自分の望みが全て叶う場所があればどうする?
そのために自分の全てを捨てられるか? それまでの思い出を全て捨てられるか?
答えは当然ながらYESである。私はここに辿り着くために今までを生きてきたのだから。
あと誰かさんの影響かもしれないが。話し相手が1人いるとなお良い環境になるだろう。
──────────
「ということで。お久しぶりです」
「ひ……久しぶり……」
「2年ぶりですかね。約束通り私を覚えていますか?」
「う、うん……」
肯定。なんだか頼りないが。
しっかり私のことを覚えているようだ。
良かった。安心安心。
「え……本物だよね? 夢じゃない?」
「何言ってるんですか。この空間では睡眠薬無しに眠ることができないでしょう」
しかし、これは所謂感動の再会というものではないのか。
未だ混乱が覚めやらぬ様子のラディのおかげで、こちらも出方を絞られてしまう。
「ちょっと待って。整理させてね。また会えるとは思ってなくてね」
「はて。私は別れ際に『それじゃあまた』と言ったはずでしたが……」
「言った。言ったよ。でもさ……」
そのまま彼は「……確かに言ってたな」と呟き黙ってしまった。
喋る内容を整理しているのだろうか。
そもそも私はもう会わない人間にも愛敬を振り撒くほどお人好しでは無いのだ。
その私に最終日、あれだけアピールされているのだから、私があれを今生の別れだと思っていないことはすぐ分かるだろう。
あれ? このことラディに言ってたっけ?
まあ、彼が満足するまで待ってやろう。
今の私はこれまでと違って時間制限が無いので余裕があるのだ。
「でも……。そんな……。いや……。えぇ……」
「ラディ?」
腕を組んだまま考え込むような姿勢のラディ。
思えば、腕を組まれているのにラディの顔がはっきり見える。
これはつまり。
「……ちょっと」
「ちょっと?」
「ちょっとオルテ、背が伸びた……?」
おお。
「奇遇ですね。私も同じことを考えていたんです」
「そうだよね。ちょっと前と違う気がして」
「ふふふ。相変わらずよく見てくれていますね」
「……」
「あれ? ラディ? ラディー?」
「……」
動かなくなった。
何もしてないのに壊れた……。
ほどなくしてラディは自分の世界から帰ってきた。
何もしてないのに直った。
「ごめんね。もう落ち着いたよ」
「何かありましたか?」
「いや、懐かしさが爆発して自分の中で感情を整理しきれなくて……」
「そんなに」
少し場都合が悪そうにしている。
恥ずかしいのだろうか。
私は気にしないし、私以外に見ている人なんていないのだから堂々とすれば良いのに。
そこからしばらくして、ラディは先ほどまでの流れを誤魔化すように声を上げる。
「んんっ……。そういえば」
「はい?」
「その、いくつか質問したいんだけどいい?」
「ええ、構いませんよ」
私からも色々彼に言いたいことがあるのだが。
まあ、それは後でいいか。
彼には色々隠していたことがあったので。
ここで答え合わせといこう。
──────────
「まず、どうしてこの場所が分かったの?」
「図書館の入口は完全ランダムで選ばれるから、君がここに辿り着けたのには何かタネがあると思うんだけれど。その位置情報なんて図書館にも載ってないし、この場所に偶然行き着くっていうのは確率が低すぎるからあり得ないよね」
おや?
そんなことか。
「そのために今まで私は研究を重ねてきたのですよ。この図書館は新聞を、紙の束を本として認めていないのでしょうか? それを読んで私の動向を追いかけていれば、おのずと推測できると思いますが」
「ごめん。追いかけてたし、論文も読んでたけど分からなかった……」
「あら」
まあ。よく考えれば学者でもないラディにあの内容を丸々理解しろというのも酷な話か。
途中からは私でも難しいと思う部分が所々あった。
というか私の論文も全部読んでいたのか。
結構な量あるぞ。偉いな。
「じゃあ、一から説明しましょうか。昔に一度だけ『ラプラスの悪魔』についての話をしたことがありましたね?」
「ああ、あったね。確か、あのときの答えは『理論上可能だけれど、この図書館が未来の情報を含まないのは仕様である』だったっけ」
「はい。そこで私は考えたのです」
自動片付け機能の騒動の後、ラディに本の答えを教えてもらい、その答えが図書館の仕様によるなどという実に面白みのない解答だと知ったあの3日目。
「いくらランダムといえど、この能力の全ての法則性を把握していれば、例え完璧で無いにしてもある程度の確率で移動先を予測できるのではないかと。なので、あの最終日に貴方の能力のシステムについてとにかく情報を集めました」
「なるほど。だから集めてた本が限定的だったんだね」
「その後、度重なる研究により図書館が移動するシステムを全て証明。それによってこの図書館に繋がる扉を探すため専用の『擬似的なラプラスの悪魔』を完成させました」
「!?」
「今回ここに辿り着けたのは、私が構築した『擬似的なラプラスの悪魔』が完璧だったためですね。正常に機能しているようで私も安心です」
「わ、わーお……」
尤も、初めは最終的な結論のみを導き出す計算式そのものを調べようとも考えたのだが、あまりにも内容が長大であり、かつ過程の情報を計算に用いるため、あの場では断念。
必要な情報のみを集めて、外の世界で再現した方が計算の確実性が高いと踏んだのだ。
「……なんだかサラっと言ってるけど、それってとんでもないことなんじゃない?」
「そうでしょうか。道筋は分かっている訳ですから、努力すれば誰にもできそう内容だと思いますが」
「そっかぁ……」
また諦めたような顔をしている。
これは私に致命的勘違いがありながら、それを説明しても私が納得しないことを見越している顔だ。
そういえばこの顔を見るのも久しぶりか。
感慨深いな。
──────────
「じゃあ次。過程が必要になる『別の用事』っていうのは何だったのかな」
「概ね見当はついてるんだけど、君に言われてたから調べないようにしてたんだ」
「なんと。約束を守ってくれていたのですね」
感心だ。
あれはあくまで口止めに過ぎず、本当に興味が抑えられなくなった場合は自己責任で調べてもらっても構わないと考えていたが。
彼は好奇心を振り切り、私との約束を優先してくれていたらしい。
当時は秘密にしていた『別の目的』だが、今はもう秘密にする理由も無い。
約束を守ってくれた礼という意味でもしっかり答えてあげよう。
というかもう私がここにいること自体がほとんど答えなのだが。
「それは勿論。この場所を再び見つけることですね」
「あ、やっぱり? そうだったんだ」
「当然ですね。これほどまでに便利な場所は他にありません。時間制限を知ったときは大いに焦ったものですが、外の世界からここを見つけ出せるようになればそれも関係ないと考え方を改めたのです」
ちなみに。
もし見つからなかった場合は、一つだけを除いてこの世に存在する扉を全て、扉として機能しないレベルに破壊するつもりでいた。
そうすれば、ラディが現れる場所を限定できるだろうと。
そうせずに済んで良かった。間違いなく大変だろうから。
「じゃあ、過程の情報が必要になったって言ってたのは、この場所を見つけ出すためにその情報を使うからなんだね」
「その通りです。私の『疑似的なラプラスの悪魔』は、結論だけ分かっていても中身を理解していなければ、その情報を適切に利用することができません」
これは知識だけを求めていた昔の私には無かった発想だ。
つまりは途中式を含めて、実際の用途に利用するということなのだから。
知識を手に入れて、その先の展望を見越していない頃の私では、間違いなく過程を無視しようとしていただろう。そのままではきっと思い至ることすらできない。
「逆に言えば、それらを全て把握できれば誰であろうとこの図書館へ辿り着くことができるということなのですが」
「へえ! それはすごい! 君の理論を共有すれば色んな人が自由にこの場所を見つけられるってことなのかな!」
「そうですね。そのつもりはありませんが」
「あっそうなんだ……」
実際、あれの計算はかなり複雑かつ大変だった。
流石に何の前提知識もない一般人が自力で解ける代物ではないだろう。
なので、あの理論を教えたところでそれを生かせる人間は大きく限られてしまう。
そもそも私はあの理論を他人に知らせる意義など全く見出していないのだが。
「そういえば」
そんなことを考えていると、ラディがふと思い出したように口を開く。
「どうして僕にこの目的を秘密にしたの? ここにもう一度来ることが君の真の目的だったなら、それを黙っておく必要はないと思うんだけど」
「? 言うべきでしたか?」
「うん。だって僕寂しかったし、君と離れたくなかったよ」
「あらま。かわいいことを言ってくれますね」
しかし、言ってはいけない理由はちゃんとある。
「だって、それを言ってしまって、結局私がこの場所を見つけられなかったら、貴方に無駄な期待を与えるだけになってしまうでしょう? そんなの可哀想じゃないですか」
「あっ……」
「何か言ってくださいよ」
「……いや、君がそんなこと言うとは思わなくて」
確かに私はそういう印象を受ける女だと思うが。
それでも、黙らないでほしい。
彼を可哀想だと思ったからこそ、私なりに気を遣ったというのに。
何だか恥ずかしくなってきたぞ。
──────────
「えぇと、じゃあ次に。どうして知識を共有したり、お金を稼いだりしてたの?」
「今までを見ていたら思うんだけど、君は知識を手に入れることだけが一番で、その知識で他人を成長させるとかにはまるで興味が無いように思えるんだ。だから不思議だなって」
「ええ。その価値観は今も全く変わっていませんが」
「えっ」
「本当に大変でした。私自身は理解しているのに、それをあんなに低度な内容で言語化するように求められるんですから」
そう。本当に大変だった。
なにが論文だ。なにが講義だ。なにが学術発表だ。
共に仕事をした面々は能力学についての専門家だったはずだ。
なのに、いくら説明しても理解に最低1週間はかかるとかほざくのだ。
少し努力すれば分かることなのに、それを専門家が挙って同じことを宣う。
彼らは努力していないのだ。実に怠慢だ。本当に苦労した。
学会で何度も低レベルの質問を投げられて、「どうしてそんな無駄なことを質問するのです」「私の過去の論文を最低100回読み直して来たらどうですか」と発言し、上に怒られたのは記憶に新しい。
もしかしてあのニュースはラディに知られているのだろうか。
あんな粗暴な私がいつもの私だとは思わないでほしいのだが。
「それでも知識の共有を続けたのは、ただひたすらお金を貯めるためでした」
「はぁ。お金」
「当然ですが私はさっさとこの場所を見つけるための研究をしたかった。しかし、その研究にも、世界各国を移動して実地調査をするにも、とにかく金銭が必要なのです」
「ああ! なるほど」
そういう点では学術賞というのは非常に便利だ。
持っている知識が正式に認められれば、単純なアルバイトでは生涯稼ぎきれないような大金を一括で振り込んでくれる。
ちまちま活動資金を稼ぐよりよっぽど効率的だ。
「それに独り立ちする上で、今まで育ててきてくれた家族にも恩を返さないといけないので」
「びっくりした。オルテでもそういう感情があるんだね」
「何故そんなことを言われるのか分かりませんが。とりあえず、家族には老後も安心して生活できるだけの蓄えを残しておきたいと思ったので」
「わあ……」
家族は私を育ててくれた「良い人」なので、それに報いるのは当然のことだ。
正直あの図書館に出会うまで、私にとって興味が持てる他人、つまり「大切な人」はあの両親のみだったので。
「その後に使う予定もあったので、お金はあるに越したことは無かったのです」
「そうだったんだ。この場所を見つけたり、家族に楽をさせてあげるためだったり、沢山頑張ってたんだね」
「その通りです。もっと褒めてくれてもいいですよ」
「偉いよー偉いよー」
絶妙な距離感で頭を撫でてくれた。
?
どうしてもっと近づかないんだろう。
ハグの一つでもしてくれて構わないのに。
誰かにパーソナルスペースについて釘でも刺されたか?
──────────
「次なんだけど、何で研究者は辞めちゃったのかな」
「研究職っていうのは君にとって天職だと思うんだ。それも君ほどのレベルなら、好きなことだってなんでも研究できたと思う。それぐらい世界は君を認めているよ」
まあ、確かにそれはそうかもしれない。
論文が1つ、また1つと認められていくたびに私の権限はどんどん大きくなり、研究はどんどんやり易くなった。
予算も私が一言口にすれば倍増するし、「意味が分からない」とかいう不評を投げてくるくせに私の講義は開講されるたびに予約が即日完売する。
自分でも異常な影響力を持っていると自覚できる程度には。
そもそもなんで理解できない講義を見に来るんだ。
私の容姿に惹かれたのか? 見世物じゃないんだぞ。
「まあ、ラディの元を訪れるまでの私なら、あの地位を手放すことは無かったでしょう。小さい頃の夢も研究者でしたし」
「じゃあ猶更どうして……」
「今言ったじゃないですか、この図書館が原因ですよ」
私はラディとラディの図書館という存在を知ってしまった。
私がちまちま外の世界で探っていた知識だってこの場所では数分あれば手に入る。
知識を得るのに過程はどうだっていいのだ。
と、なれば。この図書館が使えるなら研究職なんてやる意味が無くなる。
いつだったか。未知の図書館を使うことについて研究者の意義が揺るぎはしないのか、ラディに尋ねられたことがある。
当時の私はどうでもいいと返していたが、結果的に見れば本当に研究者の意義とやらは存在しなくなったのだ。
だから、私はあの仕事を辞めた。
金を稼ぐためだけにしていたのだから、あれで十分だ。
「強いて言うなら後は、知名度が上がりすぎたためですね」
シンプルにめっちゃ人がついてくる。
有名になればなるほど、研究以外の仕事を予定に入れざるを得なくなってくる。
本当に研究だけしていたいのなら、成果を世に出すべきではない。
世に出す必要があるのなら、研究職は煩わしいことだらけだ。
そして私は目的のために、世に出さざるを得なかった。
だから目標額を達成した瞬間に辞めた。鬱陶しいから。シンプルである。
「そっか。地位や功績には興味無いって言ってたもんね」
「よく覚えていますね。殊勝なことです」
そうそう。
話し相手なんて、こういう感じで1人いればいい。
──────────
「じゃあ、あの『隠し味』って何だったのかな?」
「これについては調べたんだけど本当に載ってなくてさ」
「ああ、あれはただの嘘ですよ」
「えっ?」
「未知の図書館には真実のみが記載されるのでしょう。なら、虚偽の情報は見つからないはずです、ね?」
「そういう……」
「いや、確かに、それはそうだけどでも、隠し味は君自身の気持ちとか、そういうのじゃなくて?」
「気持ちをどうやって料理に入れるんですか。無理に決まっているでしょう」
「でも、僕と君にすごく意味のあるものだって……」
「ええ。再びここに来た時、貴方に忘れられていては二度手間ですからね」
「そ、そっかぁ……」
「実際に忘れなかったでしょう?」
「いやまあ、うん。そうだね……」
……?
また黙り込んでしまった。
何だ。間違ったことは何も言っていないはずだぞ。
いや、嘘は言ったのか。
前言撤回する。
じゃあ、隠し味は今この時点から、「ラディがオルテを忘れないようにする」ためのお呪いだったということにしておこう。
味はしないし、2人にとって大事なことだし、物理的に存在しないからレシピにも載せられない。これで嘘にはならない。
なので許してほしい。
──────────
「知りたいことは以上ですか?」
「まあ、うん。とりあえずはこんなとこかな」
あの後にも色々聞かれたので、回答を続け。
気になっていたことが解消されたのか、彼は満足したようだった。
少し時間がかかったが、これでようやく私の話ができる。
「これからは、図書館がどこに移動しても、君なら見つけられるってことだよね? じゃあ、時間があるときはできるだけここに寄ってくれないかな」
ん?
「過去を打ち明けた君だから言うけれど、やっぱり1人って寂しいんだ。だから、一緒にいられる確証のある人がいるって僕すごく嬉しくて」
……何か勘違いしてないか。
「……やっぱりダメかな。君は外じゃもう有名人だから、学生だった頃と違って時間も取りにくいだろうし……」
「何を言ってるんですか?」
「えっ?」
「今日、今この瞬間から。私はここに住むのですよ?」
「…………えっ?」
何だその鳩が豆鉄砲を食ったような顔は。
今までの話を聞いていれば。
「分かるでしょう? 私がこれほどの場所をもう手放す訳がないじゃないですか」
「いや、そうだけど。だから定期的に来てほしいって……」
「何故逐一外の世界へ戻る必要があるのですか。外の世界の用事は全て片付けてきました。戻る必要がないので、後はここで一生私の知識欲を満たしてもらいます」
「えっ、ええっ……?」
だってそうだろう。
私はラディを逃がす気など更々無い。
もう外の世界の仕事からは退いた。
家族や知り合いにもきちんと別れの言葉は済ませている。
私の未来だなんて、これだけの功績を残した今ならこれ以上はいいだろう。
それに、今後生きていくための資金だって。
「ほら、見てください。私の預金通帳です」
「……すっごい金額」
「でしょう? いつか貴方が読んでいた『一生遊んで暮らすにはいくら必要?』を参考に、2人の人間が今後一生自由に暮らせるだけの資産を私は準備したんです。研究職になって、賞を山ほど取った目的の一つもこれだったのですから」
「そういえば確かにそんな本読んだね……」
これだけの額があれば2人で何をするにも困らないだろう。
実際には食事や睡眠や掃除が必要ないため、もっと削減できるだろうが。
自由に使える金なんてあればあるだけ、越したことはない。
貯めた金はラディを見つけるための資金と、2人で暮らしていくための貯金だ。
「2年間、外で生活して改めて思い知ったんです。過程を含めてちまちま学び進めるのはやっぱり私の性に合いません。やっぱりこの図書館が一番です」
「えっそこは変わらなかったの。結論ばかり見てないで、過程も重要視すべき、みたいな感じに……」
「何故ですか。最初から間違いようのない結論が分かっていた方がずっと良いでしょう? そのために私は退職した訳ですし」
「えぇ……」
むしろあんな面倒なことをして。
その上でさらに過程を重視しようだなんて馬鹿げた話だ。
「それに、この話は貴方にもメリットが大きいはずです」
「えっ?」
ここでプレゼンを持ちかける。
私がここに住むことの許可を出してもらうために。
ラディも私に会いたがっているのだから、不都合はないはず。
となれば、学会の発表より遥かにやり易い。
1つ。豊かな資金と外への実体へのアクセス。
「まず、私は貴方と違って外に出ることができます。お金だってあるんですから、貴方の欲しいもの何だって手に入れることができるんですよ」
「それは……確かに……」
1つ。協力者がいることで取れる手段が増えること。
「いつぞやの精神汚染の本だって。2人いないとできないことも、私と一緒なら可能になります」
「まあ……」
1つ。食事が大好きな誰かさんを喜ばせる私という専属シェフ。
「もちろん料理だってしてあげましょう。貴方が望むならまた作ってあげようと言ったではないですか」
「嬉しいけど……言ったかなぁ……?」
1つ。貴方の得た知識・感情を共有できる相手。
「3年前は時間がないので余裕を欠いていましたが、今はいくらでも時間がありますから。貴方の大好きな物語だって一緒に読めるんですよ」
「物語には興味無かったんじゃないの?」
「貴方が勧めてくれるほどですから、私も少し気になっていて」
「そっかぁ」
かつて「君には外の世界がある」と言い、図書館に依存した生活を許さなかったラディ。
しかし、今の私に外の世界との繋がりはほぼ無くなった。
私を拒否する要因は徹底的に潰した。もう何も残っていない。
代わりにラディが喉から手が出るほど欲しがるような特典を山ほど持って現れたのだ。
そして。
1つ。永遠の孤独からの解放。
「1人は寂しいって言ってたでしょう?」
「……そうだよ」
「なら都合がいいじゃないですか。何したって私はここから出ていきませんし、もし外に出たとしても必ずこの場所に戻ってきます。ここ以上に帰りたい場所なんて存在しないので」
そうだ。
知識を手に入るためなら私はどんなことだってするだろう。
だからこの場所を手放すなんてあり得ない。
「考えてください。目の前にいるのは、寂しがり屋な貴方の孤独を埋める、一生のパートナーとなる人間なのです」
「……っ」
「貴方はもう、独りじゃないんですよ」
「あ、ああっ……」
と、なると。
私にとって、彼を孤独にする選択肢などもう存在しないのだ。
「今の私達はしたいこと、何だってできるんです」
私の悩みは全て解決した。
彼の悩みも全て解決した。
私の望みはここにある。
彼の望みもここにある。
彼の手を取り、彼の目を見ながら、私は告げる。
これから、私と彼の、人生の最盛期が始まるのだから。
「さあ、何から始めましょうか?」
『Memoria』 おわり
【オルテ】
本作の主人公。
提案を拒否されたらその原因を根本から潰して再度提案するタイプ。
ちなみに図書館に何かあると困るので、ラディを外に出すつもりは全くない。
「私にこの場所の存在を教えたんだから、その責任を取れよ」ぐらいのスタンス。
【ラディ】
最初から最後まで図書館にいる人。
一気に大量の情報を浴びせられるとフリーズしてしまうタイプ。
見ようによってはヤベー環境でさらなるヤベー奴に見初められた可哀想な人でもある。
まあ本人は幸せそうなので。これでよかったんじゃないかな。
【ラディの図書館】
既知の書物と未知の書物の全てが所蔵されている、ありとあらゆる知識が手に入る図書館。
物語の舞台であり、ラディという囚われのお姫様ポジションを囲う不落の要塞でもある。
最近の悩みは突如現れた救世主がお姫様と脱出せずに、自分の中で共同生活を始めていること。
【オルテの学会・講義】
意味が分からないくせに人だけは集まる。ほとんどライブ会場。
ラディと図書館に会えなくてカリカリしているレアなオルテが見られる。見られた。
残念ながらもう見れない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
処女作で拙い点も多かったと思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
もしよろしければ、評価や感想やご意見などいただけると嬉しいです。
それでは(´・ω・`)