【完結】 Memoria   作:破れ綴じ

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後日談最終話(現状)です(´・ω・`)
後日談なのに過去回想メインなのってどう思います?


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 彼を図書館の外に連れ出す手段はいくつか存在する。

 それは彼自身も把握しているし、頑張れば実現できなくもない。

 ただ、それをする気はないし、彼を外に出そうとする輩がいれば私は排除する。

 だって、彼がいなければ私の楽園は成立しないのだから。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 そろそろ貯金が目標額まで到達しそうになって、やっとこれで研究職を辞められる、ラディの図書館を探すための調査に専念できる、と。

 そんな逸る気持ちを抑えつつ作業を進めていた時だった。

 

「おや……」

 

 図書館と自作の監視用スクリプトが吐き出すログの中に無視できない単語と、私にとって緊急事態を表すコードが表示されている。

 情報源はWPPOが運営する能力被害者への国際支援団体のページから。

 ハッキングで情報を常に吸い出していたが、まさか本当に見つかってしまうとは。

 念のために再度確認するが、情報に誤りは見つからない。

 

 そして、このコードが意味するのは。

 

 

 

『ラディの図書館を知っている人物が、彼を外に連れ出そうとしている』ということ。

 

 

 

 大方、ラディの図書館に迷い込んだ人物が彼の置かれている状況を理解し、哀れみ、彼を外に解放してやろうなどと考えて通報したのだろう。

 他人の重荷になりたがらないラディが自分から自身の境遇を告白したとは考えにくいが、彼が外に出られないことと、そして外に出たがっていることは勘の良い人間なら気づいてもおかしくない。

 

「受付日時が昨日、対応:未完了、調査:保留……」

 

 報告書を読んだ限り、この一件についてまだ組織側は積極的に動いていないらしい。

 こういった能力者被害の支援において、証拠不十分であるか、人命がかかった危機的状況でない案件は優先順位が低くなる。

 ということは、通報者は通報時点でラディの存在を証明できる状態になかったということ。つまり、図書館が移動した後に通報を行ったということが推察できる。

 

 それなら、まだ無傷か浅い傷で済みそうだ。

 さっさと対応するに越したことはない。

 私は通報者の情報を洗いざらい抜き取り、簡単に荷物を纏め、パスポートを持って立ち上がった。

 

「あれ、オルテア博士? お出かけですか?」

「はい。少し用事ができたものですから」

「早めに戻ってきてくださいね。午後から講義の予定がありますし……」

 

 

 

「ああ、それはキャンセルします」

「えっ?」

 

「かかる費用については全て研究費として落とすように」

「えっ!?」

 

「申請書は貴女にお願いします。きちんと認可されるように書いて下さいね」

「えぇぇ──ーっ!!?」

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 見つけた。

 飛行機で10時間ほど移動した後、件の男が泊まっているというホテルにチェックイン。

 そして、部屋の窓から一番近くにある支援団体のビルを見下ろすこと約15分。

 調べ上げた個人情報と完全に合致する人間がビルから急ぎ足で出てきたことを確認した。

 

 普段は役所で働いているらしいが、今は休暇を取ってここに来ているらしい。

 で、偶然図書館の扉を見つけてしまい、ラディの状況を知ってしまったため、休みを返上して彼を外に連れ出す方法を模索するため奔走していると。

 ご苦労なことだ。

 

 

 

 別にラディの図書館を他の人間が利用することは何の問題でもない。他の人間がどういった知識を手に入れようが私には関係しないし。

 私は図書館に見つけ出す手段を構築し、いずれ再びラディの元に帰るつもりだが、それまでラディにずっと一人で耐えていろと言いたい訳でもない。来客の存在は、彼の孤独を紛らわせる暇潰しとして機能するからむしろ悪くないと言える。

 

 ただ、彼を外に連れ出そうとするなら話は別だ。

 あの図書館はラディの存在を中心に生成されている。彼が外に出ることができてしまえば、図書館は拠り所を失い消失するだろう。

 ラディにとって図書館からの脱出は救いとなるかもしれないが、私にとってはそんなもの邪魔でしかない。

 私は将来的に、あの図書館で余生をラディと謳歌する心積もりなのだから。

 

 なので。

 あの男の行動は私の将来を左右する脅威として、早急に対応する必要があるという訳だ。

 

 

 

 既に準備は済ませてある。

 あの男の部屋に自作したマスターキーで侵入し、必要なものを置いていった。

 例のごとく痕跡は残していないし、監視カメラの映像はハッキングして捏造したものにすり替えておいた。

 仕込んでおいた盗聴器の感度も良好。カメラも鮮明に部屋を映し出している。

 部屋のロックはこちら側で自由に操作できるよう権限を書き換え済みだ。

 机の上には封筒が一つ。そしてスピーカー。

 

 あとは男が部屋に入ってくるのを待つだけ。

 私のような一般人でもこれほど簡単に侵入工作ができてしまうというのはセキュリティ上いかがなものかと思わざるを得ない。しかもそれでいてこのホテルは結構上等なところだ。

 新しいセキュリティシステムを開発して、それで特許でも取れば目標金額まで手っ取り早く稼げるだろうか、なんて考えながら私は待ち続けた。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 来た。入ってきた。

 こちら側から強制的に入口のロックをかける。

 

「こんにちは。ラディの捜索は順調ですか?」

 

 誰もいない部屋から響く私の声に驚き、焦る男。

 きょろきょろと周囲を見渡しているが、当然私はいない。

 

「部屋は間違えていませんよ。私がただ話をしたかっただけなので」

 

 ここでスピーカーに気づき、「どうやって入った!?」と興奮状態で叫ぶが。

 

「落ち着いて。大人しくしていれば命を取るつもりはありません」

 

 少し脅せば男は大人しくなった。

 実際彼を殺す気はない。殺してしまえば証拠隠滅も根回しもきっと大変だろうし。

 

 ちなみにスピーカーは私が自作したものだ。

 音声の送受信は、世界で私しか知らない新システムによって行われている。

 部屋に流れている音声もリアルタイムで合成したものであり、私自身の声が直接流れている訳ではない。

 

 要は、部屋に残った機器や流れている音声で私は特定できないということ。

 私に繋がりそうな証拠というものは徹底的に潰しておくに限る。

 

 

 

「貴方はWPPOが運営している能力被害者支援団体に『ラディ』と『図書館』についての件を通報しました、そうですよね? ええ、私も利用者の一人でしたから」

 

 私がラディの図書館の利用者であったことを伝えると男の態度から少しだけ緊張の色が薄れた。彼はラディを助けたいものの証拠不十分で進展が無かったのだから、同じ現象の経験がある他人というのはどんな形であれ心強く思えるのかもしれない。

 私はすかさず続ける。

 

「単刀直入に言います。貴方が善意で動いていることは承知ですが、それは私にとって非常に邪魔な行為です。なので、今すぐ通報内容を撤回し、以降二度と彼を外に連れ出そうなどと公言しないことを要求します」

 

 微かに安心した表情から一転。

 私の言葉が理解できなかったのか、画面の中の男は困惑の表情で返事をしてきた。

 まあ彼はラディをあの図書館から解放したいと思って動いているので、それを妨げるような私の指示に納得がいかないのだろう。

 

「私はWPPOの機密に自由にアクセスできる力を持つ立場の人間です。それだけの力を持つ人間であれば、貴方や貴方の周囲に危害を加えることも容易、理解できますね?」

 

 嘘だ。別にそんなことはできない。

 ただ私はラディとの7日間の間に読んだ、『特別能力者 対処要綱』の内容を一字一句違わず記憶している。机の上に置かれた封筒は、私が記憶を頼りに再現した機密文書の写しだ。なので、こういったハッタリが可能になる。

 

「嘘だと思うなら、そこにある封筒の中身を読めばいいです。彼らにとって、相当知られたくないような機密情報を準備しましたから」

 

 言われるがままに男は封筒を手に取る。

 

 が、開かない。

 まあ予想できた挙動だ。

 能力者が存在するこの社会で怪しい物体というものはそれだけで大きな危険性を秘めている。そもそも私を信用していないようだし、慎重になるのも当然と言えば当然。

 

 

 

 その後、少ししてから男は私に質問してきた。

 

「はい、何でしょう。ふむふむ、この封筒の中にある文書が本物かどうか分からない? ああ、確かに。その考えは自然です。しかし安心してください。しっかり読めばこの文書が本物であることはちゃんと証明されるので」

 

 実際、読んだだけで証明にはならないが。

 精神汚染はその情報が記されている原本だけでなく、コピーや新しく書き写された紙面であっても効果を発動する。これは後輩達を使って実験した。なので、この文書も原本ではないが、きちんと精神汚染の効果を持っている。

 読み終えた瞬間、彼は記憶喪失状態になるだろう。その後、訳も分からないままとりあえず近くの病院へ行くことになり、記憶喪失の患者が発生したという報告を受けてWPPOから専門の職員が派遣される。そして、正規の精神汚染解除の手順を踏んで、情報漏洩元を探すために職員はどういった経緯でその機密情報を閲覧したのか質問を始める。そういった手筈になっている。

 

 文書を読んで内容の真偽が判定できなくても、その後にWPPOの職員が記憶喪失を解除し、文書について細かく聞こうとしてくる。その時点で、読んだ人間が誰であれ、読んだ内容が何であれ、あの文書は本物なのだと認めざるを得なくなるだろう。

 

 そして、文書が本物だと分かった瞬間。私の『WPPOの機密に自由にアクセスできる力を持つ』というハッタリは彼の中で現実となる。

 彼の中で私に対する恐怖が増幅し、情報を奪われているWPPOに対する信用は減少する。そうすれば、彼は私を恐れ今後のアクションを起こさなくなり、WPPOに通報なども無駄だと考えるようになる。

 もし彼が私の指示を無視し、同じことを繰り返したとしても問題は無い。実際、今回私はものの数分で彼の情報を見つけ出し、個人情報を全て抜き出した。無視すればもう一度同じことをして、私には彼を追い詰めることなど造作も無いのだと身をもって教え込むだけ。

 

「まだ判断がつきませんか。これは提案ではなく脅迫なのですよ? 大人しく言うことを聞いてくれればいいのに」

 

 男は迷っている。

 WPPOや支援団体に対しての不信感は生まれているかもしれないが、私に対する不信感がそれを上回っているため、次に行動に移ろうにも移れないのだろう。

 

 

 

「ん? 私が彼をどうしたいか、ですか?」

 

 そんなこと聞いてくるのか。

 いや、それもそうか。彼は善意でラディを解放したいと考えている訳だから。

 私がどうしてこんなことをするのか、その結果ラディに何をするのか、それが気になっている。

 

「安心してください。私はラディを傷つけたい訳ではありません。むしろ私も彼の事を救いたいのです」

 

 男の顔が驚愕に染まる。

 散々悪役みたいなムーブやっているので確かに意外だろう。

 事実、私はラディを外に出したくないだけであって、彼を一生孤独にさせたい訳ではないので。

 図書館の扉の座標を計算により導き出す手段も構築中だし。

 

「実のところ、現在私は彼を孤独から解放するための計画を進行中です。あと二年……いや、一年もあれば実現できるでしょう。何ならきっかり一年後に笑顔のラディの写真を送りましょうか? ポーズ指定ありでも構いませんよ」

 

 正直半年もあれば十分だが。保険として一年ということに。

 

 男の顔は驚愕からどんどん困惑へと移行している。

 先ほどまでの拒否感を露わにしていた顔ではない。

 「えぇ……コイツ何言ってんの……?」って顔だ。

 拒否感が減っているなら良いことだ。ここで畳みかけるに限る。

 

「何も言わないのであればポーズはハートマークにします。彼には話を通しておきましょう。ほら、まだ信じられないというならさっさとその文書を読めばいいのです。私にどれだけの力があるかの証明にもなりますから」

 

 拒否感が薄れたせいか、渋々封を切り文書を読み始める男。

 少しずつ読んでいき。

 読んでいき。

 

 

 

 そして文書が消失した。

 それはつまり、彼の記憶から一連の情報が消し去られたことを意味する。

 

 さて、あとは病院に通報を入れて。

 男の部屋に仕掛けた諸々を回収すれば終わり。

 その後すぐ帰国だ。

 彼が私の言い分を信じたか、きちんと通報内容が取り下げられているかどうかはまたページをハッキングして確かめよう。

 

 カメラと盗聴器が「ここはどこだ!? 俺は誰だ!?」と叫んでいる男の様子を伝えてくれる。

 もう十分だろう。私はマイクを切った。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

「はいラディ、さっき教えたハートマーク作って」

「こ、こう……? 合ってるよね?」

「完璧です。じゃあ撮りますよ。はい笑顔ー」

 

 ぎこちない笑顔で、慣れないハートマークを作ってくれるラディ。

 ちょっとかわいいな。

 

 

 

「ねえオルテ、どうして急に写真撮ることにしたの?」

「私達が再会した記念に、と思いまして」

「オルテがここに来たのもう半年前じゃなかった……?」

 

 仕方ないだろう。

 あの約束をしたのが一年前、図書館を再び見つけたのが半年前。

 当時は一年後に送ると言ったのだから、半年後に送ってしまっては気づかれないかもしれない。

 写真だけ撮って時間になってから送ればよかった? それはそう。

 

 「記念写真ってその場で撮るんじゃないの……?」と不思議そうなラディを横目に私は何枚かの写真を選ぶ。

 これと、これと、これ。自撮りもいくつか混ぜておこう。ラディが楽しんでいる様子が写っていればあの男も私が正しかったと理解するだろうから。

 

 

 

「じゃあさじゃあさ。オルテも画面に映ろうよ、記念写真なんだから」

「結構です。私が写ると証拠になってしまうので」

「えっ」

「ああいや、あの男にその写真を送らなければいいだけですね。撮りましょうか」

「えっちょっと待ってちょっと待って」

 

 ラディから強引に携帯電話をひったくり、内カメラに変更して二人を画面に収める。

 

 ちょっとだけラディの眉が下がっている。

 せっかくの記念写真なんだからもっと明るい顔をしてくれないと。

 

「オルテがまた不穏なこと言ってるよー……」

「ほらほらカメラ見て、気にしなくていいんですよ」

「えぇー……?」

 

 

 

「ねえラディ」

「……なに?」

 

「今、幸せですか?」

「うん、幸せだよ」

 

「私が来て良かったですか?」

「良かった。おかげで毎日が楽しいよ」

 

 私の言葉ににこりと微笑むラディ。

 ほら、やっぱり彼を外に連れ出す必要なんてない。

 この場所からあの男の痕跡を消しても何も問題無いということだ。

 フラッシュが光る。

 

 

 

 おお、中々に良い笑顔が撮れた。

 私が映っているからあの男には送れないが。勿体ない。




【オルテ】
図書館に住む少女。証拠が無いだけでやってること普通に犯罪者。
バレなきゃ問題じゃないと思ってるタイプ。
叩いたらもっとホコリが出てきそう。

【ラディ】
図書館に住む青年。今日もオルテとの生活を楽しんでいる。
自分のあずかり知らないところで大問題が起こっているタイプ。
そういえば「オルテの軌跡」って本読んでた気がする。知ってるんだろうか。

【ラディを助けようとした男】
オルテが図書館を去った後に図書館に迷い込んだ男。
3日だけ図書館を利用したが、その後ラディが囚われの身であることに気づき通報。
ラディを解放しようと努力を始めた2日後に怖い人から脅迫を受けた可哀想な人。
一年後、ラディ.pngというファイルが添付された送信元不明のメールが届いた。

【WPPOが運営する能力被害者支援団体】
能力のせいで起こった問題の被害者ケアとか色々してる団体。
真剣な顔して相談に来た人が、2日後にはやっぱり気のせいだったから忘れてくれとか言ってきて困惑している。



ネタも減ってきましたし、なんかキリもいい感じがします。
なので、ここいらで一旦更新ストップしようと思います。
またネタが浮かんでストックがたまってきたら、まとめて投稿しようと思うので。
なんかどうこうしてほしいみたいな希望があれば言っていただけるとありがたいです。

感想・意見・質問などあれば是非ともお願いします。
評価もしていただけると大喜びします。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
それでは(´・ω・`)
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