救済を願って   作:バレンシアオレンジ

8 / 32
08 戦地での日常

 

「こんなはずじゃ……」

 

 そう呟く声が聞こえる。気持ちは分かるが余計に気が滅入るから声に出すのはやめて欲しい。いや、何か話をした方が今食べている物から意識が逸れて気が紛れるだろうか?

 

「ごめんなさい。今回の任務は毎日基地に戻るという訳にはいかないので、みんなには我慢を強いてしまいます」

 

「いやその隊長を責めたワケじゃないんだ。ただそのコレはもう少しその何とかならなかったのかと思っちまって……」

 

「気持ちは分かるわ。でも仕方無いでしょ」

 

「そうだよな。仕方無いんだよ。仕方無い……」

 

 他の皆も同じ気持ちだった。口々に今回の任務に食糧として持ってきた、今食べているナニカについての不満が漏れる。

 

 私達は初任務以降も幾つかの任務を殆ど損害無く達成しており、これは他の部隊と比較して珍しいことだった。ただし実態としては何も特別な事をした訳では無い。単純に索敵と相手の土壌で戦わない事を徹底していただけのことだ。

 

 この時代のニケの運用については手探り状態なので仕方無い部分もあるが、多くの指揮官はゴッデスを見て量産型ニケを誤解していたのだろう。確かにゴッデスであれば、例えば私達が行った通信施設の奪還任務についても正面から突入して迅速に処理できるだろう。しかし量産型ニケにはゴッデスみたいに大型ラプチャーの群れを一方的に蹴散らす様な性能はない。だからこそ私達は敵がどれ位いるのか、どの様な警戒態勢を敷いているのかなどを十分に確認した上で此方の防衛線に釣り出す作戦を取り続けていた。

 

 正直なところ圧倒的戦力を誇るラプチャーに対して、第二次地上奪還作戦で新星が登場するまではゲリラ戦術を主軸とせずに、敵地に侵攻して真正面からラプチャーの有力部隊との決戦に挑んでいたと考えると、本気で勝つつもりがあったのか疑いたくなる。隠密と高速という大きな優位性を持ち合わせていた近接戦闘部隊ですら、無茶苦茶な任務に従事させられた挙げ句の果てに、指揮官自身の無能さを棚に上げて戦闘に出る度に何処か壊れると難癖をつけられていたことも信じ難いことだ。

 

 ともかくそんなこんなで、私達星屑部隊はほんの少しだけ上層部の興味を引いた。その影響か定かでは無いが、ラプチャーの襲撃により住民が避難してゴーストタウンになっている、とある都市の一角での監視および可能であれば迎撃する任務が言い渡されていた。要はラプチャーの侵入を阻止するための警戒線の一部を担うということだろう。任務の性質上その場に居座り続ける必要があるので、初めての長期任務のために装甲兵員輸送車には可能な限りの物資を積み込んで来たのだが、その際に配給された食糧が問題だった。

 

 通常の保存食よりも更に保存性と摂取カロリー量を優先したそれを初めて食べた際には、いつも食事を1番の楽しみにしていた仲間すらも思わず吐き出しそうになっていた。

 

「何でなんだろうね。懐古主義者でもいるのかな?」

 

 私自身も溜め息と共に思っていたことを吐き出した。

 配給されたのはMeal,Ready-to-Eat(調理済み食品)、略称でMREと呼ばれる3つの嘘の単語を含んだ1つの戦闘糧食(たべものもどき)である。前世でも現代ではベジタリアンメニュー以外はそこそこ美味しいと聞いていたのだが、近未来であるはずの今世で食べているこれは名状し難いナニカだった。中尉殿が渡す際にすまなそうな顔をしていた訳だ。

 

「うん?」

 

「どうかしました?」

 

「ラプチャーが来るみたいだ」

 

「分かりました。みんな急いで配置に就いてください!」

 

 ピナの号令で各々が食べていたモノを水で流し込み駆け出す。ここでの任務を始めてからはよくあることだ。最初は驚かれていた私の第六感についても、共に何度か任務をこなす内に他のどんな方法よりも正確に早くラプチャーを発見できる便利なものとして既に皆慣れていたため、疑うこと無く即座に担当場所まで移動して迎撃準備に取り組んでいる。そんな皆を後目に私はラプチャーを誘導するために行動する。人気の無い交差点に辿り着くと、我が物顔で道路を横切るラプチャーに向けて発砲した。

 

「エンカウンター!」

 

 防衛線に誘導した後は狙撃班が飛行型ラプチャーを遠距離から優先して狙い、すり抜けた場合には私を含めたショットガンを持つニケが散弾をばら撒いて近接防御を担い、遅れて来る地上型ラプチャーには射撃班の分隊支援火器が火を吹いた。星屑らしく何時も通り本物の星の様な華々しさには欠ける戦い方で何時もの様に勝利を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「面倒だなー」

 

 戦闘後、口ではそう言いつつも丁寧に自らの相棒である銃を分解清掃している。最初の頃は本当に面倒くさがって清掃をサボろうとしていたのだが、ピナに本気で叱られて以降は真面目に取り組んでいる。ピナ曰く銃を分解清掃することは聖職者のお祈りと同じくらいに毎日当たり前に行うべきことだそうなので、私を含めた他の仲間達も交代で同じ様に清掃している。ピナが叱るのは久し振りに見たが、レッドフードの専用武装ウルフスベインにはスパゲッティが付いていたり、銃床に茸が生えることがあったと知ったらどんな顔をするのだろうか。そんなことを考えていると簡単な治療を終えた1人が疑問を零した。

 

「この任務、何時まで続くのかな?」

 

「さぁ? 撤退か避難か何かが終わるまでじゃないの?」

 

「撤退……置いてけぼりってことですか!?」

 

「そんなこと言ってないわよ。ただ何も無い街で時間稼ぎするなら後ろで何かの作戦が遅れているのかと思っただけ。隊長は中尉から何か聞いてる?」

 

「毎日報告はしていますが、中尉から任務期間については特に何も聞いていませんね。ですが今夜にも補給物資がドローンで届くそうなので、流石に置き去りはないと思いますよ?」

 

「そっか……良かった」

 

「補給ってことはアレよりマシなものが食えるのか!」

 

「ごめんなさい。弾薬の補給です」

 

「な、何で」

 

「思ったよりもラプチャーの襲撃頻度が高かったので弾薬は想定以上に消費していますが、食糧の消費量は予定通りでまだ足りているので……」

 

「そんなバカな」

 

 分解清掃を終えてピナの言葉に喜びの声と共に立ち上がるが、希望の光を即座に遮られた事で膝から崩れ落ち四つん這いになる。そんな背中を哀れに思った仲間に撫でられている様はシュールだった。

 

 

 

 

 

 

「そうだ!」

 

 暫く撫でられていると突然叫んで再び立ち上がったため皆驚いて注目する。

 

「ちょっと、いきなり驚かさないでよ」

 

「悪い。でもいいこと思い付いたんだよ。建物はラプチャーのせいでボロボロだけどさ、元々は大きな街だし探せば食べられるものも見つかるんじゃねぇか?」

 

「……確かに。何で思いつかなかったんでしょう?」

 

「いや、それって大丈夫なの? 略奪にならない?」

 

「隊長はどう思います?」

 

「普通に空き巣なのでは。飢えている訳でもないので、私は止めた方が良いと思いますけど……」

 

 ピナは皆の期待している顔を見回してから、溜め息まじりに言葉を続けた。

 

「……探すのはお店だけにして民家には勝手に入らないこと。常に通信できる様にすること。商品を持ち出すなら、ちゃんとお金も置いてくること。それと今夜1食分くらい集めたら切り上げてください。根こそぎ回収したら万が一後から必要な人が来た場合に困ってしまいますから」

 

「さすが隊長、話がわかる!」

 

「いいですか。持ってきた戦闘糧食はまだ残っているんですから、みんな節度を持った行動を心掛けてくださいね!」

 

『了解!』

 

「……本当に分かっているんでしょうか」

 

 そう呟いたピナの隣で、嬉しそうに早速食べ物を探しに行こうとしている彼女達に向けて私は財布を投げ渡した。

 

「誰も残らないのは流石に不味いだろうから私はピナとここに残るよ。私達の分もお願いして良いかな?」

 

「おういいぜ。それじゃあ行ってくる!」

 

「エリカまで……」

 

「まあまあ、そう言わずに。私もそうだけど皆嫌気が差していたし、ガス抜きは必要だろう? それに量産型ニケの私達に必要なのはカロリーや栄養よりも人間らしい美味しい食事だよ」

 

「一応アレも人間の食べ物ですが……仕方ありません。私もアレを食べ続けるのが嫌になる気持ちは分かっていますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 探索に行った皆が戻って来たのは暗くなってからのことだった。やはりお店に限定されると既に荒らされていたりして探し出すのは大変だったらしい。それでもかなりの数の缶詰を持ち帰り満足そうに見える。

 

「節度を持つ様にお願いしましたよね!」

 

 バックパックに目一杯詰め込まれた缶詰を見てピナが叱るが、正座させられても堪えた様子は無く、皆夕食を楽しみにしているのが明白だった。

 

「コンビーフにオイルサーディン、ポークビーンズ……よくこんなに色々見つけられたね?」

 

「エリカ!」

 

「ごめん」

 

 謝り倒すことで何とか赦しを得て、缶詰をそのまま食べるのではなく折角だからと簡単に料理する。10日ぶりのまともな食事を皆で食べると、文明の素晴らしさを再確認できる気がした。実際には栄養学的に完璧なアレの方がより高度な文明の産物であることは理解していたが。

 

「1杯どうだい?」

 

 少し離れて星空を眺めながら風にあたっていると、後ろから声を掛けられた。

 

「お酒まで持って来ていたんだね。ピナに怒られても知らないよ?」

 

「バレなきゃ大丈夫さ」

 

 そう言って渡されたコップを受け取り静かに乾杯する。

 

「ありがとな」

 

「急にどうかした?」

 

「ここにいると改めて感謝したくなってさ。あたしだってアンタがいなきゃ気軽に食い物を探しに行こうなんて言えない。ラプチャーがいればアンタが必ず警告してくれる、そう思えるから安心していられるんだ」

 

「何を言うかと思えばそんなことかい?」

 

「そんなことって、あたしは真剣に」

 

「私だって感謝しているよ。皆と過ごしていると将来の不安なことが少しだけ軽くなる気がする。お昼までは食事でさえアレだったけれど、1人じゃなくて皆と一緒に過ごせたから笑っていられた。だから此方こそありがとう」

 

「……意外と照れるな」

 

「それは良かったね」

 

 お互いに笑顔で感謝を告げていると、ピナの呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「エリカ〜見張りは任せて私達は先に休みますよ」

 

「今行くよー」

 

 返事をしてから向き直る。

 

「それじゃあお先に失礼するよ。呑むのは程々にね」

 

「ああ、また後でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──?」

 

 ぼんやりした頭で何故突然目が覚めたのかを考えていると、徐々に意識がはっきりしてくる。

 

「──ッ」

 

 その理由に気が付いた瞬間、立ち上がり近くで驚く声を無視して駆け出した。監視所に着くと見張りをしていた仲間が驚きの声を上げる。

 

「ちょっとどうしたのよ。交代にはまだ早くない?」

 

「貸して」

 

「……ラプチャーが来るの?」

 

「そうだと思うけど、確認したいから貸して」

 

 急いで監視用双眼鏡を借りて強い悪寒を感じる方向を見る。遠すぎて双眼鏡越しでもはっきりとしないが、夜空に浮かぶ巨大な影は見間違うはずの無いものだった。

 

「マザーホエール!」

 

「マザーホエールってあの!?」

 

「間違い無い。早く皆を起こさないと」

 

 

 

 2人で寝ている仲間を起こしたり他の監視所にいる仲間を呼び戻して皆を集めた。

 

「隊長、本当にマザーホエールなんですか」

 

「私も確認しましたが間違いありません」

 

「それじゃあ……どうすんだ?」

 

「早く逃げなきゃ!」

 

「落ち着いてください。逃げる前に報告しないといけません」

 

「戦わないの?」

 

「戦いません。いえ、そもそも戦えません。私達にはマザーホエールを攻撃できる手段がありません。戦えば上空から一方的にミサイルを撃たれて嬲り殺されるだけです。ですが警戒線を越えようとしているのを無視することはできません。だから報告はしなければいけないのですが……」

 

「どうした隊長? それで何をすればいいんだ?」

 

「……問題は打電すると確実にマザーホエールに捕捉されるということです」

 

「なら気が付かなかったことにして逃げよう、ね?」

 

「それはできません。そんなことをしたら後方を奇襲されることになりますし、警戒線の他の場所を担当している部隊が敵地に取り残されて挟撃されることになりかねません」

 

「ならどうするの?」

 

「……」

 

「報告はする。戦いは避ける。両立させるしかないよ」

 

「エリカ?」

 

「長距離通信機は車に置いて少ししたらマザーホエールの位置と進路を自動で繰り返し打電する様に設定する。私達はその前に地下鉄の線路を通って別方向に逃げる。そうすれば何方も満たせる」

 

「地下鉄ですか、盲点でした。ですがそれなら比較的安全に対応できますね。何か他に意見はありますか?」

 

「別方向に逃げたら基地に戻れなくない?」

 

「確かに後退するのには余計な時間が必要になるけど、此方を行けば警戒線にいる友軍と合流できるかもしれない」

 

「なるほどな。それなら少なくとも今よりはマシか」

 

「では決まりですね。準備してください!」

 

『了解!』

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。