない生鮮食品の数々はこの時代の状況からすれば望外の贅沢だ。

 

「別に構わないだろう? 残しても腐らせるだけだからね。美味しく食べた方が良いさ」

 

「……そうですね。美味しいです」

 

「オイオイ主役がそれじゃあつまらないだろ? 楽しもうぜ?」

 

 1人のニケが自分のお皿に沢山の料理を乗せてお酒を片手に話しかけてくる。

 

「主役ですか?」

 

「みんな分かってる。隊長の作戦のおかげで無事だったし、アンタの仕事が1番危険だったってこともな。感謝しなけりゃバチが当たる。ほれ」

 

 彼女はそう言い私達のグラスにお酒を注ぐ。

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

「あんまり呑めないんだけどね。でも気持ちは嬉しいよ」

 

「何だ〜それって人の頃の話だろ。ニケなら平気だって」

 

 そうして乾杯した。

 

「なあアンタ達は何でニケになったんだ? アンタ達なら他にも色々できたんじゃないか?」

 

 暫く他愛の無い話しをすると志願理由を尋ねてくる。

 

「私は自分のことを余り覚えていませんが、この戦争をどうにかしなきゃいけないと思ったからですかね?」

 

「私は未来に必要なことだと思ったからさ。そう言う君はどうなんだい?」

 

「ん? あたしかい? あたしもはっきり覚えているワケじゃないが、確かメシが食えるからだったはずだな。飢え死ぬかと思っていた気がする」

 

「そういえば最初にも言っていましたね?」

 

「ああ、だから今は最高の気分だ!」

 

「……」

 

 国内のサプライチェーンは確かに崩壊寸前で物価も高騰していたが、食糧生産量は今はまだ必要最低限の量は満たしているので"国民"に餓死者が出るほど食糧品が不足している訳では無い。にもかかわらず彼女は食べるためと回答した。

 

「なるほど、それは良かったね」

 

 つまりは彼女が国をラプチャーに奪われた難民だったということだろう。この国も当初は亡命政府や難民を受け入れていたが、それは戦争が長続きしない前提での対応だった。戦争が3年以上も続き、国土もじわじわと削られる様になると、自国の避難民だけでも負担が大きく、他国の難民の面倒を見る余裕など無くなっていた。

 このため放置された難民は生きるために犯罪行為に手を染める様になり治安悪化の原因になっていたのだが、其処に人類連合軍は目を付けた。犯罪者が男性の場合は前線での壁または餌として扱い、女性の場合にはニケへの手術が行われるなど、同意の有無に拘らず戦力化が行われていた。

 

 正直あんまりだと思うが今の彼女は幸せなのだから、あえて指摘することはしなかった。

 流れに合わせて他の皆もニケに志願した理由を順番に話し終えると話題が部隊名についてのものに変わった。

 

「そういえば部隊名はどうするんですか隊長?」

 

「そうですね。みんなの意見を聞いて考えたいと思います」

 

「なら、あたしは赤の暴風(レッドストーム)を推す」

 

「もしかしてレッドフードが好きなの?」

 

「おうよ。あの人は他のゴッデスと違って元は特別じゃなかったのに今は英雄だ。あたしの憧れだな」

 

「それなら私はラプンツェル様が好き。立場を捨ててまで他人に尽くせるなんて普通じゃできない」

 

 皆が口々にゴッデスの誰が好きかを話し合う。

 

「私はリリス様に憧れますがエリカは誰が好きですか?」

 

「ドロシーだね。幸せであって欲しいと思う」

 

「……? いえ、見事にみんな分かれましたね。部隊名はどうしましょうか?」

 

「個人じゃなくてゴッデス全体に関係するものとか?」

 

女神(ゴッデス)に関連付けるなら天使(エンジェル)とかかなぁ?」

 

「うーん?」

 

「それなら星屑(スターダスト)はどうかな? 私達はゴッデスみたいに人類の希望の星には成れないけれど少しでも力になりたいという意味を込めて」

 

「なかなかいいんじゃねぇか?」

 

「いいと思う」

 

 皆が頷き隊長のピナを見る。

 

「私も良いと思います。これからは正式な部隊として頑張りましょう!」

 

 酔いの影響もあり、それぞれが普段よりも大きな声で歓声を上げる。祝賀会はそのまま深夜まで続いた。

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