悪事とは、人を傷つける行為がその対象に気づかれてしまったことを指す言葉だ。
言い換えると、気づかれていなければその行為は悪事でも何でもない。
私ができる範囲でした努力。それが不都合な人の目に留まらなかったというだけ。
とても便利な口実だ。存分に利用させてもらおう。要はバレなければいいのだし。
──────────
「おはようございます」
「……お、おはよう」
ひんやりした風が肌をなでる早朝の空気感の中。
昨日教わった通りのやり方で、図書館へと繋がった扉を開けた。
「ということで。今日も図書館を使わせて頂きます」
「いや、いいよ、いいけど……」
「?」
ん?
どうした。何を言いたいんだ。
「いいんだけれど……早くない?」
「はて?」
何を言っているんだ。
昨日、「明日はもっと早い時間に来る」と言ったはずだったが。
伝わっていなかったのか?
「明日はもっと早い時間に来ると言いませんでしたか?」
「言った。言ったよ。でもさ……」
でも、なんだ。
「まだ外、朝の3時とかじゃない……?」
「そうですよ?」
「えぇ……?」
どうして驚いているのだろう。当然のことを言ったつもりなのだが。
気になるものがあるのならどうしても早く行動したいと思うのは誰もが同じはずだ。
ラディもこの時間に起きていることは少し驚きだが、それならなおさら問題は無いはず。
「僕が知らない間に外の人ってすごく早起きになってたのかな……」
そう呟くラディを横目に、図書館へ入る。
外と隔絶されたこっちの部屋は少し暖かかった。
──────────
あの純白の部屋に入れば、真ん中にいくつかの本が丁寧に重ねられていた。
「余計だったかもしれないけれど、夜の間にいくつか能力学の本を探しておいたよ。既存の資料とか文献とか。あと未知の図書館からもいくつか」
「なんと」
ありがたい。昨日は見つけることもできなかった。
時間を大切にするラディの姿勢は非常に好印象だ。
ついさっき時間の重要性を再確認したばっかりだというのに。なんとタイムリー。
積まれた本の背表紙に目を落とす。
これだ。『能力学の理論』。
まさに読みたい本が準備されていた。
私の長きにわたる苦労を吹き飛ばしてくれる、世界の答えがここに載っている。
素晴らしい。万歳。図書館万歳。
ページをめくる。最初の数行を読んだだけでこの知識欲が疼いた。
これまで誰も構築できなかった理論が、ここには明確に記されている。
そこで、ラディが私の近くに座り、興味深そうに覗き込んできた。
おっと。だいぶ近いぞ。パーソナルスペースというものを知らないのかラディは。
私は気にしないが、他の人にも同じようなことをしているようであれば苦労するのではないだろうか。人間関係的に。
「昨日も思ったし、準備した僕が言うのもなんだけれど。君は未知の図書館の本にしか興味が無さそうだよね。研究者って、自分で研究して答えを発見する方が嬉しいんじゃないの?」
…?
つまりどういうことだろう。
全て自分の力でやることが一般には美しいと言いたいのだろうか。
私にはまるで意義の理解できない主張ではあるが。
「だって、研究者は研究することが仕事じゃないか。そのために色々試したり、考えたりするんでしょ?」
「はい」
「だよね。なのに、こんなにすぐ答えが手に入ってしまったら、それまでの苦労や努力が否定される……まではいかなくても、意味を持たないことにならないのかな。でも君は一切躊躇を見せないからさ」
ああそういうことか。
多分ラディは研究者が研究者としてある意義みたいなものがこの図書館を利用することで揺らいでしまわないのかと考えているのだろう。
なんて、なんて、どうでもいい。
「前提が違いますね。私は知識が手に入りさえすればそれでいいんです。私だって結論が理解できなければ過程を考慮に入れますが、最初から答えが分かっているならそっちの方がずっと分かりやすくて良いでしょう」
「あれ? そういうものなの?」
「そうでしょう。答え自体が分かるのなら、そこに至るまでの道筋など、極めてどうでも良いですよ」
「そういうものなんだ……」
何を当然。
ラディは「なんか思ってた研究者像と違うな……」とか言いながら、元々座ってた位置に戻っていった。
生憎だが、私に必要なのはあくまで知識であって、それを分かりやすく教えてくれるためのルートではない。
こんな便利な施設を前にしておいて、求めていたものの少し手前の情報だけ集めるだなんて、宝の持ち腐れもいいところだ。
他の研究者がどう考えているのかは知らないが、概ね私と相違ないだろう。
私が異質な存在なら、他の研究者達と比べて偏った答えに辿り着く可能性もあるだろうが、私はただの知識に飢える一女学生に過ぎないので。そんなことはきっとない。
思考が脱線してしまった。
今は大事に読みたい本があるのだ。
そう、大切な大切な本が。私がここまで生きてきた意味が。
時間を無駄にはしないとさっきも言ったばかりではないか。
反省。
さて、と。
なるほど。
へえ。
はあ。
んん?
「ラディ。いいですか」
「はい。あれ、早いね。何かな」
「この本なんですが」
「うん」
私に名前を呼ばれ、読んでいた本を閉じて顔を上げるラディ。
読書を中断させてしまったことは申し訳ないが、それよりも大事な用がある。
「ほとんど理解できなかったです」
「おっと?」
本当に序盤しか分からなかった。
能力学の最高峰とはここまで難解なものなのか、と痛感させられるほどには。
「序盤はともかく、途中から私の知らない専門用語がとにかく大量に出てきます。
まるで意味が理解できません」
「あー……そうだね。未知の図書館は情報が載ってるだけで、難しすぎる内容の本を読める内容にしてくれる場所じゃないからね」
「っていうかもう半分以上読んでるんだね。早すぎないかな」などと呟いているラディ。
確かに、先ほどの彼の言葉は真理をついていた。
じゃあ、私に前提知識が足りなさすぎたということか。
言われてみれば確かにそうだ。
目先の知識につられて、いきなり最難関に挑もうという方が浅はかだった。
知らない言語の本を渡されて、この場所にいればそれが急に読めるようになるという訳でもあるまいし。
つまり、私は大前提として、さらに多くの知識を事前に蓄え、より最適化された脳内環境を整える必要がある。
そうでなければこの本を理解しながら読むことができないのだ。
「ということで。ラディ」
「はい」
「私では必要な本の探し方が分からないので助けてください」
「そのために声をかけた、と」
「そうですね。そうなります」
致し方ない。
手間は増えるが、この理論の過程となる本を読むことにしよう。
幸いここには「どんな知識も揃っている」のだから、それを活用しない手はない。
「でも、過程はどうでもいいんじゃないの?」
「これは仕方がないです。このままでは読めないので」
「そっかぁ」
「揚げ足取ってないで。ほら、行きますよ」
「あはは。ごめんごめん」
揶揄われた。
別に腹は立たないが、ニコニコしているラディの手を強引に引いて連れて行ってやった。
手を引かれてラディが立ち上がる。
おおっと、繋いでいた手が持ち上がった。
何で手を握っているんだ?
痛いじゃないか。離してくれ。
──────────
未知の図書館にて。
私が「知らなかった」かつ「頻出」の単語を挙げていき、ラディが『(その単語)について』といったタイトルの本を探す形で図書館を巡っていた。
「確かに難しいよね。僕も昔読もうと思ったけど、1ページ目から何が何だか分からなかったよ。とか言ってるうちに……あったあった、これだね」
あはは、と言いながら次の本を見つけていくラディ。
不思議なのはこのあまりに広大かつ乱雑に配置された本の森を、一切の迷い無く彼が進んでいくことだ。
彼の能力なのだから、彼の目指す方向にその本が生まれる仕組みなのかもしれない。
が、ラディは明確に目的を持ってどう進むか決めているようにも見える。
気になる。どうやって本を探しているのか。
「どうやって本を探しているのですか?」
「ん?」
しまった。
心の声が出てしまった。
いつもの癖だ。
好奇心が強いとこういうことがあって困る。
まあ、今回は普通の内容だし、逆に今聞いておけるのならそれに越したことは無いので問題無いのだが。
「昨日私は本を全く探せなかったので。どうしているのかと気になって」
「ああ、確かにそうだよね。でも、探し方か……」
ん?
「いや、僕はなんとなくで本の場所が分かるんだ。この能力の効果とかじゃなくて。なんて言うんだろうな、説明が難しい……。その、経験則というか」
おや?
もしかして分からないのか?
「ここには長いこといるからね。それで勘みたいなのがついたんだと思うんだけど」
「ではすぐに身につくものではないと?」
「多分ね。『本の探し方』って本を探すかい?」
「いえ。修得に時間がかかるのなら、理解にだっていくら時間がかかるか分かりませんし。手間が増えるだけなので、今はやっぱり貴方を頼ることにします」
今はとりあえず優先して知りたいことがある。
ラディがどれだけこの場所にいるのかは知らないが、その長年の経験則によって生まれた知識を、今すぐ修得するというのも無理難題だろうし。
「そうか。うん、それがいいよ」
ラディも緩やかに笑って肯定している。
いっつも笑顔だなこの人。
2人の両手では持ちきれない程度に本が集まった。
そろそろ戻ろうかというとき、ふとラディが声をかけてきた。
「そういえば学校はどうしたんだい?」
「学校ですか?」
「うん。だって君は学生だし、今日は平日だろう? 君が来たのは不自然なくらい早朝だったけど、もうそろそろ朝になってるはずだ。授業の時間じゃあないのかな?」
腕時計を見てみる。
もう既に5時間強が経っていた。
もう8時半過ぎ。
確かに、1現目の準備をしなければいけない時間である。
ちなみに今日はラジオを持って来ていない。
番組が決まっているので、その内容をある程度の時報替わりに流れてくる情報まで仕入れることができるという優れもの、それがラジオ。
だが、電波が届かないこの図書館では黒い箱でしかない。なので置いてきた。
まあ諸々含めて私には関係ない。
「大丈夫ですよ。今は夏季休暇期間です」
「あっそうか。夏休みってやつだね」
合点がいったように手を打とうとするラディ。
手が打てない。
その腕に抱えているものが何か忘れたのか。
「それに、必要な単位はもう取り切ってるので、そもそも学校に顔を出す必要が無くて」
「……? そうなんだ。すごい優等生なんだね」
「そうなんでしょうか。きっと誰にでもできると思いますが」
「いや、凄いと思うけど、多分……」
うん。
この顔は「何言ってんだお前」って顔だ。
ラディは私の情報を飲み込み切れてないらしい。
しかし、心配は不要だ。
私はちゃんとここに来られるための口実を更に追加で作っている。
「それに今日は親の用事で休むと嘘の連絡を入れています」
「えっ?」
「なので、学校側が不在中の私に連絡を入れてくることはありません」
「……?」
「連絡を入れたのは昨日ここを出てからです」
「???」
「親からのメールを偽装して送りつけたので、親に連絡が行くこともないかと」
「!!??」
はて。
おかしい。
ラディの顔に混乱の色が強まっている。
私は今ここに来るための手筈を理路整然と説明したはずだが。
「なんというか、特殊なんだね……」
「そうでしょうか。確かに少し特殊な学校だと思いますが」
「いや学校じゃなくて君……」
「?」
ラディの最後の言葉はよく聞こえなかった。
まあ多分、うちの学校に対する驚きの吐露だと思うが。
今の情報だけでそんなに我が校に違和感を覚えたのだろうか。
彼は思ったより頭の回転が速いのかもしれない。
「じゃあそろそろ戻りましょうか。これ以上本は持てないですし」
「ああ、待って待って。まだ持てるよ」
「? どうやってです?」
「ほら、両手とも指の間がまだ空いてるよ。だからあと8冊選べるね」
ほう。
手が大きいとそういうこともできるのか。
私も試してみようか。
「……オルテ? 何かあった? 本を落としてるけれど」
「いえ、少し無理があったようです。お気になさらず」
──────────
エントランスに戻ってきて、いざ勉強。となる前に。
「今日は何か食べるもの無いのかい?」
ラディが聞いてきた。
またか。
「そういえば、携帯食がありますね。今日はずっとここに籠もるつもりだったので」
「本当に学校行かないつもりなんだね……」
「それはもう。ここにいた方がよっぽど多くの知識を得られますし。はい。どうぞ」
鞄の中から携帯食を3つ取り出す。
この3つしか無いが、まあ図書館を使わせて貰ってる身だ。
対してお腹も空いていないしこれぐらいはいいだろう。
「へー。これが携帯食か」
ラディは苦戦しながら包装を剥がしていき、マジマジと見つめながらそのまま頬張った。
そのまま1本、2本と美味しそうに平らげていく。
美味しそうに?
「かなり質素な味で美味しくないと思いますが。そんなに嬉しいですか?」
「えっ。美味しくないの」
「まあはい。隙間時間に食べる簡易食が普段の食事より美味しいとおかしいでしょう」
「……確かに。それもそうか。そうなのか。じゃあこれ美味しくないのか……」
3本目に手をかけているラディの顔が曇ってきた。今更気づいたのか。
いやそれはちょっとおかしくないか。
あと早くないか。
昨日から思っていたがラディは食べるのが好きなのかもしれない。
しかし、それにしては残念な舌をお持ちのようだ。
よほど良いものを口にしたことが無いと見える。
「いやでも、嬉しいよ。こういうの滅多に食べる機会が無いからね」
「そうですか」
「それに『a bitter pill to swallow』っていうからね。苦い薬でもしっかり飲みこまなきゃ!」
「はあ」
それは受け入れがたい現実という意味の表現だったはずだが。
というか薬かこれ。熱量は効率的に吸収できるが、栄養も偏っているし、むしろ真逆の存在な気がする。
また意味をはき違えて使っているな?
まあ、喜んでいるならいいだろう。
この人が喜ぶことで私に起こる不利益など1つも無いのだし。
「……あれ? 君の分は?」
「私ですか? 今日はいいです。何故だかお腹が空いていないので」
「それ図書館の仕様だよ」
「えっ」
えっ。
「言ってなかったっけ。この図書館には長時間居座るのはよろしくないって」
「昨日言っていましたね。外の生活に悪影響が出ると」
ルールその4だ。
正直多少の悪影響程度ならこの図書館にいる方が良い気もするが。
確かに。図書館の利用したさ故に悪影響の内容を聞いていなかった。
「この空間の中では一切の生理的活動を行わなくていいんだ。それに合わせて生理的欲求も生まれない」
「つまり、どういうことでしょうか」
「食事を取らなくてもお腹が空かないし、睡眠を取らなくても眠くならない。何もしなくても普通に生きられるし、問題なく成長することが出来る」
「なんと」
衝撃だ。
それなら、あの時間帯でもラディが普通に起きていたことの説明がつく。
眠くならないというのだから、当然眠っていないのだろう。
食事を食べる機会が無いというのもそれが原因か。
必要が無いから普段は食事をとらずに過ごしているのだろう。
なら外に出て食べればいいのにとは思うが。
「この空間でも食べようと思えば食べれるけど、お腹は空かないし。寝るのは……無理かな。睡魔が来ないからね。睡眠薬とかを飲まないと駄目だと思う」
「なるほど」
つまりは、食事と睡眠がこの空間では不要。
ただでさえ、知識を自由に手に入れられるのに、なんと理想的な環境なのだろうか。
悪影響だなんてとんでもない。
食事と睡眠の時間を別の用途に充てられることは全人類が見てきた夢の一つだ。
いや、断言はしないが、きっと皆そう思っている。
私自身何度もそう思ってきたが、健康上の問題により断念してきたのだ。
と、なると。
もはやこの空間から出る必要性は皆無なのでは?
「ということで。私、ここに住むことにします」
「えっなんで!? いやいや、ダメだよ!」
「どうしてですか? 知識もある、食事も睡眠も不要。理想的です。私の望んだ全てがここにあります」
彼の否定には疑問が残る。
どうしてダメなのだろう。
「いやいや。この空間に長時間滞在していたら、いざ外に出たときが大変なんだよ。人間の体はよくできていてね。特殊な場所にいると、その環境に適応しようと変化するんだ」
「そうですね」
「だから、この図書館に体を慣らしちゃうと、生活リズムは崩れるのに外だと普通に空腹も睡魔も感じちゃって。図書館でできていたことができなくなって、慣れ切っていた体が外とのギャップで壊れちゃうんだよ」
「む。確かに」
一理ある。
暗い部屋に長時間いると目が慣れていくように、順応は確かに生物に備わった機能の一つだ。「図書館」という特異な環境でもそれは例外ではないだろう。なるほど、そういう問題点か。
確かに、ここに入り浸りすぎることで体を壊し、結果的に利用時間が減ってしまっては元も子もない。
「それに君には外の世界があるじゃないか。学校や家族や友達とか、君の将来だってあるんだし。君といられるのは僕も退屈しないけど、でもそれで他のことに悪い影響を残すべきじゃないよ」
「……そうですか」
それは納得いかないが。何の問題だというのか。
学校や友人など、無限の知識とは比べものにもならないことだと思うが。
まあ、あまりゴネすぎない方がいいか。
図書館はラディの能力によるもので、私はそれを使わせて貰っているに過ぎない。
決定権は向こうにある。
ここで関係性を悪くして、自由に使わせて貰えなくなっても困ることだし。
そもそも図書館に入るには中にいる人物からの許可が必須なのだから。
いやでも。勿体ないな。
すごく勿体ないな。
なんとか言い訳を作ってここに住み込めないかな。
「……納得いってない?」
「いえ、納得しましたよ。私も食事と睡眠の必要性は理解しています」
「さっき食事も睡眠も不要ってのが理想的って言ってなかった?」
「しかし私は生理学や神経科学を修めているので」
「そういうことじゃないと思うよ」
じゃあどういうことなんだ。
──────────
ラディの機嫌を損ねる訳にはいかない。
ここに入るにも、本を探すにも、彼の力が要る。
私は渋々条件を飲んで、夜間は外で過ごすことにした。
「じゃあ、明日も今日と同じ時間に来るので」
本を返し、荷物を片付けながらそう呟くと、ラディはふと思い出したように。
「そういえば、どうして今日はあんなに早く来られたの?」
と聞いてきた。
「だって、あんな早朝に。大変じゃないかな?」
「いえ、問題無いですよ。時間節約のため、生活用具一式をこの図書館と繋がっている扉のある部屋に持ち込んで、そこで寝ているので」
「えっ」
「えっ?」
ラディの顔が一瞬固まった。
「……えっ? 寝泊まり? この外で?」
「はい。準備は万全にしているので、今のところ問題なく過ごせると予想していますが」
旧資料保管棟は相変わらずボロボロだが、部屋は掃除すれば意外とどうにでもなる。
鍵はかけられているが、昨日正面から開けて出て、鍵のラッチに厚紙を咬ませている。なので、それを知っている私は自由に出入りができるようになった。
セキュリティの問題点はこの建物をほとんど放置している学校上層部へのクレームとして投げていただきたい。
あとは寝袋でしょ、着替えでしょ、タオルでしょ、歯ブラシでしょ、洗面器でしょ。
衛生用品諸々に、照明器具、筆記用具と携帯、PC、それと充電器。
コンセントも通っていたし、水道も一応使えた。意外と元気なものだ。
飲み水と食料は、今日要らないということが分かってしまった。後で処分しよう。
「それは、家族に心配かけるんじゃ……」
「はい。なので、親には研究で泊まると言ってあります」
「親も騙してるの……!?」
何を今更。
学校を騙しているのだから、親だって騙していても不思議ではないと思うが。
ラディは何か言いたそうにしていたが、私だってここだけは譲れない。
能力学の理論を解明するまで、ここに当分入り浸ると決めている。
「そ、そっか」
「はい」
「えっと。じゃあ、夜はちゃんと寝て食事も取るって条件で図書館に泊まる? それなら影響も最小限で済みそうだし……」
「いえ。睡眠薬を買いに行くには校舎の外まで出る必要があるので」
「……そっかぁ」
前向きな私を見て、どうやらラディも認めてくれたようだ。
実際に彼は何も言わなかったのだし。
この行動で何か困ることなど、私にもラディにも無い。
困る人はいるが、その人はこの事実を知らない。
つまり客観的に見ても一切問題は無い。
万事順調そのものである。
明日への期待に胸を膨らませ、手を振って扉を閉める。
「それじゃあまた」
「うん、またね……」
いや、あの顔はどちらかというと諦めに近いようだった気もするな。
【オルテ】
学校と親の欺き方が手馴れている主人公。
バレなければ何してもいいと思っているタイプ。
証拠隠滅とアリバイ作成に余念がないのでバレたことはない。
【ラディ】
なんか図書館にいる食事が好きな人。
食事なら割と何でも楽しめるタイプ。
自分が無知なのかオルテが異常なのかの区別がついていない。
【ラディの図書館】
既知の書物と未知の書物の全てが所蔵されている、ありとあらゆる知識が手に入る図書館。
生理的活動・欲求に影響が出るため、夜間(長時間)の利用はラディが推奨していない。
望む人は結構いそうな気がする。